マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第120話 デキる男のダンジョン飯

 その日、俺はグンシモール迷宮前店のカドカワ書店にいた。

 慣れた様子で店内を歩き探索者向けの書籍が集まっているコーナーにやってきた俺が、新刊の棚から手に取ったのは「デキる男のダンジョン飯」という料理本だ。

 

「ふんふん、こいつは美味そうだ……これは買いだな」

 

 現役Aランク探索者推薦! と書かれた帯の付いたその本をパラパラとめくって内容を確認した俺は独り言を言った。

 

 俺の最近のマイブームはキャンプ料理の練習だった。

 いよいよ明日から四層へ狩り場を移すわけだが、そこでの狩りは基本的に泊まり込みだ。

 

 普段のダンジョンでの昼飯はそこら辺で買った弁当を食べているのだが、何日もダンジョンの中で過ごすとなると少し困ったことになる。

 

 料理のできないアンバーとミュールはその間の食事をエナジーバーとお菓子で済ませる気満々なんだけど、ダンジョンの中でも温かい飯を食いたい俺は頑張って料理を勉強することを決めたのである。

 

 料理の勉強といっても、親父さんに教わったりするつもりはない。

 時短系の調理スキルなんて習得しても、魔力の節約が必要なダンジョン内だとあんまり使えないしな。

 

 男らしく、ワイルドで美味そうなキャンプ飯を作ってアンバー達に振舞うのだ。

 ということで、最近の休日の昼飯は(もっぱ)ら練習で作ったキャンプ飯だった。

 

 アイリスやレクナムに試食させた時はそれなりに好評だったので、きっと二人も喜んでくれることだろう。

 上達のコツは変にアレンジせずレシピ通りに作ることだな。

 

 他の新刊も何冊か立ち読みしたところ既に持っている料理本とレシピが被っていたので、俺は先ほどの「デキる男のダンジョン飯」だけを買うことにした。

 

 先日発売されたアンバーの「わしとこん棒7」(サイン本入荷済み)が平積みされた棚を横目に見つつ、レジに行ってアクアペイで代金を支払った。

 

 その足でグンシモール内のスーパーマーケットに向かった俺は、メモを片手にショッピングカートを押して食材をカゴの中に入れていく。

 

 最近はよくここに(かよ)っているので、生鮮食品の相場もだいぶ覚えてきた。

 アクアマリン市外からの輸入物は価格の変動が多いが、アクアマリン市内でハウス栽培された作物やダンジョン産の肉類は価格が安定しているようだ。

 

「おっ、今日は牛肉が安いな……」

 

 俺はスライム樹脂ラップで包装されたユースト牛のサーロインを見て悩み始めた。

 買うか? いや、しかし……。

 

 そんな感じで主夫気分を満喫しながら食材の買い出しを済ませた俺は、魔道具工房バタフライに寄ってからバイクに乗って宿に帰った。

 

 ちなみに牛肉は買わなかった。

 時間停止機能なんてないマジックバッグに生ものは厳禁だ。

 ユースト牛のサーロインステーキはまた今度の機会にしよう。

 

 

 アイリスとおしゃべりをしていたら少し遅くなってしまった。

 寄り道して遅刻した()びのつもりで買ってきたおやつの豆大福の袋をポーチに隠して鬼の隠れ家亭に帰ってきた俺は両開きの扉を押し開いて酒場に入った。

 

「ただいまー」

「お兄ちゃんが帰ってきた!」

「おお、助けがきたぞ!」

「ハルト、早くこっちにきてあちしらを手伝うにゃ!」

 

 そこでは酒場のテーブルに乗せられた大量の野菜を前にモモちゃんとアンバー、ミュールの三人が仕込みの手伝いをしていた。

 おかしいぞ、いつもならとっくに親父さんが終わらせているはずだが……。

 

「ちょっと出かけている間に何があったんだ」

「モモがのう、うっかり転んでひっくり返してしもうたんじゃ」

「うう、ごめんなさい……」

 

 うっかりで食材を駄目にしてしまったらしいモモちゃんは涙目になった。

 よく見ると、モモちゃんの白い頭頂部には大きなたんこぶができている。

 親父さんが手を出すなんて珍しいな、彼女はよほど不味いことをしたらしい。

 

「じゃから、わしがひとっ走りして買ってきた食材で仕込みのやり直しじゃ」

「仕方ないな。ミュール、そこをどいてくれ」

「助かるにゃ~」

 

 椅子に座った俺は一番大変そうな芋の仕込みから始めることにした。

 ピーラー状にした石の触手を何本も生み出して、するすると芋の皮を()く。

 皮を()き終わった芋は格子(こうし)状にした石刃の入った石箱に通して切り分ける。

 

 スティック状になった芋はそのまま水の入った桶にポチャポチャと落としていく。

 こうやって水に1時間ほど(さら)しておくと揚げた時に中はホクホク、外はカリッと仕上がるのだ。

 

「お兄ちゃん、凄い凄い!」

「これで芋は終わりだ。ミュール、これは親父さんのところに持っていってくれ」

「分かったにゃ!」

 

 ケモ化したミュールは重たい水桶を軽々と持ち上げて厨房に歩いていった。

 たまにスキルの練習で親父さんの仕込みの手伝いをしていた経験が()きたな。

 芸は身を助けるとはこのことだ。

 

「さてと、次に行きますかね……」

 

 こうして俺は土属性スキルを行使して次々と野菜の下処理することで、どうにか夕方の開店時間に間に合わせることに成功したのだった。

 

 

 親父さんから手伝いのお礼代わりに無料で夕飯をご馳走になった後、俺達は三人で自室に集まって明日の話をすることにした。

 俺が椅子に座ると、アンバーは向かい合うようにダブルベッドに腰掛けた。

 

「さて、明日からいよいよ四層に挑戦するわけだが……全員準備はできているな?」

「もちろんじゃ。昼にマジックバッグの整理は済ませておる」

「ミュールはどうだ?」

「……(もぐもぐ)」

 

 ミュールはダブルベッドの上で腹ばいになって、俺がさっき渡した豆大福をもぐもぐしている。

 これから寝るんだから、頼むから食べかすは(こぼ)さないでくれよ。

 

「……ゴクン。問題ないにゃ」

「寝具は?」

「言われなくてもちゃんと買ってきたにゃ」

 

 豆大福を口にくわえたミュールはポーチから丸めた寝袋を取り出した。

 

「よし、なら大丈夫だな」

「お主の方はどうじゃ?」

「食料は十分に買い込んできたし、新しいマジックバッグもある。準備は万全だ」

 

 俺の左腰には貯金をはたいて買ってきたBランクのマジックポーチが付いている。

 家を丸ごと持ち運べるサイズだからこれで容量問題ともおさらばだ。

 

「問題ないようじゃの。ならば明日に備えて今日は早めに休むとするかのう。ミュールよ、もう部屋に戻ってよいぞ」

「ふゎーい」

 

 豆大福を口にくわえたまま返事をしたミュールは残りの豆大福が入った袋を抱えたまま自室に帰っていった。

 それを見届けた俺は2つのポーチを外して机に置くと、椅子から立ち上がった。

 

「さて、風呂にでも入るか」

「そうじゃな、そうするとしよう」

 

 そうしていつものようにアンバーと一緒にお風呂に入った俺は、日課のハムマンフィギュア作りをしてから就寝したのだった。

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