マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第122話 すれ違い、再び

 今日の巨竜原生林での狩りを終わりにすることに決めた俺達は、ジャイアントギガサウルスの作った広い獣道を歩いて異界の端に近い場所から狭間(はざま)平原に脱出した。

 

 そのままバイクに乗って巨竜原生林の外周を走り、四層の中心地へと向かう。

 のんびりと草原を走っていると、次第に遠くにあった取水パイプが近付いてきた。

 

 天から伸びて地下に潜っている直径10mはある金属製の取水パイプのそばに、赤褐色の建物が建っているのが見えた。

 あそこが四層で過ごす探索者が集まるキャンプ地だ。

 

 俺は建物の前でバイクを止めるとアンバーを下ろしてからバイクを仕舞った。

 一足先に建物の中を覗いたミュールは俺達の方に振り返って首を傾げる。

 

「まだ誰もいないみたいだにゃ」

「ほう、ならば今のうちに風呂を使わせて貰うとするかのう」

「俺はここでテントの設営と夕飯の支度をしておくから、二人でゆっくり入ってくるといいよ」

「アンバー、早くお風呂に行くにゃ!」

「そう()くな、時間はたっぷりあるのじゃからな」

 

 アンバーはポーチから専用の給湯用魔道具を取り出すと、ミュールを追って赤褐色の建物の中に消えていった。

 

 このこじんまりとしたスタック銅製の建物にはトイレと浴室の二つしかない。

 建材に使える宝珠には限りがあるし、キャンプ地を利用する人数が多くなった場合に揉めたりすると困るのでこういった仕様になっているようだ。

 

「さてと、やりますかね」

 

 俺は左腰に付けている新しい方のポーチから大きな天幕を取り出すと、石の触手を操ってささっと草原に四角いテントを設営した。

 その近くには食事用のテーブルと椅子もしっかり用意する。

 

 次に建物のそばにあるレンガ造りのカマドと大理石の調理台がある場所まで移動した俺は、調理台に携帯コンロ型の魔道具を二台設置してその上に鉄鍋とフライパンを乗せた。

 

 そしてポーチから取り出したいくつかの袋からベーコンの塊や野菜、缶詰といった食材を調理台に敷いた石の皿の上に並べる。

 

 おっと、調味料も忘れてはいけないな。

 俺は各種調味料の入った小型の箱型ケースを置いて(ふた)を開いた。

 最後にレシピの書かれた手帳を開いて片手に持って、準備はOKだ。

 

「えーと、まずは下ごしらえから……」

 

 俺が石のまな板の上で石の触手を使って肉や野菜を細かくカットすると、魔道スキルで生み出したお湯を注いだ鉄鍋に入れて火にかけた。

 

 トマトの缶詰とスプーンで計量した調味料を加えてしばらく煮込めばトマトのミネストローネスープの完成だ。

 後はアンバー達が戻ったらフライパンでガーリックトーストを焼くとしよう。

 

 使い終わった石の触手を魔力に還元した俺は、弱火でコトコト煮込んでいる鍋の番をしながらゆっくりと二人の帰りを待つことにした。

 

常闇(とこやみ)砂漠、あそこに五層へのゲートがあるんだよな……」

 

 俺が調理台にもたれかかるようにしてぼんやりと眺めているのは、草原の向こうにある黒い闇のヴェールだった。

 

 アクアマリン迷宮四層の常闇(とこやみ)砂漠はユースト迷宮三層の夕暮(ゆうぐれ)大河と同じく、時間帯の異なる異界となる。

 こういう異界はいくつかあるが、その中でも常闇(とこやみ)砂漠は当たりの部類だ。

 

 昼間の砂漠フィールドは太陽もないのにやたらと気温が高い傾向にあるが、常闇(とこやみ)砂漠は気温が10℃前後と安定している。

 外と比べると寒いが、十分に活動可能な範囲内だろう。

 

 おっと、闇のヴェールの奥から見える明かりが少しずつ大きくなってきた。

 どうやら他の探索者パーティーが探索を終えて帰ってきたらしい。

 

 

 しばらくすると、闇を抜けて狭間(はざま)平原に脱出した四人組の探索者パーティーが歩いてこちらにやってきた。

 

 先頭を行くのはドラゴニュートの男だ。

 後ろにオーガの男とダークエルフの男が並び、その少し上をバードマンの男が飛んでいる。

 なんだか見覚えがあるような、ないような……。

 

「思い出した、『竜牙の刃』だ」

 

 アイリスとエレメンタル狩りをした時に遭遇したAランク探索者パーティー。

 確かリーダーのディノガルドとアルメリアの息子のアカシアだっけかな。

 顔に傷のある大剣を背負っているオーガとバードマンの名前は知らない。

 

「お前、『こん棒愛好会』の魔導士(ウィザード)だな。他のパーティーメンバーはどうした?」

「アンバー達なら先に風呂に入ってるよ。会うのは3ヵ月前のエレメンタル狩り以来だな、ディノガルド」

 

 俺はすぐそばまでやってきて尋ねてきたディノガルドに返事をすると、ニヤニヤと笑みを浮かべた茶色の羽毛のバードマンが鉄鍋に近付こうとした。

 

「美味そうなもん作ってるねぇ」

「俺は忘れてないぞ、重箱泥棒」

 

 俺は石の流体を生み出して調理台の上を囲うと、片翼を鉄鍋に伸ばしていたバードマンの男はサッと飛び退()いてそれを(かわ)した。

 

「おっとっと、危ない危ない」

「まったく、油断も隙もありゃしない」

「あの時はグリスが失礼をした。こいつは手癖が悪くてな」

 

 ディノガルドは困った顔をすると、隣のバードマンを軽く小突いた。

 

「そんなこと言ってよぉ、お前らも喜んで食べてたじゃないか。なぁシンイチ」

「俺に振るなよ。ちょっと昔を懐かしんでただけだ」

「シンイチってまさか、サワムラ氏の……」

 

 サワムラ氏とイクコさんの子供は二人いると聞いている。

 探索者になって随分(ずいぶん)と昔に家を出た息子と、「旅館鬼瓦」の跡を継いだイクコさんについていき移住先の海都カナンで貿易商社に勤める会社員と結婚した娘の二人だ。

 

「まあ、な……」

 

 シンイチはバツの悪そうな顔をして白髪のざんばら頭をガシガシ()いた。

 

「こいつはこの歳になっても母ちゃんが怖いってさ。今更戻ったところで怒られやしないってのによぉ」

「お前はあの鬼ババアを知らないから言えるんだよ」

 

 どうやら彼は母親が怖くて実家に顔を出していなかったらしい。

 俺はブチ切れたイクコさんの姿を知っているので、何となくその気持ちは分かる。

 

「イクコさんなら結構前に親父さんを置いて海都カナンに引っ越したんだけど、もしかしてシンイチはそのことを聞いていないのか?」

「なん……だと……」

 

 シンイチは口をあんぐりと開けて呆然(ぼうぜん)とした。

 マジで彼は聞いていなかったらしい。

 

「おいアカシア、お前知ってただろ」

「……さあな」

「知ってただろ!」

 

 シンイチは知らんぷりしたアカシアの首根っこを掴んでぶらぶらと振った。

 慣れているのか、アカシアはそれを意にも介していない。

 

「二人ともそのくらいにしておけ。悪いな、騒がしくて」

「別に気にしませんけどね。それで、皆さんはこれからどうするんです?」

「マジックポーションが尽きちゃったんでねぇ、街に帰るよぉ」

 

 どうやら帰る途中に俺を見掛けてちょっと寄り道しただけだったらしい。

 彼らと会う時はこんなんばっかりだな。

 

「後で常闇(とこやみ)砂漠の話でも聞こうと思っていたんだけど、残念」

「まさか、お前達は巨竜で狩りをしてきたのか?」

「まさかって、普通にそうだけど……」

 

 俺の言葉を聞いたディノガルド達は少し驚いた様子だった。

 俺達、また何かやっちゃいました? なんちゃって。

 

「よくあそこで狩りをしようと思うねぇ、特にアーマードサウルスの相手なんて面倒極まりないでしょ」

「腕のいい魔道具職人(クラフター)の作ったいい魔杖(まじょう)があるんでね、楽勝さ」

 

 俺はブレイズノヴァの杖を取り出してドヤ顔した。

 アカシアはシンイチに首根っこを掴まれてぶら下がった状態で俺の愛杖をしげしげと眺めた。

 

「アイリスの作品か。なるほど、道理で……」

「アカシアは作る方はどうなんだ?」

「俺に魔道具職人(クラフター)の才能はない。そしてアルメリアのいる魔道具工房に顔を出すつもりもない……」

 

 彼はそう言うと自身の魔導士(ウィザード)服の胸元を引っ張った。

 その内側にはもちろん、スク水を着て……いない!

 

 アイリスからアルメリアの子供が男女の分け(へだ)てなく強制的にスク水を着せて育てられることを聞いていた俺はすべてを察した。

 

「苦労したんだな……」

「分かってくれるか……!」

 

 彼もまた、アルメリアファームの犠牲者だったのだ……。

 心で通じ合った俺とアカシアがうんうん頷いていると、シンイチがアカシアを地上に降ろして解放した。

 

「腹も減ったし俺達はそろそろ帰ることにする。お前達は鬼の隠れ家亭に泊まっているんだろ? 詳しい話はまた今度、酒を飲みながらしようぜ」

「ああ、もちろん。その時はよろしくな」

「じゃあねぇー」

 

 彼らは俺に別れを告げると、地上に帰る為に巨竜原生林の中へと消えていった。

 俺は鍋を守っていた石の流体を魔力に還元しながらそれを見送ったのだった。

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