マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第115話 金の生る機械

 フライス整備工場にやってきた俺が建物の陰に隠れて整備士見習いとして働くミュールの仕事ぶりを眺めていると、唐突に後ろから声を掛けられた。

 

「ハルト、何をこそこそしているんだ」

 

 振り返るとそこにはフライスが立っていた。

 彼はいつものように不機嫌そうな顔をしている。

 

「見たら分かるだろ。陰からミュールの仕事ぶりを観察していたんだよ」

「暇人め。少しはあの娘を見習ったらどうだ」

「俺の仕事はアンバーの相手をして土属性スキルを磨くことさ。それはさておき、今日はフライスに頼みたいことがあってきたんだ」

「また儂にアンバーのこん棒を作らせるつもりじゃないだろうな?」

 

 フライスは(いぶか)しんだ様子で俺を見上げるようにして(にら)み付ける。

 

「こん棒よりももっと凄いものだ。フライスもきっと驚くよ」

「まあいい、頼みたいことがあるなら儂の仕事を手伝ってからにしてくれ」

 

 俺が背を向けて歩き出したフライスを追い掛けて整備工場の裏手に行くと、ガレージの前に一台の大きな機械が設置されていた。

 

 機械の下部にある台の上には一枚の赤褐色の金属板が置かれていて、上部には翡翠色の月光発魔パネルが乗っている。

 

 そしてその機械の後ろにある一つだけシャッターの開いているガレージの日陰で椅子に座ってお茶を飲んでいたのは、白衣を着たエルフの鉱物学者レクナムだった。

 

 フライスの後ろを歩いている俺に気付いたレクナムは、手に持っていたティーカップを丸テーブルに置いて立ち上がると笑顔で両手を広げた。

 

「ハルトさん、早速会いにきてくれたんですね!」

「別にレクナムに会いにきたわけじゃないんだけど……フライス、この機械は?」

「スタック銅合金の自動裁断機だ。月光発魔パネルで生み出された魔力がここに設置されたスタック銅合金の金属板に流れ込んで再生を(うなが)す。そして一定の長さまで再生したらここのセンサーに触れて裁断されるってわけだ」

 

 フライスが最後に指差した先の床には裁断された赤褐色の金属板が何枚も積み重なっていた。

 

「凄いな、まさに(かね)()る機械じゃん」

「予算の都合で市販の月光発魔パネルを流用しているので1日に1枚が限度なんですけどね……。これは全部、私の魔力で再生させたものです」

「完成品ができたら資料と一緒に知り合いの金属卸売業者に売り込む予定だ。秘密裏にレアメタルを作って市場に流すのも悪くはないが、そういうやり方は後で恨みを買う。真似をされる前にノウハウを売って利益を得るのが常道だ」

 

 こちらにやってきたレクナムは積み上がった金属板に手を触れると、スキルを使って金属板の中のレアメタルを抜き取った。

 

 彼の手のひらの上には1センチほどの大きさの、虹色に輝く幾何学的な模様をした結晶が乗っている。

 

「ベルニウム結晶です。何度見ても美しい……アクアマリンにきてよかった!」

「あれだけの量のスタック銅合金からこれだけしか取れないのか……」

「いや、これは元々の量が少なかったからだ。研究の結果、スタック銅合金の再生に必要な魔力は混ぜ込んだ金属の比率に応じて増えることが分かった。後はスタック銅が再生する性質を失わない限界を探る段階に入っているんだが……これが大変でな」

 

 フライスは右手でガシガシと頭を()いてレクナムの方を見た。

 

「混ぜ込む金属によって再生限界に違いがあって困っているんです。産業化を目指す上では魔力ロスを少しでも減らした方がいいですからね、ここはきちんと調べないといけません」

「研究者の(さが)というやつだな。そこで、お前の力が必要になる」

 

 フライスが指差した先の壁には何枚もの金属板が立てかけられていた。

 金属板の角にはインクでレアメタルの比率などが書き込まれている。

 

「俺は魔力タンクかよ」

「お前一人でレクナム3人分の魔力が(まかな)えるんだ。その分だけ儂の仕事も早く終わるだろう」

「ハルトさんってそんなに凄いんですか!?」

「フライス……まあいいか、心の友に隠し事は不要だ」

 

 俺は懐からギルドカードを取り出すと、ステータスを表示してレクナムに見せた。

 

 ハルト・ミズノ 18歳 ランクC 賢者(ウォーロック) Lv35

 魔力S 筋力E 生命力E 素早さE 器用さE

 

「俺は帰還者(リターナー)だ。成長率を魔力に極振りされた結果、現在の俺の魔力量は5万7000MB(マナバレット)を上回っている……レクナム、この意味が分かるか?」

「……!」

 

 魔道学院の学者が帰還者(リターナー)の存在を知らないはずがない。

 変に隠して気を使われるくらいなら先にカミングアウトした方がいいだろう。

 

 転生初日にプリメラさんが隠すように言っていたのも、記憶のほとんどを失って(どうやら地球人ではない帰還者(リターナー)はそうなるようだ)いた何も知らない俺が悪い(やから)に食い物にされないように警告していただけのこと。

 

 この半年で強くなった俺はもう自身の出自を無理に隠す必要は無くなったのだ。

 まあ、異世界人アピールしても痛い子扱いされるのが関の山だからアンバー以外には誰にも話していないんだけどね……。

 

「もしそれが本当ならレベル50も行かないうちに10万MB(マナバレット)を越えるはずです! ハルトさんならミスリルが作れるようになるかもしれませんよ!」

「そうだな、俺ができなければ他の誰にもできないだろう」

 

 レクナムから聞いた限りではエルフの王族でも魔力量は3万あれば多い方らしい。

 狂ったようにレベルを上げて魔力量を増やしている極一部の魔導士(ウィザード)の家系を除けば、エルフはそこまで魔力量に(こだわ)ったりはしないようだ。

 

 本当はその高魔力のエルフ貴族の協力を得ることができれば一番いいんだろうけど、土生成スキルなんてマイナーな分野に手を出す奇特な魔導士(ウィザード)がそうそういるはずもなく、レクナムは一人で研究を続けて今日(こんにち)を迎えたわけである。

 

「フライス、先に仕事を終わらせよう。そうじゃないと落ち着いて依頼の話ができないからな」

「分かった。ハルトはこっちに座って、儂が合図をしたら魔力供給をしてくれ」

 

 俺が裁断機の横に置かれた椅子に腰掛けて魔力供給口と書かれた出っ張りみたいな部分を触って確認していると、レアメタルを抜いたスタック銅の板をマジックコンテナに片付けたフライスが新しい試験用の金属板を持ってきて機械の台に設置した。

 

「いいぞ、1枚分だけ魔力を込めてくれ」

 

 俺が魔力を供給すると、見る見るうちにスタック銅合金が再生していく。

 ガシャンと音を立てて裁断されたので、俺は魔力の供給をストップした。

 

 レクナムは魔力供給口の近くに付けられている魔力流入量を計るメーターを見ながら、手に持ったクリップボードに(はさ)まれた紙に試験の結果を記録している。

 

「どんどん行きましょう!」

 

 ガレージの奥からフライスが持ってきたマジックコンテナの中から出てきた大量の試験用の金属板を見た俺は小さくぼやいた。

 

「マジか……」

 

 これは結構な時間が掛かりそうだ。

 

 

 半分も行かないうちに俺の魔力が切れたので、俺達はガレージの日陰の丸テーブルに集まってレクナムの()れた世界樹茶(苦い)を飲みながら休憩を取ることにした。

 

「で、頼みってのは何だ?」

 

 ガリガリと別の紙に再生試験の結果を(まと)めているレクナムの隣に座っているフライスが茶請けのおはぎを食べながら質問してきたので、俺はアイリスから預かった資料を取り出してフライスに差し出した。

 

「これを見てくれ」

 

 フライスは受け取ったその資料に目を通して眉間にしわを寄せた。

 

「正気か?」

「アイリスはできると言っている。ならやるしかないだろ」

「だが、いや、しかし……」

 

 フライスは資料を見ながら少し考えた後、レクナムに声を掛けた。

 

「レクナム、シーニウムは持っているか?」

「残念ながらありませんね。私もいつかは欲しいと思っているんですけど、これがなかなか難しいようで……」

「これは参ったな……」

「シーニウムが必要なのか?」

 

 そいつならアンバーのかいおう丸の中にみっちりと詰まっているぞ。

 

「鋼にシーニウムを混ぜ込むとな、(さび)に強く水の抵抗を限りなく抑えられる合金が作れるんだ。潜水艇の耐久面を考えるとそれが一番いい選択になる。問題は……」

「入手する手段がないことですね。現存するいくつかのシーニウム合金製の武器は人魚族の神器として宝物庫に仕舞われています。私達がいくら()やせると言っても、持ち主は絶対に手放したりしないでしょう」

 

 マジでそんなに凄い金属なのか、シーニウム。

 イチゴロクニは俺達に黙ってとんでもない報酬をくれたようだ。

 

「あるぞ、シーニウム」

「今、何か言ったか?」

「あるんだ。アンバーがジャスティンのダンジョンマスターから貰ったシードフス合金鋼製のこん棒、かいおう丸がある!」

「それは本当ですか!?」

「なんという巡り合わせだ……」

 

 驚愕(きょうがく)に目を丸くする二人を見ながら、俺はティーカップを手に取って温かい世界樹茶(苦い)を飲むと(しぶ)い顔をした。

 

「問題はその持ち主が絶対に手放そうとしないだろう、ということくらいだな」

「だろうな……」

 

 結局はそういうことになる。

 相棒を手放すことを(しぶ)るアンバーを説得する為には、完全に準備を整えて後戻りができない状態まで持って行く必要があるだろう。

 

 その認識を共有した俺達はその場でシーニウム協定を結んだ。

 そしてアンバーに()やしたレアメタルを使ったレアなこん棒をプレゼントして機嫌を取る算段を立て始めたのだった。

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