マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第103話 ジンギスカンのタレ

 旅行から帰ってきたからには、知人友人に挨拶回りをしなければならない。

 ティアラキングダムの王都や海都カナンでお土産も沢山買ってきた。

 

 ということで、手始めに親父さんにドライブインユダで買ったジンギスカンのタレを渡してみた。

 もちろん夜は酒場の仕事で忙しいので、アクアマリンに帰った翌朝の出来事だ。

 

「これがその……ジンギスカンのタレか」

「はい。ファルコに連れて行って貰った店で食べたジンギスカン定食がこれまた美味くて美味くて。親父さんにもその味を知って欲しくて買ってきちゃいました」

「試してみるか」

 

 親父さんは受け取った300mlサイズのガラス瓶を振ってから封を開けると、中身を手の甲にちょんと垂らして口に運んだ。

 

「……! これは……!」

 

 親父さんは驚きに目を丸くした。

 あのサワムラ氏ですら驚愕(きょうがく)させるとは、流石はドライブインユダのジンギスカンのタレだ。

 

「どうですか?」

「地場の新鮮な野菜や果物を丁寧に煮込んで作られた見事なタレだ。これは一朝一夕には真似できる代物ではないな」

「なるほど、使われている材料が重要なわけですか」

「ああ。それとこれはストレスのない環境で育てられたアルビオンシープの新鮮な肉に合わせているようだから、ここで手に入る冷凍ラム肉で作ったジンギスカン定食は一段落ちた味になるだろうな。……食べに行けないのがつくづく残念だ」

 

 凄いな、タレをひと舐めしただけでそこまで分かるのか。

 一流は一流を知る、ということなのだろう。

 

「久しぶりにいい刺激を受けた。ハルト、買ってきてくれてありがとうな」

「いやぁ、俺はこれで親父さんに肉野菜炒めでも作って貰えたら嬉しいなーと思っただけなので……」

 

 お土産なんてただの口実である。

 俺は親父さんの作るジンギスカン定食が食べてみたかったのだ。

 俺が厚かましくもお願いをすると、親父さんは笑顔で了承してくれた。

 

「店に回せるほどの量はないからな、これは明日の昼飯に使おう」

「やったぁ! 親父さん、いつもありがとうございます!」

 

 希望が叶った俺は拳を握り込んでグッとガッツポーズした。

 

 それから半年後、酒場の新たなメニューにジンギスカン定食が加わった。

 親父さん特製のタレを(から)めた肉野菜炒めはこれまた米と酒が進むいい味で、鬼の隠れ家亭の隠れた名物になったのだった。

 

 

 ジンギスカンのタレの他にもアンバーが買ってきた海都カナンのご当地銘菓なんかを親父さんに渡した俺達は颯爽(さっそう)と宿から繰り出した。

 

 カーター交通の事務所でだらだらしていたリジーにお土産を押し付けた俺達が次に向かったのは探索者ギルドだ。

 

 久々に入った探索者ギルドのロビーを歩いているのは役所で手続きを行おうとしている一般市民ばかりだった。

 少し遅めに宿を出たので探索者の通勤ラッシュのピークは過ぎていたようだ。

 

 アンバーはギルド本部の紋章が押された封筒を片手に、受付で暇そうにしている人魚の職員さんに話し掛けた。

 

「依頼の完了手続きを頼めるかのう」

「もちろん大丈夫ですよ。アンバーさん、ようやくお戻りになられたんですね」

 

 人魚の職員さんはアンバーから受け取った封筒の中の書類を取り出しながら返事をした。

 

「うむ。わしらはエクレアに会いにきたのじゃが、あやつは今どうしておる?」

「エクレアちゃんなら朝から狩りに行っていますよ。呼び出しますか?」

 

 どうやらエクレアは今日も五層で探索者活動中らしい。

 彼女はこのアクアマリンの次期ダンジョンマスターだというのにお忙しいことだ。

 

「明日、何時でも構わぬから鬼の隠れ家亭に顔を出すよう伝えてくれるかのう」

「分かりました。……はい、これでこちらの手続きは終わりです。納品は依頼者に直接とのことですので、お忘れのないようにお願いします」

 

 アンバーは人魚の職員さんにお礼を言うと、ちょっと離れたところで待っていた俺達のところに戻ってきた。

 

「空振りじゃ」

「それは残念。さて、次はどこに行く?」

「そうじゃな、まずはマーヤのところに行くとするかのう」

 

 つい先日、イーラのダンジョンで五層まで潜ったからな。

 ダメージはほとんど受けていないはずだが、念の為に探索者服のメンテナンスをしておく必要があるだろう。

 

「マーヤにゃ?」

「ほら、アルストツカ洋裁店……ミュールの今使っているフードを買ったところだ」

 

 あそこで買った猫耳フードは結構お気に入りらしく、日差しの強い日に彼女が被っている姿をよく見掛けていた。

 

「あのアラクネのおばちゃんのことかにゃ」

「そうそう。いい機会だからミュールの探索者服の注文も済ませてしまおうか」

 

 俺達の探索者服は防汚のエンチャントが施されているのでクリーニング要らずだ。

 ミュールだけ仲間外れなのは可哀想だし、アクアマリン四層での狩りは泊まり込みになるのでその辺りを考慮した装備に変更しておいた方がいいだろう。

 

「それは助かるにゃ。あちしもそろそろ新調しようと思っていた頃だったのにゃ」

 

 そう言ってミュールは俺達の方にお尻を向けた。

 ……しっぽの横に開いた穴の隙間から赤みがかった肌が覗いている。

 

「むむ、これはどこで引っ掛けたんじゃ……」

 

 アンバーが穴をつつきながら眉間にしわを寄せている。

 どうやら彼女は忍者服の損傷の原因が知りたいらしい。

 

「気付いたのはイーラの探索が終わってからだから、多分蟻の時かにゃー」

「ギ酸か。なるほど、そうかもしれんな」

「酸で火傷(やけど)とかしてないのか?」

「むーん、言われてみればちょっとかゆい気がするにゃ」

 

 すぐ隣にヒーラーがいるんだからそういうのはちゃんと教えて欲しいものだ。

 こんなつまらないことで乙女の柔肌に火傷(やけど)跡が残ったらジャスティンにいるお母さんが泣くぞ。

 

「……リジェネレーション」

「にょほ~、効くにゃ~」

 

 俺が患部に軽く再生スキルを使ってみると、赤みがかっていた皮膚が白くなった。

 どんな原因であろうと、リジェネレーションを使えば問題なく治せるのだ。

 

 ハイヒーリングみたいな魔杖(まじょう)に使われる簡易的な回復スキルは怪我の治療に特化しているから、数日放置したような傷は治すことができない。

 

 だから普通は医者にかかるんだけど……今回は魔力にものを言わせてしまった。

 ちょっと勿体(もったい)ない使い方だが、今日はオフだから別にいいか。

 

「魔力もタダじゃないんだ。ミュール、今度からは何かあったらすぐに言えよ」

「分かってるにゃ!」

 

 元気よく返事をするミュールの姿に一抹(いちまつ)の不安を抱えながらも、俺達は探索者ギルドを後にしたのだった。

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