マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第128話 ダンジョン葬

 俺達はフライスの運転する小型バスに乗り、探索者ギルドを目指していた。

 

「フライス、本当に仕事を放り出してきてよかったのか?」

「ああ、こんな日だ。最後の別れをしなければ仕事もろくに手に付かんだろう」

 

 訃報を聞いてすぐに整備工場を閉めたフライスは、ドワーフの工員を含めた全員を裏のガレージから持ってきた小型バスに乗せた。

 俺達はバイクがあるから別でいいと言ったのだが、彼は聞いてくれなかった。

 

「正午にはギルド前の公園でプリメラの葬儀が行われるはずじゃ」

「それが終わったらすぐにでもエクレアに計画の話をしよう」

「忙しいとは思うが、この街の未来に関わる重要事じゃからのう。新しく就任した行政の長が数日で居なくなるかもしれんと思うと、流石に市民に黙ってダンジョンに連れて行くわけにもいかん。メディアを使って広く周知する必要があるじゃろう」

 

 次期ダンジョンマスターとダンジョンマスター代理ではその立場が大きく異なる。

 プリメラさんが亡くなってエクレアが正式に行政の長になった以上、今までのように自由に外に遊びに行ったりダンジョンに潜ったりなどの振る舞いはできないのだ。

 

 迷宮塔イーラの実権を握ったギザードも今頃は、SPに囲われて窮屈(きゅうくつ)な生活を送っていることだろう。

 

「噂を聞いたオーブリーがカナンから取材にやってきたりしてな」

「アイツなら絶対くるにゃ。1万メル賭けてもいいにゃ」

「だったら俺もくる方に賭けるから勝負にならないよ」

「むむむ、勝ったらイナバの高級猫缶でも買おうと思ってたんだけどにゃ」

「それ、美味いの?」

「天にも昇る美味さと聞いたことがあるにゃ」

「なんだ、食べたことないんだ」

「あちしはご飯のありがたみを知っているから贅沢(ぜいたく)はしないのにゃ」

「高給取りの癖に変なところで貧乏性だな……」

 

 俺達が前の方の席でつまらない話をしていると、フライスの運転する小型バスは探索者ギルドの横にある大駐車場に止まった。

 

「お前達はアルメリアとサワムラを拾ってきてくれ。儂は今のうちに場所を確保しておく」

「じゃあ俺はまた工房に行ってくるよ」

「ならばわしとミュールが宿か。合流はどこでするのじゃ?」

「そうだな、天使の石像の前にレクナムを立たせておこう」

「フライスさん、私を便利に使い過ぎじゃないですか?」

「ドワーフの儂では人混みに紛れたら分からんだろう。適材適所だ」

「言われてみればそうですね!」

 

 レクナムも納得したようなので、俺達は早速行動に移すことにした。

 

 

 俺が急ぎ足で人魚通り商店街の奥にある魔道具工房に行くと、丁度アルメリアがアイリスを連れて店を出るところだった。

 

「よかった、すれ違いにならなくて」

「あ、ハルトくん。戻ってきたんだー」

「もしかして、フライスにわたくし達を呼んできてくれって頼まれたのかしら?」

「アルメリアさん、よく分かりましたね……」

「長い付き合いですもの、それくらい言われなくても分かりますわ」

 

 アルメリアさんは褐色のほっぺを手で伸ばして不機嫌そうな顔をしているフライスの顔真似をした。

 に、似ている……。

 

「フライスさんにDCS装置は渡したんでしょ。どうだった?」

「そりゃあもう、完璧に(はま)ったよ。ナイス設計」

「やったー!」

 

 俺はぴょんとジャンプして喜んだアイリスとハイタッチした。

 それから商店街を歩きながら、彼女にレクナムから聞いた話を伝える。

 

「特許かー、考えもしなかったなー」

「実際どうなんだ、行けそう?」

「資料は全部残してあるけど、使い物になるレベルじゃないかなー。やるなら最低でも1年は掛かりそう」

「そんなもんか。まあ別に急ぐようなことでもないから、将来の可能性の一つとして考えておいたらいいんじゃないかな」

「うん、そうするよー」

 

 俺の隣を歩いているアイリスは後ろ手に手を組んで、にこりと微笑んだ。

 

「あらあら、うふふ……」

 

 その様子をアルメリアさんは怪しげな笑みを浮かべながら眺めていた。

 

 

 俺は二人を連れて探索者ギルド前の公園に戻ってきたわけだが、公園は既に多くの人で(あふ)れていた。

 

 そんな中、ギルド本部の腕章を付けた職員達が公園内にロープパーテーションを設置して通路を確保したり、正面道路を封鎖したりして葬儀の準備を行っている。

 

 今日は平日だから子供は学校があるからいいものの、そうじゃなかったらもっと大変なことになっていただろうな。

 

「ハルトさん! こちらです!」

 

 人混みの向こうから背伸びをして大きく手を振っているのはレクナムだ。

 言われなくても分かるけどね、目印の天使の像があるし。

 

 あれ、本当にアザゼルの魔道スキルで石化した天使なんだろうか。

 みんな普通に受け入れているみたいだけど、異世界人の俺としてはちょっとしたホラーである。

 

 それさておき、離れた場所に二人を待たせた俺は人混みを()き分けてレクナムの方に向かった。

 

「レクナム、アンバー達はもう戻ってきた?」

「はい、先ほどサワムラさんを連れてこちらに」

「分かった。俺達をみんなのところに案内してくれるか」

「ええ、私もこれでようやく自由になれます……」

 

 目印の役割を終えて黄昏(たそがれ)ているレクナムと一緒に人混みから戻った俺は、二人のスク水ダークエルフを連れて公園の奥へと進んだ。

 

 噴水広場の脇を抜けて舗装された道を進むと、公園の一角にある大きな野外ステージまで辿り着いた。

 

「あそこです!」

 

 レクナムが指差したのは、野外ステージの舞台のすぐ目の前だった。

 そこで絨毯(じゅうたん)を敷いて場所取りをしているフライス達の姿は見つかった。

 ……これ、レクナムを置いておく必要あった?

 

「みんな、お待たせ」

「おお、二人とも無事に合流できて何よりじゃ」

「フライス、場所取りしてくれてありがとう。本当に助かるわぁ」

「なに、ただのついでだ。なあサワムラ」

「俺は別にこなくても良かったんだがな。呼ばれてしまっては仕方ない」

 

 親父さんは割り切りのいいタイプだからなぁ。

 長いこと酒場を経営しているから顔見知りが亡くなるのも慣れているのだろう。

 

「すごい人で目が回っちゃいそうだよー」

 

 俺は月1のフリーマーケットによくくるからあんまり気にならなかったけど、引きこもりのアイリスには刺激の強い場所だったようだ。

 人酔いしたアイリスはアルメリアさんにぎゅっと抱き着いていた。

 

 

 それから1時間もしないうちに、プリメラさんの告別式は始まった。

 再び鳴り響いたゴーン……ゴーン……という鐘の音とともに、プリメラさんの入った(ひつぎ)を乗せたホバー型の霊柩車(れいきゅうしゃ)は探索者ギルドから出発した。

 

 霊柩車(れいきゅうしゃ)を囲むように飛んでいるのは、探索者ギルドアクアマリン支部を束ねる二人の天使と探索者ギルドの代表であるポッドに乗った二人のマーメイドだ。

 

 彼女達はゆっくりと紐とパーテーションで仕切られた道を進み、野外ステージの舞台に並んだ。

 

 そして蓋の開かれたスタック銅の(ひつぎ)の中で眠るプリメラさんへと、舞台に上がった関係者が一人ずつ献花していった。

 

 俺とアンバーもそのうちの一人だった。

 俺は花に埋もれて愛槍を抱いて眠るプリメラさんに短い祈りを捧げた。

 

 

 小一時間ほどで告別式が終わると、蓋をされた(ひつぎ)を乗せた霊柩車(れいきゅうしゃ)は再び探索者ギルドへと戻っていった。

 

 これから(ひつぎ)はダンジョン内広場の一角にある慰霊碑の前に安置されることになる。

 墓守の天使が見守る中、遺族の代表であるナナミさんは(ひつぎ)がダンジョンに吸収されて消えるまでの半日間、ずっとそばで待機して見届けるのだ。

 

 普通は人が亡くなってもこのような盛大な式典を送るようなことはない。

 ちゃちゃっと生家(せいけ)や病院で告別式をして、人通りの少ない夜中にダンジョンに運んで(ひつぎ)の消滅を待つだけだ。

 

 この式典も本来は新たなダンジョンマスターの顔見せとして行うものだった。

 しかし長い間隔を置いて鳴らされた鐘の音はダンジョンマスターの不在を表すもので、それは否応(いやおう)なしにこの迷宮都市の終わりをアクアマリン市民達に認識させた。

 

 彼らはそれにパニックを起こすこともなく、ただ静かに受け取った。

 きっとみんな諦めているのだろう。

 このダンジョンが再び踏破されることなどないのだと。

 

 でも俺達は違う。

 この街を愛して、この街の未来を求めていまだに足掻(あが)いている。

 俺達は絶対にこの潜水艇計画を成就させてみせる。

 

 その為に長い時間を掛けて準備をしてきたんだ。

 だから何も心配せず安らかに眠って欲しい。

 プリメラさん。

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