マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第100話 最後の夜

 ギザードの為にAランク迷宮イーラを踏破した翌日、俺は一歩も旅館から出ずにゆったりとした一日を過ごしていた。

 

 なにせ、昨日は一日中ダンジョンの中を歩き通しだったのだ。

 途中途中でアンバーにおんぶして貰ったりしてはいたが、生命力Eの俺は持ち前の回復スキルをもってしてもダンジョン探索の疲労が抜けきらなかったのである。

 

「アンバー達、どうしているかなぁ……」

 

 二度寝から目覚めた午後の昼下がり、俺は旅館のロビーで一人マッサージマシンに全身を揉みほぐされながらひとりごちた。

 

 俺が寝ている間にアンバーはミュールを連れて外に出かけたようだ。

 置手紙に書かれていたが、用事を片付けるついでに土産物を買いに行くらしい。

 今日が海都カナンで過ごす最後の日なんだし、俺も一緒について行きたかった。

 

 まあクーラーの効いた部屋でのんびり過ごすのも悪くはないけどさ。

 これでスマホさえあれば完璧な休日になるのだが、残念だ。

 

「よう、暇してるみたいじゃないか」

 

 そんな俺に声を掛けてきたのは女将のイクコさんだった。

 彼女はいつものように海賊服を着たまま不敵な笑みを浮かべている。

 

「そんなに暇そうに見えます?」

「見えるね。話は聞いたよ、ギザード坊やを連れて五層まで行ったんだってね」

「ただの成り()きですけどね。帰りに出されたギザードの討伐要請といい、一歩間違えばどうなっていたことやら……」

「勝てば官軍さ。どうだ、暇ならちょいとアタシの仕事を手伝ってくれないかい?」

「仕事ですか?」

 

 タダで泊めて貰っているお礼に旅館の仕事を手伝うのもやぶさかではないが、彼女は俺に一体何をさせるつもりなのだろうか。

 

 

「おーそうそう、上手いじゃないか」

「あ、ありがとうございます」

 

 俺は庭先で石の高台に乗り、石の触手を操って旅館の瓦屋根を引っ()がしていた。

 何でも先日の台風から、この従業員宿舎の雨漏りが酷くなったらしい。 

 

 俺が石の触手で瓦屋根を左端から順に()がしていくと、ある地点で木の屋根が大きく腐食している場所が見つかった。

 

「あちゃー、ここは前に業者に修理を頼んだところだよ。重要な客がきていたからってちょっと目を離したらこれだ」

 

 石の階段を(のぼ)って俺の立つ高い屋根のそばの石の高台までやってきたイクコさんがその二本角の生えた頭を押さえる。

 

「カナンの若い業者はこれだから困る。少しはアクアマリンを見習って欲しいね」

「イクコさん、どうするんです?」

「そりゃあ、こうするのさ」

 

 イクコさんは虚空から大鉈を取り出すと、屋根にガンガンと打ち付けて腐食していた部分を雑に四角く切り出した。

 

 彼女はそれをポイと後ろに投げ捨てると(俺は石の触手で受け止めてそっと下に()ろした)、今度は腰の袋から木材を取り出して大穴に()てがった。

 

「よいしょっと」

 

 木材が青く光ると、ぐにゃりと変形してぴったりと大穴に()まり込んだ。

 まるで溶接したかのように継ぎ目の見えない完璧な仕上がりだ。

 

「一丁上がり。自由に動かせる足場があると楽でいいねぇ」

「これだけできるのに、どうして下手な業者なんかに頼むんですか?」

「ウチにも外聞(がいぶん)ってのがあるからね、こういう仕事を全部自分でやっていると悪い噂を流されちまうんだ。『あそこの旅館は業者に頼む金もないらしい、そろそろ危ないんじゃないか』ってね」

 

 噂好きのカナン市民らしい物言いだ。

 

「本館の方は信頼できる出入りの業者に頼んでいるんだけどねぇ、腕が良い分高く付くんだ。だから新規開拓も兼ねて別の業者に小さい仕事を任せるんだけど……あそこはハズレだね。後で事務所に腐った屋根板を放り込んでやる」

 

 俺はあの日の宴会でプリメラさんから彼女の武勇伝を聞いていたから分かる。

 イクコさんがやると言ったら必ずやる。

 

 400年前に海都カナンで暴れ回ったAランク探索者パーティー「アクアマリーンズ」の元特攻隊長の名は伊達ではない。

 きっとその業者は手抜き修理の報いを受けることだろう。

 

「イクコさんは強いんですから、お手柔らかに頼みますよ」

「それはこの先次第だね。さ、点検を続けてくれ」

 

 その後も屋根の点検を続けたところ他に3箇所も腐食している場所が見つかった。

 素人目に見ても分かるくらい、補修に使っている木材の質からして悪いようだ。

 これはいくら何でも手抜きが過ぎるぞ。

 

「うわ、マジか……」

「あ、い、つ、らぁ~!」

 

 それを見たイクコさんの怒りようは半端ではなく、俺はこれから先に業者が待ち受ける悲惨な末路を想像して身震いをしたのだった。

 

 

 その日の晩、夕食を終えた俺は縁側(えんがわ)でアンバーと一緒にお月見をしていた。

 今日は偶然にも満月の日だったのだ。

 

「――それでイクコさんはその腐った4枚の屋根板を勢いよく業者の事務所に投げ込んだんだ。それはもう、フリスビータートルも顔負けの勢いだったよ」

「ほう、そんなに面白いことになっておったとはのう。わしも見たかったわい」

「アンバーの方はどうだった?」

 

 俺が尋ねると、アンバーは褐色に日焼けしたほっぺたをぽっと赤く染めた。

 おや、何かいいことがあったらしい。

 

「今日のわしは行く先行く先でサインをねだられてのう、まったく困ったもんじゃわい。……何なら5回も告白されたくらいじゃ」

「告白か……日焼け跡が効いたのかな」

 

 「魔導具職人(クラフター)ライザの冒険」シリーズの影響で、この世界では日焼け跡性癖を持つ者が結構いるらしい。

 何しろ本屋のグラビア雑誌が置かれた棚に専用のコーナーがあるくらいだった。

 

「かもしれんな。のうお主、()けるか?」

「そりゃもちろん。アンバーは俺だけのものだ、誰にも渡さないよ」

 

 俺はアンバーのほっぺに手を添えると、魔力を込めて彼女の全身の皮膚を癒した。

 代謝された皮膚がペリペリと()がれ落ちて、その下から白い肌が顔を覗かせる。

 

「むう、こんなところで治したらゴミが散るではないか」

「じゃあ、こうしよう」

 

 俺はアンバーをお姫様抱っこして縁側(えんがわ)を歩き出した。

 足で障子を開けて部屋の中に入ると、魔道行燈(あんどん)の温かい照明で照らされた薄暗い部屋に敷かれた布団でミュールがスヤスヤと寝息を立てていた。

 

 彼女を起こさないようにそっと歩いて脱衣所へ。

 そのまま露天風呂まで行くと俺はアンバーの浴衣を脱がせてバサバサとはたいた。

 元の白い肌に戻った下着姿のアンバーがジトッとした目で俺を見つめる。

 

「お主、最初からこれが目的じゃったな?」

「今日くらい良いじゃないか、カナンで過ごす最後の夜なんだからさ」

「最後じゃない夜もお主は似たようなことを言っておったがのう?」

 

 ミュールが寝ている横で(はげ)むわけに行かない俺達はここで夜の営みを行っていた。

 サクラさんからはお湯を汚さないように気を付けるなら問題ないとのお墨付きを貰っているので大丈夫だ。

 

 解放感のある野外でのプレイはベッドとはまた違った(おもむき)があって、ちょっと癖になっちゃいそうである。

 

「あんなこと言っちゃってさ、俺を誘惑するアンバーが悪いんだよ」

 

 俺がアンバーをじっと見つめると、彼女は小さくため息をついた。

 

「仕方がないのう、助兵衛なお主に我慢をさせて浮気されても困る。ここはわしが一肌脱いでやるしかないか……」

 

 やれやれといった様子でアンバーは服を脱ぐ仕草をしたがその手は空を切った。

 肝心の脱ぐ服は今、俺の手元にある。

 彼女はその失敗をごまかすかのように、俺の浴衣に手を伸ばしてきた。

 

「ほ、ほれ。今日はわしが脱がしてやろう」

「ふーん……」

「何じゃお主、わしが何か変なことをしたか?」

「うーん、気のせいだったかも」

「そうじゃ、そうに決まっておるぞ」

 

 俺とアンバーは浴衣と下着を脱がせ合うと、丸めてぽいと脱衣所に放り投げた。

 満月の青白い月明かりに照らされる中、俺は大きな石造りの浴槽の(ふち)に手をついたアンバーの後ろに立ち――。

 

「んっ……」

 

 その後の展開は皆様のご想像にお任せするが、とても有意義な夜になったということだけはお伝えしておこう。

 こうして俺達のアモロ共和国で過ごした5日間は幕を閉じたのであった。

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