マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
今日の仕事が終わったのならば、ユニエルの呼び出しに応じなければならない。
俺達はおやつ時を過ぎた
総合病院の広いロビーの奥にある長い通路を歩いて院長室へ向かう。
そして院長室の扉の前に立った俺はコンコンと扉をノックした。
すぐにガチャリと扉が勝手に開いたので、三人で部屋の中に入る。
部屋の主は高い吹き抜けのある
「ユニエルさん、ご
俺が挨拶すると長身のアルビノの天使はこちらをチラリと見て疑問の声を上げた。
「おや、今日はお一人ではないのですね……」
「お主と二人きりにさせて、またわしの恋人に変なことをされては困るのじゃ」
「それは残念です。ハルト様にはぜひ個人的なお礼をと思っていたのですが……」
「また何か良いことでもあったのですか?」
「ええ、それはもう……」
ユニエルがスッと指先を振るうと、高い棚の上から一冊の冊子が俺達に向かってゆっくりと飛んできた。
俺の目の前に浮かんだ冊子を手に取って表紙を見ると、そこには「再生医療サービス提供のご案内」と書かれていた。
アンバーとミュールに見えるようにパラパラとめくって内容を確認したところ、どうやらギルド本部はリジェネレーションの術式を搭載した医療用魔道具の量産化に成功したようだった。
開いた冊子のページには部位ごとの再生治療に掛かる費用や医療保険の適用などの
「以前のお話から4ヵ月ほどしか経っていないはずですが、もうできたんですか」
「来年には世界中の探索者ギルド病院で誰でも再生医療を受けられるようになるでしょう。四肢を失って引退を余儀なくされていた探索者の復帰も始まります。ハルト様、これもすべてあなたの功績なのですよ……」
俺は単なるきっかけであって、それ以上先のことは研究者や魔道具職人の功績だ。
凄い凄いと
「感謝の気持ちは受け取っておきます」
「気持ちだけでは足りませんよ……」
本をテーブルに置いて立ち上がったユニエルがゆっくりとこちらに近付いてきた。
それを見たアンバーは
「ユニエルさん、今日はやけに押しが強いですね」
「実は、私はこの
「最上級天使じゃと……!」
両腕を広げたまま、アンバーは琥珀色の目を見開いた。
その様子を見て俺の隣に立っているミュールが首を傾げる。
「それってそんなに凄いのかにゃ?」
「凄いなんてものじゃない。最上級天使は初代ギルドマスターアザゼルに並ぶ、探索者ギルドにおける最高位の地位だ」
ここで探索者ギルドにおける天使のヒエラルキーを説明する。
まず下級天使、これは名前の通り下っ端だ。
彼らはギルド本部で教育を受けた後、世界中の探索者ギルドに派遣され、さっき見た遺品の鑑定業務とか郵便業務、総合病院のナースなどの仕事に従事している。
次に中級天使、これは管理職。
あらゆる実務経験を積んだエリート天使は探索者ギルドの幹部として派遣され、銀行や総合病院の取り
現地の探索者ギルドが不正を働いていないか監視したり、問題のある子供や探索者に懲罰を行うのもこの中級天使の仕事だ。
最後に上級天使、これは管理職の中でも特に優秀な者。
探索者ギルドの定める医療技術をマスターした中級天使に与えられる称号だ。
医学を何よりも
なお、現代における天使はその全員が探索者ギルドの管理下にある。
ギルド本部の許可なく勝手に所帯を持つことは許されないし、生まれた天使の子供は西大陸のギルド本部に集められて画一的な教育を受けることになる。
すべては月光教の残党との長い闘争の果てに作られた決まり事だった。
「私は再生医療サービスの提供開始と同時にアクアマリンでの任期を終え、イクリプスに帰ることになりました。私がこの街で過ごせるのも、後少しだけなのです……」
イクリプスはギルド本部がある西大陸の迷宮都市の名前だ。
そうか、出世したユニエルはアクアマリンからいなくなってしまうのか。
「そうなんですか。それは残念ですね」
「ええ、本当に。ですから、この街を去る前にハルト様に私から少しでもお礼をさせて頂きたいと考えております。私にできることなら何でもしますから、どうぞ思いの丈をぶつけてくださいな……」
「ん? 今何でもするって……」
俺はユニエルの白衣を押し上げている豊満な双丘を見てゴクリと生唾を飲んだ。
「ハ〜ル〜ト〜」
「はい、分かっております」
冗談はさておき、ユニエルにお願いできる権利を貰っても困っちゃうんだよな。
潜水艇計画に資金を融資でも……と思ったが、彼女は手持ちの財産のほとんどを魔道顕微鏡の研究開発に投資してしまっている。
……魔道顕微鏡か。
いいかもしれない。
「確かユニエルさんはイクリプスの魔道顕微鏡の開発に投資されてましたよね。俺の友人の鉱物学者がそこの利用をしたいと言っていたのですが、ユニエルさんの権限でねじ込むことってできますか?」
「その方のお名前と目的をお聞かせください……」
「ミスリルの人工的な生成を目的に研究をしている、魔道学院所属のレクナムというエルフの男です」
俺の言葉にユニエルは驚きを隠せない様子だった。
「ハルト様は恐れを知らないお方ですね。月光教の秘奥に続いて、神の象徴である月光石にまで手を出そうとは……」
言われてみれば確かに危ういネタではあるか。
だが月光教の狂信者が探索者ギルドの手によってすべて狩りつくされた現代において、そこまで気にする必要はあるだろうか。
魔道ロケットで月に行くアポロ計画を立てているわけでもあるまいし、ミスリルの研究のことは黙っておけば大丈夫だろう。
「いけませんか?」
俺が尋ねると、ユニエルは
「いいえ、むしろ喜ばしいことです。イクリプスに戻り次第、手配をさせておきましょう……」
よかった、これで一安心だ。
このことを話したらレクナム、喜ぶだろうなぁ。
また大げさに小躍りしちゃったりして。
「ありがとうございます。きっと彼も喜ぶでしょう」
「僕を驚かせるような、素晴らしい成果を期待していますよ……」
「さて、そこまでは保証できませんね」
そう言って俺は肩を
ミスリルの方は本当に何の手掛かりも持っていないのだ。
時間を掛けてしらみつぶしに可能性を潰していくしかないだろう。
「それでは俺達はこの辺りで失礼させて貰います。さようなら、ユニエルさん」
「さようなら……」
俺達はユニエルに頭を下げると、院長室を後にしたのだった。