マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第127話 始動、そして……

 今年も終わりに近付いてきたその日、前日にアイリスの開発していたプロテクション専用DCS(器用さ補正システム)装置が完成したという連絡を受けた俺は、遠征から帰った翌日の朝も早くから魔道具工房バタフライを訪ねた。

 

 俺がCLOSEの板が下げられた扉の横にある箱を開けてインターホン代わりのベルを鳴らすと、少ししてからガチャリと扉が開いて中からアイリスが顔を覗かせた。

 

「ハルトくん、おっはよー」

「聞いたよ、DCS装置が完成したんだって?」

「うん。地下に置いてあるよー」

「どれ、ちょっと見せて貰おうか」

 

 まあ作業中に何度も顔を出しているので大体のことは知っているのだが、組み上がった完成品を見るのは初めてだ。

 

 俺は早速、アイリスと一緒に魔道具工房の奥にある階段を降りて地下にある魔杖(まじょう)の試射場へと向かった。

 

 アイリスが壁のスイッチをパチパチと入れて地下の明かりを付けると、プロテクション専用DCS装置、その全貌が露わになった。

 

 見た目は3mほどの黒い金属の立方体で、その箱の外側に引かれたメカメカしい翡翠色の文様がぼんやりと発光している。

 まるでSF漫画に出てきそうなデザインをしたブラックボックスだ。

 

「術式を組むのは簡単だったけど、最適化には結構な時間が掛かっちゃったねー」

 

 この黒い金属の箱の中には術式の書き込まれた魔道回路が収まっている。

 こういった大型魔道具に使われる魔道回路は精密機器なので、ダンジョンに持ち込むならきっちりと衝撃対策をしないといけないのだ。

 

「試しに使ってみていい?」

「適当な魔道線の上に手を添えて、プロテクションを発動するようにイメージして。そうしたら大丈夫なはずだから」

 

 俺は翡翠色の魔道線に手を添えて、心の中でプロテクションと唱えた。

 すると大量の魔力が抜ける感覚とともに、箱の周囲に直径10mほどの青い半透明の障壁が展開された。

 

 10秒、20秒、30秒—―本来であればすぐに切れるはずの俺のプロテクションが、ずっと持続している!

 

「アイリス、お前は天才だ!」

「それほどでもあるよー。えへへ……」

 

 嬉しくなった俺がついアイリスに抱き着くと、彼女は満更でもないような顔をして褐色の頬を赤らめた。

 

「もう、駄目だよハルトくん。浮気しちゃー」

「おっと、ごめんアイリス。このことはアンバーには黙っていておくれ……」

 

 正気に戻った俺はすぐにアイリスから離れた。

 浮気がバレたらアンバーにお仕置きされちゃう。

 

「もちろんだよ。わたし達は秘密の関係だもんねー?」

「秘密にするようなことなんて何一つないだろ、ボッチちゃん」

「ボッチで結構でーす」

 

 アイリスは早熟なせいか、アクアマリンに住むエルフが集まる魔道具職人(クラフター)組合主催の寄り合いでも浮いていたらしい。

 

 現実離れした発想とそれを現実のものにする能力を兼ね備えた天才魔道具職人(クラフター)の彼女には、どうも他の子供達のやっていることがお遊戯にしか見えていなかったようだ。

 

 エルフ社会でボッチを極めたアイリスは社交性を放り捨てて家に引きこもり、さらに自分の中に埋没するようになっていった。

 

 だからこのまま魔道具工房を継がせても長くは続かないと思ったアルメリアは、アイリスをネフライトの魔道学院に留学させることを考えていた。

 

 実際にアイリスが書いた論文は向こうでもそれなりに評価はされているようで、彼女が魔道学院の受験資格を手に入れるのも時間の問題なのだとか。

 

 俺としては彼女がアクアマリンから居なくなってしまうのは寂しいが、勉強は若いうちじゃないとできないし、その時がきたら喜んで送り出してやろうと思っている。

 

「それはさておき、このバリアはいつまで持続するんだ?」

 

 俺がアイリスと遊んでいる間にもプロテクションは発動したままだった。

 

「再三繰り返したテストでは1時間は確実に持ったよ。だからハルトくんが起点の外に出るか解除するまでは、このままずっと展開を続けられるねー」

 

 プロテクションのサイズが大きいから一度の発動でかなりの魔力を消耗するが、レベル40を越えた俺の魔力なら半日は確実に展開できるはずだ。

 それはアクアマリンの五層を往復するには十分な時間だ。

 

「これならイケるな。ありがとう、アイリス」

「ハルトくん、すぐにフライスさんのところに持って行く?」

「ああ、当然だ」

 

 アンバーを説得してかいおう丸を預かった俺は、フライス達とともにかいおう丸から抽出して養殖したシーニウムを使った潜水艇の建造を進めていた。

 

 失われたアンバーのかいおう丸もフライスがちゃんと作り直した。

 残る材料はただ一つ、このアクアマリン迷宮の宝珠だけだ。

 

「じゃあ装具に入れちゃうねー」

 

 アイリスが壁際の棚から取り出した腕輪型装具にDCS装置を登録して収納した。

 こういう大物を運ぶ時はマジックバッグに入れるよりも装具に入れた方が安全だ。

 俺はアイリスから受け取った腕輪を左腕に()めた。

 

「遅くとも明日にはギルドの会議室にエクレアを呼び出して作戦会議をするつもりだ。アイリスも見にくるか?」

「もっちろーん! ママも一緒に連れていっちゃうよーん」

「分かった。じゃあ時間が決まったら連絡するよ」

 

 俺はこれから後片付けをするというアイリスを地下室に置いて長い階段を上がると無人の店内を抜けてそのまま魔道具工房の外に出た。

 

 ガチャリと音を立ててオートロックが掛かったのを確認した俺は、人魚通り商店街から出ると装具から取り出したバイクに(またが)った。

 

 

 朝の街でブゥーンとバイクを走らせて、やってきたのはフライス整備工場。

 

 普段はドワーフ達が車やバイクの整備を行っているこの広い車検場の一角を大きく使って建造されているのは、10mもの長さを誇る巨大な蒼銀色の潜水艇だ。

 

 この潜水艇は席が4つある屋根のない小型クルーザーのような見た目をしていて、船の後方には巨大な大砲が備え付けられている。

 ハイパーマナバースト、こいつでギガロドンに一発ぶちかましてやろう。

 

 天井から複数のクレーンで吊り下げられている潜水艇の周囲には、何人ものドワーフ達が集まって朝から作業を行っていた。

 

 その近くにある休憩所には、アンバーとミュールの姿があった。

 彼女達はボロい椅子に座ってフライスとレクナムを相手に何やら話をしている。

 

「噂をすれば、やってきたようじゃな」

「おはようございます、ハルトさん!」

「おはようレクナム、それにフライス」

「ハルト、DCS装置はどこにある」

「そいつならここに入ってるよ、ほら」

 

 俺は左腕に()めた腕輪を取り外してフライスに差し出した。

 フライスは受け取った装具を床に敷かれた低い大きな台に向けると、その上に3m四方のブラックボックスが姿を現した。

 

「でっかいにゃー」

 

 ドライイツカデーツの袋を抱えたミュールがDCS装置を見上げて(つぶや)いていると、その隣に立って装置の出来を確かめたフライスが俺に尋ねてきた。

 

「ハルト、こいつはもう試したか?」

「さっきちょっとだけね。アイリスの話では1時間は確実に持続するそうだ」

「ほう、それは素晴らしい性能じゃ。これならばきっと上手くいくじゃろう」

「俺はアイリスの腕を信じている。命を預ける価値はあるだろうさ」

 

 フライスはDCS装置の載った大きな台を押して潜水艇の近くまで移動させた。

 それを見て、作業を行っていたドワーフ達が潜水艇の側面の装甲を開いた。

 

 潜水艇の中にぽっかりと開いた四角い空間に、フライスが念動スキルで浮かせたDCS装置はピタリと綺麗に(はま)り込んだ。

 ドワーフ達が側面の装甲を閉じたのを確認したフライスは俺達の方に振り返る。

 

「少し試してみよう。レクナム、やってみろ」

「私でいいんですか?」

「ハルトを高所に移動させる方が不安だ」

 

 俺のステータス、魔力以外オールEだもんね……。

 うっかり転んで転落死でもしちゃったらすべての計画がおじゃんである。

 

「そうですか、では……」

 

 レクナムは潜水艇の側面にあった高所作業用の動かせる金属製の階段を(のぼ)って潜水艇の助手席に座った。

 

「プロテクション」

 

 彼がそう唱えると、潜水艇の周囲に青い半透明の障壁が展開された。

 助手席にはDCS装置に繋がる魔道線が引かれていて、座るだけで器用さ補正を受けられるのだ。

 

 DCS装置にはもっと他に何か使い道があるんじゃないかと思わないでもないが、若き天才魔道具職人(クラフター)アイリスがFCS(射撃統制システム)の術式を改変して作ったDCS(器用さ補正システム)の術式を削りに削ってプロテクションに最適化してあのサイズなので現状では難しいだろう。

 

「問題ないようだな。もう解除していいぞ!」

「はい!」

 

 プロテクションを解除したレクナムは潜水艇の上から降りてきた。

 そして彼はすぐに俺の方に詰め寄せてくる。

 

「以前から話は聞いていましたが、実際に体感するとその違いに驚きました。ハルトさん、やはりこれは凄い発明ですよ!」

「そうだろう、そうだろう」

 

 俺の専属魔道具職人(クラフター)の褐色スク水ダークエルフは天才だ。

 

「プロテクション専用DCS装置の元になったDCSの術式はアイリスさんが設計したんですよね? すぐにでも魔道学院に送って特許を取りましょう!」

「FCSの術式を改変しただけなのに、本当に大丈夫なのか?」

「術式の基幹から見てもまるで別物です。まず確実に受理されるでしょう」

「分かった。後でアイリスに伝えておくよ」

 

 専門家の言うことには従っておくのが一番だ。

 後は他の誰かが使い道を考えるだろう。

 納得した俺がうんうんと頷いていると、フライスが俺の背中を叩いた。

 

「これで一番の心配事は解決したな。後のことは儂らに任せてくれ」

「うむ、頼んだぞフライス」

「フライス、潜水艇はいつできる?」

「3日くれ、完璧に仕上げておこう」

 

 出たな、フライスの3日くれ。

 俺はずっとこの言葉が聞きたかったんだ。

 

「これなら年明けには間に合うか。残る問題はエクレアだけど――」

 

 俺がこれからの予定を話そうと口を開いたその時、遠くの空からゴーン……ゴーン……という鐘の音が聞こえてきた。

 

 アクアマリン市の東の郊外にあるこの場所まで届いたその音色はまさしく、探索者ギルドの屋上にある鐘楼(しょうろう)から発せられたものだ。

 

「ついにこの時がきてしまったか……」

 

 アンバーがそう、小さく(つぶや)いた。

 整備工場から出た俺達は探索者ギルドの方角を向くと、静かに黙祷(もくとう)を捧げた。

 

 前人未踏のダンジョンを踏破して、何もない荒野に(いち)からこのアクアマリン市を創り上げた偉大なマーメイドのダンジョンマスター。

 プリメラ・アクアマリンが、亡くなった。

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