マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第137話 PUIPUIハムカー(前編)

 その後、俺は調査会社の勧め通り探索者ギルドにこのことを垂れ込んでガラス工房INARIの行政指導を行わせた。

 

 残念ながら何も出なかったようだが、普通は現れないような中級天使が行政指導に訪れたことでツネキチは随分(ずいぶん)と肝を冷やしたようだ。

 ささやかな嫌がらせに成功したので、俺はこの結果に満足して留飲(りゅういん)を下げた。

 

 それからガラス工房INARIはコピー商品の販売の一切を取り止めたが、そこまで経営の打撃にはならなかった。

 

 なぜならツネキチが雇っていたハーフリングのガラス細工職人が思いのほか腕が立ったからである。

 

 その中でも特にラックはガラス細工の制作に熱心で、彼の作ったカラーガラスハムマンフィギュアはハムマン愛好家達にも(ひそ)かな人気が出ていた。

 デザインセンスに(おと)る俺のハムマンフィギュアが売れなくなるのも当然だ。

 

 こうして盗作問題は一応の解決をしたわけだが、若きハムマン職人ラックの飛躍によって俺のハムマン職人としてのプライドは粉々に砕け散っていた。

 

 これから何を作って生きていこうか。

 そんなことをずっと(ダンジョンで飯を作りながら)考えていたのだが、ある時一つ面白そうなアイデアが浮かんだ。

 

 パクリにはパクリだ、今度は地球の知識で対抗してみよう。

 俺は大きな石の流体を生み出すと、次のフリーマーケットに向けてのイメージトレーニングを始めた。

 

 

 3月のフリーマーケットの日、俺がギルド前公園の予約していた自分のスペースに向かっていると周囲からざわざわとしたざわめきの声が聞こえてきた。

 

 それも当然で、俺が乗っているのがデフォルメされたハムマンの姿をした石製の車だったからだ。

 

 PUIPUIと足音を立てながら丸いタイヤで歩く大きなハムカーは、この異世界でいまだかつて誰も見たことがないような爆発的なインパクトを持っていた。

 

 俺は自分のスペースにハムカーを停車させると、ぐにゃりと内部を変形させて移動販売車のような形にした。

 

 それからカウンターの上に、ポーチから取り出したハムカーフィギュアを陳列(ちんれつ)していく。

 販売の準備ができたので、俺は元気よく声を張り上げて売り込みを始めた。

 

「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 世にも珍しいハムカーフィギュアだよー! どうだいそこの姉ちゃん、一つ買って行かないか?」

「わ、私はちょっと……」

 

 エルフのお姉さんにドン引きされてあっという間に逃げられた。

 そんなことではへこたれない心が(つえ)ぇ俺は気を取り直して売り込みを続ける。

 

「いらっしゃい、いらっしゃい! ハムカーフィギュアだよー! 今日は安いよ、1個10メルだ! こんなに安く買える日なんてそうそうないぞ!」

 

 フリーマーケットの客が遠巻きに俺を見守る中、一人の勇気あるハムマン愛好家(コボルトのおっさん)が前に出た。

 

「おい兄ちゃん、あまりに売れなくて頭がおかしくなったのか?」

「頭がおかしいとは心外だな。この素晴らしい芸術性が分からんのか」

「いや、奇抜(きばつ)なのは見て分かるが……どうにも受け入れがたい」

 

 彼は手に取ったハムカーフィギュアを手のひらの上でくるくると回した。

 ど、どうだ……?

 結構ディティールにはこだわったつもりなんだが……。

 

「ま、土産話には丁度いいか。1個くれ」

「あざーっす!」

 

 コボルトのおっさんはハムカーフィギュアを片手に去っていった。

 

 最初の一人が一歩を踏み出せば後は流れでどうにでもなる。

 遠巻きに動向を見守っていた人も次々と俺のハムカーショップに来店した。

 

「最初見た時は変だと思っていたんだけど、よく見ると可愛いかもしれない」

「ちゃんとタイヤが動くのか。これで10メルは安いな」

 

 俺特製のハムカーフィギュアはタイヤ周りの可動域がステンレスでできているので水で洗っても()びない凄いフィギュアだ。

 まあ、落としたら普通に割れちゃうんだけどね。

 

「ハルトさん、うちのマインちゃんと同じデザインで作れたりします?」

 

 裕福そうな豚獣人(ピグレットマン)のマダムがペットのハムマンの写真を見せてきたので、俺は笑顔で快諾(かいだく)した。

 

「ええ、もちろんですよ。少し見ていてくださいね」

 

 俺は土属性スキルで生み出した石をサッとこねて、白黒ブチ(がら)のハムカーフィギュアを作った。

 ハムカーフィギュアはもう何千回も作っているので慣れたものだ。

 

 フォーマットが一緒で(がら)を変えるだけで新しいデザインになるのがハムカーのいいところだな。

 漫画もアニメもない異世界の百歩先を行く日本の優れたデザインセンスの賜物(たまもの)だ。

 

「わぁ、いつもながら凄いですね。ありがとうございます」

 

 それを見た他のハムマン愛好家も次々と懐から写真を取り出して俺に見せてくる。

 

「おいハルト、僕のも作ってくれ!」

「私も欲しいー!」

「いや、俺が先だ!」

「まあまあ、順番に順番に……」

 

 こうして俺は地球のストップモーションアニメをパクって作ったハムカーで結構な評価と売り上げを手に入れたのだった。

 

 

 用意したハムカーフィギュアを売り切ってフリーマーケットから引き上げた俺がルンルン気分で宿に帰ると、そこではタヌヨシがアンバーに土下座をしていた。

 

「アンバー先生、お願いします! なにとぞ、なにとぞ~!」

「じゃから言っておるじゃろう。新しいネタができるまで続きは書かんとな」

「で、ですが……」

 

 アンバーが1年の間出し続けた「わしとこん棒」シリーズを完結させたことで、ポンポコ出版は稼ぎ頭を失って苦境に立たされていた。

 

 ある程度のところで満足しておけばいいものの、欲張って高い賃料のオフィスに移転したり社員を何人も雇ったりするのが悪いのだ。

 

「ただいま、アンバー」

「おかえりなのじゃ。今日のフリマはどうじゃった?」

「それがさ――」

 

 俺はアンバーにさっきの出来事を話そうとしたが、涙目のタヌヨシに(さえぎ)られた。

 

「ハルトさん! ハルトさんもアンバー先生を説得してくださいよ!」

「説得って言ってもなぁ……。タヌヨシだってティアラ出版から振り込まれたロイヤリティで十分に儲けただろう。その利益はどこに行ったんだ?」

「爆死……しました……」

 

 タヌヨシはがっくりと肩を落として落ち込んだ。

 詳しく話を聞いたところ、どうも新しく出した絵本が全然売れなくて倉庫に返本の山ができてしまったのだという。

 

 俺もその絵本は見せて貰ったが、これはどう考えても子供向けには売れないだろうというクソデザインだった。

 物語の内容自体は悪くなかったのが余計に(つら)い。

 

「絵本業界はライザが基準だから生半可なものじゃ誰も買ってはくれないだろうに、馬鹿なことをしたな」

「ソルティ先生は前作が当たったので調子に乗って刷り過ぎてしまいました。これからどうしましょう……」

 

 小規模な出版社であるポンポコ出版は主に絵本や自伝本の出版を手掛けているわけだが、今回の一件で自社の倉庫がキャパシティーオーバーしてしまったが為に新しく借りた貸倉庫代で結構な赤字が出ているらしい。

 

「処分したら? 抱えているだけで赤字が出るなら早いとこ損切りした方がいいと思うよ」

「やっぱりそうですよね。そうしようと思います……」

 

 ダンジョンに不良在庫を合法投棄することで合意してポンポコ出版の赤字も解消に向かったところで、俺はアンバーに先ほどの話をすることにした。

 

「それでさ、聞いてくれよアンバー。俺の作ったハムカーめっちゃ売れたよ」

「おお、それはよかったのう」

「ハムカーですか?」

「そうそう、俺の考えた新しいハムマングッズね」

 

 手持ちの在庫は全部売っちゃったので、土属性スキルで生み出した石をこねてハムカーフィギュアを何台か作ってテーブルに置いた。

 

「こ、これは……!」

 

 タヌヨシはテーブルからハムカーフィギュアを持ち上げてその出来を一通り確かめると、グッと俺の方に詰め寄せてきた。

 

「ハルトさん! これ、イケますよ!」

 

 近い近い、中年太りの贅肉が近い。

 

「だろ? フリマでも結構評判よかったんだ」

「ですから、このハムカーを使った絵本を作りましょう! 絶対売れますよ!」

 

 言ってることがレクナムみたいだ。

 美形のエルフならまだしも、中年のおっさんに(せま)られても全然嬉しくないな。

 

「本気?」

「本気です!」

 

 ハムカーに目を付けるとは、タヌヨシには先見の明があるようだ。

 元ネタが元ネタだし、成功の公算はかなり高いだろう。

 

「いいね、やろうじゃないか。目指すはハムカー御殿(ごてん)だ!」

 

 俺はタヌヨシの肩にガッと左腕を回すと右腕を伸ばして天井を指差したのだった。

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