マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第130話 月光歴2525年の終わりに

 その日、俺達は朝も早くから探索者服を身に(まと)って宿の出口に立っていた。

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん……頑張ってね!」

「宴会の準備をしておこう。お前さん達が無事に帰ってくると信じているからな」

 

 旅立つ三人を見送るのは、鬼の隠れ家亭の店主と看板娘だ。

 

「山ほどのご馳走を楽しみにしているにゃ!」

「今度は貸し切る必要はないからのう。テーブルを一つだけ取っておいてくれるか」

「そうか? 分かった、そうしよう」

 

 無事に成功したとして、ダンジョンマスターに成り立てのエクレアを不用意に外へ連れ出すのも良くないだろうからな。

 大事な人柱(ひとばしら)さんにはしばらく探索者ギルドで手厚く守られていて欲しいのだ。

 

「じゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい!」

 

 二人に別れを告げた俺達は宿を出て探索者ギルドに向かった。

 

 探索者ギルドの前には人だかりができており、俺達がバイクから降りるとその人だかりの間に波が割れるかのように道が作られた。

 その道のど真ん中を悠々(ゆうゆう)と歩く俺達に、次々と激励(げきれい)の言葉が掛けられる。

 

「アンバーさん、頑張って!」

「姉貴ー! 俺達のアクアマリンを救ってくれー!」

「あの男が賢者(ウォーロック)ハルト・ミズノか……本物は微妙な顔をしているな」

 

 最後の一言は余計だ。

 できることならジョニー・デッ〇似のイケメンと呼んで欲しいものである。

 まあ、この世界でジョニーと言えばイグ〇ーツのことなんだけどな!

 

「ミュール、お主は随分(ずいぶん)(した)われておるようじゃのう」

 

 お手製の横断幕を持って集まった若い走り屋達を見たアンバーがミュールにそう言うと、ミュールは指で鼻の下を(こす)って照れた。

 

「へへん、あちしの自慢の舎弟(しゃてい)達にゃ」

 

 ミュールはおっちょこちょいでせっかちなやつだが、人望だけはあるようだ。

 これもまた、彼女の人徳(じんとく)のなせる(わざ)だろう。

 

 人だかりを抜けた俺達はゆっくりと探索者ギルドのロビーを歩いた。

 早朝だというのに、ロビーには探索者の姿がまるで見えなかった。

 

 それも当然、今日は大晦日(おおみそか)なのだ。

 年の暮れまで仕事をする探索者なんてそうはいない。

 俺達がこの日を選んだのもそういう理由だ。

 

 ロビーを抜けた俺達は石畳に舗装された道を歩き、ゲート前広場までやってきた。

 ダンジョンゲートの前で二人の人魚の守り人とともに(たたず)んでいるのは、この街のダンジョンマスター代理、エクレア・アクアマリンだ。

 

 エクレア・アクアマリン 39歳 ランクA 槍聖(ハルバーディア) Lv94

 魔力S 筋力C 生命力C 素早さA 器用さC

 

 これが以前、彼女から見せて貰ったステータスだ。

 マーメイドの素早さが適応されるのは水中限定。

 今回は五層攻略の主戦力として、その力を存分に振るって貰いたい。

 

「やっときたわね。待っていたわよ」

 

 彼女はいつものように白い金魚鉢型のポッドに乗っているが、いつものビキニの上にヒラヒラが付いた羽衣のような衣装を身に(まと)っていた。

 どうやら気合いは十分なようだ。

 

「気が早いな。時間はたっぷりあるんだから、ゆっくり行こうぜ」

「アンタね……」

 

 エクレアは(あき)れてものも言えないようであった。

 

「『こん棒愛好会』の皆様、エクレア様のことを頼みましたよ」

「ちゃんと全員、生きて帰ってきなさーい」

「うむ、わしらに任せるがよい。万事(ばんじ)すべて上手く行くじゃろう」

 

 心配する守り人の二人に、アンバーがささやかな胸を張って返事をした。

 

「じゃあ行くか。エクレア、遅れるなよ?」

「アタシを誰だと思っているのよ」

「そりゃあ、ズルばっかりしてまともにダンジョンに潜っていない人魚さんさ」

 

 そんな軽口を叩きながら、俺達はいつものようにダンジョンゲートに飛び込んだ。

 

 

 アクアマリンはイーラとは違って慣れた道だ。

 俺達はあっという間に三層の精霊樹海の前まで辿り着いた。

 

「ようお前ら、待ってたぜ」

 

 精霊樹海の前の休憩所で俺達を待っていたのは「竜牙の刃」の面々だった。

 

「今日は頼んだよ」

「もちろんだ。大船に乗ったつもりで任せてくれ」

 

 彼らが常闇(とこやみ)砂漠の道先案内人として、俺達を五層へ続くゲートまで案内してくれるのだ。

 

「プロテクション。さあ行こうか」

 

 俺達はアカシアが展開した広範囲のバリアに守られながら精霊樹海へと侵入した。

 3色のエレメンタルが(あふ)れる曲がりくねった木の生えた森を進んで次のゲートに飛び込むと、シダ植物の生い茂る森が目前に広がる。

 

「ここはオレの出番だよぉ」

 

 バサリと飛び上がったグリスが空から獣道の場所を確かめると、ブレードウィングプテラを誘導して木々を切り倒し道を作った。

 

 役割を終えたブレードウィングプテラはアカシアの展開していたプロテクションに衝突して墜落した後、シンイチの大剣で一刀両断された。

 

 ジャイアントギガサウルスの作った獣道を歩く俺達に襲い掛かってくるホッピングラプトルの群れは、先頭を行くディノガルドが挑発スキルでヘイトを取っている間に他のメンバーが手際よく倒した。

 

 そして途中で現れたアーマードサウルスは……。

 

「わしのひひいろ丸で一撃じゃー!」

 

 シュバッと飛び出したアンバーが抜き打ちした深紅の巨大バット、ひひいろ丸によってその鋼鉄よりも硬い脳天を陥没させた状態で倒れたのだった。

 

 少しずつ消滅していくアーマードサウルスのへこんだ脳天をディノガルドとシンイチがしげしげと眺める。

 

「話には聞いていたが、とんでもない威力だな」

(うらや)ましいぜ、俺もフライスに作って貰おうかな」

「スタック銅合金でゴロニウムを()やすのにはかなりの魔力が必要だから、年単位は覚悟しておいたほうがいいよ」

 

 俺のバカみたいに多い魔力ですら、アンバーのひひいろ丸に使うゴロニウムの生産には何ヶ月もの月日が掛かった。

 

 将来的に金属卸売業者がフライスの作ったスタック銅合金自動裁断機でレアメタルの量産体制を確立したとしても、ゴロニウム製の武器はかなりの値がつくだろう。

 

「それでも技術料だけでヒヒイロカネ製の武器が手に入るのは大きいな。どうだアカシア、やってみないか」

「リーダーの命令には従うが……その代わり、俺の取り分を1割増やしてくれ」

「いいだろう」

 

 契約が成立したところで、俺達は巨竜原生林を抜けて狭間(はざま)平原に出た。

 取水パイプのそばにあるキャンプ地では、顔見知りの上級探索者達が雁首(がんくび)を揃えて待っていた。

 

「お前達だけズルいぞ、少しくらい俺達にも手伝わせてくれよ」

「そうだそうだ!」

 

 バラック氏の言葉に同調して、宝探しが大好きなベテラン探索者達がそう(はや)し立てた。

 

「どうする、アンバー」

「どうもこうもないわい。好きにさせてやるしかなかろう」

 

 そういうことになった。

 

 

 俺達にとっては初めての常闇(とこやみ)砂漠だったが、数の暴力によって一切のハプニングもなく五層へ続くゲートの前までやってくることができた。

 

 真っ暗な夜の砂漠に浮かぶ岩場から辺りを見渡すと、砂地にポツポツと生えているピカラットサボテンの花が闇の中で小さな光を(はな)っていた。

 まるで地の底に星の海があるような、そんな美しい光景だ。

 

 ちなみにあのピカラットサボテンの影にはシャドウスコーピオンが隠れていることが多いらしい。

 こういう知識も、キャンプ地で彼らとした雑談の中で教わったものだった。

 

「ハルト、潜水艇を出すのじゃ」

「ああ」

 

 俺が左腕の腕輪型装具(アイリスが作ったものだ)から潜水艇を取り出すと、周囲の上級探索者達からおおっという歓声が上がった。

 

 全長10mもある巨大な蒼銀色のクルーザー、普通はこんな大物をダンジョンに持ち込んだら1時間も経たずにダンジョンに飲み込まれてしまうだろう。

 

 だからこの潜水艇にはエクレアに供出(きょうしゅつ)させたアクアマリン産の宝珠で耐性を付けてある。

 

 それでも安全を期すなら10時間に一度は装具に戻さなければならない。

 できればそれまでに探索を終わらせてしまいたいものだ。

 

「こいつがこのアクアマリンで一番のお宝だ。みんな覚えておけよ」

「縁起でもないことを言うんじゃない!」

 

 俺がブラックジョークを言うと、ヒューマンのおっさんがツッコミを入れた。

 

「さて、準備をするかのう」

「そうだにゃー」

 

 そう言うと二人はおもむろに探索者服を脱ぎだした。

 慌てておっさん連中が目を逸らしたが、別にそこまでする必要はない。

 だって下にスク水を着ているんだもの。

 

 俺が探索者服を脱ぐと、下から紺色のウェットスーツが姿を現した。

 どの水着もアルストツカ洋裁店の特注品で、アルメリア達が普段着ているものとまったく同じ性能をしている。

 

 防汚のエンチャントが施されていて、温度の変化に強く高い耐久力があるそうだ。

 アルメリア・ダークエルフ族が下着代わりに着用するわけである。

 ちなみにこの水着は俺達の着ている探索者服よりも高額だった。

 

 俺は水着用のベルトを身に着けてポーチをベルトに装着すると、潜水艇の上の後部座席に座って手すり越しにこちらを見下ろしているエクレアに声を掛けた。

 

「準備ができた。探索を始めよう」

「やっとね、長い道のりだったわ」

 

 普段は取水パイプを通って楽々アクアマリン湖と五層を往復しているエクレアには余計にそう感じられただろう。

 俺達は潜水艇の横に付いたハシゴを使って潜水艇の上に登った。

 

 運転席に座ったミュールが魔道エンジンを起動してパチパチとスイッチを入れると、潜水艇の各部に取り付けられたライトが周囲を明るく照らし出した。

 

 助手席に座った俺がプロテクションを発動すると、潜水艇の周囲に青い半透明の障壁が展開される。

 

 最後にアンバーが自分の腰のベルトに繋いだ命綱を後部座席の後ろにある手すりに引っ掛けて、潜水艇の中央に立った。

 

 俺とミュールがシートベルトと潜水マスクを身に着けたことを確認したアンバーは、自身の潜水マスクを片手に持って下のみんなに合図をする。

 

「ええぞ、押してくれるか!」

『おう!』

 

 力自慢の男達が後ろから潜水艇を押すと、俺達を乗せた潜水艇はズズズと音を立てて地面に長い跡を残しながら五層へ続くゲートに飛び込んだのだった。

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