マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第116話 ミュールのお願い

 やるべきことは決まったが、どれも時間が掛かるものばかりだ。

 だからしばらくの間、俺のルーティーンは以下のようになった。

 

 まず2日に一度のマーブルゴーレム狩り、これは欠かさない。

 少しでもレベルを上げたい俺は頑張ってアンバーに寄生して経験値を稼いだ。

 

 夕方になったら魔石を換金して宿に帰り、ハムマンフィギュアを作りながらアンバーの話し相手をして機嫌を取る。

 もちろん、夜のお楽しみの時間は忘れない。

 

 休みの日はフライスのところで朝と夕方の2回、魔力供給の仕事を行う。

 たまにアイリスの様子も見に行きつつ、暇な時はレクナムの研究に付き合った。

 アンバーと一緒に外出する日もあったが、おおむねこのような感じだった。

 

 

 学者の話についていくのは大変だったが、彼の持つ知識によって停滞していた俺のハムマン職人としての技術力は少しずつ向上の(きざ)しを見せていた。

 

 顔料を変えて更に美しくなった俺のクリスタルカラーハムマンフィギュアは、月に一度ギルド前の公園で行われているフリーマーケットでもハムマン愛好家達からそれなりの評価を得ているのだ。

 

 まあ、今度はデザイン面でダメ出しを食らっているのだが……もっと精進しなければならない。

 

 俺はレクナムから受けた恩に報いる為に、忘れかけていた地球の科学知識を思い出しては彼に伝えた。

 主に原子論とかその辺りについてのことだ。

 

 この世界の人間はこれまでスキルを使って物質の組成を特定していたようで、科学的な分析を行うことはあまり考えられていなかったらしい。

 俺的にはちょっと触っただけで完全に物質の組成が分かる方が凄いと思う。

 

 レクナムからは土生成スキルに使うイメージの補強という意味ではそういう手段を取るのもアリかもしれないという回答を貰った。

 

 それに関連して西大陸の方でギルド本部の開発した巨大な魔道顕微鏡を利用した最先端研究が始まったという話も聞いた。

 遺伝学の研究の為に天使達が作ったやつだ。

 

 彼も利用の申請はしたものの、事前審査で全部弾かれたので諦めたらしい。

 立場の低い研究者の悲しい定めである。

 

 

 アクアマリンに帰ってきてから1ヵ月が過ぎたある日のこと。

 俺達がマーブルゴーレム狩りの合間に狭間(はざま)平原で昼食を取っていると、ごろりと草原に転がったミュールが大きな声で叫んだ。

 

「飽きたにゃ!」

 

 探索者って言ってもやることは単調な効率狩りの寄生プレイだものな。

 宝箱が見つかったのも最初の1回だけで、それ以降はろくな収穫がないわけだし。

 

「そんなに暇なら俺みたいにスキルを鍛えたらどうだ」

「ちまちました修行はもうごめんにゃ。あちしは早く四層に行きたいのにゃ!」

 

 この1ヵ月の間にミュールの化身スキルはすっかり上達していた。

 今ではケモ化しながらスキルを使うことも余裕でできるようになっている。

 

 しかし目標を達成したことで修行をしなくなった彼女は俺の運転するバイクの後ろでずっと暇を持て余していた。

 

 何だったら(ひも)で俺の背中に身体を(くく)り付けて昼寝をしているぐらいで、俺はミュールのその完璧な寄生っぷりに逆に感心したほどである。

 

「四層に行くのはお主の装備ができてからと約束したじゃろう。もう少しくらい我慢せんか」

「ゴーレム狩りには無理に付き合わなくていいっていつも言っているじゃないか。嫌ならこなくてもいいんだぞ」

 

 パーティーメンバーが増えた分だけ取り分も減っちゃうしな。

 アンバーは他に収入源があるから気にしてないみたいだけど、新しいマジックバッグを買う為に貯金を始めた俺にとっては死活問題である。

 

 ちなみに例の計画に必要な資金は俺の魔力で養殖したレアメタルを使った武器を売ることで(まかな)うことになった。

 

 鍛冶は趣味ではないとフライスは言っていたが、噂を聞いた上級探索者が遠くの迷宮都市からやってきて顔を出すくらいには彼の腕はいいようだ。

 

「でも、あちしは魔石が欲しいにゃ……」

 

 ミュールは自分の取り分の魔石を換金せずにバイクの燃料として消費していた。

 俺もそういうことは経費を抑える為によくやるが、そこまで多くは使わない。

 なら彼女はどうしてそんなに魔石が必要なのか。

 

「先輩風を吹かして(おご)ってばかりいるからだ。ガキは甘やかしてばかりいるとすぐに調子に乗るからな、使い込んでないか目を光らせておいた方がいいぞ」

 

 ミュールはひょんなことがきっかけで若手の走り屋グループのボスになったのだ。

 彼女は愛車のバイクで夜のレッドラインを走り回っているそうで、そこでは跳ね返りのヤンチャ坊主どもに姉貴とか呼ばれてちやほやされているらしい。

 

 街のお(まわ)りさんに迷惑を掛けるようなことはしていないので好きにさせているのだが、手下のバイクの燃料代を持ってやったりしているのでちょっと心配していた。

 

 念の為に聞いたが彼女の知り合いにラックという名のハーフリングはいなかった。

 ちゃんと更生していたらいいんだけど、彼は今どうしているのだろうか。

 

「アイツらはそんなに悪いやつらじゃないにゃ!」

「どうだかな……」

「にゃ!」

 

 草原に寝ころんでいたミュールは急に起き上がり俺に飛び掛かってきた。

 押し倒された勢いで手に持っていた水筒が草むらの中に放り出される。

 

「いてっ、いきなり何をするんだ!」

「あちしの舎弟(しゃてい)を馬鹿にしたハルトにはこうしてやるにゃ!」

 

 マウントポジションを取ったミュールは両手で俺の脇腹をくすぐり始めた。

 

「はひっ、ひっ、や、やめっ……!」

 

 こいつ化身スキルを暴走させて指先に生やした毛を筆みたいにしてやがる!

 笑いすぎて息ができねぇ!

 

「にゃははははー!」

「やめんか、阿呆(あほう)め」

 

 アンバーがミュールの首根っこを(つか)んで持ち上げたことでくすぐり地獄から解放された俺はなんとか呼吸ができるようになった。

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」

 

 ゆっくり深呼吸をすると狭間(はざま)草原に吹き渡る新鮮な空気が俺の肺を満たした。

 ああ、生き返るような思いだ……。

 

「ふぅ、死ぬかと思った……」

 

 服に着いた草を払い落としながら立ち上がって状況を確認すると、草原に転がり不満そうな顔をしているミュールを両腕を組んだアンバーが見下ろしていた。

 

「ハルトもお主のことを心配して言っておるのじゃ。そうむくれるでないわ」

「あちしだってそれくらい分かってるにゃ……」

「ほれ、ハルトもこっちにくるがよい。ちゃんと仲直りをするのじゃ」

 

 俺はアンバーに言われるがまま、転がっているミュールに手を差し出した。

 

「ごめんよミュール。大事な友達を悪く言われるのは嫌だったよな」

「分かってくれたならそれでいいにゃ」

 

 ミュールは俺の手を取って立ち上がった。

 その俺達の様子を見て、アンバーはうむうむと頷いた。

 

「仲直りができたところで、そろそろ午後の仕事を始めるとするかのう」

「って違うにゃ! あちしはゴーレム狩りに飽きたって言いたかったのにゃ!」

「おいおい、またそこに戻るのか?」

「こんなに楽ばかりしてたらあちしの腕が(なま)っちゃうにゃ!」

 

 道中の猿鬼(えんき)渓谷で出るグリーンゴリーラでは彼女の戦闘欲を満たすことはできていなかったらしい。

 まあ、確かに瞬殺してたもんな。

 

「あちしにも活躍の機会が欲しいのにゃ。アンバー、お願いにゃ」

 

 ミュールは膝立ちになってアンバーと視線の高さを合わせてお願いをした。

 どうやら俺が思っていたよりも真剣な悩みだったようだ。

 

「むぅ、そうじゃな……ならば少し気分転換に別の異界にでも行くとするかのう」

「別の異界?」

麺麭屋(ぱんや)平野に行くのじゃ。あそこならばミュールの力も存分に活かせるじゃろう」

「やったにゃ! 言ってみるものだにゃ!」

 

 アンバーったらまたゴネ得させちゃって……。

 まあいいか、俺も麺麭屋(ぱんや)平野には興味がある。

 腕のいい斥候がいないと危険な狩場だが、少し覗くくらいなら大丈夫だろう。

 

「それじゃあ行ってみますか、麺麭屋(ぱんや)平野」

 

 こうして俺達は午後の予定を急遽(きゅうきょ)変更して、三層の麺麭屋(ぱんや)平野に向かうことになったのだった。

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