マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第113話 書斎に咲いた一輪の花

 俺達のマーブルゴーレム狩りは再沸きを考慮して2日に一度行うことにしている。

 つまり狩りの翌日である今日の仕事はお休みだ。

 

 アンバーは「わしとこん棒7」の出版に向けた準備で忙しいし、ミュールはフライスのところで整備士の勉強をするという。

 休日に時間を持て余しているのは俺だけだ。

 

 朝から一人で外出した俺は、昨日手に入れた出現品(ドロップアイテム)の入った袋を片手に魔道具工房バタフライの扉を叩いた。

 今日も店内では作業台の前でアルメリアが魔道具の修理作業を行っているようだ。

 

「おはようございます」

「あらハルトくん、今日は一人?」

「はい。アイリスに用があってきたんですけど、彼女はどうしていますか?」

「アイリスなら一昨日からずっと書斎に(こも)っているわ。プレゼントが随分(ずいぶん)とお気に召したみたいねぇ」

 

 アイリスに渡したのは滅多に手に入らないAランクのエレメンタルコアだからな。

 当然それは俺の新しい魔杖(まじょう)に使う予定なのだが……彼女はどんな術式を考えているのだろうか。

 

「呼び出せそうですか?」

「研究モードのあの子は呼んでも降りてこないでしょうし、様子を見てきてくれると嬉しいわ。ハルトくんの用事というのも次の魔杖(まじょう)の話なのでしょう?」

出現品(ドロップアイテム)の鑑定のついでですけどね。じゃあ、お邪魔します」

「アンバーちゃんには秘密にしておいてあげるわ。ごゆっくり~」

 

 別に彼女に隠れて浮気をしにきたわけではないんだが。

 なんだかアルメリアさんは俺をアイリスとくっ付けたがっているような気がする。

 確かに種馬としての価値は世界で一番高いけど、それで三つ折りは勘弁願いたい。

 

 俺は店の奥にある階段を(のぼ)り、おしゃれな内装をしている2階のリビングルームをスルーして3階へと向かう。

 

 階段を(のぼ)りきると、そこには一つの扉だけがあった。

 3階を丸ごと使った広い書斎の入口だ。

 扉を開いて書斎に入ると、古い本のインクの匂いが鼻をついた。

 

 天井に設置された美しいデザインの照明魔道具の明かりに照らされている広い書斎の中には、どうやって入れたのか分からない巨大な本棚が(マジックバッグを使ったに決まっている)整然と並んでいる。

 

 真正面の広いスペースには沢山の本や紙束が雑多に積まれた大きなテーブルが置かれていて、そのテーブルに突っ伏すようにしてスクール水着を着た銀髪のダークエルフの少女がすうすうと寝息を立てていた。

 

「寝てるし……」

 

 床にはエナジードリンクの空き缶やエナジーバーの包み紙が散乱している。

 パッケージを見る限り、どれも研究者御用達の完全栄養食のようだ。

 

 1万年の歴史を持つ魔道学院が開発しただけあって、このエナジーバーは不健康な生活を送る学者を強制的に健康に保つだけの性能を持っているらしい。

 

 ちょっと高いが味もそこそこで保存性が段違いなので探索者にも重宝されている。

 賞味期限が100年もあるっていうのがまた凄い。

 一度買ったら一生マジックバッグの肥やしにできるじゃん。

 

「おい、起きろ。朝だぞ~」

「んぅ……」

 

 眠っているアイリスの肩を揺すって起こそうとしたが、全然起きる気配がない。

 困ったな、これ以上のボディタッチはセクハラ判定が入っちゃうぞ。

 

「ん? これは……」

 

 テーブルの上に書きかけの設計図があったので手に取って見てみると、そこには巨大な大砲のようなイラストが描いてあった。

 

「プロミネンスキャノン。有効射程20km、攻撃範囲500m、魔力消費5万MB(マナバレット)……アイリスは一体どこと戦争をする気だ」

 

 中二の妄想じゃないんだからさ。

 いや、彼女は現在14歳だった。

 

「……起こすか」

 

 俺はスキルでガラスの鈴を作り出すとアイリスの耳元に近付けて左右に振った。

 リンリンリンと激しい高音が書斎に響き渡ると同時に彼女はバッと飛び起きた。

 

「うわぁ!?」

「おはようねぼすけさん。いい夢見れたか?」

 

 アイリスはガラスの鈴を持って隣に立っている俺を見て驚きに目を丸くした。

 

「ハルトくん、どうしてここに?」

「どうしても何も、アルメリアさんに様子を見てきてくれって言われたんだよ。ちゃんと飯は……食っているみたいだが、風呂にはきちんと入っているか?」

「うっ……」

 

 扉の近くにトイレはあったが、シャワールームは設置されていなかった。

 つまり彼女は書斎に(こも)っている間、一度もお風呂に入っていないのである。

 ダークエルフだからか体臭はそこまでしない気がするが、それはそれとしてだ。

 

「待っててやるから、さっさと入ってこい」

「はーい……」

 

 寝起きのアイリスは肩を落としてとぼとぼと書斎から出ていった。

 

「さてと、少し掃除でもしますかね」

 

 俺は待っている間の暇つぶしに書斎の掃除を始めた。

 床に散乱するゴミを適当な袋に突っ込んでポーチに片付けた後、俺は土の流体を(ともな)って書斎をうろつく。

 

 この部屋は空調で空気が循環している為か見えている部分には(ほこり)は余り溜まっていないようだが、見えない角の(すみ)っこや本棚の上には分厚い(ほこり)が積もっていた。

 

 俺はその(ほこり)に石の流体を押し付けて粘土のように吸着させると、上手いことやって一塊(いっかい)(まと)めた。

 支配下にある石の流体との魔力的な違いを利用して濾過(ろか)をしているのだ。

 

 広い書斎を一周し終わる頃には、手のひらの上にこぶし大もある(ほこり)の圧縮キューブが完成していた。

 

「何十年分の(ほこり)なんだろう、これ……」

 

 掃除を終えた俺が椅子に腰掛けてしげしげと(ほこり)の圧縮キューブを眺めていると、お風呂上がりのアイリスが書斎に戻ってきた。

 

「お腹空いたー。ハルトくん、ご飯頂戴(ちょうだい)

「キッチンには残っていないのか?」

「材料はあるけどー、面倒だから作らないよー」

 

 アイリスはテーブルの下にあった木箱を開けて未開封のエナジーバーとエナジードリンクの缶を取り出した。

 彼女は腰に手を当てて、封を開けたエナジードリンクをゴクゴクと一気飲みする。

 

「はー、美味しー」

 

 床にポイと空き缶を転がしたアイリスはどしりと椅子に腰掛けるとエナジーバーの包みを開けてパクつき始めた。

 

「いつもこんな生活をしているのか……」

「ふぇふにひいふぇふぉ(別にいいでしょ)」

「飲み込んでから喋れ」

「……ゴクリ。別にいいでしょ。ハルトくん、今日は何しにきたの?」

「まずはこれだな」

 

 俺はテーブルの上に置いていた出現品(ドロップアイテム)の入った袋をアイリスに差し出した。

 アイリスはエナジーバーを口に(くわ)えたまま袋の中身を一つ一つテーブルに並べた。

 

「普通の装具とアクセサリーだね。鑑定料はおまけしておくよー」

「そいつはどうも。で、これはなんだ」

 

 出現品(ドロップアイテム)を袋に詰めなおしてテーブルに置いた俺は先ほどの設計図を指差した。

 

「サラマンダーコアの使い道を考えてたらヒートアップしちゃってさー。ねえ、作ってもいい?」

「ダメ」

「だよねー」

 

 こんなものを作られても使い道に困る。

 カタログスペックを見る限りギガンティックタイタンでも一撃で倒せそうだが、余波で街に多大な被害が出ること請け合いだ。

 

「今日はアイリスに聞きたいことがあってきたんだ。FCS(射撃統制システム)、こいつは器用さを補正する術式と聞いているんだが、その性質を利用して俺のプロテクションの持続時間を延ばすことはできないだろうか」

「そうだねー。できなくはないけど、持ち運べるサイズにはならないよ?」

「装具に入る大きさならどうだ」

「それくらいなら余裕を持って詰め込めると思うけど……何に使うつもり?」

沙厄(しゃあく)水脈を攻略する為の拠点として使う。名付けて潜水艇計画だ」

 

 俺はポーチからファイルを取り出してその中の紙をテーブルの上に広げると、アイリスは流線型をした船のイラストが描かれた紙を持ち上げた。

 

「うわー、わたしのプロミネンスキャノンより酷い」

「好きに言え。フライスに10mサイズの水中スクーターを作らせてそれを母艦とする。ディープスケルトンシャーク対策の水中ソナー、ギガロドン用に主砲も必要だ」

「サラマンダーコアの属性を抜いてクリアコアにするのって勿体(もったい)なくない?」

「水中で炎属性なんて使ったら一瞬で沸騰(ふっとう)してあの世行きだろ」

「そうだけどさー。ハルトくん、本気?」

「アイリスがスタンピードで生まれ故郷が滅ぶ(さま)を遠巻きに見届けたいって言うんなら話は終わりだ。でも、違うだろう?」

 

 俺がアイリスのその紫色の瞳を真っ直ぐに見つめると、彼女は困ったような表情を浮かべて下を向いた。

 本のインクの匂いに包まれた書斎の中にしばしの静寂(せいじゃく)が訪れる。

 

 何かを考えているのだろうか、アイリスは食べかけのエナジーバーの包みを両手の指先で(もてあそ)んでいる。

 

 それから少しして、彼女は(ひざ)の上に食べかけのエナジーバーの包みを置くと俺の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

 

「わたしの力が必要なんだね。いいよ、やってやろうじゃん」

「悪いな、ライトニングコアに続いてサラマンダーコアまで台無しにしちゃってさ」

魔道具職人(クラフター)たるもの顧客の要望に応えるのが最優先、でしょ?」

 

 そう言って、アイリスは俺にとびきりの笑顔を見せたのだった。

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