マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第117話 パンヤァ!

 ダンジョンは階層ごとに環境の異なる複数の異界を内包している。

 一層が12、二層が6、三層が4、四層が2、五層が1。

 

 探索者はその数多くある異界の中から、自分達のパーティーに合った異界を選んで狩り場にしている。

 

 例えばアクアマリンの岩塊(がんかい)台地は筋力の高い戦士職のパーティーじゃないと狩りにならないし、精霊樹海で稼ぐなら魔力の多い魔法職が複数人必要だ。

 

 これまで俺とアンバーはそういう色物の異界ばかりを(めぐ)っていたが、この度ミュールが加わったことで斥候職の必要な異界で狩りを行うことが可能になった。

 

 今回俺達が向かう三層の麺麭屋(ぱんや)平野はオーソドックスなパーティーを組んでいるCランク探索者御用達(ごようたし)の狩り場だ。

 

 そこそこの等級の魔石を落とすそこそこの強さの魔物がそこそこの頻度(ひんど)で現れるので、きっとそこそこな稼ぎになるだろう。

 

 

 昼食を終えてバイクで狭間(はざま)平原を移動した俺達は、芝生の絨毯(じゅうたん)と林のコントラストが美しい麺麭屋(ぱんや)平野までやってきた。

 ざっくり言わせて貰うと、この異界はゴルフ場のような見た目をしている。

 

 マップの切れ目を越えて侵入すると、小麦の焼ける(こう)ばしい香りが鼻をついた。

 この異界の代名詞でもあるパンヤマッシュルームの胞子の匂いだ。

 これが、ここが麺麭屋(ぱんや)平野と呼ばれる所以(ゆえん)だった。

 

「いい香りにゃ~」

「そう言っていられるもの今のうちじゃ。お主もすぐに嫌になるわい」

 

 アンバー、パン工場で働いている労働者みたいなこと言ってる。

 確かにここで狩りをした探索者がパンの匂いを漂わせている姿はよく見るけどね。

 異世界ものでよくある都市の下水道なんかで狩りするよりは全然マシだと思う。

 

「お前の望みを叶える為にきたんだからな。斥候職らしくちゃんと警戒しろ」

 

 俺はスーパーマナバレットのこん棒を片手に芝生を歩きながら、石の流体を生み出して足元に(はべ)らせた。

 

「分かってるにゃ! グラウンドソナー!」

 

 化身スキルを使ってケモ化したミュールは探知スキルを足元に放つと、その赤い猫耳をピクピクと動かした。

 

「あっちの方にモグラが3匹いるにゃ」

「よし、そいつを処理して安全を確保してから林で釣りをしよう」

「分かったにゃ!」

 

 俺達がミュールの指定したポイントの近くまで移動すると、芝生がボコボコと波打つように荒らされている現場が見つかった。

 

 再度探知スキルを使ったミュールが指差した先に俺がマナバレットを打ち込むと、ドカンと音を立てて地面の中から見上げるほど大きなモグラが次々と姿を現した。

 大きな鋭い爪で地中から探索者を襲うヒュージパンヤモールだ!

 

「5匹いるぞ! お前さっき3匹って言ったじゃねーか!」

「あちしもちょっとくらい間違えることはあるにゃ!」

「ああもう……!」

 

 石の流体を足元に敷いた俺の前にアンバーが立つと、こちらに(せま)るヒュージパンヤモールに向かってミュールが飛び出した。

 

「首切り!」

 

 ヒュンと振るわれたヒュージパンヤモールの爪をサッと(かわ)したミュールがスキルで青く光らせた小太刀で1匹の大モグラの首を切り裂く。

 

 どさりと倒れたヒュージパンヤモールを踏みつけてジャンプしたミュール。

 彼女が逆さの状態で投げた1本の棒手裏剣は、奥にいたヒュージパンヤモールの脳天に深々と突き刺さった。

 

 相変わらずスタイリッシュな戦い方をするやつだな。

 俺がイキイキと戦っているミュールの姿を眺めていると、足元に敷いていた石の床がガンと大きな音を立てた。

 

 俺は床の一部を石の流体に戻して地中に潜り込ませると、不意打ちしようとした不届き者を縛り上げて地上に引きずり出した。

 

 石の流体から頭だけ出した状態のヒュージパンヤモールをアンバーがいかずち丸でぐしゃりと殴りつける。

 

 絶命したヒュージパンヤモールを地面に転がした俺は、すべてのヒュージパンヤモールを倒して戻ってきたミュールに再度警戒するように伝えた。

 

「ミュール、もう1回調べて」

「グラウンドソナー! ……今度こそ大丈夫にゃ!」

「信じてるからね」

「その足元の石は何にゃ」

「……信じてるからね」

 

 俺は生命力の高いアンバー達と違って即死する危険があるので、二重に保険を掛けることにしたのである。

 飛刈(ひかり)高原でも使った石の道路作戦だ。

 

 ヒュージパンヤモールの処理を終えてある程度の安全を確保したので、俺達は近くの林の前でパンヤマッシュルーム狩りを始めた。

 

 探知スキルを使ったミュールが指差した先の林の中にマナバレットを打ち込むと、ぼふんと音を立てて小麦の焼けるいい匂いがさらに強まった。

 

 少し待つと、林の中からのっそのっそと足音を立てて短い手足の生えた巨大なキノコが何体も歩いてきた。

 林の中のパワーファイター、パンヤマッシュルームの群れだ。

 

「こいつもあちしがヤるにゃ!」

「待て!」

 

 林の外におびき出されたパンヤマッシュルームに素早く接近して攻撃したミュールに対して、パンヤマッシュルームは小太刀で身体を切り裂かれながらミュールの土手っ腹にカウンターのコークスクリューをぶちかました。

 

「ぐはっ!」

「あーあ、言わんこっちゃない」

 

 血反吐を吐いて吹き飛ばされたミュールをアンバーが回収した。

 俺はそれを横目に見ながら持っていたブレイズノヴァの杖に魔力をチャージする。

 

「ブレイズノヴァ!」

 

 放たれた蒼炎の球体によってパンヤマッシュルームの群れは魔石と焦げたパンの匂いだけを残して跡形もなく消滅した。

 俺はアンバーが石の床に寝かせたミュールの腹に手を添えて魔力を込める。

 

「これは内臓がいくつか破裂してますね……エクストラヒーリングっ」

 

 俺が回復スキルを使って少し待つと、気絶していたミュールが目覚めてゲホゲホと胃に溜まった血をゲロと一緒に吐き出した。

 き、汚ねぇ……。

 

「死ぬかと思ったにゃ……」

「俺がいてよかったな。ハイヒーリングの杖じゃ治ってなかったぞ」

 

 その時は応急処置だけしてギルドの病院に駆け込むことになるわけだ。

 当然、その日の稼ぎはお高い医療費で吹っ飛んでいただろう。

 

「ミュールよ、油断大敵じゃ。これに()りたら後先考えずに突っ込むのはやめるのじゃな」

「痛いほど身に染みたにゃ……」

 

 さて、ミュールが身の程を知ったところで俺達の狩りは再開された。

 ヒュージパンヤモールに注意しながら芝生を歩いて林を探り、パンヤマッシュルームを釣り出しては狩っていく。

 

 たまに林の中から凶暴な大タヌキのパンヤラクーンの群れが飛び出してくることもあるので注意が必要だ。

 まあ、こいつは他の2体と比べるとそこまで強くないので問題なく処理できる。

 

「三層では精霊樹海に()いで人気の異界だと聞いていたんだけど、思っていたよりも他の探索者の姿が見えないな」

 

 既に1時間ほど狩りをしているが、探索者パーティーは数組しか見かけなかった。

 

「上級探索者は数が少ないからのう、仕方がないのじゃ」

「確かギルドの統計では探索者のうちCランク以上は5%くらいなんだっけ?」

「じゃのう。その中でもBランク以上は1%以下じゃ」

 

 Bランクから上に昇格する為には戦闘評価に加えて活動実績も必要だ。

 俺とミュールはジャスティンの解放やユーストの緊急クエストの達成などで十分にポイントを稼いでいるので、四層に行けばすぐにでも昇格試験を受けられるだろう。

 

 アンバーはもうAランクに昇格できるだけのポイントを持っているのだが、西大陸のギルド本部でしか昇格試験が受けられないので保留となっている。

 

「そんなもんか。やっぱり上級探索者の義務が障害になっているのかな」

「じゃが、その分のリターンはあるからのう。背伸びして――」

 

 その時、俺の懐に仕舞っていたギルドカードがブルブルと振動した。

 

「アンバー」

「分かっておる。お主が確認せよ」

 

 俺が懐から取り出したギルドカードを見ると、そこにはこの麺麭屋(ぱんや)平野のマップが表示されていた。

 

 ここから北西の林の中に青い光点が1つ、緑の光点が2つ光っている。

 間違いない、これは救援要請だ。

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