マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第11話 こん棒愛好倶楽部

 1ヵ月後、Eランク探索者パーティー「黄金(きん)の調べ」はダンジョン一層の芦原(あしはら)湿原を探索していた。

 俺達は腰ほどの高さの(あし)を掻き分けつつ、バシャバシャと水音を立てながら広い湿原を進んでいく。

 不意に目の前を行くリジーが立ち止まって、ある一点を指差した。

 

「ハルト、あそこだ。見えるか?」

「どこだ?」

「ほら、そこだ。よーく見てみろ」

 

 俺が目を凝らすと確かに、(あし)の間に隠れるようにして黒い岩のようなものが転がっていた。

 

「見つけた。俺が釣るからラインは備えてくれ」

「ああ」

 

 俺は杖を取り出して狙いを定めると一発の魔弾を撃ち込んだ。

 すると黒い岩がびょんと上に跳ね、その正体を現した。

 ゴツゴツした黒い体にぎょろりとした二つの瞳、水掻きの付いた指先に発達した太もも。

 モーニングフロッグだ。

 

 モーニングフロッグはびょんびょんと不規則に跳ねながらこちらに近付いてくる。

 嫌らしい動きだ、これでは上手く狙いが定まらない。

 モーニングフロッグは不意に動きを止めると、大きく胸を膨らませた。

 

「くるぞ!」

 

 リジーの警告と同時に、モーニングフロッグの口からびゅんとトゲの付いた丸い舌が発射される。

 

「シールドパリィ!」

「へへっ、貰いっ!」

 

 ラインがスキルを発動し攻撃を上に弾くと、伸びきった舌をリジーがナイフで切り裂いた。

 ばしゃりと音を立てて水に沈むモーニングスター状の舌。

 それを見たモーニングフロッグはショックを受けたのか、がくりと項垂(うなだ)れて動かなくなった。

 

「舌を切ると本当に動かなくなるんだな。なんか可哀想だ」

「せっかくだし、持って帰っちゃう?」

「馬鹿なことを言ってないで、さっさと倒しなさい」

 

 俺達が動かなくなったモーニングフロッグの前に立って言葉を交わしていると、ラインがメイスで岩カエルの脳天に打撃を叩き込んだ。

 煙を上げて消滅するモーニングフロッグ。

 

「あーあ、死んじゃった」

 

 モーニングフロッグの肉はアクアマリン市で最も安価な食肉として流通していた。

 ダンジョンの魔物は殺すと魔石を残して消滅してしまうが、生きたまま外に連れ出すと受肉するのだ。

 その過程で体内の魔石は失われるから、探索者的には余り旨みがないんだけどな。

 デカい魔物を生きたまま外まで運ぶの大変だし。

 

 周りを見渡すと、大きな(かご)を持った何人ものジャイアント達が湿原を歩き回ってカエル狩りに勤しんでいた。

 彼らの着ている服にはでかでかと「アクアマミート」のロゴが描かれている。

 

 余所見をしていた俺に、拾った魔石を背嚢(はいのう)に仕舞ったラインが話し掛けてくる。

 

「何にせよ、これで一層の全ての魔物を討伐したわけだ。いよいよ昇格試験が受けられるな」

 

 ここ数日間、俺達はダンジョン一層にある12の異界を巡り様々な魔物との戦闘経験を積んでいた。

 

 二層からは魔物の出現頻度がぐんと増えるからな。

 パーティー連携の練度を高めておくに越したことはない。

 

「ああ、ようやくだな」

「これであたし達もDランクかー、長かったなぁ」

「それもこれも全部お前のせいだがな」

「いやいや、ラインのせいでしょ」

 

 まーた喧嘩が始まった。

 喧嘩するほど仲がいいとは言うものの、ものには限度があるだろう。

 俺は溜め息をついて二人を仲裁する。

 

「ほら、業者さんに迷惑掛かっちゃうでしょ。帰るよ二人とも」

「ちぇっ、しょうがないなー」

「……ハルト、いつもすまんな」

「いいよ、これくらい。仲間じゃないか」

 

 仕事とはいえ、人付き合いは大変だ。

 中間管理職をしていた俺の親父もこんな苦労をしていたのだろうか。

 俺は顔も覚えていない父親に尊敬の念を抱いた。

 

 

 その日の晩、俺は宿の酒場でアンバーと一緒に夕食を取っていた。

 俺が今日選んだ料理はカエル南蛮定食だ。

 モーニングフロッグ肉は鶏肉に似た味がしてとても美味しい、庶民の味方だった。

 

「ほう、お主もようやく昇格試験を受ける時期がきたのか。随分(ずいぶん)と頑張っておるようだのう」

「週明けにね。それもあって明日マジックバッグを買いに行こうと思ってるんだけど、良かったらアンバーも一緒についてきてくれない?」

「わしも行きたいところじゃがのう、残念じゃが明日は用事があるのじゃ」

「それは残念。何の用事?」

「こん棒愛好倶楽部の定期集会があるのじゃ」

 

 こん棒愛好倶楽部……?

 確かに彼女は2メートルほどもある大きなこん棒を扱っていたが。

 そんなに好きなのか、こん棒。

 

「そう言えばアンバーはこん棒使いだったね。あのこん棒も実は結構凄いものだったりする?」

 

 俺の質問に彼女は目を輝かせると、黒光りするこん棒を取り出した。

 なんだか嫌な予感がするな……。

 

「なかなかお目が高いのう! これは500年前に消滅したAランク迷宮アザゼルから産出された希少なブラックゴルドパイン材でできておる! なんとあの著名なこん棒愛好家のジャイアント、ガゴリウス氏のコレクションだったものじゃ。これを手に入れる為にわしがどれほど苦労したことか……。始まりはそう、17歳の――」

「ちょっと待った」

「ん? なんじゃお主?」

「その話、長くなる?」

「うむ。具体的に言うと単行本一冊分くらいじゃな」

 

 アンバーはこん棒を仕舞いポーチをごそごそすると、一冊の本を取り出して見せてきた。

 

 わしとこん棒5 アンバー著

 

 書籍化してる……!

 

「酒場で知り合った男が出版社の人間でな、わしの話を面白い、面白いと褒めてくれるものじゃから自費出版というやつをしてみたのじゃ。売れ行きもなかなか良くてのう、この間なんか十冊も売れたと言っておった。さいきょーな上に文才まであるとは、わしは自分の才能が恐ろしいわい」

 

 それ、普通にカモられてない?

 いやまあ、趣味は人それぞれだから好きにしたらいいと思うけどね。

 

 それから彼女の長い長ーい自慢話が始まった。

 

「――それでの、わしがお宝を狙う怪盗から屋敷を守る為にどんな方法を取ったと思う? それはのう――」

「うん、うん、そりゃ凄い。大変だったねー」

 

 俺は彼女の話にひたすら相槌(あいづち)を打ち続ける。

 女の話は長いと聞くが、これはなかなかに大変だ。

 とはいえ、変に拒絶して好感度が下がるのも嫌だからな。

 今日は長い夜になりそうだ。

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