マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第118話 探索者の死

 三層の麺麭屋(ぱんや)平野で狩りをしている最中に救援要請を受けた俺達はすぐに行動を開始した。

 

「ここから北西に2キロ、青1緑2だ」

「ゆくぞ、ミュール」

「分かったにゃ」

 

 俺がアンバーにおんぶされると、二人は芝生の上を素早く走り出した。

 アンバーとミュールは走りながら俺が目の前に差し出したギルドカードのマップを見て目標地点を確認した後、勢いよく林の中に飛び込んだ。

 

「ミュール、警戒!」

「エリアソナー!」

 

 先頭を行くミュールが木の陰から飛び出したパンヤラクーンを一刀両断する。

 パンヤマッシュルームを刺激しないように迂回(うかい)して林の中を進んだ俺達はすぐに目標地点に到達した。

 

 そこでは木々の隙間から落ちた光の筋に照らされるようにして、壊れた赤褐色の(ひつぎ)の周囲に3人の探索者の見るも無残な遺体が散乱していた。

 

「遅かったか……」

「残念じゃが、これも探索者の定めじゃ。回収するぞ」

「分かってる。ミュール、再度警戒」

「了解にゃ!」

 

 ミュールが警戒している間に俺はアンバーの背中から降りて石で周囲に壁を作ると、地面にも石を敷いてヒュージパンヤモールの襲撃に備えた。

 ひとまずの安全は確保したので、俺は遺体の状況を確かめる。

 

「ハーフリングの斥候に獣人の戦士が二人か。状況を見るに、宝箱に気を取られた斥候が警戒を(おろそ)かにして地中から飛び出したヒュージパンヤモールに襲われて即死。動揺した戦士二人は本来の力が出せずに一人ずつ殺されたって感じかな」

「こやつらは全員Dランクじゃ。背伸びした探索者の末路じゃな」

 

 そう言いながらアンバーはポーチから取り出した袋に彼らの遺品を詰め始めた。

 

「どうして分かるんだ?」

「マジックバッグ持ちが斥候の一人しかおらんからのう。装具は使っておるようじゃが、全部中古の安物じゃ」

 

 アンバーは遺体の指から抜き取った指輪を木漏(こも)れ日にかざした。

 

「なるほどね……」

 

 アンバーによる遺品の回収が終わったのを確認した俺達はすぐに帰路についた。

 ダンジョンから出て探索者ギルドに遺品を届けるまでが救援要請だ。

 

 

 探索者ギルドはギルド本部の開発した巨大な魔道具を使ってGPSのような形で探索者を管理している。

 

 ダンジョン内に未登録の人間が侵入したり、死人が出たりすると魔道具に警告が表示されるので、サブマスターが目視で状況を確認して近場の上級探索者に救援要請を送る仕組みだ。

 

 一層や二層では基本的にギルドと契約している探索者が職務として対応をする。

 彼らは人気の狩り場の近場で待機して、救援要請が入ったら助けに向かう。

 救援要請のシステム上、必ず死人と向き合うことになるキツい仕事だ。

 

 それならば三層以降で上級探索者に出される救援要請はどうか。

 殺意が増した深層の魔物相手に、パーティーメンバーが欠けた状態で助けがくるまで耐えられる探索者は少ないだろう。

 

 つまるところ、上級探索者に対する救援要請は遺品の回収と同義となる。

 ぶっちゃけるとマジックバッグや装具といった高価な品をそのままダンジョンに飲ませるのが勿体(もったい)ないのでこうやって救援要請を出して回収させている。

 

 回収した遺品の一部は探索者ギルドが買い取って探索者の報酬になるからな。

 深層で活動する上級探索者の装備を考えると、その報酬だけで一生暮らせる金額になることも珍しくない。

 

 だから二層の環境に慣れて調子に乗ったDランク探索者は救援要請を受けられるCランクの昇格試験を受けたがるし、その慣らしとして三層に挑戦するようになる。

 

 ただし、実力に見合わない立場を求めた者には手痛いしっぺ返しがくるものだ。

 彼らもまた、そうしてダンジョンの(つゆ)と消えていった。 

 

 

 三層の麺麭屋(ぱんや)平野で救援要請を受けて探索者の遺品を回収した俺達は一切の寄り道をせず真っ直ぐにダンジョンの外を目指した。

 そして出口のゲートを潜って外の広場に躍り出た俺達に一人の人魚が呼び掛ける。

 

「アンバーちゃん、こっちですこっちー」

 

 川の岸辺でこちらに手を振っているのはギルド職員のナナミさんだ。

 俺達が彼女の目の前まで行くと、ナナミさんはそっと頭を下げた。

 

「まずは救援要請の完遂(かんすい)、お疲れ様でした。すぐに査定を行いますから、皆さんは探索者ギルドの裏口に向かってください」

 

 ナナミさんがアンバーに目を向けると、アンバーはうむと頷いた。

 

「ミュールは初めてじゃからのう。わしが案内しよう」

「よろしくお願いします。後はハルトさんですが……」

「何か問題でも?」

「またユニエル様から呼び出しが掛かっていますよ。あなたも大変ですねー」

「そうですか……」

 

 やっと忘れていた頃だったというのに、あの日のトラウマが(よみがえ)りそうだ。

 俺が肩を落としていると、アンバーが背伸びして頭をなでなでしてくれた。

 

「今回はわしが一緒について行ってやるからのう。二人で頑張るのじゃ」

「ありがとう、アンバー……」

「懲罰を受けるわけでもないのに、何をそんなに恐れてるのかにゃ?」

「ミュールも一人で会えば分かるよ」

「ふーんにゃ」

 

 こうなったらミュールも一緒に連れて行くとしよう。

 流石に三人もいたらユニエルも手を出してきたりはしないだろう。

 ……しないよね?

 

「ではでは、お疲れ様でしたー」

 

 ぽちゃんと川に沈んだナナミさんが泳いで帰っていったので俺達も移動を始めた。

 ゲート前広場から駐車場に直接繋がる探索者ギルドの裏口に行くと、二台の大型トラックが余裕を持ってすれ違えるサイズの通路の途中にある大きな扉の前に立った。

 

 ジャイアントが通れるサイズの大扉の横には「特定業務窓口」というプレートが貼られている。

 アンバーがプレートの下の端末にギルドカードをかざすとスッと扉が横に開いた。

 

 広い部屋の中は小さな銀行のようにカウンターで仕切られていて、カウンターの向こう側では数人の天使と人魚の職員さんが働いていた。

 

 天使は大きなテーブルの上に広げられた探索者の遺品であろう魔道具や武器、私物を一つ一つ確認して、用紙に何か記入してから大きな箱に入れている。

 

 アンバーが遺品の入った袋をカウンターに置くと、受付の人魚の職員さんがそれを番号の振られた大きなカゴの中に入れた。

 

「『こん棒愛好会』の皆様、査定が終わるまでしばらくお待ちください」

「うむ、頼んだぞ」

 

 俺達が部屋に置かれたソファの方に行くと、ソファに座って一人で査定を待っていた黒い羽毛をしたバードマンの男が声を掛けてきた。

 

「ようアンバー、久しぶりだな」

「レイヴン、お主はまだこの仕事をしておるのか」

死体漁り(スカベンジャー)揶揄(やゆ)されようが構わんさ。俺はラクして食えりゃそれでいい」

「アンバー、この人は?」

 

 取り合えずソファに座ったところで、俺はアンバーに彼のことを聞いた。

 

「こやつはレイヴン、ソロのCランク探索者じゃ。探索者ギルドと契約して二層で遺品の回収業務を行っておる」

「ま、そういうことだ」

 

 レイヴンは両翼を上げて肩を(すく)めた。

 安全な空中から高速でダンジョン内を移動できるバードマンはこういう仕事に持ってこいなのだろう。

 

「で、今日はどこで死人を見つけたんだ?」

麺麭屋(ぱんや)平野の林の宝箱の前じゃ。わしらが偶然にも近くの狩り場にいたというのに、1分も持たぬとは骨のないやつらじゃ」

「骨のあるやつは死んだりしない、だろ?」

「まあ、そうじゃがのう……」

 

 それからしばらくの間アンバーとレイヴンの雑談を聞いていると、職員の人魚さんがレイヴンを呼んだ。

 

「レイヴンさん、終わりましたよー」

「おっと、呼ばれちまった。じゃあな、アンバー」

「二度とここで会わぬことを望んでおるぞ」

「そりゃあ、土台無理なお話だ」

 

 レイヴンはソファから立ち上がると、こちらに背を向けて片翼を振りながらカウンターの方に向かっていった。

 

「ああいう人もいるんだにゃー」

「これも引退した探索者の進路の一つじゃが、若手探索者の救援要請に(こた)えるのは余りよい仕事ではないのじゃ。要らぬ恨みを買うでのう……」

 

 「どうしてもっと早く助けにこなかった」とか言われたり、遺族から「全滅するまで放置したんじゃないか」とか責められたりするんだろうな。

 

 俺もあの時ギリアムくんを助けられていなかったら、心に傷を残していただろう。

 これから先もできるだけ、救援要請は受けたくないものだ。

 

 

 それからまた少し待った後、カウンターに呼び出された俺達は報酬を受け取った。

 マジックバッグと装具、武器とボロの車を合わせて5万メルほど。

 現金も大した手持ちはなく、ゴーレム狩り2日分にも(およ)ばない報酬だった。

 

 ちなみに他の私物はすべて受取人として指定されている遺族に引き渡される。

 もし引き取り手のいない場合は、一定期間の保管後にギルド直営のリサイクルショップに並ぶことになるだろう。

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