マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第138話 PUIPUIハムカー(後編)

 意気投合した俺とタヌヨシはハムカーの絵本製作に乗り出した。

 ポンポコ出版のオフィスで行った何度かの企画会議の末、ハムカーの絵本はフェルト人形を撮影した写真を使うことに決まった。

 

 これは元ネタをリスペクトした形だな。

 他の理由としては、ポンポコ出版の新入社員に裁縫の心得があるアラクネやハーフリングの女性が複数人いたことが挙げられる。

 

 雇ったはいいがやることがなく浮いていた人材を有効活用しようという試みだ。

 彼女達には俺の方で指導して、絵本に使うハムカーフェルト人形の制作やハムカーグッズのデザインを任せることにした。

 

 肝心の脚本は絵本作家のハーフリングのおじさん、ソルティ氏に依頼した。

 最初にハムカーの著作権は俺が持つと言ったら断られたのだが、返本された絵本の在庫を全部家に送るぞと脅して再度お願いしたら渋々(しぶしぶ)ながら引き受けてくれた。

 

 ついでにポンポコ出版の社内に新しくグッズ販売事業部を立ち上げて、自社で抱える商標の管理や直営店での自社グッズ販売も行う。

 そう、商標である。

 

 この世界の特許や著作権、商標は探索者ギルドが管理している。

 著作権は本を出して申請するだけなのでお手軽なのだが、商標の審査には高いお金が必要な上にある程度の認知度がないと却下されてしまう。

 

 だから審査にお金を出せない小規模な企業はパクられてもいいようなデザインを使うのだが……今回は出版した絵本の著作権と合わせることでカバーすることにする。

 何事にも抜け道はあるというやつだな。

 

 なお、魔道具や術式関係の特許や商標は魔道学院の管理下にあるので例外だ。

 これらは探索者ギルドができる前からネフライト王国のエルフが握っていて、魔道学院の定める技術資格を持つ者しか販売してはいけない決まりになっている。

 

 昔は破ったらガチで殺しにきたらしいし、現在(いま)でも重い懲罰と罰金を科せられる重罪なので破る人間はほとんどいない。

 

 それはさておき、準備を始めてから3ヵ月ほどで絵本「PUIPUIハムカー」はポンポコ出版から発売されることになった。

 

 フリーマーケットでの地道な宣伝活動のおかげか「PUIPUIハムカー」はそれなりの売れ行きからスタートした。

 アンバーとは比べ物にならないが、刷った部数も少ないしこんなものだろう。

 

 俺の本命はハムカーグッズの販売だ。

 商標登録が成功したところで、ポンポコ出版直営のハムカーショップをアクアマリンと海都カナンで開店する。

 

 そこではハムカーフェルト人形の販売のほか、ハムマンの写真を持ってくるだけで好きなデザインのハムカーフェルト人形を作って貰えるサービスを行っていて、これがハムマン愛好家達の間でかなりの評判になった。

 

 俺のところにくる客は元々そういうオーダーメイドを求める人が多かったから、きっとそこが狙い目だと思っていた。

 

 客層の厚いペット市場にがっつり食い込んだおかげで「PUIPUIハムカー」はどんどん知名度を上げていった。

 

 お隣のアモロ共和国でのハムカーブームの到来で絵本を含めたハムカーグッズの売り上げはうなぎ昇りだ。

 

 本来であればここで他社が競合してくるわけだが、商標でがっつりガードしたので出せるのはネコカーだのイヌカーだのといったパチモンだけ。

 世界で一番人気のあるペットのハムマンに敵うわけがなかった。

 

 ここでタヌヨシが海都カナンに本社ビルを建てたがったが、俺は彼を引き留めた。

 そういうことをするのは一過性のブームが定着してからにした方がいい。

 そう言ってごねるタヌヨシを説得した。

 

 そういうわけで他国の企業がどうしてもハムカーグッズを売りたければ、ここアクアマリンまでやってきてポンポコ出版とライセンス契約をする必要ができたのだ。

 

 こうしてタヌヨシは遠方からひっきりなしにやってくる他社の営業の相手をして、スナックしずよで酒を飲む暇すらない忙しい日々を過ごすことになったのである。

 

 

 回想が終わったので場面は夜のスナックしずよに戻る。

 

「へー、ちょっと見ないうちにそんなことになってたのかよ」

 

 俺の解毒スキルで酔いが冷めたファルコは、ぶとうジュースを飲みながらシズヨさんの出した出来合いのツマミをつついていた。

 もう今日は飲まないつもりらしい。

 

「ぶっちゃけ儲かってるのは俺以外なんだけどね」

「ハルトくん、そうなんですか?」

 

 俺の羽振りの良さを知っているシズヨさんは首を傾げた。

 確かにハムカーグッズのロイヤリティは入っているが、それでも投資した資金を回収するにはまるで足りなかった。

 

「商標登録の為の審査には結構な大金が必要でね……」

 

 エクレアに貰った4000万メルがあっという間に無くなっちゃった。

 何だったら足りない分をアンバーに借りて捻出(ねんしゅつ)したくらいだ。

 これでハムカーがコケていたら目も当てられなかったよ、本当に。

 

「私はウチの経費から出したいと提案したのですけど、ハルトさんは全然聞いてくれなくて」

「そんな金があるなら広告費に使った方がいいに決まってるだろう」

 

 俺はアモロ新聞社にお金を積んでハムカーのステマ記事を書かせるようタヌヨシに助言していた。

 ブームを作るのはメディアと昔から相場が決まっているからな。

 

 ある程度の下地がないとサム8みたいになるとはいえ……。

 メディアとの繋がりを強化するのは出版社として大事なことだ。

 

 それに定期的に新聞にポンポコ出版の刊行した本の広告を出すようになったことで「わしとこん棒」と「PUIPUIハムカー」以外のシリーズの売り上げもじわじわと伸びてきている。

 

 あの返本の山になった絵本(フライスに頼んで預かって貰っている)の在庫が()ける日も近い……のかもしれない。

 

「お二人は色々と難しいことを考えているんですね。私にはさっぱりです」

「気にしないで、シズヨちゃんはそのままが一番可愛いよ!」

「もう、タヌヨシくんったら……」

 

 地頭(じあたま)がよくないとこんなところで長いことスナックを経営できたりなどしないので、これはただのお世辞である。

 もっとも、それを承知の上で楽しむのがこういう場所の流儀だ。

 

「シズヨちゃん、やってるぅ~? 友達連れてきたよぉ~」

 

 入口の扉が開いて狭いスナックに新しい客が入ってきた。

 酒の匂いを漂わせている、スーツを着た獣人の4人組だ。

 

「マーくん、いらっしゃい。今日は団体さんですね」

「やっぱり最後はココじゃないとねぇ~。ほら、こっちに座って座って」

「いてっ、先輩、押さないでくださいよ~」

 

 彼らは奥に1つだけあるボックス席に座っておしゃべりを始めた。

 マーくんと呼ばれた獣人のおっさんの笑い声がでかい。

 これはもう、ゆっくり飲むような雰囲気じゃなくなっちゃったな。

 

「さてと、いい時間だしそろそろ帰るか。シズヨさん、お会計お願いします」

「はいはーい」

 

 俺は懐からギルドカードを取り出すと、タッチ決済で3人分の代金を支払った。

 一度の飲みで数万メルのお支払いとかキャバクラかよっていうね。

 

「タヌヨシ、今日はオレが送ってやるぜ」

「ファルコさん、いいんですか?」

「ハルトに酒を抜かれちまったからな。それに、シャッチョサンに何かあったらシズヨちゃんが悲しむだろ?」

 

 そう言ってファルコは片翼で親指を立てるようなジェスチャーをしたのだった。

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