マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第一章 水の都アクアマリン
第1話 俺、今日からロリコンになるわ


 2025年1月13日の月曜日、成人の日は俺にとっても特別な日だった。

 

 高校の卒業を間近に控えたその日の夜、成人式から帰って寝る支度を済ませた俺がスマホを片手にベッドへ足を掛けようとすると、いきなりその足が空を切って俺の身体が地面の下に落下した。

 

「えっ?」

 

 身体が軽い。

 気が付けば、俺は真っ暗な無重力空間をふわふわと漂っていた。

 

 思わず手放したスマホが明後日の方向に流されていく。

 

「畜生、高かったのに……」

 

 愚痴ったところで失ったスマホが帰ってくることは永遠になかった。 

 

 パジャマ姿でふわふわと漂う俺の視界いっぱいに広がった宇宙空間のあちこちには、真珠色に輝く巨大な巻貝のような構造物が生えていた。

 

「俺は夢でも見ているのか……?」 

 

 どうにかしてこの状況を脱しようと手足をバタつかせたが、少し身体を回転させることしかできなかった。

 

 それでも一つだけ収穫はあった。

 天地が逆さになった俺の目の前には、翡翠色に輝く巨大な枯れ木のようなものが生えていたのだ。

 

「綺麗だな……」

 

 もはや現実逃避するしかなかった俺は、ただその枯れ木をぼーっと眺めていた。

 

 あれからどれだけの時が流れただろうか。

 5分、10分、はたまた1時間か。

 

 遠くの暗闇から白く輝くナニカの群れが飛んできた。

 形容しがたい姿をしたそれらは少しずつ俺の方へ向かってきて、それから――。

 

 

 

 

 

 心地良い微睡(まどろ)みに身を任せる。

 ひんやりとした風が気持ち良い。

 ん? 何か鼻がムズムズしてきたな……。

 

「は、ハックション!」

 

 大きなクシャミをしてようやく目が覚めた。

 うつ伏せの状態で(まぶた)を開くと、緑の絨毯(じゅうたん)が目に映った。

 

 俺は身体を起こして辺りを見渡す。

 空は雲一つないほどに晴れ渡り、周囲には起伏のない草原が広がっていた。

 

「異世界転生なんて本当にあるんだ。何か凄いチートでもありゃいいんだけど」

 

 俺は立ち上がって服に付いた草を払い落とした。

 服っていうかパジャマだ、しかも裸足(はだし)だし。

 神様に会った覚えはないし、死んだ記憶もない。

 もしかして、寝ている間に異世界トリップした感じか。

 

 俺はぐーんと思いっきり伸びをして辺り全体を見渡す。

 その辺に街(城壁っぽいもの)でもないかなぁ……。

 よーく目を()らすと、遠くの方に小さく森のようなものが見えた。

 

「このままでいても飢え死にするだけだし、行ってみるか」

 

 裸足(はだし)のまま歩いたら石を踏んで痛い思いをするんじゃないかと少し警戒していたが、どうやらそれは杞憂(きゆう)だったようだ。

 ご都合主義万歳。

 

 歩き出してから体感30分ほど経つと、ようやく森の入り口が見えてきた。

 雑木林みたいな鬱蒼(うっそう)とした感じではなく、どちらかと言うと人工林のような感じだ。

 

 真っ昼間だというのにどこにも太陽が見当たらないことに気付いて怪しんではいたが、いよいよゲームめいてきたな。

 

 辺りをきょろきょろ見回りながら薄暗い森の中を歩いていると、後ろの方からがさりと音がした。

 慌てて振り返ると、左腕に切り裂くような痛みが走る。

 

「……っ!」

 

 爪痕が刻まれ、破れたパジャマが鮮血に染まっていく。

 目の前にいたのは灰色の毛皮をした大型犬サイズのチーターっぽい獣だった。

 薄暗い闇の中に二つの赤い瞳がぼんやりと光る。

 

 生まれて初めて死の恐怖に直面した俺は、腰が抜けて尻もちをついてしまった。

 

「た、助けてくれぇ」

 

 無意識に口から漏れ出た命乞いの言葉が余りにも情けなくて涙が出てくる。

 なんとかその場から(のが)れようと、ずりずりと後ずさる。

 

 ここにくるまでに色々試したが、ステータスは出なければ魔法も使えなかった。

 身体能力も変わらずそのままで一体どうしろってんだよ。

 

 チーターっぽいやつが背中を弓なりに丸めた。

 あれは……飛び掛かる時のポーズ!

 

 どうやら俺の異世界転生はここまでだったようだ。

 無事な方の右腕で頭を(かば)うとぎゅっと目を閉じて、きたるべき衝撃に備える。

 

 ズガァァァン!!!

 

 轟音とともに地面が大きく揺れた。何が起こったんだ!?

 

 辺りに広がる血生臭い香りに恐る恐る目を開くと、チーターっぽいやつがいた場所に巨大なクレーターができていた。

 爆心地にはおよそ2メートルはありそうな大きさの黒々としたこん棒が突き刺さっている。

 

 にちゃ、と音を立てながらどでかいこん棒が持ち上がる。

 強い風が吹いたかと思うと、木々の隙間から木漏れ日が差した。

 

「通報を受けて急いでやってきたがのう、いくら強いギフトを持っておったとしてもパジャマはないじゃろ、パジャマは。これだから低レベルのド素人は困るのじゃ」

 

 見た目は10歳ほどだろうか、身体に見合わぬ大きなこん棒を肩に担いでいた。

 腰まで伸ばしたふわふわとした金髪に鮮やかな琥珀(こはく)色の瞳。

 白いほっぺを赤く染めて眉を(しか)める彼女の姿に、俺は痛みも忘れて見惚(みと)れてしまっていた。

 

「Bランク探索者、狂戦士(ベルセルク)のアンバーじゃ。短い間じゃが、よろしくのう」

 

 一目惚(ひとめぼ)れしちゃったぜ。

 生まれてこのかた巨乳党だったんだけどさ、俺、今日からロリコンになるわ。

 

「ありがとう。おかげさまで命拾いしたよ」

「ほれ、すぐに治してやるからの。傷口を見せるがよい」

 

 そう言うと彼女が肩に担いでいたこん棒がぱっと青く光り、消えてなくなった。

 彼女は腰の後ろに着けている小さなポーチに手を入れてがさごそしている。

 しばらくしてポーチの中から60センチくらいの長さの杖が現れた。

 おかしい、明らかにポーチとサイズが見合っていない。

 

 次元収納? それともマジックバッグか?

 色々と気になることはあるが、今は流れに身を任せた方が無難だろう。

 

 俺はボロボロになったパジャマを()いで腕の傷口を見せる。

 彼女が傷口に杖を向け、杖の握り手の先に付いている宝石に親指を添えると、青い光が宝石から先端に向けて流れるように走っていった。

 

 すると魔法の力が傷の痛みにスーッと効いて、これは……ありがたい……。

 右の(そで)で血を(ぬぐ)うと、すっかり綺麗に治っていた。

 

「お主、ギルドカードは持っておるか?」

「ギルドカード?」

「ふむ。お主の名前、それと出身地を聞かせてくれぬか?」

 

 めちゃくちゃ怪しまれてる。

 どうしようか。

 

 返答としては記憶喪失か世間知らずの田舎者、それか正直に答えるかの三択に絞られるだろう。

 運が悪ければ牢屋行き、もしも先人がやらかしていた場合、転生者とバレた時点で殺される恐れもある。

 

 ええい、男は度胸だ。正直に答えよう。

 

「ええっと……水野晴人(みずのはると)、水野が姓で晴人が名前。出身地は神奈川県川崎市だ」

「ミズノ……ミズノのう……。聞いたことない姓じゃの。カワサキという地名も知らぬ。年齢と職業はどうじゃ?」

「18歳、学生です」

「ここがどこだか分かるか?」

「いや、全然。気が付いたら草原に倒れてて。人の居そうな場所を探して歩いていたらこの森に辿り着いたんだ」

 

 怪訝(けげん)な顔をしていた彼女の表情が変化した。

 何かを察したようだ。

 

「ここはAランク迷宮アクアマリンの一層、爪獣(そうじゅう)の森じゃ。自分が今いるダンジョンのことも分からんとはお主、相当な田舎者じゃな」

 

 上手いこと勘違いしてくれたようだ。

 それにしても、ここはダンジョンの中だったのか。

 道理で太陽が見えないはずだ。

 

「どうして分かったんですか?」

「うむ。一層で救援要請が入る時は大体の場合、未登録の子供が興味本位で侵入したか、世間知らずの田舎者がうっかり人の波にさらわれて迷い込んだかのどちらかなんじゃ。お主は子供には見えんから後者だと判断したわけじゃな」

 

 名推理だ。ちんちくりんな見た目に反してかなり、やる。

 だが目の前にぼけーっと突っ立っているパジャマ男が異世界から転生した地球人であるとは夢にも思うまい。

 

「立ち話もなんじゃし、細かいことは出口に向かいながら教えるとするかの。……ぬ、よく見たらお主裸足(はだし)ではないか!?」

「いや……ははは」

「笑ってごまかすでない! まったくしょうがないやつじゃ」

 

 そう言うと彼女は俺の目の前に一足の革靴を差し出した。

 うーん、ちょっと大きくないか? いやいや贅沢は言えない。

 地面に並べられた靴に足を差し込むと、シュッと縮んでフィットした。

 まほうのちからってすごい。

 

「替えの服もあるが、どうじゃ?」

「ありがたく頂戴(ちょうだい)します」

 

 今の俺は着の身着のままの無一文なわけだし貰えるものは貰っておくべきだろう。

 

 しばらく経つと、そこには立派な冒険者風の装いをした男が立っていた。

 服のあちこちについた染みがこの装備の出自を物語(ものがた)る。

 

 脱いだパジャマは背負い型のバックパックに丸めて仕舞うことにした。

 流石にマジックバッグは貴重品らしい。

 

「うむ。着替えたら随分(ずいぶん)とマシな見てくれになったじゃないか。これなら街を出歩いても捕まることはあるまいて」

 

 中学生の時に一度警察に補導されたことがあるんだけど、それ以来パトカーを見掛ける度に言い知れぬ不安を覚えるようになってしまったんだよな。

 お巡りさんのお世話になることだけは勘弁願いたいものだ。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

「ここら辺にくるのは久しぶりじゃからのう。さて、出口はどっちじゃったか」

「えぇ……」

 

 ミイラ取りがミイラになってしまった。

 俺が頭を抱えていると、彼女は懐から手のひら大の薄い板を取り出してちょちょいと指先でスクロールした。

 

 後ろから覗き込むと、そこには半透明なマップが表示されている。

 まるでスマホみたいだ。

 この世界のギルドカードはなかなか便利なものらしい。

 

「おお、こっちじゃこっち、案内するから(はぐ)れぬようちゃんとついてくるんじゃぞ」

「本当に大丈夫なのかなぁ……」

「一層なんか余裕じゃ、余裕。大船に乗ったつもりで任せるがよい」

 

 ない胸を張る彼女に言い知れぬ不安を覚えつつも、俺は彼女の後ろをついて歩く。

 こうして俺は謎ののじゃロリ娘に導かれるようにして、異世界冒険の第一歩を踏み出すのであった。

 

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