マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第123話 ダンジョンでディナー

 常闇(とこやみ)砂漠での探索を終えて街に帰る「竜牙の刃」の皆さんを見送った俺が再び鍋の番をしていると、長湯をしていたアンバーとミュールがようやく戻ってきた。

 

「ふー、スッキリしたわい」

「二人とも、おかえり」

「お湯はそのまま残してあるから、ハルトも早くお風呂に入るといいにゃ」

「そう? じゃあ鍋の番よろしく」

 

 ミュールは調理台の上に乗ったミネストローネスープの入った鉄鍋を見てよだれを垂らした。

 

「美味そうだにゃ~」

「なんだったら先に食べててもいいよ。パンもあるし」

「へへへ……ありがたく頂くにゃ」

「まったく、しょうがないやつじゃのう……」

 

 俺はスープを器によそい始めたミュールを置いて赤褐色の建物へと向かった。

 まあ、アンバーが見ているから食べ尽くされるようなことはないだろう。

 

 建物の中は外から見えないように仕切りがされており、浴室が2部屋あった。

 俺は入口に使用中の看板が置いてある方の浴室に入ると、壁に設置されたスタック銅の棚に脱いだ服を置いた。

 

 脱衣所がないのは恐らく盗難防止の仕組みだろう。

 目の届かない場所に戦利品の詰まったマジックバッグが放置されていたら、つい魔が差してしまうようなこともあるだろうからな。

 

 上級探索者は高給取りとはいえ、その全員の人格までは保証されない。

 だからこの休憩所は常時サブマスターによる監視下にあるし、使用時のルールでもトラブル防止の為に飲酒が禁止されている。

 

 破った場合のペナルティがある辺り、昔の探索者が色々とやらかしたのだろう。

 俺はいつものように手早く身を清めてから、スタック銅製のジャイアントが一人で浸かれるサイズの浴槽に身を沈めた。

 

「ふぅ……」

 

 お湯の中に今日の探索で溜まった1日分の疲れが溶け出していく。

 このまま寝てしまいたいくらいだが、流石にそれはまずいだろう。

 まずいので100まで数を数えることにした。

 

「いーち、にーー、さーーーん」

 

 数えているうちに段々と時間が伸びていったのは仕方がないことだ。

 俺は眠気に対抗しながらなんとか100を数え切ると、湯舟から上がって浴槽のお湯を抜いた。

 

 タオルで身体を拭いて新しい下着を履いた俺は、探索者服に魔力を通してクリーニングしてから元の服を着なおした。

 それから、一つも忘れ物がないことを指差し確認する。

 

「ヨシ、忘れ物なし!」

 

 ダンジョンの中に放置したものは1日もすれば吸収されて消えてしまう。

 掃除の手間が(はぶ)けるから悪いことばかりじゃないけど、無くしたものが帰ってこない方がショックは大きいだろう。

 

 お風呂上がりの俺がホカホカと湯気を上げながら建物の外に出ると、テーブルの前の椅子に座ったアンバーが一人で本を読んでいた。

 ミュールの姿はどこにもなく、テーブルの上には空の器だけが置かれている。

 

「アンバー、ミュールは?」

「ミュールならもう寝たぞ」

 

 早いな、もう食べ終わったのか。

 

「ちゃんと歯磨きはさせた?」

「うむ」

「ならいいか。ちょっと待っててね」

 

 俺は調理台に行くと、フランスパン(風のパン)を切ってフライパンでガーリックトーストを作った。

 ミネストローネスープを器によそって、皿に熱々のガーリックトーストを乗せる。

 

 魔道スキルで作った氷を入れたガラスのコップに瓶からぶどうジュースを注いで、ついでにデザートのオレンジも切り分けて小皿に盛ったら完成だ。

 これはミュールには内緒にしておこう。

 

「アンバー、できたよ」

「おお、待っておったぞ」

 

 本を閉じたアンバーの前に料理を並べると、本日のディナーが始まった。

 席に着いていただきます、と手を合わせてからまずはスプーンでスープを一口。

 うん、いい出来だ。

 

「お主にこのような取り柄があったとはのう。感心したわい」

「練習したからね。アンバーはどう? 故郷にいた時は料理くらいしたでしょ」

「料理なぞ地下で育てた野菜とダンジョンで獲ってきた肉を焼いて食うだけじゃ。じゃからたまーにやってくる行商人から爺さんが貰ってきた菓子に目を輝かせたものじゃわい」

 

 幼少期のアンバーは随分(ずいぶん)(わび)しい食生活を送っていたようである。

 

「それじゃあ一度街に出たら戻りたくもなくなるよな。よくハーフリングの里が過疎化で潰れないもんだ」

「それでもわしらの故郷じゃからな。街に出ていった者もいずれはハイランドアルパカに会いに帰ってくるのじゃ。もちろん、沢山の手土産を持ってのう」

 

 彼女の故郷は雪深い高地でしか飼育できないハイランドアルパカの毛織物を輸出することで成り立っているらしい。

 彼女はアルパカの里の勇者、アンバーだ。

 

「俺達も山ほどのお土産を持って行って驚かせてやろうよ」

「それもいいかもしれんのう。その為にも、わしらは長生きをせねばならんな」

 

 アンバーはガーリックトーストを口に運んで顔を(ほころ)ばせた。

 ガーリックトーストは誰が作っても美味いのだ。

 

「大丈夫、きっと上手くいくさ」

「潜水艇計画じゃったか……面白い計画じゃ。あんなこと普通は考え付かんわい」

「みんな頭が固すぎなんだよ。文明も技術も進歩しているんだから、それに合わせて戦い方も変えるべきだ」

 

 俺はスプーンの先で調理台の横のカマドを指し示した。

 昔は炭を持ち込んであそこを使っていただろうに、今じゃ便利な魔道具で全部済んでしまう。

 

 ……炭火焼きでバーベキュー、アリだな。

 次の狩りまでにクーラーボックスと肉の用意をしておこう。

 俺は心のメモ帳にそう書き記したのだった。

 

 

 俺とアンバーがゆっくりとディナーを楽しんでいる間に、今日の探索を終えた探索者達が続々とこのキャンプ地まで戻ってきた。

 

 彼らは慣れた手つきでテントを設営すると、風呂に向かったり飯の支度を行ったり、あるいはテーブルゲームを始めたりと自由な時間を満喫している。

 

 食後に後片付けや就寝の準備を行いながら少し彼らと話をしたが、どうもみんな常闇(とこやみ)砂漠を狩り場にしているようだ。

 

「俺達はもうレベルが上がりきっているからよ、巨竜でひたすら狩りをするよりもこっちで宝探しをする方が気楽でいいんだ。何しろ砂漠には夢がある」

 

 ボロい椅子に座ってノンアルコールのラベルが貼られた麦ジュースの缶を片手にそう言い放ったのはベテランBランク探索者のハーフリング、バラック氏だった。

 

「実際、どれくらい稼げるんです?」

「そうだな……最高だと1ヵ月粘って3億メルくらいだったか」

「まるで桁が違う……!」

 

 俺が額の違いにビビっていると、彼の隣でチャーハンを作っていたムキムキのヒューマンのおっさんがツッコミを入れた。

 

「おいおい爺さん、それは50年も前の話だろ。何度自慢したら気が済むんだ?」

「そりゃあ死ぬまでさ、ハハハ」

 

 常闇(とこやみ)砂漠はこのアクアマリン迷宮でも一番出現品(ドロップアイテム)の出現率が高い異界だから、一攫千金を狙った上級探索者が集まる人気の狩り場なのだ。

 

常闇(とこやみ)砂漠、どうにか今のパーティーで探索できないかな」

「気になるのは分かるが、わしらには優秀な斥候がおらんからのう」

 

 忍者(ニンジャ)のミュールは斥候もできる前衛職だから特化したステータスを持つハーフリングの斥候(スカウト)に比べると索敵能力は一段も二段も落ちる。

 器用さBと器用さSじゃ探知スキルで調べられる範囲は天地の差だ。

 

「俺達は堅実に魔石で稼ぐしかないか」

「うむ、わしらにはそれが一番じゃ」

 

 まあ、経験値効率を考えると巨竜原生林の方がいいだろうしな。

 魔物の遭遇率もイーラの深層よりは高くないし、ブレードウィングプテラにさえ注意していれば安定して狩りを行えるだろう。

 

 

 話し込んでいるうちに時間もいい頃合いになったので俺達は先に休むことにした。

 ノンアルコール(本当にそうか?)のジュースを片手に飯を食いながら談笑しているおっさん連中の輪から抜け出して、自分達のテントに向かう。

 

 そっと四角いテントの入口を開けると、中ではミュールがはだけた寝袋の中でスヤスヤと寝息を立てていた。

 その枕元には脱いだ靴が転がっている。

 

 アンバーが隣に二人用の寝袋を敷いている間に、俺はテントの(すみ)に段ボール箱サイズの結界魔道具を置いて起動した。

 するとテントの外側に青い半透明の障壁が展開される。

 

 これは主にアウトドアで使われる虫や弱い魔獣の侵入を防ぐ為の魔道具だから、障壁自体に大した防御力はない。

 

 その代わり外的要因で障壁が割れると大きな警報が鳴るので、こういった場所ではよく使われるのだ。

 探索中の事故で急いで助けが必要な時は障壁を叩き割って起こしたりするらしい。

 

「(ハルト、終わったぞ)」

 

 アンバーが寝袋を敷き終わったので俺が入口を閉じると、そこそこ広いテントの中が暗い闇に(おお)われた。

 俺は手探りでそっと移動して、寝袋の中に身体を潜り込ませる。

 

「(おやすみ、アンバー)」

「(おやすみなのじゃ)」

 

 アンバーと手を繋いでぎゅっと目を(つむ)ると、俺の意識はあっという間に闇の中に沈んでいった。

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