マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第131話 沙厄水脈

 ブクブクと泡を立てながらゲートから水中に飛び出した潜水艇、その各部に付けられたライトの明かりによってAランク迷宮アクアマリン五層、沙厄(しゃあく)水脈の全貌(ぜんぼう)は明らかとなった。

 

 目の前に広がるのはゴツゴツとした灰色の岩壁に構成された暗い水中洞窟で、岩壁には何ヵ所にも渡って小さな横穴が開いている。

 そして入口にポツポツと生えている水草の揺らぎが水流の勢いを表していた。

 

 下手にあの横穴に吸い込まれでもしたら、曲がりくねった岩壁のあちこちに全身を打ち付けられた後、岩壁に擦り下ろされて探索者生命を終えることだろう。

 俺はぎゅっとシートベルトを握り込み、こみ上げてきた恐怖を飲み込んだ。

 

 やるべきことをしなければならない。

 急いで助手席の目の前にある水中ソナーのモニターを確認すると、モニターに映る赤い点が短い間隔を開けて転々と移動していた。

 

『前方から魚影1、真っ直ぐこちらに近付いてきているぞ!』

 

 俺が警告を発した直後、潜水艇を守る半透明の青い障壁に衝撃が走った。

 見ると、バリアの向こうには巨大な双頭のサメ、ツインヘッドシャークが片方の頭から血を流しながらこちらを睨み付けていた。

 

『大丈夫、アタシに任せて!』

 

 エクレアが槍を片手に後部座席から飛び出すと、一瞬でツインヘッドシャークの背後に回り込んで脇から心臓を一突きにした。

 

 そのまま槍をぐいと動かしてツインヘッドシャークを振り回して投げ飛ばすと、槍から抜けたツインヘッドシャークは水流の流れに乗って横穴に消えていった。

 

『血の匂いですぐにサメどもが集まってくるわ。ミュール、早く出しなさい!』

『出発進行にゃ!』

 

 ミュールがハンドルを握って前方に倒すと、潜水艇はゆっくりと水中洞窟の中を進みだした。

 

 フライスの設計したこの潜水艇は自在な浮上と潜航、前後左右への移動が可能だ。

 その代わり複雑な操作が必要だし、燃費が悪く速度も出ない。

 沙厄(しゃあく)水脈の探索は長丁場になるだろう。

 

 

 じりじりとした緊張感を抱えながらも、俺達の乗る潜水艇は少しずつ沙厄(しゃあく)水脈の奥へと進んでいる。

 

 ここは一体一体が強力な分、魔物の密度は四層より薄い。

 だが水流に乗って拡散した魔物の血の匂いによって、リンクするようにどんとん集まってくる魔物の群れに俺達は苦戦を()いられていた。

 

『後方から魚影1……いや、3体だ!』

『ぐう、面倒なやつらじゃ!』

 

 潜水艇の後部に立つアンバーがバリアに貼り付くサメ頭の巨大タコ、シャクトパスの足をかいおう丸で殴ってバリアから引っぺがしながら返事をすると、そのシャクトパスの背後から蒼銀色の槍が生えた。

 

『お待たせアンバー!』

 

 ムカデ人間みたいに3連結した巨大サメ、センチピードジョーズの相手をしていたエクレアが戻ってきたのだ。

 

 もう何度も倒しているが、このタコ野郎は厄介に過ぎる。

 墨を吐かれる前に始末できたのは僥倖(ぎょうこう)だろう。

 

『さて、お次は……っ!』

 

 シャクトパスから槍を引き抜こうとしたエクレアが慌ててバリアの中に飛び込むと、いきなりザクザクとシャクトパスの死骸が食いちぎられていった。

 下手人の姿はどこにも見えない、つまりこいつが……。

 

『ディープスケルトンシャーク……!』

 

 あっという間にシャクトパスの死骸はボロボロの細切れになって、それからバリアの周囲を肉片の塊が動き回り始めた。

 ディープスケルトンシャークの胃袋の中身が見えているのだ。

 

『無双三段!』

 

 バリアから飛び出したエクレアが首飾りから取り出したトライデントを青く光らせて振るうと、モニターに表示されていた3つの赤い光点は消滅した。

 よし、これでこの辺りの魔物はすべて始末したことになるだろう。

 

『敵影なし』

『ふぅ……疲れたわ。少し休みましょう』

 

 エクレアが水底に落ちていたシードフス合金鋼製の槍を回収して戻ってきたので、俺はモニターの下部に付けられた時計を確認した。

 沙厄(しゃあく)水脈の探索を始めてもう4時間も経ったのか……。

 

『そうだな、もう午後の1時だ。昼休憩にしよう』

 

 俺がエクレアの意見に賛同すると、ミュールは潜水艇を水底の(くぼ)みに移動させてから魔道エンジンを切った。

 

『やっとお昼ご飯が食べられるにゃ』

 

 潜水艇の各部に付けられたライトを消してプロテクションの色を透明に変化させれば完全に潜水艇の周囲は真っ暗になる。

 周辺の魔物は全部倒したし、これでしばらくは安全だろう。

 

 アンバーが魔道ランタンの小さな明かりを頼りに座席の後ろにある蛇腹状のカバーを引き上げると座席の上に半円状の屋根ができた。

 

 透明なスライムシートとスタック銅の骨組みを組み合わせた簡易的なものだが、機能的には十分なものだ。

 

 ミュールがスイッチを入れると座席の下からポコポコと音を立てて空気が発生して屋根の内側の水が追い出されていく。

 ある程度まで内部が空気で満たされたところで俺達は潜水マスクを外した。

 

「ミュールよ、わしらはどれくらい進んだかのう」

 

 水筒片手にエナジーバーをパクついていたミュールは、運転席の前に設置されているジャイアントサイズのギルドカードに表示されたマップをちょいちょいとスワイプしてから答えた。

 

「半分ってところにゃ」

「むう、まだ半分か……」

「潜水艇で通れない道があって何度か引き返したもんね。仕方ないよ」

 

 何もかもが予定通りに行くほどこのダンジョンは優しくなかった。

 まあ、誰も怪我をせず少しの遅れだけで済んでいるのだから及第点だ。

 

「拠点があると楽でいいわね」

 

 後部座席から身を乗り出したエクレアは水面をバシャバシャさせた。

 

「エクレアは普段からここで狩りをしているみたいだけど、そんなに違う?」

「全然違うわ。いつもだったらディープスケルトンシャーク対策に常時索敵をしないといけないし、気の休まる時間がまるでないもの」

 

 俺が水中ソナーを使って索敵役を担当したことで、今回の主戦力であるエクレアの負担はだいぶ軽減されていたようだ。

 

「まだまだ先は長いからな。疲れたらいつでも俺達に言ってくれよ」

「ええ、頼りにさせて貰うわ」

 

 エクレアはにこりと微笑(ほほえ)んで手に持っていたマジックポーションを開封した。

 彼女がマジックポーションを開けるのはこれで何本目だろうか。

 

 エクレアは群れた五層の魔物を素早く仕留める為に武器スキルを多用している。

 マジックポーションの使いすぎで中毒にならないことを祈るばかりだ。

 

 俺達は15分ほどの短い休息を取ると再び探索に乗り出した。

 潜水艇の動力源の魔石は現地調達できるとはいえ、時間も魔力も有限だ。

 できる限り急いで攻略を進めるしかない。

 

 

 現在時刻は午後5時、探索を開始してから8時間が経過した。

 俺達はようやく、ようやくダンジョンコアへ繋がるゲートの付近まで辿り着いた。

 

『大広間が見えたにゃ!』

『ああ、分かっている……』

 

 俺の目前のモニターに表示された一つの巨大な赤い光点がぐるぐると動くように移動していた。

 こいつが沙厄(しゃあく)水脈の支配者、ギガロドンに間違いない。

 

 モニターに新しく現れた赤い光点が瞬く間に巨大な赤い光点と重なって消えた。

 リポップした魔物がギガロドンに捕食されたのだ。

 この大広間にギガロドン以外の魔物がいない理由はそれだけしかない。

 

『ハルト、どうするにゃ……?』

『アンバーは主砲の用意、ミュールは潜水艇を反転させて入口に近付けてくれ』

 

 全長100mもある巨体を持つギガロドンはこの大広間の外には出られないだろう。

 ここは入口の安置から安全に(いも)らせて貰うとしよう。 

 

『うむ、分かったのじゃ!』

『了解にゃ!』

 

 アンバーが潜水艇の後部にある大砲みたいな形の主砲の両側の持ち手を(つか)んで構えると、ミュールは反転させた潜水艇をそろりそろりとバックさせながら大広間の入口に近付けた。

 

 潜水艇の放つ明かりに呼び寄せられて、モニターに映る大きな赤い光点は少しずつこちらに(せま)ってくる。

 モニターから目を離した俺は背後に振り返った。

 

『チャージ開始!』

 

 俺の合図でアンバーが主砲の右側の安全カバーを外して念じると、主砲の下部にある巨大な魔石カートリッジから魔力が流入し始める。

 青く輝く魔道線の光が主砲に流れ込んだ魔力の膨大(ぼうだい)さを物語っていた。

 

『まだだ、まだ……』

 

 俺は緊張で震える手を押さえて、じっと闇の中に目を凝らす。

 後部座席の手すりに(つか)まっているエクレアがゴクリと生唾(なまつば)を飲んだ。

 

『今だ――』

 

 視界に大きな魚影が映った瞬間に叫んだはずだった。

 だが、その直後に強い衝撃を受けて目の前が真っ赤になった。

 ライトに照らされる生々しい肉の壁、これはまさか。

 

 まさかこいつ、岩壁ごと潜水艇を捕食したのか!?

 それを証明するかのように、潜水艇を守る半透明の青い障壁がギリギリと音を立てて(きし)み始める。

 

『アンバー!』

『ハイパーマナバースト、発射!!!』

 

 アンバーが主砲の持ち手に付いたスイッチを入れると、主砲から放たれた青いごんぶとレーザーがギガロドンの体内を一直線に貫いた。

 

 膨大(ぼうだい)な魔力エネルギーに(さら)されたことでできた円柱状の空間に勢いよく流れ込んだ水が傷口から噴出した血液と混ざり合って赤く染まっていく。

 

『どうじゃ!?』

『前を見るにゃ!』

 

 俺がミュールの声に前を向くと、ライトに照らされた巨大な白い歯の先が少しずつ消失していく様子が目に入った。

 モニターに表示されていた赤い光点もなくなっている。

 

『やったわね……』

『ああ……』

 

 沙厄(しゃあく)水脈に(むくろ)の山を築いた最大最恐(さいきょう)の敵を撃破した。

 この戦い、俺達の勝ちだ。

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