マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第108話 マーメイドと過ごす休日

 次の日の昼過ぎ、俺は宿の1階の窓際にある椅子に腰掛けて親父さんの作ったジンギスカン定食の余韻(よいん)に浸っていた。

 

「あぁ……」

 

 親父さんは冷凍ラム肉を使っているからあの店の味には遠く及ばないって言っていたけど、俺には全然違いが分からなかったぞ。

 最高に美味いジンギスカン定食だった。

 

「お兄ちゃん、今日はハムマン作りしないの?」

 

 だらけている俺にテーブルで学校の宿題をしているモモちゃんが尋ねてきた。

 今日は休日なのでモモちゃんの通っている初等学校はもちろん休みだ。

 

「お兄ちゃんは午前中に頭を使って疲れちゃったから、少し休憩中なんだ」

「ふーん、そうなんだ……」

 

 俺の目の前のテーブルの上には分厚い本が何冊も積まれている。

 どれもこの世界の鉱物や金属に関するものだ。

 

 昨日アンバーを宿に送った後に本屋に行って買ってきたんだが、あんまり興味のない分野ということもあり勉強が(はかど)らなかった。

 

 なんか鉄の同位体だけで何十種類も書いてあったんだよね。

 ダンジョンの数だけ性質のちょっと違う似たような鉱物が産出されるこの世界で鉱物学を専攻するにはかなりの記憶力が試されるようだ。

 

「休憩終わり。さて続きを読むか……」

 

 モモちゃんに目に見えない圧を掛けられた俺は再び鉱物図鑑を読み始めた。

 適当に開いたページには、虹色に輝く幾何学的な模様をした鉱物の結晶の写真が載っていた。

 

 ふんふん、これがレクナムの言っていたベルニウム結晶か。

 ビスマス結晶みたいだな。

 

 海でたまたま見つかったこの結晶は珍しいだけで特に利用価値はないらしい。

 スタック銅を使ってまで増やす意味ないじゃん……。

 

 

 俺がいまいち(はかど)らない勉強を続けていると、ギィと音を立てて入口の両開きの扉がゆっくりと開いた。

 

「アンバー、いるー?」

 

 逆光とともに現れたその少女は、金魚鉢のような形の白いポッドに乗っている透き通るような青い髪をした(あか)い瞳の人魚。

 このアクアマリンの次期ダンジョンマスター、エクレア・アクアマリンだった。

 

「ようエクレア、元気してたか?」

 

 相変わらずメロンみたいなサイズのイイ乳してんなぁこの女。

 これで暴力系ヒロインでなければ俺のハーレムに加えてやるというのに、まったく残念だぜ。

 

「アンタだけ? アタシを呼び出した張本人はどこに行ったのよ」

「アンバーならポンポコ出版に行ってるよ。今日はもう夜まで帰ってこないと思う」

 

 何かを忘れていると思ったら、タヌヨシに会うのをすっかり忘れていた。

 仕方がないので、予定を変更してアンバーは朝からポンポコ出版の新オフィスに顔を出して「わしとこん棒7」の出版に向けた校正作業などを行っていた。

 

 昼食に帰ってきた時に少し話したが、大手出版社のティアラ出版から「わしとこん棒」シリーズのライセンス契約をしないか打診されているらしい。

 恐らくこれも調停者(モデレーター)クロによる火消しの一環だろうな。

 

 ポンポコ出版はアクアマリンに拠点を持つ小規模な出版社だからいくら刷っても配本できるのはアモロ共和国までだ。

 輸送費を考えると、ティアラキングダムまで配本するのは現実的ではない。

 

 ここは乗った方がいいだろう、と相談してきたアンバーには言っておいたので後はタヌヨシが上手くやるだろう。

 

「はぁ……しょうがないわね。アンタ暇でしょ、アンバーの代わりにアタシの買い物に付き合いなさい」

「お土産はいいのか。アンバーから預かっているけど」

「後でいいわ。ほら、早く行くわよ」

「いてっ、引っ張らないでくれ!」

 

 エクレアにグイグイ腕を引っ張られた俺は懇願(こんがん)してなんとか解放して貰うと、本をポーチに仕舞って椅子から立ち上がった。

 

「ちょっと出かけてきます。アンバーによろしく伝えておいてね」

「覚えてたらねー」

 

 宿題を終えてお絵描きに夢中のモモちゃんは生返事をした。

 まあいいか。

 

「で、どこに行くんだ」

 

 鬼の隠れ家亭を出て道路にバイクを取り出した俺はエクレアに尋ねた。

 

「取り合えず蘭丹(らんたん)ね」

 

 確か蘭丹(らんたん)はアクアマリン市北の湖畔(こはん)にある高級デパートの名前だったかな。

 俺は行ったことがないが、あそこら辺にはマーメイド向けの店が沢山あると聞いたことがある。

 

「了解」

 

 急かすように浮遊するポッドを揺らしているエクレアに、俺は了承の意を伝えてバイクに(またが)ったのだった。

 

 

 アクアマリン湖北の湖沿いには、白い石材で舗装された広い水路があちこちに張り巡らされた街並みが広がっていた。

 その水路の中を美しいマーメイド達が泳ぎ回って半分水没した建物に消えていく。

 

 なんだかここだけ水の都ヴェネツィアみたいな景観をしているな。

 ……という感想を持ちつつ、水着姿の俺はポッドに乗ったままのエクレアに続いて半分水没した高級デパートの中に入った。

 

 デパートの中もまた洪水で水没したみたいな感じになっていた。

 俺は胸まで水に浸かってざぶざぶと水を()き分けながらデパートの中を歩き、2階へ続く階段を(のぼ)った。

 

 階段の近くには人魚用のシンプルな浮遊椅子がショッピングカートみたいな形で並んでいる。

 

 高級デパートにくるような富裕層の人魚は大抵自前の移動手段を持っているから、使われることはあんまりないみたいだ。

 

 エクレアは真っ直ぐに2階のぬいぐるみショップへと向かうと、ゆるキャラみたいなマグロのでかいぬいぐるみを見つけて喜色を浮かべた。

 

「あったあった! よかったー、最後の1個みたい」

 

 ぬいぐるみを抱き上げたエクレアはぴゅーっとレジまで飛んで行ってギルドカードで一括払いすると、ポッドの中に仕舞ってすぐに俺のところへ戻ってきた。

 

「よし、次に行くわよ」

 

 その後もいくつかの店舗を回り彼女の買い物が終わったのでさっさと帰ろうとしたのだが、俺はエクレアに腕を引っ張られてデパートの近くにあるカラオケ屋まで連行された。

 

 これまた水没した広めの個室で、俺は水上に飛び出た狭い椅子の上で体育座りをしながらぼやいた。

 

「俺、もう帰りたいんだけど……」

 

 こんなじめじめした場所にいつまでも居たらふやけちゃうよ。

 

「アンバーの代わりって言ったでしょ。一人カラオケなんて詰まらないもの、今日はとことん付き合って貰うわよ」

 

 ポッドから降りたエクレアは水の底にあるジュークボックスみたいな大きな魔道具を操作しながら俺の愚痴を受け流した。

 

「さいですか……」

 

 ジュークボックスの操作を終えたエクレアがマイクを手に取ると、ジュークボックスの中から軽快なイントロミュージックが流れ始める。

 うーん、どこかのゲームのフィールドで流れてそうなBGMだ。

 

「思いを(つの)らせフィーオルン~♪ フィーオルン♪ 君のすべてが――」

 

 アンバー、いつもこれに付き合っているのか……。

 俺はポーチから取り出した等身大ミノリューぬいぐるみをぎゅっと()きしめた。

 エクレアに頼まれて買ってきたグンシモールラブオデッサ本店の限定商品だ。

 

 ストレスが溜まっているのか、バカみたいな声量で歌うエクレアの歌声を一人で聞くのはちょっとしんどかったのである。

 

「—―ボクのMerry Love~♪」

 

 こうして俺は謎のストーカーソングを熱唱するエクレアの姿を眺め続ける羽目になったのだった。

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