マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第110話 不運と踊る

 エクレアとの食事の帰りにアクアマリン湖の北にあるマーメイド街の水路で迷子になった俺は、長い時間を掛けてようやく道路のある場所まで辿り着いた。

 

 陸に上がった俺は石の(かい)と石の小舟を石の流体に戻して魔力に還元しながら、ガサゴソとポーチを漁って懐中時計を取り出した。

 街灯の下で時間を見ると、現在時刻は午後7時を回っていた。

 

「20分くらいは水路の上をさまよっていた計算になる……か?」

 

 これは普通に帰ったら宿に着く頃には8時を過ぎてそうだ。

 明日は朝からマーブルゴーレム狩りに行く予定だし、早く帰らないと楽しむ時間が無くなってしまうな。

 

「今日はちょっとばかり近道をしてみるか」

 

 信号の上にある標識を見た俺は装具からバイクを取り出して(またが)った。

 バイクのヘッドランプを付けると、そのまま北へ向かって走り出した。

 

 

 アクアマリン市の外周にはレッドラインと呼ばれる赤く舗装された道路がある。

 ダンジョンマスターの活動可能な範囲を示すものだが、それだけのものを管理する為に多額の税金を使うのは勿体(もったい)ないので普段は高速道路としても利用されている。

 

 俺の現在地はアクアマリン市の北端に近い場所だ。

 ここからレッドラインを時計回りに四分の一ほど移動してアクアマリン市の東側から宿に向かえば通常の半分くらいの時間で戻れるはずだ。

 

 ちなみに現在の俺はパーカーに海パン姿だ。

 あんまり飛ばすと風圧で眼球が痛くなっちゃうので、バイク用に買った格好いいゴーグルも身に着けている。

 

 俺は大通りから続く一本の道路を抜けてレッドラインに入ると、アクセルを強く回してバイクを加速させた。

 

「俺は風になる――神奈川最強!」

 

 夜のレッドラインは走り屋の時間だ。

 青白い月明かりに照らされた見晴らしのいい夜の高速道路、その対向車線からやってきた派手な車やバイクがすれ違って遠くに消えていく。

 

 普段は安全運転を心がけているが、たまには思いっきりスピードの出せるこういう道を使うのも悪くはないかもしれない。

 

 ……と思っていたら俺を追い越していった一台のスポーツカーがレッドラインから()れて荒野に飛び出し、高いブレーキ音を立てながら荒野にポツンと生えた大きな木にぶつかった。

 

不運(ハードラック)(ダンス)っちまったか……」

 

 前言撤回、やっぱり安全運転は大事だ。

 俺はバイクのスピードを落とすと、レッドラインを外れて事故現場へと向かった。

 

「おーい! 生きているかー!?」

 

 俺の乗るバイクのヘッドランプがボンネットをひしゃげさせてプスプスと青い煙を吐いているスポーツカーを照らした。

 割れたフロントガラスの向こう側には運転手が……いない?

 

「助けてくれー……」

 

 ヘッドランプを付けたままバイクから降りて辺りを捜索していた俺が助けを呼ぶ声に頭を上げると、高い木の上の枝に一人のハーフリングの少年が引っかかっていた。

 彼はいかにもヤンチャしてそうな感じの服装で(あわ)い金髪をツンツン頭にしている。

 

 全身に刺さっているガラスの破片や流している血を見るに、どうやら彼は木にぶつかった衝撃でフロントガラスを突き破って空まで飛んでいったようだ。

 

「シートベルトをしないからそうなるんだ。自業自得だな」

 

 見た感じカーター氏の知り合いでもなさそうだし、このまま見捨てて帰ろうかな。

 器用さ補正を突破して事故を起こすようなろくでなしのハーフリングなんて、生かしておいても百害あって一利なしだ。

 

 俺はパーカーのポケットに両手を突っ込んで、くるりと彼に背中を向けた。

 

「オレを置いて行く気か!?」

「用事があるんでな。他の誰かに助けて貰うといいだろう」

 

 夜のレッドラインで単独事故を起こすような間抜けがハイヒーリングの魔杖(まじょう)を装具に登録して持ち歩いているわけがなかった。

 だからこのままだと失血死確定なわけだが……まあ、運が良ければ助かるだろう。

 

「ううう……死にたくねぇよ……。お袋……」

「泣くなよ、ちょっとした冗談だって」

 

 振り返った俺はスキルで生み出した石の触手を伸ばして彼を掴むと、服に(から)まっていた枝を石の触手で切り落としてそっと地面に下ろした。

 

 地面にへたり込んで呆然(ぼうぜん)とする彼に、俺はパーカーのポケットから抜いた右手を向けて無言でリジェネレーションを行使した。

 

 彼の中に吸い込まれた青い光が傷を癒して、全身に突き刺さったガラスの破片がポロポロと地面に抜け落ちていく。

 

 石の触手を操って服に(から)んだ木の枝を外すと、穴だらけでボロボロの服を着た血まみれのハーフリングの少年だけがその場に残ることになった。

 

「おいガキ、お前何歳だ」

「15歳……」

「成人してんのか。なら聞くが、アレはお前の車か?」

「……」

 

 彼は何も答えずに地面を見つめた。

 あーあ、また面倒なことに首を突っ込んでしまった。

 

「言っておくが俺は上級探索者だ。お前も成人しているのなら、これからどうなるかくらい分かっているよな?」

 

 もしもあの車が盗品なら俺はこいつを探索者ギルドまで連行しなければならない。

 成人している彼が天使から受ける懲罰は損害額に比例して重いものになるだろう。

 

「本当のことを言え。アレは誰の車だ」

「親父の車……」

 

 はいはい、どうせそんなことだろうと思ったよ。

 

「ならいい、これからお前を家まで送ってやる」

「用事はいいのか……?」

「本当に大事な用があるなら事故なんて無視するさ」

 

 俺は石の触手で彼をぐるぐる巻きにすると、バイクまで戻って縛ったままの彼を抱えるようにして(またが)った。

 

「こんな運び方ある!?」

「俺は用心深いんだ。後ろに乗せて首を()っ切られでもしたらコトだからな」

「そんなことしないって!」

「できない、じゃないのが問題なんだよ」

「……」

「早く家まで案内しろ。道が分からないのならこのまま探索者ギルドに向かうぞ」

「分かったよ……」

 

 夜道をバイクで走りながら、俺は彼から少しだけ話を聞いた。

 このハーフリングの少年の名前はラックというらしい。

 

 ラックは高等学校を卒業した後すぐに探索者になった。

 しかしちょっとした失敗が原因で最初に組んだパーティーから追放されたらしい。

 

 運のないことに、元パーティーメンバーから悪い噂を流された彼は誰ともパーティーを組んで貰えなくなったそうだ。

 

 力のないハーフリングが一人で一層を探索しても大した成果は得られない。 

 ラックはそのまま探索者を辞めて、仕事もせずに外をぶらつくようになった。

 

 高等学校時代から付き合いがあった地元の不良グループと再びつるむようになった彼は、母親と喧嘩した勢いで家のガレージに止まっていた父親の車を持ち出したのだという。

 

 ハーフリングは器用さが高いので最低限の知識さえあれば車の運転くらいできる。

 不良仲間からレッドラインの話を聞いていたラックは、溜まりに溜まったストレスを発散する為にレッドラインへと乗り出した。

 

 そして彼は不運(ハードラック)(ダンス)ることになったのだ。

 

「何をやっても失敗して、いつも他人の足を引っ張ってばかり……。畜生、畜生、畜生、オレはクソ野郎だ……」

「そうだ、お前はクソ野郎だ。……今のままではな」

「どういう意味だよ」

「お前には息子を心配してくれる母親に稼ぎのいい父親がいる。でもな、世の中には親のいない連中がごまんといるんだ」

 

 探索者ギルドに所属する天使が運営している孤児養成施設。

 10万メルの借金を背負ったまま、専門的な教育を受けることもなく施設を卒業したコネもない人間に就ける仕事なんて肉体労働の底辺職か探索者くらいしかない。

 

「その日食うのもやっとの状態で生きている連中にとっちゃ、遊び半分でパーティーに入って稼ぎを台無しにされたらいい気はしないだろうさ」

 

 はっきり言ってラインやリジーは上澄みだ。

 施設を卒業した大半の凡人は探索者になったところで大成することもなく、一層か二層でちんたら日銭を稼ぐような探索を続けていずれ魔物に殺されて死んでいく。

 

 それでも探索者ギルドは孤児を育てて探索者にしてダンジョンへと送り込む。

 理由は一つ、ダンジョン内で死んだ人間は宝珠という名の資源に変わるからだ。

 もちろん一人の死など大した価値はないが、(ちり)も積もればなんとやらだ。

 

「遊びじゃない!」

「遊びだ。お前の壊した車一台でどれだけの強さの魔杖(まじょう)が買えて、どれだけの数の魔物が狩れると思っているんだ」

「そ、それは……」

 

 ゴブリンだって強い魔杖(まじょう)があれば探索者で一旗揚げられる時代だぞ。

 装備が良ければそれだけで探索者パーティーの生存率は格段に上がるんだ。

 

 まあ、魔石を使う魔杖(まじょう)頼りの探索者はパーティーの稼ぎが少なくなっちゃうから野良パーティーの募集では歓迎されないんだけどな。

 

 ちょっと話したが、俺の見立てでは彼の探索者適性はかなり低い方だ。

 施設上がりの新米斥候に探知スキルの熟練度が劣っている時点で、努力が足りないと馬鹿にされるのも当然のことだろう。

 

「そもそも野良パーティーを組めなくなった程度で探索者を辞めてニートになるような甘ちゃんが探索者として大成するわけがない。むしろ死ぬ前にパーティーを追放して貰ったことを感謝するべきだろう」

「ぐぅ……」

 

 ついにぐうの音が出たな。

 

「お前がやるべきことは一つ。親に頭を下げて謝って、バイトでも何でもして金を稼いで返すことだ。クソ野郎を卒業するにはそれくらいしなきゃ足りないってことさ」

「……」

 

 荒れてた頃の昔の自分に重ねて少しばかり説教しちまったな。

 まあ、俺の忠告を聞くかどうかは本人次第だ。

 

 車の通りが少ない夜道を走って交差点を過ぎると、俺達の乗るバイクはラックの言っていたガレージ付きの一軒家に到着した。

 ヘッドランプに照らされている解放されたガレージの中身は空っぽだ。

 

「さ、お家に着いたぞ」

 

 窓から漏れ出る光を見る限りご家族は在宅中のようである。

 ラックを拘束から解放した俺はバイクを装具に仕舞うと、彼を連れて玄関の前に立って扉の横にある呼び鈴を鳴らした。

 

 少し待つと、バタバタという足音の後にガチャリと音を立てて扉が開いた。

 姿を現したのはエプロンを着た(あわ)い金髪のハーフリングの女性だった。

 

「ラック! あんた急にいなくなったと思ったらこんなに血だらけになって帰ってくるなんて……ええと、あなたは?」

「俺はCランク探索者のハルト・ミズノです。事情を説明させて貰うとですね――」

 

 俺は懐から取り出したギルドカードのステータスを彼女に見せながら、軽く事情を説明した。

 

 彼がレッドラインで事故を起こしたこと、たまたま近くをバイクで走っていた俺が駆け付けて治療したこと、そのまま彼を連れてここまで戻ってきたこと……。

 

「念の為に聞かせて貰いますが、あの車は彼の父親のもので間違いありませんね?」

「ええ、間違いありません」

「でしたらここから先は家庭の問題ですね。後のことはお母さんにお任せしようと思いますが、構いませんか?」

「はい。この度はバカ息子の命を救ってくださり、本当にありがとうございました」

「人命救助は上級探索者の義務ですので、お気になさらず」

 

 彼女が頭を下げたので、俺は謙遜(けんそん)しつつ感謝を受け取ってラックの背中を押した。

 母親の隣に立ってこちらに振り返ったラックに、俺は別れの言葉を告げた。

 

「じゃあなラック、達者でやれよ」

 

 俺は彼の返事を聞くこともなく背中を向けて立ち去ると、離れた場所で装具から取り出したバイクに(またが)って夜道を走り出した。

 

 ラックの家はアクアマリン市の北西にあった。

 つまり俺はきた道を戻ってさらに宿から離れた場所に進んだことになる。

 

「やっと宿に帰れる……」

 

 俺は安全運転を重視して、アクアマリン湖の外周を通る道をゆっくりと走ることにしたのだった。

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