大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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第5話 いよいよ旅立ち! 同行者はサトシのママ!?

 時刻は正午。

 大崎甜花はデビ太郎のぬいぐるみを抱き枕にして客間のソファで熟睡していた。

 

「────……ふわぁ……

 ……あぅ……どうしよ……甜花、寝ちゃってた……」

 

 今朝は色々とあったから、疲れが一気に溜まったのだろう。

 ふわぁと大きなあくびをした甜花は、キョロキョロと辺りを見渡す。

 

 その時、オーキド博士が扉を開けて入ってきた。

 

「おぉ! 目が覚めたか! ぐっすりと眠っておったところを見るに、よほど精神的な疲労が溜まっていたのだろう。さて、もう昼食の時間じゃ。お腹が空いているだろう。これを持ってマサラ食堂に行くといい」

 

 そう言ってオーキド博士は、懐から3000円を取り出して甜花に手渡す。

 

「……お、お金……! あの、で、でも……甜花……」

 

「なに、遠慮するな! 旅に出るなら最低限の軍資金は必要じゃろうて。この程度、孫娘の小遣いにもなりゃせんわい! ……さて、わしも後で行くから、自分のポケモンたちと触れ合ってきなさい」

 

「……自分の……ポケモン……?」

 

 言われた甜花はポケットの中をまさぐる。

 その中には二個のモンスターボールが入っていた。

 

「────あ、で、でも……甜花、その……

 ……マサラ食堂? の、場所……知らない……」

 

「それなら、ラルトスとロトムが知っておる。

 二匹をボールから出して案内してもらうといい」

 

          *

 

 かくしてオーキド研究所を後にした甜花は、手持ちのポケモンを外に出してマサラタウンを歩いていた。ラルトスは甜花の歩幅に付いていくため小走りしており、ロトムは甜花の肩周りを浮遊している。

 

「え、えっと……()()()()()()()()()()。こっちで……いいの?」

「ラルゥ!」

「ロトォ!」

 

 すーちゃん。そう呼ばれたラルトスは、両手を挙げて深く頷く。

 むーちゃん。そう呼ばれたロトムは、宙を一回転する。

 

「…………」

 

 そこで不安げに俯いていた甜花は、思い切って問いかけた。

 

「ね……ねぇ、すーちゃん。むーちゃん……」

「ラル?」

「ロト?」

 

「ほ、ホントに……甜花なんかで、良かったの?

 その……甜花みたいな、トレーナー、で……」

 

『…………』

 

 ロトムとラルトスは思わず顔を向き合わせる。

 そして二匹のポケモンは、その質問に対し、答えるまでもないと鳴いてみせた。

 

「ラルゥ!」

「ロトォ!」

 

「……!」

 

 そこで甜花は思い出す。

 初めてラルトスとロトムをゲットした後、オーキド博士に言われたことを。

 

『安心なさい、甜花くん。確かにラルトスは初心者用のポケモンではなく、エリートトレーナー用のポケモンだが……甜花くんには絶対に必要となるポケモンだから託したんじゃ。そのことはラルトスもよおく分かっておる。

 そしてロトムの方は、あれで寂しがり屋だからのう……そろそろ廃屋で独り暮らすのも飽きてきた頃だろう。でなければ、ちょくちょくわしの研究所に来てイタズラなんぞせん!

 きっと甜花くんなら、ラルトスやロトムの良きトレーナーとなれる。その臆病だが、優しい君の心を信頼して、いくつかモンスターボールを渡そう!』

 

(……そう言って、オーキド博士は励ましてくれたけど……

 ほんとに甜花に、ゲームのクリアなんて、できるのかな……)

 

 大崎甜花は、まだ自分の力を信じることができないでいた。

 

(プロデューサーさんに、なーちゃんや千雪さん……283プロのみんなや、大勢のファンのみんな……みんなの応援があって、初めて甜花はアイドルとして、自分を信じる力を手に入れた。でも、それとポケモントレーナーとは、また別だから…………甜花に、できるのかなぁ……?)

 

          *

 

 やがてマサラ食堂の看板を見つけた甜花たちは入店。甜花はメニューからマサラ定食を選び、ラルトスにはポケモン用のパフェ、ロトムにはゴーストタイプ用の羊羹を頼んだ。

 

「え、えと……それじゃあ……いただきまーす……」

「ラルラルラール!」

「ロートロトー!」

 

 甜花の合掌に合わせて、ラルトスとロトムも手を合わせる。

 直後、二匹はガツガツムシャムシャと食べ始めた。

 

 合掌の礼儀正しさはどこに行ったのか、二匹は美味しそうに皿を平らげる。

 その豪快な食べっぷりに驚く甜花だが、不思議と笑みがこぼれて仕方がない。

 

「に……にへへ……やっぱりポケモンって、かわいい……。

 ────あ……すーちゃん。むーちゃん。美味しかった……?」

 

「ラルゥ!」

「ロトォ!」

 

 喜びを表現するため、ラルトスは両手を掲げて、ロトムは鳴き声を上げる。

 そこで甜花は二匹の口周りの汚れが気になり、ナプキンで汚れを拭き取ってあげた。

 

「……よし。これで……きれい……!」

「ララルー!」

「ロ、ロト……」

 

 嬉しそうにお礼を言うラルトスと、やや困惑しているロトム。

 対する甜花は非常に満足している様子。

 

「……あ、いけない……! 甜花も、冷める前に、食べないと……!」

 

 甜花も匙を手に取り、マサラ食堂の料理を食べ始める。その間、膨らんだお腹をさするラルトスは背もたれに身をあずけて休憩を取り、ロトムは宙に浮かんだまま店内を見渡していた。

 

          *

 

 やがて甜花も食べ終わり、ジュースを飲んで一息ついた頃。

 ────カランカラン。と玄関の鈴が鳴り、新たな客が入ってきた。

 

「いらっしゃいま────あ! ハナコさん!?」

 

(────……え? ハナコ、さん……?)

 

 従業員の声を耳にした甜花は、ふと脳裏に微かな記憶が蘇る。

 

(あれ……? そういえばマサラ食堂って……どこかで聞いたことが名前だなって、思ってたけど……)

 

 ────甜花は、おぼろげな記憶を掘り起こす。

 

(もしかして……これって……)

 

 マサラ食堂とは、マサラタウンのハナコが経営する飲食店。

 その設定が、ポケモンの“小説”だったか“アニメ”だったかで語られていたような……。

 

(たしか、そんな情報を……ネットで小耳に挟んだ気がする……)

 

 マサラ食堂の従業員が一列に並んで頭を下げる。

 その横を通り過ぎるハナコは、サングラスを外して店内を見渡した。

 

「はぁい。みんな元気にしてるー? ところで待ち合わせをしているんだけど、大崎甜花ちゃんって女の子を知らないかしら? もんのすんごい可愛い女の子! って情報しか分からなくてー」

 

(────!?)

「……ラルゥ?」

「ロトォ?」

 

 マサラタウンのハナコ。

 いわゆるサトシのママさんが、なぜか大崎甜花を捜している。

 

「あの、ハナコさん。人を捜しているなら、もう少し情報を……」

 

「えー? でもオーキド博士が「とにかく可愛い子が甜花くんじゃ」って言ってたんだものー! ……あ、でも、ほかには……たしか茶髪のロングで、ラルトスとロトムを連れた新米トレーナーだ。とも言っていたかしらー?」

 

「いや、そこまで分かっているなら、それを早く……あぁ、もういいです……。えー。その方なら、あちらの席にいらっしゃいますよ?」

 

 従業員に案内されるハナコは、徐々に甜花の席に近付いてくる。

 

(……………………)

 

 甜花は冷や汗が止まらない。突然の重要人物の登場に驚いているのか名乗り出ることもできず、ただじっと席に座り続ける。

 

「~♪」

 

 そして目的の席に案内されたハナコは、思わずサングラスを外して甜花の顔を覗き込んだ。

 

「────わ! ホントに可愛いわねー!」

「──っ!? あ、えと……その……」

「あ。驚かせちゃってごめんなさいね。えーっと、あなたが甜花ちゃんでいいのよね? オーキド博士から話は聞いているわ。それにしても本当に可愛いわねー! さぁて! それじゃあ早速、トキワシティに出発しましょうか!」

「……へっ?」

「……え?」

 

 固まる甜花と、呆けるハナコ。

 

 そこで再びカランカランと、白衣を着た老人が店に入ってきた。

 

          *

 

「ワッハッハッハッハ! それは申し訳なかった! 詳しい話はここでしようと思っておったからの。甜花くんからしたら、何が何だか分からなかったことだろう」

 

「……う、うん……」

 

 こくこくと頷く甜花は、小さく控えめに抗議する。

 

「いやな。初めての冒険が一人では大変だと思い、せめてトキワシティまではハナコさんと一緒に旅をして欲しいと思ったのじゃ。色々と甜花くんには、旅を始める為の準備が必要そうじゃからな」

「……旅を、始める準備……?」

「うむ。それが何か分かるか?」

 

 甜花は首をかしげる。

 するとオーキド博士は溜息をついて、ハナコは半ば呆れた顔をしていた。

 

「……甜花くん。自分の服装を見直してみなさい」

「……え?」

 

 甜花は自分の体を見下ろす。

 それで分かったことは、現在の甜花はパジャマ姿だという点。

 

 グレーのパーカーの腹ポケットにはペットボトルや食べかけのお菓子が詰め込まれており、頭と肩には水色でカラフルな毛布を被っている。それはまごう事なき大崎甜花の寝巻き姿。周囲の人間は何も言わないが。それは一言で言って、ものすごくだらしのない恰好だった。

 

「あっ……」

 

 今まで驚きの連続で、自分の服装にまで気が回らなかった甜花は、ここで初めて寝間着姿で外を出回っていたという事実に気が付く。

 

「うむ。そこでじゃ。ハナコさんには、甜花くんの服を用立ててもらおうと思ってな。甜花くんが寝ている間に、ハナコさんに事情を説明して、ここで待ち合わせるよう頼んでおいたのじゃ」

 

「そういうことなのよー! 何か色々とワケありみたいだけど、私は何も聞かないわー。それよりこんな可愛い子のトレーナー服を私が決めるなんて、もうハナコさん張り切っちゃうからー! あ、もちろん気にしないでいいのよ? トキワシティで買い物してくるついでだから。あ、でもついでだからって手は抜かないからねー!」

 

 甜花はその説明で納得した。

 

「あ……そういう、ことなら……えと……よろしく、お願いします……!」

「はーい。よろしくお願いされました!」

「うむ! ハナコさん。急なお願いでご迷惑でしたでしょうが……トキワシティまで、甜花くんのことをよろしく頼みます……!」

 

 オーキド博士は深々と頭を下げる。

 それにハナコは慌てて顔を上げさせようとした。

 

「そんな……いいんですよ、オーキド博士!

 そんなこと言ったら、うちのサトシの方が毎度毎度お世話になっているんですからー!」

 

「いや……本当に有り難いことです」

 

 頭を上げたオーキド博士は、今度は甜花の方を振り向いて、その顔をまっすぐと見つめる。

 そこでハナコは席を立ち、先に外で待っていると甜花にウインクして店を出た。

 

「あ……」

「……甜花くん」

 

 いつになく真剣なオーキド博士。

 その声色に背筋を立たされた甜花は、黙って老人の話を聞く。

 

「……甜花くん。ひとつ聞きたい。

 ────この世界で生きていく決意は、もう固まったかの?」

 

(──……!)

 

 その問いに思わず甜花は狼狽える。

 まだ胸を張って「決意は出来た」とは言えない。

 

 それでも甜花は、今できるだけの覚悟を持って口を開く。

 

「……えと……やっぱり、不安……だけど……

 …………だけど、甜花……!

 と──……とりあえず……頑張って、みましゅ! あ……頑張り、ます……」

 

 ずっと甜花は考えていた。

 たとえこの先に何が待ち受けていようとも、決して目を背けてはならないと。

 その覚悟は、この世界に戦いを挑む決意を示すのに十分な意志と言えた。

 

「────うむ! よくぞ言った!」

 

 その勇気を褒めるように、にこやなか笑顔でオーキド博士は頷いた。

 

「少し心配じゃが、君はどうも頑張り屋さんのようじゃな!

 そんな甜花くんには、この言葉を送ろう!」

 

「……?」

 

 はたしてオーキド博士は何を言うのか。

 甜花は首をかしげつつ、老人の言葉に耳を傾けた。

 

「────ウォッホン! 甜花くん!!」

「は……はい!?」

 

「────ポケットモンスターの世界にようこそ! 私の名前はオーキド。みんなからは、ポケモン博士と慕われておる。この世界にはポケットモンスターと呼ばれる生き物たちがいたるところに住んでいる! そのポケモンという生き物を、人はペットにしたり、スポーツに使ったり……そして私はそのポケモンの研究をしているというわけだ!」

 

「──!?」

 

「さて、たしか君は、大崎甜花と言ったかの? ついでに言うと、わしには可愛い孫娘がいる! 名前は────えーっと、なんと言ったかな……? …………あ! そうだそうだ! 思い出したぞ! たしかコミヤカホという名前だ!」

 

「────!!?」

 

 何やら聞き覚えのありすぎる名前を聞いた甜花は、ぼのぼの汗を流して絶句する。

 そして(やっぱりこれは夢なんじゃ……?)と、淡い期待が脳裏をよぎる。

 

「さて、大崎甜花! いよいよこれから君の物語が始まる! 夢と冒険と、ポケットモンスターの世界へ! レッツゴー! ────なのじゃあ!!」

 

 大きく天井を指差して見上げたオーキド博士。

 ゲームを始めたとき恒例のセリフを聴き終えた甜花は、まさかと質問する。

 

「あ、あの……今のって、もしかして……」

「ワハハハハ! ちょっと不謹慎だったかの? なにせ、この世界はゲームだと甜花くんが言うものじゃからな。少々お遊びとして、ゲームの始まり風に言ってみたのじゃ! ワハハハハ!」

 

「ラルラルゥ!」

「ロトォ……」

 

 豪快に笑うオーキド博士。

 その喜びに共感するラルトスと、やれやれと呆れかえるロトム。

 

「……あ、それと甜花くん。君に託したポケモン図鑑は、ロトムを入れることでポケデックスフォルムという自律型のポケモン図鑑に変形できるから、もし必要になれば使ってみるといい」

 

「あ、はい……」

 

「さて、甜花くん。これで、わしと君はしばしのお別れじゃ」

 

 席を立って外に向かうオーキド博士。それに付いていく甜花。

 外ではハナコが待っており、店から出てきた甜花を手招きする。

 

「それではハナコさん。よろしく頼みましたぞ!」

「はーい! それじゃあ行こっか? 甜花ちゃん」

「あ、うん……」

 

 うなずく甜花。

 ハナコは一番道路に向かって歩みを進めるが、ふと甜花が付いてこない事に気づく。

 手を振っていたオーキド博士も、一体どうしたのかと甜花を見守る。

 

「…………甜花。怖いけど。不安だけど。頑張るって……決めたから」

 

 それは誰に向けた言葉でもなく、小さな呟き。独り言だった。

 しかしオーキド博士だけは、確かにその言葉を聞き届けていた。

 

 見送りに振るシワシワの手のひらは、より力を増して旅人を応援する。

 

「……よし。行こう! すーちゃん! むーちゃん!」

「ラルゥ!」

「ロトォ!」

 

 一人と二匹は走り出す。

 先に待っていたハナコと肩を並べて、大崎甜花の冒険は、こうして始まった────

 




 旅立つまでが長い。

『手持ち』
 ラルトス。
 ロトム。

『所持品・大切なもの』
 寝巻き。
 デビ太郎のぬいぐるみ。
 スマホ型ポケモン図鑑。
 所持金2000円。
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