マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第132話 アクアマリンの夜明け

 巨体に大穴を開けて絶命したギガロドンの口中から脱出した俺達の乗る潜水艇は、ゆっくりと水底に開いた小さなゲートに近付いた。

 

 ダンジョンのゲートは深層に行くほど小さくなる性質があるが、ダンジョンコアに繋がるゲートはとりわけ小さいようで直径5mもないスモールサイズだった。

 

 このゲートに潜水艇は突っ込めそうになかったので、俺達はエクレアだけをダンジョンコアに送り込むことにした。

 

 間違っても、俺達の誰かがダンジョンマスターになるわけにはいかないしな。

 パーティーの中におっちょこちょいなメンバーが一人いることを知っている俺は細心の注意を払うことにしたのである。

 

『じゃあ、行ってくるわね』

 

 それだけを言い残してエクレアはピュンとゲートの中に飛び込んだ。

 残された俺達は特にやることもないので、ぼんやりとモニターを眺めながら待機していたのだが……。

 

『エクレア、遅いのう……』

『中で何かトラブルでもあったんだろうか』

『きっと寝てるに違いないにゃ』

『エクレアに限ってそれはないじゃろ』

 

 ダンジョンマスターの引き継ぎはすぐに終わると聞いていたが、エクレアは10分経ってもまだ戻ってこない。

 

『どうしようか、誰か様子を見に行くか?』

 

 俺達が顔を見合わせていると、ぴょこりとゲートからエクレアが顔を出してきた。

 おお、彼女の額の文様が大きな刻印に変化している。

 ちゃんとダンジョンマスターの継承に成功したようだ。

 

『思ったより沢山あってびっくりしたわ。待たせてごめんね』

 

 ゲートから飛び出したエクレアが片手に持っていたのは大きな網だった。

 中には大きな真珠のようなものが大量に詰まっている。

 

『す、凄いにゃ! イーラの時とは比べ物にならないにゃ!』

『なにせ400年分も溜まっていたものだから。これだけあれば、きっと小国が丸ごと買えちゃうわよ』

『それは豪勢じゃのう。分け前は期待してええのか?』

『それなりにね。これも全部、アンタ達のおかげだもの』

 

 アンバーはエクレアから宝珠の詰まった網を受け取ると、頑丈な縄で後部座席にきっちりと固定した。

 

 アクアマリンをこの先400年間支える建材に使う大事な宝珠だ。

 絶対に無くさないようにしないといけない。

 

『家に帰るまでが探索だ。気を引き締めて行くぞ』

『今のペースだとここから取水口まで2時間弱……日が暮れちゃうわね』

 

 ゲートを通って帰ろうとしたらまた片道8時間の道を戻らなければならない。

 だから帰りは人工ショートカットを使ってラクをさせて貰うつもりだ。

 

 最初からそっちを使えば早かったんじゃ、って思わなくもないがマーメイドでないと取水パイプの激しい水流を(さかのぼ)るのは困難だから今回は諦めたのである。

 

『それでも晩飯には間に合うだろうさ。ミュール!』

『出発進行にゃ!』

 

 こうして帰路についた俺達は道中で襲い掛かってくる魔物達をちぎっては投げ、ちぎっては投げ……。

 

 途中でディープスケルトンシャークの群れに襲われてエクレアのトラウマが再燃したりもしたが、なんとか取水口の前まで辿り着くことができた。

 

 水中洞窟の天井にある取水口は、魔物が侵入しないように頑丈な金属製の金網で区切られていた。

 それでも人間が余裕で通れるほどの隙間はあるようだ。

 

『さ、近くの魔物は粗方(あらかた)片付いたわ。今のうちに行きましょう』

『わしはこんなの初めてじゃ。楽しみじゃのう、お主』

 

 宝珠の詰まった網を片手に笑顔を浮かべるアンバー。

 まるで遊園地のアトラクションに乗る前みたいにワクワクしているようだ。

 

『そ、そうだな』

 

 アクアマジャイアントランドのジェットコースター(通称デス・マウンテン)でグロッキー状態になった経験のある俺には不安しかなかった。

 

『エンジンを止めるにゃ』

 

 スイッチをパチパチと押してライトを消したミュールが魔道エンジンを切ったのを確認した俺は、プロテクションを解除して潜水艇を腕輪の中に収納した。

 暗い水中をエクレアの持つ魔道ランタンの明かりだけが照らしている。

 

『あちしが一番乗りにゃ! にゃ!? 吸い込まれるにゃあ~』

 

 俺達が金網に(つか)まって待機していると、先走ったミュールが中に吸い込まれた。

 ……いや、ぎりぎり両手で金網に(つか)まって水流に逆らっているようだ。

 何やってんだこいつ。

 

『3つ数えたら突入するわよ。1、2、3!』

 

 エクレアの合図とともに金網から手を離すと、俺達は勢いよく取水パイプの中に吸い込まれた。

 

『うひょー!』

『うわぁぁぁぁ!』

『凄いにゃ~!』

 

 俺達は激しい水流に乗って太い取水パイプの中を浮上していく。

 魔道ランタンの明かりに照らされたパイプの継ぎ目が残像を残して通り過ぎる。

 

 ……随分(ずいぶん)と長いな。

 最初はビビッてつい叫んでしまったが、途中で慣れた俺は平静を取り戻した。

 

『エクレア、まだ着かないの?』

『もうすぐそこよ、ほら』

 

 エクレアが指差した先に、パイプの突き当りが見えた。

 どうやら終点がすぐそこにあったようだ。

 

 俺達はパイプの奥の突き当たりをぐるんと回ると、勢いよく湖に飛び出した。

 ふわりと空中を浮遊し、バシャーンと水音を立てて水面に落下する。

 

 水の中から見える青白い月明かりを頼りに浮上して湖面に出た俺は、全員が水面に顔を出したことを確認してから潜水艇を取り出した。

 

 俺は横のハシゴを使って潜水艇の上に登ると、潜水マスクを外して新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。

 ああ、空気が美味い。

 

 すぐにアンバーとミュール、ついでにエクレアも潜水艇の上に登ってきた。

 エクレアは手だけを器用に使ってハシゴを登っていた。

 こんな時こそ自慢のポッドに乗ればいいのに……。

 

「見るのじゃ、みんなが集まっておるぞ!」

 

 俺がダンジョン前広場のある方に顔を向けると、崖際の手すりの向こう側から沢山の人々がこちらに手を振っていた。

 広場だけじゃない、湖沿いのあちこちにも小さく人の姿が見えている。

 

「アタシは帰ってきたわ! このアクアマリンのダンジョンマスターとなって!」

 

 潜水艇の先端でエクレアが大きな声で叫び槍を高く天に掲げると、ゴーン、ゴーンという大きな鐘の音が探索者ギルドの屋上から鳴り響いた。

 

 新たなダンジョンマスターの就任がアクアマリン中に伝わり、集まった市民達からワッと大きな歓声が沸いた。

 

 すぐに湖岸のあちこちから大玉の花火が上がって、雲一つない星空を美しく(いろど)り始める。

 

「ありがとう、アンバー、ハルト、ミュール……」

 

 緊張の糸が切れたのだろう、俺達の方に振り返ったエクレアは緋色の瞳からポロポロと大粒の涙を流していた。

 

「よかったのう、エクレア。これでプリメラも浮かばれるというものじゃ」

「俺達は友達だろ? これくらい当然のことさ」

「ふふん、あちしの伝説がまた一つ増えちゃったみたいだにゃ」

 

 エクレアは励ましの声を掛けながら近寄った俺とアンバーの首に腕を回して、ぎゅっと抱き締めてきた。

 

「本当に、ありがとう……」

「好きなだけ泣くのじゃ。ここではお月様以外だーれも見ておらんわい」

「エクレア……」

 

 おおう、これは……まさしく天国の柔らかさ。

 生きててよかったぁ~!

 

 俺は胸に押し付けられたエクレアの豊満なおっぱいの感触に、強い満足感と達成感を覚えた。

 だらしなく鼻の下を伸ばした俺の下品な顔はきっとお月様しか見ていないだろう。

 

 

 ……と思っていたのだが、翌日に宿を訪れたオーブリーの持ってきた写真にばっちりとその顔は激写されていた。

 

 アンバーにお仕置きされたくなかった俺はオーブリーとこっそり取引をして、その写真とネガフィルムを処分して貰うことに成功したのだった。

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