マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
第102話 ただいまアクアマリン
Bランク探索者の描く冒険小説第8弾!
わしはハーフリングのアンバー、Bランク探索者じゃ。
旅の末に迷宮都市ジャスティンを救ったわしは、新たな仲間を連れて魔道列車に乗り込み帰路についた。
さして急ぐわけでもなく、恋人とともに楽しい観光の旅を続けてはや1ヵ月。
立ち寄った国境の街ユーストで緊急クエストを受注したわしが偶然出会ったのは、元パーティーメンバーの探し人オーブリーだった。
吉報を携え海都カナンで再会したギザードから告げられたクーデター計画。
愛情と憎しみを乗り越えた先に待ち受けるものとは。
アモロで一番熱い夏は、ここから始まった。
……と、いつもならここでアンバーの新しい自伝風冒険小説「わしとこん棒」の原稿を読む展開が入るのだが、残念ながら今の俺はそれができる状況にはいなかった。
なぜなら車の中で文字を追ってしまえばすぐに車酔いでダウンしてしまうからだ。
海都カナンを旅立った俺達はカナン発アクアマリン行きの夜行バスに乗っていた。
これは旅人がアクアマリンへ向かう手段としては一番ポピュラーなものだ。
旅行代理店の手配するチャーターバスだと宿泊やら何やらで追加で2日くらい旅程が伸びるので、俺達は前回の寝台車に引き続き時間効率を優先することにした。
料金相応で乗り心地はあんまり良くないが、他に手段はないのだから仕方がない。
ちなみにミュールが最初にアクアマリンにやってきた時は、運送トラックの荷台の上に乗って移動していたらしい。
なんとも金のない異世界人らしいやり方だ。
俺は隣に座るアンバーの手を握りながら、バスの狭い座席から窓の外を眺めた。
二車線の高速道路を走るバスの車窓の向こう側にはアクアマリン湖から流れるポリー川とその岸辺に生えた草むら、そして見渡す限り何もない荒野が広がっている。
俺達の乗る夜行バスは朝と昼に道の駅で停車して短い休憩を取った後だった。
ポーチから取り出した懐中時計を見てみると、時刻は午後の4時を回っていた。
予定ではもうすぐ、もうすぐアクアマリンに着くはずだ。
「早くアクアマリンに着かないかな……」
「気持ちは分からんでもないが、焦っても良いことはないぞ」
アンバーの言うことは
普通は日本に帰りたいって思うんだろうけど、利便性MAXの異世界暮らしに慣れちゃった俺はアクアマリンを第二の故郷に定めていたのだ。
この世界にきてすぐの頃に俺はアンバーに世界中を旅してみたいって言ったけどさ、ここまで大変なものだとは思っていなかったな。
……いや、文明の利器を使って楽をしている人間が言うことでもないか。
世の中にはもっと大変な苦労をしている人なんて山ほどいる。
恵まれた二度目の人生を送っているんだから少しくらいは我慢しないといけない。
俺は虚空に小さな石を作り出すと、スキルの鍛錬を再開した。
それから1時間後、俺達の乗る夜行バスはアクアマリン市の南端にあるバスターミナルに到着した。
バスから降りた俺達は、すぐそばで待機していたハーフリングタクシーに乗り込み鬼の隠れ家亭へ向かった。
タクシーの窓の外に見える白い建物が段々と夕焼けに染まって赤く色づいていく。
鬼の隠れ家亭の最寄りのバス停でタクシーから降りた俺達は、すっかり日が落ちて青白い月明かりに照らされている夜道を言葉も交わさずただただ歩いた。
そして……。
「着いた……」
俺達の目の前にあるのは見慣れた看板と両開きの大きな扉。
そして窓から
アンバーが扉をギィと押し開けると、店内の様子が目に入った。
どうやら今日の酒場は満員
ううむ、これは困ったな。
「バーちゃんにハルトじゃないか! 帰ってきたのか!」
ワーウルフのおっさんが赤ら顔で声を上げると、他の常連客が次々に席から立ち上がって俺達に声を掛けてくる。
「よぉバーちゃん、元気そうだなぁ」
「新聞読んだぜぇ、ユーストでは大活躍だったそうじゃないか」
「ほら、突っ立ってないでこっちに座れ」
好意によって席を譲って貰った俺達は狭いながらもなんとか座ることができた。
まあ、アンバーは俺の
「おやっさーん! アイツらが帰ってきたぞー!」
常連客の一人がそう叫ぶと、ドタドタと足音を立てながら小さな影が走ってきた。
赤い肌に二本角、白い髪の生えた頭にバンダナを巻いてエプロン姿をしているその幼女こそ、鬼の隠れ家亭の看板娘のモモちゃんだった。
どうやらモモちゃんは俺達がいない間に酒場の仕事を手伝うようになったらしい。
両手に大きなジョッキをいくつも握ったまま満面の笑みを浮かべている。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、おかえりなさい!」
「ただいま、モモちゃん」
「モモよ、元気にしておったか?」
「うん!」
ドカンとテーブルに置かれたジョッキが波打ち雫を
それじゃあ駆け付け一杯、いっときますか。
俺達はジョッキを手に取ると、白濁している微炭酸の鬼米酒をぐびりと飲んだ。
ここでの酒は半ば飲み放題というか、割と適当に提供されている。
この店は常連ばかりなので、みんな好きなだけ飲んで後で自己申告するのである。
「ぷはー、生き返るにゃー」
酒を一気飲みしたミュールが生き返っていると、モモちゃんがエプロンのポケットから小さなバインダーとペンを取り出した。
「今日はなに食べる?」
なにっ、彼女は注文すら取れるようになったというのか!?
モモちゃんはこの2ヵ月の間にとてつもない成長を
「そうじゃな、わしはレイクルマエビの天丼にするかのう」
「俺はモーニング南蛮定食で」
「あちしはアクアマスの姿揚げをお皿に山盛りがいいにゃ」
ちゃんと注文取れるかな……?
俺がドキドキしながらバインダーにメモを取っているモモちゃんを見ていると、書き終わった彼女は伝票を見ながらオーダーを読み上げた。
「えっと、エビのどんぶりにカエル定食、まるさかな揚げをたくさん……でいい?」
だいぶ抽象的だが、大体合ってる。
「うむ、それでよいぞ」
「すぐにおじさんが作るから待っててね!」
「モモちゃんは作らないの?」
「まだ駄目だってー!」
まだ駄目らしかった。
注文を取り終わったモモちゃんは
「子供の成長は早いものじゃのう」
「これは将来が楽しみだね」
親父さんの教えを一身に受けた彼女はきっとカナンで働く父親をも越える偉大な料理人になるに違いない。
今のうちに唾を付けておかないとな。
とはいえ俺はモモちゃんにとってハイヒーリングの杖程度の価値しかないから、代わりにアンバーに頑張って貰おう。
俺は将来的に住む城の隣に鬼の隠れ家亭の二号店を建てる計画をこっそりと立て始めたのだった。
それからしばらくの間俺達が酒を飲みながらおしゃべりをしていると、大きなお盆に料理を載せた親父さんが厨房から顔を出してきた。
「三人とも、よく帰ってきたな。どうだ、イクコは元気にしていたか?」
「それはもう元気いっぱいじゃったぞ。のう、ハルトよ」
「俺、腐った屋根板の修理を手伝わされましたよ。悪徳業者潰しの見学も……」
「むおー、これにゃ! これが食べたかったのにゃ!」
ミュールはアクアマスの素揚げに大興奮のご様子。
大皿に盛られたその素揚げを夢中でバクバクと食べている。
丸い姿をした骨のない淡水魚のアクアマスはアクアマリン迷宮一層のとある異界の川に出現する魔物だ。
アクアマスは足が早いのでこのアクアマリンでしか食べられない特産品なのだ。
「ははは、そうかそうか。お前さん達の部屋はそのまま残してあるからな、飯を食い終わったら好きに休むといい」
「それは助かるが、まだ宿泊客は戻らんのか?」
アンバーの質問に親父さんは少しだけ遠い目をした。
おや、おかしいですね。
モモちゃんは宿泊客への手料理の試食提供を諦めたはずではなかったのか。
「お前さん達が旅立ってからすぐに新しい客がきたんだが、モモの我慢は1日しか持たなかった。宿の再開にはまだしばらく時間が掛かりそうだ……」
6歳児の誓いは1日しか持たなかったらしい。
残念ながら、俺はまた解毒スキルを磨く日々を送ることになりそうだ。
「そうか……まあええ。またしばらく世話になるからのう、よろしく頼むぞ」
「ああ、もちろんだ」
「おやっさーん! おあいそー!」
酔客がレジカウンターの前で伝票のバインダーを片手に親父さんを呼んだ。
「今行く!」
大きな声で返事をした親父さんが仕事に戻っていったので、俺達はゆっくりと夕食を取り始めた。
2ヵ月ぶりに食べた馴染みのモーニングフロッグ南蛮の味に、俺はあの日の晩にすべてを諦めたガルムの