大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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第4話 初めてのバトル! 初めてのゲット!

 広大な草原。そこはオーキド研究所が管理するポケモンの預かり所。

 両手を胸に当てて甜花は思う。するとラルトスのツノが淡く光る。

 

 ────後退は嫌だ。前進は怖い。でも停滞はもっとダメで……そうやって彼女はひたすら葛藤していた。半ば諦めかけていた心。その気持ちに真摯に向き合った立派な大人が、ドンと喝を入れてくれた。

 

 それは未知の世界を切り拓く勇気!

 たとえ貰った希望が確証のない選択だとしても。

 今やるべきことが、それしかないのなら────やるしかないんだと覚悟した。

 

「よく来たな、大崎甜花くん!」

 

 オーキド博士が呼びかけてくる。その傍らにはロトムがいる。

 甜花はラルトスを連れて、この世界にバトルを挑みに来た。

 

「えと……その……オーキド博士……!

 ポケモンバトル……よろしく、おねがいしましゅ……!」

 

「うむ! 良いバトルをしよう! ……さて、まずはアドバイスじゃが……バトルの前には図鑑を開いて、相手の能力を確認するといいぞ! それから出すポケモンを決めるのじゃ!」

 

 甜花はポケモン図鑑を開き、そのカメラにラルトスとロトムを順々に映す。

 

          *

 

 全国図鑑:No.280 分類:きもちポケモン 種族名:ラルトス

 タイプ:エスパー・フェアリー 特性:シンクロ・トレース・テレパシー

 推定レベル:6~????

 推定ステータス:耐久D 攻撃E 防御E 特攻A 特防C 素早B

 習得技:なきごえ チャームボイス かげぶんしん ねんりき / タマゴ技すべて

 持ち物:なし

 

 全国図鑑:No.479 分類:プラズマポケモン 種族名:ロトム

 タイプ:でんき・ゴースト 特性:ふゆう

 推定レベル:80

 推定ステータス:耐久D 攻撃D 防御C 特攻A 特防C 素早B

 習得技:現在のレベルで覚える技すべて / わざマシンで覚える技すべて

 持ち物:なし

 

          *

 

「え……! ロトムのレベルが……80だ……!」

「ラ……ラルゥ……」

 

「おー。そういえばそうじゃったのう。よしロトム! かなーり手加減するんじゃ!」

「ロト……」

 

 相手との力量差に怯えるラルトスと、やる気なさげのロトム。

 

「え、えと……お、オーキド博士! 質問、です……!」

「うむ! なんじゃ? なんでも聞いて良いぞ!」

「えと、えと……この、ステータスの見方が……よく、分からなくて……」

 

 甜花の知るポケモンのゲームは、能力値を数値で表していた。

 少なくともランクなどという曖昧な評価基準は設けていない。

 

 そこでオーキド博士は解説を始める。

 

「ステータスのランクは、そのポケモンの種族としての得意不得意を表しているんじゃ! 生き物の能力値を数値化するのは不可能じゃからな! それこそゲームでもなければ!

 そこで一つ注意点じゃ! 種族として強力なポケモンがいた場合、たとえ最低評価のFランクでも慢心するでないぞ! コイキングの攻撃Eランクと、ガブリアスの特攻Fランクは、8倍近くの差があることが検証されておる! あくまでランクとは“そのポケモンの能力のどれが優れておりどれが劣っているか”の指標でしかないことを、まずは理解しておくのじゃ! つまりランクとは、そのポケモンの得手不得手を知るための評価項目というわけじゃ!」

 

 甜花は悟った。────要はそれ、種族値のことだ、と。

 つまるところ全体を通しての評価ではなく、あくまで単体のみを見た評価である。そうなれば、もしかすると、ランクには個体値や努力値なども含まれている可能性があることを甜花は察する。

 

「わ、分かりました……!」

 

「さて、図鑑の見方を理解したところで────バトル開始じゃ! ロトム、優しく体当たり!」

「…………」

 

 ロトムはそっぽを向いた!

 

「なぁ~にぃ~?! ────……仕方あるまい。甜花くん! 今がチャンスじゃ!」

 

「は、はい……! ……えと、ラルトス……なきごえ!」

「ラルラルゥ!」

 

 ラルトスは可愛く鳴き声を上げる。対するロトムは、全く意に介していなかった。

 

 ふいに甜花は思った。この世界はゲームの世界。しかし現実と同じように動けるのなら────もしかしてターン制ではなく、アニメのように動けるのではないかと。

 

「────! ラルトス! 続けてチャームボイス!」

 

「Laaaaaa~!」

 

 ラルトスは魅惑の嬌声を上げる。それはポケモンにとって精神的な動揺を起こす美声。

 

「ロト……!?」

 

 ダメージは微小だが、僅かにロトムの体勢が崩れる。

 

「畳み掛けて! ねんりき!」

「ラルゥ!」

 

 ラルトスの全身が発光し、サイコパワーが発揮される。

 ロトムの全身を桃色の波動が襲うが────

 

「ロトォ!」

 

 ────それを気合の一発で跳ね返したロトムは、いざ反撃に出る。

 

「今じゃ! とても優しくあやしいひかり!」

「……!」

 

 オーキド博士からの命令には答えなかったが、ロトムはしっかりと怪しい光を放つ。

 不思議な黒い光に視覚を奪われたラルトスは混乱し、コテっと転んでしまった。

 

「ら、らる~……」

「あ……ラルトス……!」

 

 目を回すラルトス。流石に実力差がありすぎたのか、バトルは極度の混乱状態で決着が付いた。

 

「こら! ロトム! もっと手を抜かんか! ラルトスが倒れてしまったではないか!」

「ロト! ロトロト!!」

 

 ロトムはキレ気味に────あまり無茶言うな! と反論する。

 一方、ラルトスを抱き起こした甜花は、何度か呼びかけて混乱状態を解いた。

 

「ラルトス……大丈夫……?」

「ら……らる……! ラルゥ……!」

 

 甜花に抱き起こされたのが嬉しいのか、ラルトスは甜花に抱きついて離れない。

 そこで、しばらく喧嘩していたオーキド博士とロトムが戻ってきた。

 

「うむ。ラルトスは問題ないようじゃな。

 少し力の差がありすぎたが……バトルの雰囲気は掴めたかの? 甜花くん」

 

「あ、はい……なんとなく……?」

 

「うむ。ならば次はポケモンをゲットしてみよう!

 見たところ、甜花くん。そのラルトスをまだ捕まえておらんじゃろう?」

 

「……え? …………あ!」

 

 そう言えば、と甜花は思い出す。とにかく自分の恐怖と戦い、オーキド博士にバトルを挑むことで頭がいっぱいで、手元に空のモンスターボールが残ったままだったことを思い出した。

 

「ワハハハハ! ということは、わしたちは野生のポケモンを使ってトレーナー戦をしていた、ということか! これは面白い状況じゃな!」

 

 豪快に笑うオーキド博士。

 一方の甜花は、右手のモンスターボールと左手のラルトスを見比べる。

 

「……えと……いい、のかな……?」

「……ラルゥ!」

 

 ラルトスは待っている。そのボールが自分に向けられる瞬間を。

 つまりラルトスは認めたのだ。大崎甜花という人物は、一緒に居てとても心地よくなれる心の持ち主であることを。

 

「そ、そっか……! それじゃあ……!」

 

 甜花はそのことを嬉しく思い、ラルトスにボールを近付けた。するとラルトスは自分からボールのボタンに手を触れてボールの中に吸い込まれる。甜花の手の中で動くボール。それはやがてチン! という音を上げてボールの動きは止まった。それはポケモンをゲットできた効果音にほかならない。

 

「な、なんと! ラルトスが自ら捕まるとは……! うーむ……わしは甜花くんにボールを投げる練習をさせたかったんじゃが……仕方ない! ここはロトム! 貴様が相手をしてやれ!」

「ロトォ!?」

 

 オーキド博士は懐から十個ほどのモンスターボールを取り出して、甜花に手渡す。

 

「今度は野生ポケモンを相手にバトルする練習じゃ! まずはラルトスを出して、様子を見ながらボールを投げて、ロトムを捕まえてみなさい!」

 

「ロトロトォ!」

 

 ────勝手な事を言うな! とロトムは抗議する。

 しかし甜花は乗り気なようで、ラルトスを繰り出しつつ、ボールを投げる構えを取った。

 

「わ、わかった……! 出てきて、ラルトス……!」

「ラルゥ!」

「ラルトス! えと……かげぶんしん!」

「ラルラルラルゥ!」

 

 二体、三体、四体、五体、六体。

 その数まで分身したラルトスは、ロトムを囲い込む形を維持する。

 

「ほう……影分身で取り囲み、ロトムの動きを制限してきたか!」

「い……いけぇ!」

 

 甜花はモンスターボールを投擲する。

 しかしボールはあさっての方向に飛んでいった!

 

「ロトォ!?」

「なんと! とんでもない魔球じゃあ!?」

 

 あまりにもへんてこすぎる投球フォームとボールの行方に目を見張るロトムとオーキド博士。

 

「────ラル!」

 

 その時、ラルトスの念力が発動した。ラルトスのサイコパワーで操られるモンスターボールは、ロトムに向かって突き進む。

 

(えっ……! 影分身をしながら、念力を……使えるの……!?)

 

「ロトォ!」

 

 次の瞬間、ロトムは軽い電気を放ってボールを弾いた。

 

「ラルッ!?」

 

 その一撃で尻餅をついたラルトスは、全ての技が解かれてしまい、弾かれたボールが地を転がる。

 

「まだじゃ! まだ諦めるでない、甜花くん!」

 

 オーキド博士の激励に返答する余裕はない。とにかく甜花はボールを投げまくってみる。

 

「えいっ! えいぃ~っ!」

「ロト! ロトロトォ!」

 

 しかしロトムは絶対に捕まってなるものかと、甜花のボールをひょいひょいと避けていく。

 

 ────その戦いが五分は続いただろうか。

 

 そこには、体力が尽き果て座り込む甜花の姿があった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…………もう、甜花、ダメ……ひんし状態に、なった……」

「ラルゥ……」

「うむ……まさかトレーナーの方が先に戦闘不能になるとは……これは先が長そうじゃのう……」

 

 甜花をいたわるラルトスと、腕を組み遠い目をするオーキド博士。

 その時、甜花のボール投げの練習に付き合わされていたロトムが、オーキド博士に物申す。

 

「ロトォ! ロトロトォ!!」

「むっ? なんじゃロトム! 何を言っているのかさっぱり分からんぞ! だが、この状況で何を言いたいかはなんとなく分かる! さては貴様、こう思っているな!?」

 

 オーキド博士は、ロトムが何に怒っているのか当ててみせる。

 ────さては博士、僕を捕まえさせてマサラタウンから追い出すつもりだったのでは?

 

「その通りじゃ!!」

「ロトォオオオオ!!!」

 

 ロトムは牙を出して怒り狂う。だが、ふいにオーキド博士はキリっとした顔で忠告した。

 

「ロトムよ。貴様もそろそろ、過去と向き合うべきではないのか?」

「! ロ────ト……」

 

「これは良い機会と思わんか? 奇しくもオオサキテンカと同じ名前、同じ顔を持つ少女が現れた。お前も、そろそろオオサキテンカから逃げるのはやめにしないか」

「────────」

 

 先程まで騒ぎ立てていたロトムが、一転して静かになる。

 

「正直に言おう。わしは貴様を、このマサラタウンから追い出したい。それは本音じゃ。機材代も馬鹿にはならんのでな。だが、もうひとつの本音もある。────お前が心配なのじゃ。ロトム」

「…………」

 

 ロトムは黙り込む。

 その辛そうな表情を見て察したオーキド博士は、その背中を押すような言葉を投げかけた。

 

「ここはきっとロトムの人生の分岐点じゃ。

 さぁ選べ! 今までのように停滞を選ぶか、それともここで前進するか!」

 

『…………?』

 

 甜花とラルトスは、オーキド博士とロトムが何を話しているのか分からないという顔で、状況を見守っている。

 

「……ロト! ロトロト!」

 

 やがてロトムは動き出した。ロトムは甜花の前まで来てプラズマの腕を動かす。そのジェスチャーは何かを求める合図のようだった。

 

「え? え……? な、なに……? どうしたの、ロトム……?」

「甜花くん。モンスターボールを出しさない」

 

 オーキド博士に言われた通り、甜花は草地に転がるモンスターボールを持ち上げる。

 

「…………」

 

 そのボールをじっと見つめるロトムは、ふいにオーキド博士の顔を見て……そのあと大崎甜花の顔に視線を移した。

 

「……────ロト!」

 

 そして、彼の中で何かの決意が生まれたのか。

 ロトムは、甜花のモンスターボールに頭突きを入れて、自らボールの中に吸い込まれていった。

 

「えっ……!?」

 

 驚く甜花は、ボールの中で暴れるロトムを見守り続ける。

 やがて落ち着いてきたのか、ボールの効果音が鳴り────ロトムをゲットした。

 

「おめでとう、甜花くん。少し特殊じゃが……ポケモンのゲットは、このくらいで及第点をやろう」

「え……えと……オーキド博士……」

 

 甜花は目で問いかける。

 いったい先ほどの会話はなんだったのかと。

 

「それはロトム自身に聞くといい。いつかロトムが心を開いてくれた時、君はオオサキテンカという人間が、いったいどういった人物だったのか……その全てが分かる日がくるじゃろう」

 

「……?」

 

 甜花は思う。

 もしかしてロトムとオオサキテンカの間には、何か大きな因縁があるのだろうか。

 

「よし。そろそろ休憩としようか。甜花くん。研究所に戻るぞ」

 オーキド博士はそれ以上何も言わず研究所に戻っていく。

 

「…………」

「ラルゥ?」

 

 まだ考えることはたくさんある。それでも今は目の前のことに集中しよう。

 そう思った甜花は、まず休憩を取ることにした。




『手持ち』
 ラルトス。
 ロトム。

『所持品・大切なもの』
 寝巻き。
 デビ太郎のぬいぐるみ。
 スマホ型ポケモン図鑑。
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