マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第104話 アルストツカ洋裁店にて

 探索者ギルドを出た俺達は人魚通り商店街にある蜘蛛のシルエットが目印のアルストツカ洋裁店までやってきた。

 

 入店するとカウンターの上に張られた蜘蛛の巣の上から、白い髪をお団子頭にしているゴシック調の服を着たアラクネのマーヤさんが俺達の姿を見て笑みを浮かべた。

 

「あらアンバーちゃんにハルトくん、久しぶりね。元気してた?」

「どうもこんにちはマーヤさん、それはもう元気いっぱいですよ」

「これは土産じゃ。みなで分けてくれるか」

 

 アンバーがマーヤさんに大きな紙で包装されたお土産を手渡した。

 マーヤさんが早速とばかりにその包みを開けると、中からカラカラに乾いた白い芋虫の干物が現れた。

 

「これ買うと高いのよね。嬉しいわ」

 

 ティアラキングダムの王都ラブオデッサにあるネフライト王国のアンテナショップで売っていたギリーオームの干物である。

 

 ギリーオームは世界樹固有のワーム種で、魔力耐性に優れたギリーオームシルクを生み出す(かいこ)のような益虫らしい。

 

 あの時見た商品のポップには水で戻して生で食べるって書いてあったな。

 蜘蛛の亜人であるアラクネは昆虫が大好物のようだ。

 

「マーヤよ、わしらはつい最近イーラの五層まで潜ったのじゃ。ちょいと探索者服のメンテを頼めるかのう」

「えっ、イーラの五層って確か火山じゃなかったかしら。耐熱装備はどうしたの?」

 

 焔斑(ほむら)火山の悪環境に耐えられる耐熱装備は非常に高価なものだ。

 サラマンダーの首飾りと言えば、買えば億は下らない非売品。

 マーヤさんが驚くのも無理もないことだった。

 

「友人の魔道具職人(クラフター)に特別な耐熱礼装を貰ってのう、これじゃ」

 

 アンバーがポーチから不死鳥の羽衣を取り出して、マーヤさんに渡した。

 マーヤさんは受け取ったフェニキス族の尾羽が何重に()い付けられた赤系統のグラデーションが美しいケープを精査するように眺めまわした。

 

「……面白いことを考えるものね。狂人の発想としか言いようがないわ」

「そこまで言いますか」

「私達の糸ならともかく、バードマンの羽根を装飾に使用するなんてまともじゃないわよ。あなた達は自分の髪の毛で作った装備を他人に使われても平気?」

 

 言われてみれば、それは確かにいい気分じゃないな。

 このケープはフェニキス族1万人分の羽毛から抽出した属性を元にして作っているらしいし……。

 

 例えるなら床屋が切った髪で勝手に作ったかつらのようなものだろうか。

 この装備を魔道具販売業者が買い叩いたのも当然のことだった。

 

「それもそうじゃな。これは必要な時以外は隠しておくことにするわい」

「それが賢明ね。さて、探索者服の方はどんな感じかしら?」

 

 アンバーにケープを返したマーヤさんは次に俺達が渡した探索者服を軽く調べて、にこりと微笑んだ。

 

「傷一つないわ。二人とも、大事に使ってくれてありがとう」

 

 俺達はアクアマリンを出てから一度もダメージを受けていないのでそれも当然だ。

 でもまあ、お高い装備なので定期的にプロの目で確認して貰うのは大事だろう。

 

「こちらこそ、いい装備をありがとうございます」

「うむ。それでのう、今日の本題に入りたい。こやつの装備のことじゃ」

 

 俺達のやり取りを後ろでぼけーっと突っ立て見ていたミュールをアンバーが前に押し出した。

 

「にゃっ、えへへ……」

 

 照れている場合か。

 

「前に連れてきていたお客さんね。彼女が新しいパーティーメンバー?」

「忍者のミュールじゃ。わしらと同じく防汚のエンチャントが施された上級装備と、ついでに私服を一通り頼めるか。こやつには服選びのセンスがなくてのう」

 

 ミュールは日常のほとんどを忍者服を着て過ごしている。

 持っている私服はなんかスーパーで適当に買っただるだるのプリントTシャツとかそんな感じで、正直見ていられない。

 

「返す言葉もないにゃ」

 

 俺も服にこだわりを持つタイプではないが、それでも他人の目は気にしている。

 そうしないと恋人のアンバーが低く見られるからな。

 

 これから先も同じパーティーメンバーとして過ごす以上、ある程度はミュールの見目を良くしておきたい。

 そうしておけば、いずれ彼女の引き取り先も見つかる……かもしれない。

 

「なるほど、なるほど……。予算はいかほどかしら?」

「たんまりじゃ。こやつはお主が満足するまで使ってよいぞ」

 

 カナン滞在中にユーストで狩った二体のシーサーペントの売却益が入った。

 手数料やら何やらをがっつり差っ引かれたのでそこまで収入は多くないが、彼女の装備に使うくらいには十分なものだった。

 

「ふふ、私達に任せて頂戴(ちょうだい)。完璧に仕上げてあげるわ」

 

 マーヤさんは得物を見るような目でミュールを見ると、手元の鐘をカランカランと鳴らした。

 

 すぐに三階まで続く高い吹き抜けの上からアラクネの少女達がするすると降りてきてミュールを取り囲んで採寸を始める。

 

「にゃ、にゃ、にゃー!?」

 

 採寸が終わるとミュールは店の奥まで連行されていった。

 これは戻ってくるまで、しばらく時間が掛かりそうだな。

 

「わしらはアルメリアのところに行っておるからのう。終わったら使いを寄こしてくれるか」

「ええ。お昼までには済ませるから、二人ともよろしくね」

 

 アラクネの少女と店番を交代したマーヤさんは店の奥に消えていった。

 

「……行こうか」

「……そうじゃのう」

 

 俺とアンバーはミュールを置いてアルストツカ洋裁店を後にしたのだった。

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