マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第136話 新たなるハムマン職人

 ことの始まりは昨年の2月までさかのぼる。

 

 知っての通り俺は一介(いっかい)のハムマン職人として度々(たびたび)フリーマーケットに参加しては自作のハムマンフィギュアを販売していたわけだが、その日もまたギルド前公園で行われている月1のフリーマーケットに参加していた。

 

 俺はいつものように事前抽選で決められた自分のスペースに絨毯(じゅうたん)を敷き(今回は結構いい場所だった)、暇を見つけてはシコシコ作り溜めていたカラークリスタルハムマンフィギュアを並べて座り込んだ。

 

 アクアマリンのダンジョン踏破をして知名度がアップしたおかげか、前回のフリーマーケットではあっという間に完売したので今回はいつもより多めに用意した。

 

 今日はいっぱい売るぞーと意気込んだものの、道行く人々は俺をスルー。

 1時間が経ち、2時間が経ち、お昼を過ぎても売れたのはたったの数個だけ。

 

「おかしい……こんなはずでは……」

 

 もしかして物珍しさとかお布施とか、そんな理由でみんな買ってくれていたわけ?

 過去の記録をさかのぼっても最低の売り上げだ。

 

「お腹も減ったし、もう店仕舞いしちゃうか……」

 

 どんよりと落ち込みながらハムマンフィギュアをポーチに詰め込んでいると、前を通りかかったコボルトのおっさん(ハムマン愛好家)が声を掛けてきた。

 

「ハルトの兄ちゃん、今日はもう終わりなのかい?」

「はい、なんか今日は全然売れなくて……貰います?」

「ちょっと見せてみろ」

 

 俺が一番の自信作を差し出すと、彼はそのハムマンフィギュアを毛深い手のひらの上でくるくると回して出来を確かめた。

 

「うーん、前よりは上手くなっているみたいだが……INARIに比べたらなぁ」

「INARI?」

「ポリー川の近くに新しくできたガラス工房だ。そこで似たようなハムマンフィギュアが売っててな、他の連中にも結構な評判らしいぞ」

「ガラス工房か……」

 

 いずれは模倣品が出回るとは思っていたが、その筋から攻められては如何(いかん)ともしがたいな。

 

 きっと腕のいいガラス細工職人を山ほど揃えているのだろうし、本業の片手間で作っているような素人には太刀打ちできそうにない。

 でもまあ、勉強になるかもしれないし少し見に行ってみるか。

 

「教えてくれてありがとうございます。ちょっと調べてみますね」

「こいつは情報料代わりに貰っておくよ」

 

 コボルトのおっさんはにやりと笑って、俺のカラークリスタルハムマンフィギュアを懐に仕舞った。

 制作者としては貰ってくれるだけありがたいことだ。

 

 手を振りながら去っていく彼の背中を見送った俺は、今度こそ後片付けをしてギルド前公園を後にした。

 

 

 バイクに乗って先ほどの彼に聞いていたガラス工房へと向かった俺は、店から少し離れた場所に隠れて双眼鏡を片手に敵情視察を行っていた。

 もう片方の手にはフリーマーケットで買ったアンパンが握られている。

 

「もぐもぐ……。あそこがガラス工房INARIか……」

 

 アクアマリン湖から南に流れるポリー川のそばにあるその店は、どこにでもあるような白岩石(はくがんせき)造りの店舗だった。

 

 開放感のある店の裏手には作業場らしき場所があり、従業員らしきハーフリングが店の奥から作品を持ってきては商品棚に並べている。

 

 商品棚には様々なデザインのガラス工芸品が並んでおり、その中には俺の作品と酷似したカラーガラスハムマンフィギュアの姿もあった。

 値札を見るとかなり高い、どれも相場の倍以上の値段をしていた。

 

 どうやら店主はワーフォックスの男のようだ。

 彼は胡散臭い笑みを浮かべて両手を揉みながら、観光客らしきオーガの老夫婦に接客している。

 

 おっ、店主が手に取ったのはハムマンフィギュアだ。

 熱心に売り込んでいるようで、あっという間にセットで2点のお買い上げ。

 

「ぐぬぬ、俺とどこが違うんだ……」

 

 (くや)しい気持ちを抑えきれない俺は、あのハムマンフィギュアをお買い上げした老夫婦に直撃取材を行うことにした。

 二人が店から離れたところで後ろから声を掛ける。

 

「すいません、少しいいですか?」

「はい、なんでしょう?」

 

 不思議そうにこちらを見るオーガの老夫婦に、耳にペンを挟んで片手に手帳を持った状態の俺は記者風の装いで質問する。

 

「お二人は先ほどあの店でハムマンフィギュアを買いましたよね」

「ええ、まあ……」

「何か決め手になることとかあったのでしょうか?」

「前回のハムマン祭りで、ハムマンフィギュアを実演販売されていたガラス職人の方が制作された商品を販売していると聞きまして……アクアマリンにきた記念に奮発して購入してみました」

「ほほう、それは素晴らしいですね。取材に応じて頂きありがとうございました」

 

 俺は耳から取ったペンで手帳にさらさらと書き込む仕草をしてから、ぺこりと頭を下げてそそくさとその場を後にした。

 そして道を歩きながら心の中で怒りを燃やす。

 

「ハムマン祭りで実演販売していたガラス職人だと……俺のことじゃねぇか!」

 

 こいつはクサいな。

 クソ野郎の匂いがプンプンするぜ。

 

 俺はその足で歓楽街にあるヤの付くグレーな調査会社に向かい、ガラス工房INARIの調査を依頼した。

 

 

 調査の結果が出たのは依頼してから10日が過ぎた後のことだった。

 四層の遠征から帰ったその日の晩、俺達がいつものように宿の酒場で飯を食べていると、俺の席の隣をワーキャットの兄さんが通りかかった。

 

 トンと軽く背中を三つ指で叩かれて、酒が入って緩んだ頭が覚醒する。

 俺が酒場を出ていくワーキャットの兄さんの方を振り返ると、アンバーが足元から一枚のプレートを拾い上げた。

 

「あやつ、ギルドカードを落として行きおったぞ」

「ちょっと俺が届けてくるよ」

 

 俺はアンバーの手からギルドカードを取り上げて席を立ちあがった。

 

「そんにゃの放っておけばいいのににゃー」

 

 ギルドカードは他人には使えないし未使用のギルドカードはその辺のスーパーでも1枚10メルで売ってるくらいには安価なので無くしたところで大して困らないのだが、俺にはそれが調査会社からの符丁(ふちょう)だと理解できていた。

 

「帰りのタクシー代を忘れて困るかもしれないだろ。じゃ、行ってくる」

 

 俺がそのまま酒場を出て宿の裏手に行くと、そこでは先ほどのワーキャットの兄さんが暗がりの中で壁に背をもたれて待っていた。

 

「で、どうだった?」

 

 ギルドカードを差し出して尋ねると、彼は代わりに一枚の写真を俺に渡してきた。

 受け取ったそれを月明かりにかざしてみると、その写真にはとある会社を背景にスーツを着たワーフォックスの男が写っていた。

 

「黒よりのグレーってとこだ、ハルトの旦那」

 

 詳しく話を聞いたところ、以下のようなことが分かった。

 

 ワーフォックスの男の名はツネキチ。

 元々はアモロ共和国でも有数の貿易商社で経理として働いていたが、就職してから5年ほどで経費の使い込みが発覚してクビになった。

 

 それから10年くらい仕事を転々としていたが、(まと)まった資金が手に入ったのか最近になってアクアマリンに引っ越してきたツネキチはここでガラス細工を売る店を開いた。

 

 店に並んでいるのは雇った数人のハーフリングに作らせたコピー商品で、どうも知名度の微妙な個人の芸術家を標的にしているようだ。

 

 ツネキチはとても口が上手く、(だま)されて贋作(がんさく)を掴まされた顧客から訴えられないギリギリのラインで言葉を選んでいる。

 

「探ってもこれ以上は出てこなかった。被害者にできることといえば探索者ギルドを通して警告するくらいだな。どうする、脅しをかけるか?」

「いや、そこまではしなくてもいい。ところでさ、この店の従業員の待遇がどうなっているか聞いてもいい?」

 

 調査報告書にはガラス工房INARIで働いている従業員の情報も載っていたが、そのうちの一人にラックという16歳のハーフリングの名前があったのだ。

 

 あの不運(ハードラック)(ダンス)ったヤンチャ坊主が脱ニートしてちゃんと働いているようで俺は嬉しかった。

 

「時給15メルで実働時間8時間、食事休憩1時間ってところだ」

「バイトしたことないからどれくらいか分からんな」

「8年目の俺よりも待遇がいい」

「そっか……」

 

 俺はポーチから財布を取り出して、中から適当に掴み取った100メル金貨をチップとして彼に渡した。

 

「ありがてぇ……!」

 

 ワーキャットの兄さんはまるで神でも見るかのように俺に(おが)んできた。

 いいことをするって気持ちいいね。

 

「また何かあったら頼むわ。じゃあな」

 

 俺は深く頭を下げるワーキャットの兄さんに背を向けて、アンバー達の待つ宿の酒場へと戻っていったのだった。

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