マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第107話 ミスリル鉱物研究所

 ネフライトの魔道学院からきた鉱物学者レクナムの住居であるミスリル鉱物研究所の中はまるで博物館のような状態だった。

 

 広い部屋の中には見たこともない多種多様な鉱石や金属がガラスケースに入れられて標本として飾られている。

 

 レクナムは嬉しそうに標本を指差してあれこれレクチャーしてくれているが、その専門知識は次々と俺の右耳から入って左耳に抜けていく。

 ううむ、これは話を合わせる為に専門書を買って勉強をする必要がありそうだ。

 

 

 見学の後、俺はレクナムと研究室のソファに座ってお茶会を始めた。

 研究室の中はあちこちに雑多な紙の資料や本が積まれてごちゃごちゃしている。

 

 ここに引っ越してきてから1ヵ月も経っていないというのに、彼は随分(ずいぶん)と部屋を散らかすのが上手なようだ。

 

「レクナムは今スタック銅の研究をしているみたいだけど、元々は何について研究をしていたんだ?」

 

 俺は魔力が回復するというネフライト名産の世界樹茶(苦い)を飲んで渋い顔をしながら質問すると、レクナムは世界樹茶(苦い)を飲んで渋い顔をしながら答えた。

 

「私はミスリルの人工的な生成を研究テーマにしています。まあ、これといって成果は見られていないのですけどね……」

「へぇ、ミスリル……もしそれが成功したらどんな利点があるんだ?」

 

 レクナムは俺に見せるようにして指を三本立てた。

 

「まず一つ目に工業的な利点、ミスリルのその究極的なまでに高い硬度を利用した加工機械を作れるようになります」

 

 地球におけるダイヤモンドカッターみたいなものだろうか。

 フライスが喜びそうだ。

 

「二つ目に探索者的な利点、ミスリル製のアクセサリーを作ることでダンジョン内での魔力の自然回復が可能になります」

 

 おっ、それは嬉しいな。

 マジックポーションの節約にもなるし、これまで以上にスキルや魔杖(まじょう)を使用しやすくなるだろう。

 

「三つ目は武器や防具としての利用ですが、これはなかなか難しい。ミスリルの不壊性質を活かすなら単一素材にする必要がありますから」

「ミスリルは人工的な加工が不可能だって話だもんな……」

 

 この大陸には月から飛来したいくつかの巨大なミスリル隕石があったはずだ。

 一つはネフライトの魔道学院、一つはデスマウンテンのポゴスタック帝国跡地、一つは西大陸の探索者ギルド本部に保管されていると聞いたことがある。

 

「そうですね。魔道学院が始まって以来、何人もの研究者がその生涯をかけてミスリルの加工に挑みましたが、誰一人として成功する者はいませんでした。……私も100年ほど頑張って、諦めました」

 

 レクナムはハハハ……と乾いた笑みを浮かべた。

 20年も生きていない短命種にはとても考えられないようなスケールの話だ。

 

「そこで、私はスキルによるミスリルの人工的な生成研究に(かじ)を切ったわけです。同じ魔道スキル使いのハルトさんなら私の考えていることは理解できますよね?」

 

 スキルで生み出した物質は操作権を手放すまで術者の意思で自由自在に変形させることができるからか。

 もし微量でも生成する方法を確立できればミスリルの工業利用も夢ではなくなる。

 

「スキルで特別な物質を生成する為にはその物質に対する深い理解が必要不可欠。つまり必要な理解が足りていればミスリルでも生成することは可能ってことだろう」

 

 俺は虚空にガラスを生み出してハムマンを形作ると色を付けてテーブルに置いた。

 このクリスタルカラーハムマンフィギュアの色を付ける為に、俺はガラスとは別に生み出した微量の鉱物を顔料として混ぜ込んでいる。

 

 微量であっても生成に必要な魔力は単純な土や石とは比べ物にならないほど多い。

 ミスリルを生成する為にはどれだけ多くの魔力が必要になるか想像もつかない。

 

「スキルで生成できる物質は惑星上に存在する自然鉱物に限られますが、衛星であるブルームーンを構成するミスリルもその範疇(はんちゅう)にあると言えるでしょう」

「へぇ、そこまでは知らなかったな」

「土生成スキルを用いた長年の研究の末、ダンジョン産の鉱物は人工的な再現が不可能という結論に至ったのです。……ポゴスタック帝国が必死に隠すわけですよ、あの技術が当時のネフライトに渡っていたら歴史が変わっていたに違いありません」

 

 確かに魔力の有り余っているネフライトのエルフ達ならスタック銅合金を使って無限にレアメタルを量産できただろうな。

 

 それを使ってえげつない性能の兵器を山ほど作って、中央大陸各地で反乱を扇動するくらいはしただろう。

 どこの世界でも古代の歴史は殺伐としていて嫌になっちゃうね。

 

「話が()れました。つまるところ、ミスリルの人工的な生成には非常に多くの魔力が必要になります。ですから私は長いレベル上げのお供に丁度良いと思ってこちらに引っ越してきたわけです。研究資金も稼げて一石二鳥ですね」

 

 レクナムは少し冷めた世界樹茶(苦い)を飲んで渋い顔をした。

 

「ちょっとレベルを上げた程度でどうにかなるものとは思えないんだが……」

「ですが子や孫の世代に(たく)すという意味では十分でしょう」

 

 後のことは自分よりも高魔力の子孫に頼むってか。

 

「研究者らしいロジカルな方法論ではあるが、その子や孫が素直に従ってくれるとは限らないぞ」

 

 俺はそれをアルメリアファームで思い知らされた。

 

「私もまた父祖の願いを引き継いだことでこうしてミスリルの研究に打ち込んでいるわけですし、きっと大丈夫でしょう。趣味の合間の暇つぶしにはなります」

 

 彼の趣味は珍しい鉱物の収集とジュエリーアクセサリーの制作らしい。

 土属性スキルで作ったイミテーションジュエリーを使ったアクセサリーは地元ではそこそこの人気を(はく)していたとかいないとか。

 

「まあ、そんなものか」

 

 俺が冷めた世界樹茶(苦い)を飲んで渋い顔をしていると、壁に設置された箱の中からチリンチリンと鐘の鳴る音が聞こえてきた。

 呼び鈴代わりに使われているハンドベルの魔道具の鳴る音だ。

 

「おや、来客ですね」

「待ちくたびれたアンバーが俺を呼びにきたんだろう」

 

 俺はソファから立ち上がると、レクナムに右手を差し出した。

 

「レクナム、今日は面白い話を聞かせてくれてありがとう。楽しかったよ」

 

 同じく立ち上がったレクナムは笑顔で俺の差し出した手を取って握手した。

 

「いえいえ、こちらこそ。またいつでも遊びにきてくださいね」

「暇だったらな」

 

 新しくできた友人とはいえ、恋人より優先するものでもない。

 アンバー、ヘソ曲げてるだろうな……。

 

 俺がレクナムに見送られながらミスリル鉱物研究所の外に出ると、丸く囲われた白い塀の鉄門の前には案の定アンバーが一人で立っていた。

 彼女は両腕を組んでこちらをジーっと見つめている。

 

「ごめん、待った?」

「お主、わしを置いて二人きりで随分(ずいぶん)と満喫したようじゃな」

「でもアンバーを連れて行ってもしょうがないでしょ。鉱物オタクの話をずーっと聞くのなんてさ」

 

 俺はアンバーとフライス整備工場に向かってゆっくり歩きながら言い訳をした。

 

「それで、何か収穫はあったかのう?」

「彼はジュエリーアクセサリーを作るのが趣味らしい。今度何か頼んでみようか」

「わしに光物(ひかりもの)は通用せんぞ」

「それくらい知ってるよ」

 

 アンバーはこん棒が大好きである。

 そして俺は彼女が生半可なこん棒には見向きもしないことも知っている。

 彼女への誕生日プレゼントは俺の愛以外を用意するのは難しそうだ……。

 

 俺がどう機嫌を取ろうか困っていると、荒野の方からブゥーンというバイクのエンジン音が聞こえてきた。

 

 見てみると、そのバイクに乗っているのはグラサンを掛けたミュールだった。

 彼女は俺達の目の前までやってきて止まると、グラサンを外した。

 

「ふふん、あちし参上にゃ!」

「お前、いつ着替えたんだ」

 

 彼女はフリフリのかわいい服から、尻に穴の開いた部分をパッチワークで塞いだ忍者服に戻っていた。

 

 まあ確かにスカートをタイヤに巻き込むと危険だから、運転するなら着替えるのは当然なんだけどさ。

 

「忍法早着替えの術! とか言ってスキルを使って一瞬で着替えておったぞ」

 

 ミュールは無駄に多彩な忍術スキルを覚えているようだった。

 こんな時くらいしか使い道ないだろ、それ……。

 

「それで、そのバイクは?」

 

 彼女が乗っているのはシンプルな外装をした魔道バイクだった。

 このフライス整備工場でよく代車に使われているやつだ。

 

「フライスに借りたにゃ。あちしが運転に慣れたらハルトと同じイカしたバイクに交換して貰うのにゃ」

 

 フライスは盗んだバイクで走り出した俺の時の失敗を学習したようである。

 愛車を譲るのはきちんと代車で練習してからということらしい。

 

「そうか。じゃあまあ、これあげるから持っとけ」

 

 俺はポーチからハイヒーリングの杖を取り出してミュールに渡した。

 

「いいのかにゃ?」

「運転には事故が付き物だし、間違って子供でも()いたら後味が悪いだろ。それは装具を買って後で登録しておけよ」

「分かったにゃ」

 

 ミュールはキリッとした表情をしてポーチに杖を仕舞った。

 一応、彼女なりに真剣に考えているようだ。

 

「さて、用事も済んだし宿に帰るか」

「そうじゃのう。わしも納品作業で少し疲れたわい」

 

 レクナムと遊んでいる間にアンバーはドフス鋼の納品を済ませていたようだ。

 倉庫に預けていたこん棒コレクションも全部返して貰ったに違いない。

 

 俺が装具から取り出したバイクに(またが)ると、いつものようにアンバーがその後ろに乗った。

 エンジンを掛けてアクセルを回すと、ブゥンと音が鳴る。

 

「ミュール、道路ではスピードを出し過ぎるなよ」

「分かってるにゃ!」

 

 心配だが、ここは彼女の器用さBのプラス補正を信じることにしよう。

 器用さEでも安全運転に努めれば無事故無違反なんだからな、きっと大丈夫だ。

 

 こうして二台のバイクは、荒野を背に道路を走っていったのだった。

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