マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第140話 空を自由に飛びたいな

 俺達はアクアマリンのダンジョン踏破によって普通なら引退してもいいような額の報酬を手にした。

 

 しかし前述した通り俺はハムカーに全ツッパしたせいでスッカラカンになっており、時期を同じくしてミュールもとある乗り物に全ツッパしたことでスッカラカンになっていた。

 

 うちのパーティーで裕福なのはお金を使う趣味がない(最近はこん棒収集をしなくなった)アンバーくらいだ。

 そういうわけで俺達は未だに探索者生活を続けている。

 

 それにフライスと一緒に開発中の、とある乗り物の燃料に使う魔石を集める必要があったというのも探索者生活を続けている理由の一つだった。

 

 サブタイトルを見た読者の皆様にはもう察しがついているだろう。

 その乗り物とは、飛行機である。

 

 この世界はバードマンや天使のように空を自由に飛び回れる種族がいる為か、飛行機で空を飛ぼうなどと考える酔狂な人間は現れにくい環境だった。

 

 航空輸送の観点から見るとマジックバッグ持ちのバードマン郵便で事足りるし、中央大陸の大都市には魔道列車の路線もおおよそ通っている。

 移動に時間は掛かるが、わざわざ空を飛んでショートカットする必要はない。

 

 数は少ないがペガサスのような魔獣もいるし、念動スキルを術式化し動力源にした浮遊ポッドやホバー型自動車もある。

 

 俺もフライスのコレクションに何度か乗せて貰ったことはあるが、高度を上げられない代わりに意思一つで自由に操縦できるというのは便利だった。

 

 燃費は格段に悪くなるが、エクレアみたいにコストを掛けてチューンした機体なら高速戦闘にすら使える。

 術式を弄ってリミッターを外せばUFOみたいに空を飛ばすこともできるそうだ。

 

 まあ、誰もやらない辺り安全性には大きな問題があるようだが……。

 確かに高高度で燃料が切れたら墜落死待ったなしだもんな。

 訴訟を避ける為に安全を重視するのはメーカーとして当然のことだった。

 

 さて、ここで一つの疑問が浮かぶ。

 どうしてそんな環境でミュールが飛行機に乗ることになったのか。

 当然、それも俺のせいである。

 

 

 きっかけは昨年の春頃、休日の昼間にフライス整備工場の休憩所で俺が昼食を取っていた時のことだった。

 

「ティアラキングダムに行きたい?」

「あちしじゃなくて、あちしの舎弟(しゃてい)がだけどにゃ」

 

 すっかりくたびれて機械油に汚れたツナギを着ているミュールが、弁当箱を片手に赤い尻尾をゆらゆらと動かした。

 

「サクレアのライブコンサートにでも行きたいのか?」

「そうにゃ」

「そうにゃってお前、金はあるんだから魔導列車に乗って行けばいいじゃん」

 

 この時はまだサクレアのワールドツアーがいつ行われるかは決まっていなかった。

 

「アイツらは運送屋の仕事があるからできるだけ手っ取り早く行きたいんだにゃ。またファルコに頼めないかにゃ?」

「ファルコは雨季が明けてすぐに行っちゃったよ。だから秘密のルートを使いたければカーター氏に頼むしかないね」

「もう頼んだにゃ。危ないから駄目って言われて教えてくれなかったにゃ」

「じゃあ無理だね。サクレアがアクアマリンにくるまで我慢しようよ」

「むむむ、どうにかならないのかにゃ?」

「そんなこと言われてもなぁ……」

 

 俺が困っていると、会話を聞いていたフライスが助け舟を出してきた。

 

「要はチューブ荒野を越えたいんだろう。アレならどうだ?」

「アレはまだ未完成だろ。……いや、コイツなら軽業があるし大丈夫か?」

「アンタら、一体何の話をしてるのにゃ」

 

 不思議そうに俺達を見るミュールの肩に、俺はポンと片手を乗せた。

 

「ミュール、ちょっとテストパイロットをやってみないか?」

 

 俺達は頭に疑問符を浮かべるミュールを連れて整備工場の裏手へと向かった。

 

 フライスが壁の認証装置にギルドカードをタッチすると、ガレージのシャッターがガラガラと音を立てて開きその下から小型の飛行機が姿を現した。

 未塗装の板金が試作感を漂わせる一人乗りのレシプロ飛行機だ。

 

「おおお……なんにゃこれは……!」

 

 カッコいい乗り物が大好きなミュールが目を輝かせている。

 

「驚け、儂が作った世界初の飛行機だ。どうだ、カッコいいだろう」

 

 その隣でフライスは自慢げにドヤ顔をしていた。

 

「自動車に使われている高馬力の魔道エンジンを流用して作ったんだけど、安全対策に手間取ってまだ一度も飛ばしたことがなかったんだよね」

 

 非常用の射出装置とか、パラシュートとか。

 俺もプロテクションの裏技があるとはいえ、スカイダイビングはしたくなかった。

 こういう時レクナムがいたら良かったんだけど、彼は今イクリプスに出張中だ。

 

 ユニエルに頼んで手に入れた魔道顕微鏡施設の利用期限が切れるまで、レクナムが帰ってくることはないだろう。

 そういうわけでこれまでずっとお蔵入りしていたのである。

 

「の、乗っていいのかにゃ……?」

 

 (よだれ)を垂らして(汚い)おねだりするミュールに、俺は近くの棚に置いてあった書類の束を手に取って差し出した。

 

「これ、マニュアルね。潜水艇よりは簡単だと思うから、覚えたら声を掛けてくれ」

「分かったにゃ!」

 

 ミュールはマニュアルを受け取るとふんふんと鼻息荒く内容を熟読し始めた。

 俺とフライスは顔を見合わせて、にっこりと笑みを浮かべたのだった。

 

 

 30分後、忍者服に着替えたミュールはパイロットゴーグルを着けて、ガレージの外に移動させた飛行機に乗り込んだ。

 

 魔道エンジンが始動して正面の3枚羽根プロペラが(うなり)り声を上げる中、俺はミュールに大声で呼び掛ける。

 

「守るべき約束は二つだけだ! 市街地の上は飛ばない! 禁足地の方には行かない! それだけだ!」

「了解にゃ!」

 

 俺とフライス、ついでに駆け付けたドワーフ達が固唾(かたず)を飲んで見守る中、ミュールの乗った飛行機は長い助走をつけて青い空に飛び立った。

 ドワーフ達からワッと歓声が上がる。

 

「おお、飛んでる飛んでる。初めての飛行であんなに自在に動かせるんだから、器用さ補正って偉大だな」

 

 ミュールの操縦する飛行機はチューブ荒野の上空を勢いよく飛んでいる。

 アクロバットな軌道もなんのその、宙返りに錐もみ、垂直降下して地面スレスレで機首を上げたり……命知らずにもほどがあるわ。

 

「調子に乗ってマ(けつ)(ガス(けつ)の意)にならないといいがな」

「俺はなる方に賭けるね」

「儂もだ」

 

 実際にそうなった。

 

 

 飛行を始めてから30分ほどで積んでいた魔石カートリッジの魔力は底をつき、ミュールの乗った飛行機はチューブ荒野の真っ(ただ)中に墜落した。

 

 ミュールは上手いことやって軟着陸させようとしたが、機体のタイヤは着陸の衝撃に耐えられず千切れ飛び、飛行機は胴体を地面に(こす)り火花を上げながら長い距離を(すべ)って停止した。

 

 俺達は慌ててバイクに乗って駆け付けたが、当の本人は壊れた飛行機の翼の上に腰掛けてケロリとしていた。

 

「あーあ、こんなにしちゃって……」

「超絶楽しかったにゃ。また乗りたいから早く直して欲しいにゃ!」

「フライス、どうする?」

「何にせよ、先立つものが必要だな」

「あちしは世界一の金持ちにゃ! そんにゃのいくらだって出してやるにゃ!」

 

 こうして飛行機の魅力に取りつかれたミュールは貯め込んだ財産をどんどん吐き出していくことになったのだ。

 

 俺も流石に出ていくばかりでは可哀想だと思ったので、魔力に飽かせて養殖していたレアメタルをコネのある金属卸売業者に少しずつ売って開発費に()てることにした。

 

 最初はミュールだけが飛行機のテストパイロットだったが、緊急脱出装置とパラシュートが完成してからは彼女の舎弟(しゃてい)達にも頼むようになった。

 ミュールがヘッドを務める若手の走り屋グループ「愛駆逢魔愚連隊(あくあまぐれんたい)」だ。

 

 走り屋グループはそのほとんどが器用さの高いハーフリングやドワーフで構成されているので、当然この「愛駆逢魔愚連隊(あくあまぐれんたい)」もヤンチャなハーフリングばかりだった。

 

 当初の目的はどこへやら、彼らはサクレアのコンサートに行きたかったことなんてすっかり忘れて飛行機を飛ばすことに心血を燃やすようになっていった。

 

 そして彼らがその武勇伝を周囲に自慢して回ったことで、興味を持った人が度々(たびたび)フライス整備工場に訪ねてくるようになった。

 

 必要なお金は出すから飛行機を作って欲しいと頼み込まれるようなことも増えてきて、流石に業務に支障が出てきたフライスは整備工場の近くに専用の飛行場と飛行機の製作所を建設することを決めた。

 

 フライス整備工場はアクアマリン市の東の郊外にあるわけだが、実はそのすぐ外側にはレッドラインが通っている。

 

 高速道路であるアクアマリン市外周のレッドラインの近くは交通の便(びん)がいいということもあって結構賑わっているのだが、ここら一帯はフライスの私有地なので一切の開発の手が加えられていなかった。

 

 数㎞に渡るだだっ広い荒野にあるのは一本の道路とフライス整備工場、そしてレクナムのミスリル研究所だけだ。

 そんな中、この場所に新たな会社が作られることになった。

 

 その名もフライス航空。

 世界初の航空事業を手掛けるベンチャー企業の芽生えである。

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