マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第109話 人魚姫の涙

 エクレアによるカラオケ大会は3時間にも及んだ。

 普通はあんなに全力で歌ったらあっという間に喉が()れると思うのだが、高いレベルに裏打ちされた生命力補正によって彼女は最後の最後まで元気だった。

 

「やっと終わった……」

 

 何度もこっそり回復スキルを使ったというのに、まだ耳の奥がジンジンする。

 耳を塞いだら怒るし、本当にどうしろって言うんだ……。

 

 カラオケ店から出た俺が胸まで水に浸かりながら沈みゆく夕日を眺めていると、会計を終えて店から出てきたエクレアがスッキリした顔で俺に話し掛けてきた。

 

「今日は付き合ってくれてありがと。久々に楽しめたわ」

「そいつはどうも……」

 

 そりゃあアレだけ歌えばスッキリするだろうよ。

 俺にはエクレアにアンバー以外の友達がいない理由が良く分かった。

 彼女がこの先、パワハラ上司にならないことを祈る限りである。

 

「お礼と言ったらなんだけど……これから飲みに行かない? (おご)ってあげるわよ」

 

 エクレアは照れ臭そうな感じで俺を食事に誘った。

 帰ってアンバーに癒して貰おうと思ったんだけど、まだ続くんですか?

 

 ……いや待て。

 確かエクレアは酔うと隣の人に抱き着く癖があったよな……。

 俺は夕焼けに染まって赤く色づいている彼女の谷間を見てゴクリと生唾(なまつば)を飲んだ。

 

「仕方ないな、今日はとことんまで付き合ってやるか。一番いい店を頼むぞ」

「行きつけの隠れた名店に案内してあげるわ」

 

 その店は近くにあるというので、俺は石を操って作った小船をエクレアの乗る金魚鉢型ポッドにロープで繋いで水路の上をけん引して貰うことにした。

 

 10分ほど水路を移動すると、湖がよく見える場所に建っている和風な感じの屋根をした壁のない東屋(あずまや)みたいな店に到着した。

 その店の看板には「バンチョSUSHI」と書かれている。

 

「寿司屋か。ここがそんなに良い店なのか?」

「アタシはサブマスターになる前に世界中の寿司屋を巡ったけど、ここが一番美味しかったわ。どうやら仕入れに秘密があるみたいね」

「へー、そうなんだ」

 

 海都カナンから仕入れた魚は冷凍もののはずだから、それでも美味しいってことは板前の調理スキルが天元突破しているとか、あるいは冷凍時に何か特別な処理でもしているのだろう。

 

 店に上がって石の小舟をロープで柱に係留した俺はエクレアと一緒にカウンター席に並んで座った。

 

 カウンターの上に掛けられている木の板に書かれたメニュー表には海苔巻きと5種類の創作寿司しか載っていなかった。

 

「アンタはお酒飲む?」

「帰りもあるし、俺はお茶でいいよ」

 

 解毒スキルがあるとはいえ、飲酒運転は避けたいからな。

 素面(しらふ)の状態でエクレアのおっぱいの感触を堪能(たんのう)したかった俺は心の中でそう言い訳をした。

 

「じゃあビールとお茶、よろしく」

「はーい、ただいまー」

 

 忙しそうに働いている店員さんが俺の後ろから湯呑に温かいお茶を注いでくれた。

 ビールのジョッキを持ったエクレアがこっちにジョッキを差し出したので、俺も同じように彼女の方に湯呑みを差し出した。

 

「それじゃ、乾杯」

「乾杯」

 

 火傷(やけど)をしないように気を付けながらズズっと湯気の立つ熱いお茶を飲むと、水に浸かって冷えた身体がじんわりと温まっていく。

 うんうん、回らない寿司屋だけあっていい茶葉を使っているようだ。

 

「バンチョ、今日の日替わりを二皿ずつお願い」

「はいよ」

 

 エクレアの注文を受けて、スキンヘッドにねじり鉢巻きをした丸いグラサンを掛けている髭面(ひげづら)ダークエルフの板前が持つ包丁が青く光る。

 綺麗に切り分けられた刺身が瞬時に握られたシャリと合体して皿の上に乗った。

 

 珍妙な魚を使った創作寿司を店員さんが次々とカウンター席に座る俺達のところに運んできた。

 腹ペコだった俺は早速、寿司をワサビと醤油にちょんと付けてお口へインした。

 

「美味い……」

 

 そりゃあ美味いに決まっている。

 だって一皿数百メルもする高級寿司屋なんだもんよ。

 

 俺が深く味わうように板前バンチョの創作寿司に舌鼓(したづつみ)を打っていると、ビールを飲み干してお代わりをしたエクレアが段々と酔っ払ってきた。

 

「ハルトぉ~、アンタも飲みなさいよぉ~」

 

 おっ、そろそろか?

 俺の準備はいつでもばっちりだぞ。

 

 しかし俺の期待とは裏腹に、更にビールを飲んで酔いを深めたエクレアはテーブルに突っ伏してぐずぐずと泣き始めた。

 

「うぅ~、なんでみんなアタシを置いて行っちゃうのよぉ~……。タルト……スフレ……キャンディ……クレープ……」

 

 最初は好きな菓子の名前を読み上げているのかと思った。

 だが支離滅裂(しりめつれつ)な言動を繰り返すエクレアの言葉の端々(はしばし)から俺は次第に理解した。

 ……みんな、エクレアの死んだ姉妹の名前だ。

 

「アタシを一人にしないで、ママ……」

 

 アンバーはかつて言っていた。

 エクレアはアクアマリンで唯一の現役Aランク探索者だと。

 

 そして次期ダンジョンマスターであるエクレアの額にあるのは瞳を模した小刻印。

 彼女は未だ、ダンジョンを踏破してリザーブマスターになることができていない。

 

 それはなぜか。

 パーティーメンバーが彼女一人だけを残して全滅したからだ。

 

 Aランク迷宮アクアマリンの最深部である五層は水中洞窟だ。

 ダンジョンの踏破を目指した探索者達を跳ね除けてきた難攻不落の大迷宮。

 かつてこのダンジョンを踏破することができたのは唯一人。

 このアクアマリンのダンジョンマスター、プリメラ・アクアマリンだけだ。

 

「……キュアポイズン」

 

 俺はうつ伏せになって泣いているエクレアの肩に手を置いて解毒スキルを使った。

 酔いが冷めた彼女は腕で涙を拭くと、こちらに涙で充血したその緋眼(ひがん)を向けた。

 

 俺がエクレアの目元に指を添えてハイヒーリングを使うと、目の充血が収まって彼女の美しい顔が元に戻った。

 

「ごめんなさい。みっともないところを見せたわね」

「別にいいよ。(つら)いのはお互い様だ」

 

 俺だってさ、日本に残してきた家族とは二度と会えないんだ。

 日本にいた頃の夢を見て、目覚めた時に枕が()れていたこともあった。

 それでも、どれだけ(つら)くても、俺達は生きていかなければならない。

 

「エクレア一人じゃ厳しいだろうに、どうして俺達を頼らないんだ」

「アンタ達がついてきたところで、サメの餌が増えるだけよ」

「普通にやればそうかもな。でも残念なことに俺達は普通じゃない」

 

 ギフトホルダーの狂戦士(ベルセルク)に異世界から転生した帰還者(リターナー)賢者(ウォーロック)、お調子者の忍者(ニンジャ)

 他にも腕のいい機工士(マシーナリー)魔道具職人(クラフター)の親子だっている。

 

「三人寄れば文殊(もんじゅ)の知恵ってな、俺の方でも何かできることがないか考えておく。だから絶対に無茶だけはするんじゃない。例えプリメラさんが亡くなったとしてもだ」

 

 マーメイドの寿命は800年程度で、プリメラさんがダンジョンマスターになったのが416年前……。

 彼女がいつ限界を迎えてもおかしくないということに、俺は気付いてしまった。

 

「分かったわよ。……ありがとう、ハルト」

 

 エクレアは俺から目を()らして礼を言った。

 照れ隠しだろうか、ちょっとだけ頬が赤くなっている気がした。

 

「ならいい。腹も(ふく)れたし俺はそろそろ帰るよ、宿でアンバーが待っているからな」

「アンバーにお土産のぬいぐるみありがとう、って言っていたって伝えておいて」

「ああ、またな」

「またね」

 

 半分以上残されていた寿司に手を付け始めたエクレアに背を向けて、俺は「バンチョSUSHI」から去っていったのだった。

 

 なお、近くの道路まで石の小舟で移動するのに大変苦労したことをここに記録しておくことにする。

 とても良い寿司屋ではあったが、俺がこの店にくることは二度とないだろう。

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