マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第139話 オヤジ狩り

 スナックしずよを退店した俺達は、酒の匂いを漂わせながら繁華街の裏通りを歩いていた。

 

 人通りのない静かな夜道を青白い月明かりを頼りにのんびりと歩いていると、もう少しで大通りに出そうになったところで不意に前方から3人の男がやってきて俺達の前に立ち塞がった。

 

 そいつらは全員ガラの悪そうな恰好をした獣人の男達で、こちらを見てニヤニヤとした喜色悪い笑みを浮かべている。

 

「ファルコ」

「ああ、分かってるぜ」

 

 俺がタヌヨシを(かば)うように前に出ると、ファルコは背中を向けてタヌヨシの後ろに立った。

 すると背後の建物の(かげ)から、2人の獣人の男が武器を片手に姿を現した。

 

「な、なんですかあなた達は……!」

 

 恐怖に怯えたタヌヨシが誰何(すいか)すると、リーダーらしきワーウルフの男が一歩前に出て装具から取り出した片手剣をゆらゆらと振った。

 

「なんですか、じゃねえよ。オレたちゃオヤジ狩りさ、痛い目を見たくなければ身ぐるみ置いて行って貰おうか」

「そんな……!」

 

 不良っぽく言っているが、こいつらはどう見ても探索者崩れの暗殺者だ。

 下手に頷けば身ぐるみどころか、命までマジックバッグに入れて持って行かれてしまうだろう。

 

「おいファルコ、お前か?」

「いや、お前だろ」

「そうかぁ? この街で俺に手を出そうなんて命知らずがいるとはとても想像できないけどな」

「何をブツブツ喋ってやがる! 死にてぇのか!」

「ひぃっ!」

 

 おおっと、怯えたタヌヨシがしゃがみこんで丸くなった。

 化身までしちゃって、まんまる太ったタヌキさんみたいになっている。

 

 タヌヨシが可哀想だからさっさと終わらせてしまおう。

 俺は影の下に隠すように薄く石の流体を生み出すと、ポケットに両手を突っ込んでメンチを切った。

 

「つべこべ言わず掛かってこい。それとも口だけか? 三流風情が」

「野郎……ぶっ殺してやる!」

 

 挑発に乗ったワーウルフの男が片手剣を構えて突っ込んでくると、他の連中も一斉に動き出した。

 

 

 ま、所詮(しょせん)は三流の雑魚どもよ。

 あっという間に5人の襲撃者はのされて地面に倒れ伏すことになった。

 

 俺は石枷(いしかせ)で全員の両手足を拘束した後、ワーウルフの男の前にしゃがみ込んだ。

 

「誰の差し金だ、言え」

「ああん!? 何の話だ!」

 

 イキっちゃってまあ、随分(ずいぶん)と余裕があるようだ。

 その余裕がどこまで続くか見物(みもの)だな。

 俺はワーウルフの男に石で口枷(くちかせ)をした。

 

「ど、どうするんですかハルトさん……」

「ちょっと刺激が強いから、怖いなら離れていてもいいよ」

「では……」

 

 タヌヨシが少し離れたところで、俺はそっと男の茶色の犬耳に手を触れた。

 こういう連中は懲罰を経験しているから下手な拷問じゃ口を割らないんだがな。

 房中術スキルにはこういう使い方もある……!

 

「~~~!!!」

 

 ワーウルフの男は声にならない悲鳴を上げながらビクリビクリとのたうち回った。

 単純な痛みには耐えられても、快楽の先にある未知の苦痛は訓練を積んだ人間でも耐えがたいものだ。

 

 気絶したワーウルフの男の口枷(くちかせ)を外した俺は立ち上がって、血の気の失せた青い顔をしている4人の男に問い掛けた。

 

「さて、次は誰が体験したい?」

 

 すぐに4人は口を割った。

 

 こいつらは海都カナンからはるばる俺を殺しにやってきた探索者崩れだった。

 依頼者はツネキチというワーフォックスの男で、多額の借金を帳消しにする代わりに殺しの依頼をしてきたのだという。

 

 俺はステータスの低い魔導士(ウィザード)だから夜道で闇討ちすれば簡単に始末できると聞いていたそうだ。

 それはまあ、確かに事実かもしれないが……。

 

「ここでツネキチの名前が出てくるのか……」

「行政指導の件で恨みでも買ったんじゃねーの?」

「まあ、多分。1年も前のことなのにねちっこいやつだな」

 

 ガラス工房INARIの商売は上手くいっているってフリーマーケットで会ったラックからは聞いていたんだけど……嫉妬か怨恨(えんこん)の線が濃厚か。

 俺が考察していると、地面に転がる獣人の男の1人が命乞いをした。

 

「お前らがこんなに強いなんて知らなかったんだ。懲罰でも何でも受けるから、命ばかりは助けてくれ……」

「それはまあ、コレ次第だな」

 

 俺はポーチから未使用のギルドカードの束を取り出した。

 石の触手を使ってワーウルフの男から血液を採取してくっ付けると、ギルドカードが青く光り表面に彼のステータスが黒い文字で焼き付いた。

 

 バイロン 32歳 ランクX 剣士(ソードファイター) Lv44

 魔力D 筋力C 生命力C 素早さC 器用さC

 

「見ろよ、札付きだ」

 

 俺はファルコとタヌヨシに彼のステータスを見せた。

 

「やっぱりな、そうだと思ったぜ」

「ランクX(エックス)……探索者資格を剥奪(はくだつ)された方ですか」

 

 他の4人の血液も採取してステータスを調べたが、全員ランクXだ。

 

「こうなったらもう表社会では生きていけない。そんな連中がカタギに手を出した以上、死んで貰うしかないな」

 

 ギルドカードは血液を登録した本人しか扱えないから身分証として使われている。

 しかし探索者資格を剥奪(はくだつ)された人間がギルドカードに血液を登録するとステータスがギルドカードに黒く焼き付いてしまうので身分証としては使い物にならなくなる。

 

 それはなぜか。

 世界を牛耳(ぎゅうじ)る探索者ギルドを敵に回した人間を確実に見つけ出して始末する為だ。

 

 かつてイーラでAランク探索者パーティー「獣の双牙」の双子と相対したことがあったが、彼らはこういった札付きの探索者崩れを専門に狩る賞金稼ぎ(バウンティハンター)だった。

 

「いっ、嫌だっ! 殺さないでくれ!」

「俺はBランク探索者なんでな。悪いが生かして返すわけにはいかないんだ」

 

 俺は5mほどの石の球体を作るとその中に5人を閉じ込めた。

 そしてポーチから取り出したマジックボムのレバーを握り、安全ピンを抜いて魔力を込める。

 

「じゃあな」

 

 マジックボムを石の触手に持たせて球体の中心部に突っ込むと、数秒後に石の球体は跡形もなく消し飛んだ。

 これで彼らの生きた証は俺の手元にある5枚のギルドカードだけしかなくなった。

 

「ハルトさん……」

「タヌヨシ、俺を軽蔑(けいべつ)するか?」

「いえ、上級探索者として必要なことだったのでしょう。それは私にも理解できます。ですが……」

 

 ダンジョンに潜ったこともない一般人に命のやり取りはキツかったようだ。

 俺? 俺はジャスティンで童貞捨ててるからあんまり気にならないかな。

 医療スキルの鍛錬でグロいのにも慣れちゃったし……。

 

「ま、気にすんなよ。犬に噛まれたと思って忘れちまえ」

 

 ファルコは落ち込むタヌヨシの背中をポンポンと叩いた。

 荒野の運び屋ファルコは頼れる兄貴分だ。

 

「はい……」

 

 俺達はタヌヨシに付き添いながら歓楽街の大通りに出ると、壁際に座り込んで夜の街を行く人々を眺めた。

 タヌヨシの気分が晴れるまでちょっとだけ休憩だ。

 

「アクアマリンはいい街だ。オレはこの街に帰ってくる(たび)にそう思うぜ」

「それ、今更言うことか?」

「ああ。実はオレな、サクレアのワールドツアーが終わったら運び屋を引退することにしたんだ」

 

 ファルコは運び屋を引退する気はないと常々(つねづね)口にしていたが、子供が生まれて考えが変わったのだろう。

 

「そっか、寂しくなるな」

「ファルコさんはこれからどうするんですか?」

「ラブオデッサで個人タクシーをやるよ。オレはそれ以外の生き方を知らないしな」

「じゃあ、また今度ラブオデッサに行った時は頼むとするか」

「おう、その時はエコーにも会わせてやるぜ」

 

 ファルコはからからと愉快そうに笑った。

 

「どうだタヌヨシ、少しは元気になったか?」

「そうですね……私も落ち込んでばかりいられません。子供に会いに帰ります」

「もう遅いし寝てるんじゃないか?」

「なら寝顔に会いに、ですね」

 

 タヌヨシはファルコが道路に取り出した武骨なオフロードカーに乗り込み、自分の家に帰っていった。

 

 二人を見送った俺は、解毒スキルで酒を完全に抜いてから自分のバイクを取り出して(またが)った。

 

「さてと、やるべき仕事をしないとな」

 

 俺は夜道を行き、ガラス工房INARIのポストに5枚のギルドカードを投函(とうかん)して宿に帰った。

 

 

 それから2日後、いつものように俺達が酒場で夕飯を食っていると見覚えのあるメッセンジャーがやってきた。

 俺は適当な理由を付けて酒場を抜け出して、宿の裏手の暗がりへと向かった。

 

「何か用か?」

 

 ヤの付く身辺調査会社で働いているワーキャットの兄さんは難しそうな顔をした。

 

「昨日、ガラス工房INARIのツネキチがポリー川の岸辺に死体で浮かんでいるのが見つかった。理由を知っているか?」

「さぁ……」

 

 俺は次はお前だって脅しを掛けただけだぞ。

 夜逃げすると踏んでいたんだが、まさか世を(はかな)んで入水するとはな。

 俺が(とぼ)けると、ワーキャットの兄さんは肩を(すく)めた。

 

「アイツはウチに旦那の暗殺を依頼しにきたよ。馬鹿なやつだ」

 

 探索者ギルドのお目こぼしを受けて生きている裏社会の人間は、地元の有力者には絶対に手を出したりしない。

 そんなことをしたら行政が動いてお掃除が始まっちゃうからな。

 

 そこにダンジョンマスターの配偶者(外部の人にはそう見える)を暗殺する話なんて持って行ったら、消す以外の選択肢が無くなるに決まっている。

 

「手間を掛けさせたようで悪いな」

 

 俺がポーチに手を突っ込むと、彼は手のひらを前に出して制止した。

 

「今回ばかりはチップを貰うわけにはいかない」

「それもそうか」

 

 俺はポーチから手を引っこ抜くと、彼に背を向けて歩き出した。

 

「じゃあまた、元気でな」

「ハルトの旦那もお体には気をつけて下さい」

「俺はいつも元気だよ」

 

 なにせ俺は医療のスペシャリスト、最上級天使ユニエルの教えを受けている。

 こん棒と魔法の異世界で、医者の不養生なんて有り得ないぜ。

 

 俺は背中越しに手を振ると、アンバー達の待つ酒場に戻っていったのだった。

 

 

 その後のことを少しだけ。

 ツネキチの死後、ガラス工房INARIに残されたガラス細工職人達は路頭に迷うことになった。

 

 なぜならアモロ共和国からやってきたツネキチの親族が店を畳みツネキチの貯め込んだ財産をすべて接収していったからだ。

 

 薄給(やはり薄給だった)で働いていた彼らには新しく店を構えるような余裕もなく、ただ途方に暮れていた。

 

 しかし捨てる神あれば拾う神あり、噂を聞きつけたハムマン愛好家達の手助けによって彼らは小さいながらも新しく店を構えることができた。

 

 その名もガラス工房HAMUMAN。

 オーダーメイドでハムマングッズの制作を請け負うこのガラス工房は、ハムマン愛好家達の支持を受けてそれなりに繁盛したという。

 

 めでたし、めでたし。

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