マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第五章 西の砂漠と聖なる都
第135話 ワールドツアーINアクアマリン


 現役Bランク探索者の描く冒険小説第9弾!

 

 わしはハーフリングのアンバー、Bランク探索者じゃ。

 長い旅を終えてアクアマリンに帰ってきたわしは楽しい日常へと戻っていた。

 探索の範囲も四層に広げ、順調に成果を上げている。

 しかしある日、親友のエクレアから告げられたのはダンジョンマスター、プリメラ・アクアマリン危篤の報だった。

 残る猶予は半年、それまでにダンジョンを踏破しなければアクアマリンの未来は閉ざされてしまう。

 わしは仲間とともに知恵と勇気を振り絞り、沙厄水脈へと挑むことを決意した。

 愛するこの街を守る為ならば、わしは……。

 

 2525年ベストセラー小説「わしとこん棒」シリーズ、ついに完結。

 

 

 その日の夕方、俺は人魚通り商店街の掲示板に貼られていた「わしとこん棒9」のポスターを眺めていた。

 

 強い日光にさらされて色()せたそのポスターには、深紅の巨大バットひひいろ丸を構えてポーズを取るアンバーのイラストが描かれている。

 

「もうそろそろ、このアンバーのポスターも撤去されるんだろうな……」

 

 「わしとこん棒」シリーズはこん棒愛をテーマに執筆された作品で、基本的にはアンバーが新しいこん棒を手に入れる為に色々な冒険をするというお話だ。

 

 俺と出会ってから脇道に()れたりもしたが、この先ひひいろ丸以上のこん棒を手に入れることが難しいと考えたアンバーは一度筆を置くことにした。

 

 売れ線の新刊を望むポンポコ出版のタヌヨシや熱心なファンには惜しまれたが、キリのいいところで(しめ)るのも大事なことだと思うので俺は賛同した。

 またいいネタが手に入ったら外伝や続編を書いてもいいわけだし……。

 

「おっと、もうこんな時間か。早く行かないと約束の時間に遅れちゃうな」

 

 そこまで思考を巡らせたところで、掲示板の近くに設置されていた時計を見て用事を思い出した俺は足早(あしばや)にその場から立ち去った。

 

 人魚通りと書かれたアーチを潜って大通りに出た俺は、装具から取り出したバイクに(またが)って夕焼けに照らされる道路を走り出す。

 

 大晦日(おおみそか)のダンジョン踏破から1年が経ち、俺は20歳になっていた。

 現在(いま)も俺は現役のBランク探索者としてそれなりに楽しい日々を過ごしている。

 

 この1年で色々とあったが、直近の大きな出来事と言えば今から3日前にアクアマリンの探索者ギルド前公園で行われたサクレアのライブコンサートのことだろう。

 

 

 2527年の初頭から始まったサクレアのワールドツアーは探索者ギルドの全面協力の(もと)、丸々1年掛けて時計回りに中央大陸をぐるりと巡り世界を一周するスペシャルな企画だ。

 

 今回のワールドツアーでは1つの地域で1度しか公演が行われない。

 当然のことながらこのアクアマリンで行われるサクレアのライブコンサート、そのライブチケット争奪戦も熾烈(しれつ)を極めることとなった。

 

 ライブチケットはアクアマリン市民に抽選で配られたが、やはりと言っていいか闇市場で高く取引され始めた。

 

 そこで俺達は貰った(上級探索者を含む一部有権者には抽選なしで配布された)ライブチケットをさっさと手放して、代わりに公園の隅っこに「こん棒愛好会」名義で広いスペースを確保して知人友人を集めることにした。

 

 その周囲には「カーター交通」とか「愛駆逢魔愚連隊(あくあまぐれんたい)」、「魔道具職人(クラフター)組合」や「こん棒愛好倶楽部」なんかが同じように場所を確保していたので、ライブ会場の横で一体何の(もよお)しをするのだろうかと不思議がられた。

 

 公園の噴水の周囲で月1のフリーマーケットの時と同様に屋台を出してひと稼ぎしようとしている人も沢山いたから余計にそう思っただろう。

 

 俺達、というか一度サクレアのライブに参加したことのある人間は王都ラブオデッサのクソでかいライブ会場をカバーするサクレアの歌唱スキルが公園全域どころか道路を挟んだ探索者ギルドまで届くことを知っていたからな。

 

 ライブチケットを高値掴みをした無知な一般サクレアファンが野外ステージの前で暑苦しい人の波に埋もれているのを尻目に、俺達は身内と一緒にゆったりとライブ鑑賞を楽しんだ。

 

 エクレアも探索者ギルドの屋上で生後間もない子供達と一緒にライブを鑑賞したと聞いている。

 

 今日の昼間に会ったがエクレアは随分(ずいぶん)と楽しんでくれていたみたいで、シジオウとノドグロPにこの企画を持ちかけた張本人としては感慨深いものがあった。

 

 次のライブ会場は迷宮塔イーラだし、ギザード達も楽しんでくれたら嬉しいな。

 俺は夕方の帰宅ラッシュで渋滞している道路で信号待ちをしながら、そんなことを考えていた。

 

 

 すっかり日が落ちて夜になった街をバイクで走って向かったのは、アクアマリン市の南西に広がる歓楽街だ。

 

 俺は人の波を避けて夜の道を歩き、歓楽街の裏通りにある細い階段を降りた。

 そして地下一階にある葉っぱのマークの描かれた扉を引き開けて「スナックしずよ」の店中に顔を覗かせる。

 

「こんばんはー」

 

 入店した俺が挨拶をすると、スナックのママをしているワーウルフのシズヨさんが笑顔で返事をした。

 

「いらっしゃい、ハルトくん」

 

 サクレアのムーディーな歌声が流れる狭いスナックには客が一人しかいなかった。

 今日はここでタヌヨシと飲む約束をしていたのだが、どうやら彼はまだきていなかったようだ。

 

 代わりにカウンター席に座っている見覚えのある青い羽毛をしたバードマンの男がこちらに振り返った。

 

「おっ、ハルトじゃねぇか。お前がここに顔を出すなんて珍しいな」

 

 チャラチャラした兄ちゃんみたいな恰好をしている荒野の運び屋ファルコだ。

 

「今日はタヌヨシと飲む約束をしててね。ファルコこそ何でここにいるんだ? サクレアは昨日アクアマリンを()ったはずじゃなかったか」

 

 俺が隣のカウンター席に座って尋ねると、彼は肩を(すく)て首を振った。

 

「次のライブ会場は迷宮塔イーラだろ? 流石のオレも命は惜しいぜ」

 

 王都ラブオデッサを出発してティアラキングダムを南下したサクレアの巡業団はアモロ共和国の迷宮都市を東から西に移動し海都カナン、アクアマリンときて次は迷宮塔イーラに深都コーラル、その後は西方諸国を順番に巡る予定だった。

 

「クロ達がいるんだから気にしなくても大丈夫だろうに」

 

 大国の威信をかけたプロジェクトということもあり、ティアラキングダムの歌姫サクレアを守る巡業団の構成員はそのほとんどがサクレアファンクラブの上級会員や彼らが選定した凄腕の探索者になっていた。

 

 サクレアは西大陸にも行く予定だから戦力はいくらでも欲しいのだろう。

 その気になれば巡業団のメンバーだけで簡単に一国を落とせるというのが(もっぱ)らの噂だ。

 

 ちなみにクロから聞いた話では、ネフライト王国でのラストライブだけは少数で行うとのことだった。

 流石に過剰戦力過ぎて怒られたらしい。

 

「ま、サクレアの代わりにガキの相手をしたいってのが本音のとこだな。見てくれよ、カワイイだろー?」

 

 ファルコは懐から取り出した写真を俺に見せびらかした。

 その写真には柔らかなクッションの巣で眠る幼いハーピィが写っている。

 この子はサクレアとファルコの間に生まれた娘のエコーだ。

 

 エコーは王都ラブオデッサの実家で二人の両親が面倒を見ているらしい。

 幼馴染で実家が隣同士だからか、育児もやりやすいようで結構なことだ。

 

「すっかり親バカになっちゃって……」

「何だよ、お前だって5児の父になったじゃねぇか」

「俺なんてただの種馬だよ、種馬」

 

 この世界のマーメイドは結婚なんてしないからな。

 結局あのメロンおっぱいも揉めなかったしさぁ……俺は悲しいよ。

 手が届きそうで届かない理想郷に思わずホロリと涙が(こぼ)れた。

 

「ハルトくん、大丈夫? これでも飲んで元気を出してください」

「ありがとうございます、シズヨさん」

 

 いつものようにお高いお酒をカウンターに置いたシズヨさんに俺は礼を言った。

 俺は高給取りのお大臣なのでこの店にきたときは必ず高い酒を頼む。

 赤字続きでスナックしずよが潰れちゃったら数少ない常連さんが困るからだ。

 

「シズヨちゃん、きたよーん」

「いらっしゃい、タヌヨシくん」

 

 俺がファルコと世間話をしながら酒を飲んでいると、ようやく待ち人が訪れた。

 ぶくぶく太った中年狸獣人(ワーラクーン)のタヌヨシは、俺の左隣のカウンター席に腰掛けて懐から取り出したハンカチで額の汗を拭いた。

 

「いやあ、お待たせしました。会議が長引いちゃいましてね」

「最近はどう? やっぱり忙しい?」

「それはもう。いやはや、取引先との食事会を断るのも大変になってきました。増えたお小遣いを使う暇がないというのも困りものです」

「そんだけ儲かってるってことだろう。いいことじゃないか」

「それもこれも全部ハルトさんのおかげですよ。本当に感謝しています」

「それほどでもある。さあ、今日は存分に飲め……!」

「どういうことだぁ~? 二人だけで話してないでオレにも聞かせてくれよぉ~!」

 

 酔っ払ったファルコが俺の肩に片翼を回してぶんぶんと揺すってきた。

 飲んでいる間に彼はすっかり出来上がってしまっていたのだ。

 

「そこまで言うなら話してやろうか。俺達のこの1年間に渡る挑戦の歴史を……!」

 

 俺はファルコに解毒スキルを使って酒を抜くと、シラフに戻った彼に武勇伝を話し始めるのだった。

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