マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第125話 アンバーの誕生日(前編)

 初めての四層遠征から1ヵ月と少しが過ぎたある日の朝、俺とアンバーが新調したお出かけ用の服を身に(まと)って宿の1階で朝食を取っていると、ランドセルを背負って横を通りかかったモモちゃんが尋ねてきた。

 

「お兄ちゃん、今日はなんだか嬉しそうだね!」

「今日はアンバーの誕生日なんだ。だから俺達はこれからデートに行くんだよ」

「へー、お姉ちゃんは何歳になったの?」

「21歳じゃ。わしは誕生日を祝う必要などないと思うておるのじゃが、こやつはまるで聞いてくれぬでのう」

 

 この世界の住人は誕生日を祝う習慣がないんだよな。

 盛大にお祝いをするのは15歳になって成人した日くらいだ。

 長命種が多いせいか、歳を重ねることに意味を見い出していないのかもしれない。

 

「ただのデートの口実(こうじつ)なんだから、そんなに気にしないでくれよ」

「またそう言って……お主の魂胆(こんたん)など見え見えじゃぞ」

「へへへ……」

 

 俺は笑ってごまかしたが、実のところ今夜はホテルの予約を取ってある。

 来年の恋人記念日が迎えられるか分からないんだから、それくらい許して欲しい。

 

「ふーん、じゃあモモは学校行ってくるね!」

「いってらっしゃい、モモちゃん」

「モモよ、車には気を付けるのじゃぞ」

「はーい!」

 

 元気よく返事をしたモモちゃんは足早(あしばや)に宿を出ていった。

 いいね、子供は元気が一番だ。

 

「誕生日と言えば、モモちゃんももう7歳になったんだよな」

 

 そのことは後になって知ったので、俺は彼女に小さめのミノリューのぬいぐるみをプレゼントした。

 モモちゃんはまあまあ喜んでくれた。

 

「そうじゃのう。……シンイチがここに住むようになってからというもの、モモはまた一段と明るくなった。やはり彼女は家族の愛情に飢えておったようじゃな」

「本当は海都カナンで両親と一緒に過ごした方がいいんだろうけど、そうすると今度は新しくできた友達と別れることになる。難しい話だ」

 

 もしその時がきたら、モモちゃんはどちらを選択するのだろうか。

 

 サクラさんとヒロキさんには悪いけど、俺はここに残って欲しいと思っている。

 それは俺だけじゃなく、鬼の隠れ家亭の常連なら誰しもがそう思うことだろう。

 だって、モモちゃんはこの鬼の隠れ家亭の看板娘なのだから。

 

 

 モモちゃんのことはさておき、朝食を済ませた俺達はお出かけすることにした。

 これから俺達が向かうのはアクアマリン市の南東にあるこん棒ミュージアムだ。

 

 バイクに乗って大通りを少し走ると、あっという間に巨大な建物が立ち並ぶジャイアント街に入った。

 

 その中心地にはジャイアント・ホールディングスの本社ビルが高くそびえ立っている。

 正直なところスケールではティアラキングダム支社の方が上なのだが、こっちは向こうよりも(はる)かに豪華な外装をしていた。

 

 ちなみにこの辺りはジャイアント・ホールディングスの関連企業が集まっていて、社員やその家族が快適に過ごせるような街作りがされているそうだ。

 

 道行く人々の多くは身の丈4mはあるジャイアントで、視界に入るあらゆるものがジャイアントサイズ。

 まるで自分が小人になってしまったかのような錯覚を覚える街並みである。

 

 俺はそんなジャイアント街の大通りをゆっくりとバイクで走り、ジャイアントサイズの図書館の隣にあるジャイアントサイズの美術館までやってきた。

 ここが本日の目的地のこん棒ミュージアムである。

 

 この美術館の外観は蛮族風の武骨なデザインをしている。

 これはガゴリウス氏が故郷で住んでいた建物を模したものだという。

 

 でもガゴリウス氏って西大陸で一大勢力を誇るジャイアント氏族の首長の息子だし、こんな文明レベルの低い家に住んでいたわけがないと思うのだが。

 ……気にしたら負けか。

 

「ここにくるのも久しぶりじゃのう」

「俺も前々から気になってはいたんだよね。どうなっているのか見るのが楽しみだ」

「むふふ……今会いに行くぞ、くろがね丸」

 

 俺達は早速こん棒ミュージアムに入ると人間サイズの受付で入館の手続きをした。

 ちなみにこん棒愛好倶楽部の名誉会員であるアンバーは顔パスだ。

 

 ここはジャイアント・ホールディングの創始者であり、こん棒愛好倶楽部の会長でもあるガゴリウス氏のこん棒コレクションが展示されている美術館だ。

 

 分厚い耐魔ガラスに守られた古今(ここん)東西の珍しい木材や金属を使った巨大なこん棒がその来歴の書かれたジャイアントサイズのプレートと一緒に至る所に飾られている。

 

 こん棒しか展示されていないニッチな美術館だから普通に()いていると思っていたのだが、平日の昼間だというのに結構な入館者がいるようだ。

 

 旗を持って美術館の案内をしているガイドがいる様子を見ると、どうもこのこん棒ミュージアムが観光ツアーのプログラムに含まれているように見える。

 ここは入館料も安いし、旅先で非日常を味わうにはお手頃な場所なのだろう。

 

 俺がそんな感じのことを考察していると、急にアンバーに腕を引っ張られた。

 

「ハルト、こっちじゃこっち!」

「急にどうしたの?」

「ほれ、見てみい!」

 

 アンバーの指差した先、美術館の一角に設けられた特設コーナーにギガンティックタイタンとライトニングエレメンタルの模型と一緒にアンバーの相棒だったブラックゴルドパイン材で作られた黒光りするこん棒、くろがね丸は展示されていた。

 

 アンバーは俺の手を引いてくろがね丸の収まったガラスケースに近付くと、ガラスケース越しにくろがね丸を()でた。

 

「見よ、くろがね丸じゃ。ああ、こんなに美人さんになって……良かったのぉ~」

 

 フライスが言っていたが、真っ二つに折れたこのくろがね丸の修復には丸々2ヶ月もの月日が掛かったそうだ。

 

 それだけの手間が掛かっているだけあって、くろがね丸はまるで新品のように黒光りしている。

 

「良かったな、アンバー」

「うむ……」

 

 じっとくろがね丸を見つめる彼女には俺の言葉がまるで聞こえていないようだ。

 まあいい、今日はアンバーの日なんだからいくらでも付き合ってあげよう。

 

 

 それから彼女は展示されているこん棒を一つ一つ、じっくりと鑑賞していった。

 アンバーはここに何度もきているはずなのに、随分(ずいぶん)と楽しそうである。

 やっぱりデート効果かな?

 

「見よ、世界で2番目に硬い金属のゴロニウムを使ったこん棒じゃ。こやつならアーマードサウルスも倒せるじゃろうか。ええのう、欲しいのう……」

 

 アンバーが指差したのは鮮やかな赤銀色をした大きなこん棒だった。

 プレートの解説を読むと、過去に月光教の聖人によって討伐されたAランク迷宮トウジョウから産出された希少なゴロニウムを使った合金製のようだ。

 

「またガゴリウス氏に貸して貰えるようにお願いしたら?」

「……もうした」

「そっか、しちゃったか……」

 

 流石にこん棒愛好倶楽部の名誉会員と言えど二度目は無かったらしい。

 俺はしょんぼりするアンバーをよしよしした後、こん棒コレクションの鑑賞を再開したのだった。

 

 

 美術館デートをひとしきり楽しんだ俺達は、お昼の時間になったのでランチを食べに行くことにした。

 

 ジャイアント街はジャイアント以外お断りのドカ盛り飲食店ばかりがあるので、俺達みたいな一般人は「みるだむ アクアマリン」に載っている観光客向けのサービスを行っている飲食店に足を運ぶことになる。

 

 いくつか候補はあったものの、今回俺達がチョイスしたのは老舗のラーメン屋「モーニング二郎 本店」だ。

 

 俺達がモーニングスターの看板が目印のジャイアントサイズの店の前に降り立つと、ぷーんとラーメン屋特有の美味そうな匂いが漂ってきた。

 人気の店だけあって店の外まで客の行列ができているようだ。

 

「おお、これは空きっ腹には厳しい香りじゃ……」

「我慢、我慢だ……」

 

 行列に並んで待つこと30分、ようやく入店した俺達はカウンター席に座りこの店の看板メニューである「モーニングラーメン」の並と小を注文した。

 

 ギルドカードで料金を支払うと(この店はギルドカード決済オンリーだ)、黒Tシャツを着たジャイアントの店員が湯気の立つ大鍋に麺の入ったザルを投入する。

 

 調理場の奥の高い位置に座っている黒Tシャツを着たエルフが指を振るうと、大鍋が青く光り一瞬で麺が()で上がった。

 

 黒Tシャツを着たジャイアントの店員が慣れた手つきでスープと麺を入れた器にトッピングをすると、注文から1分も経たずに完成したラーメンを俺達の前に置いた。

 

「モーニングラーメン並、小、お待たせしました!」

「では早速、頂くとするかのう」

「頂きまーす」

 

 野菜が山ほどトッピングされたラーメンの上には、でかいモーニングフロッグ肉のチャーシューが山ほど乗せられている。

 これは食べごたえがありそうだ。

 

 レンゲを沈めてすくった熱々のスープをゴクリと飲むと、モーニングフロッグの舌を長時間煮込んで取った出汁の旨味が口の中に広がった。

 醤油をベースに鳥ガラの風味が嬉しい濃厚なスープだ。

 

 お次は箸で太いちぢれ麺を引っ張り出して勢いよく(すす)る。

 野菜とチャーシューをスープに潜らせて口いっぱいに頬張れば、もう止まらない。

 俺達は火傷も気にせず、あっという間にモーニングラーメンを平らげた。

 

 食べ終わったらすぐに退店するのがこういった店のマナーだ。

 俺とアンバーは空の器を置いて席を立ち、すぐに店の外に出た。

 

「モーニングラーメン、美味かったのう……」

「そうだね、これはリピート確定だ」

「うむ、今度はミュールも一緒に連れてくるとしよう」

 

 二人で並んでジャイアント街の広い歩道を歩きながら、俺は満足そうにポッコリとしたお腹を抱えるアンバーの姿を見てイケない興奮を覚えたのだった。

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