マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第141話 ミスリルの研究・守

 ミュールの初飛行から2ヵ月ほどが過ぎ、夏に入り始めた頃のこと。

 イクリプスに出張に行っていたレクナムが帰ってきたという連絡を受けた俺は、探索から帰った翌日の朝も早くからミスリル研究所を訪ねていた。

 

 鉄門の近くの白い壁に設置された箱を開けて呼び鈴を鳴らすと、すぐに豆腐ハウスの中から白衣を着た金髪のエルフが飛び出してきた。

 

「ハルトさん、おはようございます!」

「おはようレクナム、魔道顕微鏡はどうだった?」

 

 俺はレクナムが遠隔開錠した鉄門を通って研究所の敷地に入ると、彼と話しながら豆腐ハウスの中に入っていった。

 

「それはもう、驚きの連続でしたとも! いやあ、楽しかったですよ!」

「ならいいんだけど……何か収穫はあった?」

 

 研究所の広い部屋にあるガラスケースはどれも空っぽだ。

 どうやら彼がイクリプスに持って行った鉱物の標本はまだマジックバッグに仕舞ったままのようだった。

 

「何も分からないということが分かりました!」

 

 そんなに自信満々に言われても困る。

 

「ハルトさんの方はどうでしたか?」

「一応、一通りは作れるようになったよ。ほら」

 

 手のひらを上に向けた俺は、虚空に黄金の塊を生成した。

 金をこねて黄金のハムカー像に変えると、操作権を手放してレクナムに手渡す。

 彼は受け取ったハムカー像をそっと()でると、こくりと頷いた。

 

「文句なしの合格です。ハルトさんの土生成スキルもかなり上達しましたね」

 

 俺は土生成スキルを極める為の課題として、レクナムが作った鉱物を一つ一つ再現する修行を行っていた。

 その修行の過程で金属や鉱物の組成に対する理解もだいぶ深まったと思う。

 

「暇な時間があったからちょっと試したんだけど、ダンジョン産の鉱物って本当に作れないのな……」

 

 ドワーフが子供の頃に受ける訓練の一つに利き鉄というものがある。

 世界中のダンジョンから採掘された何十種類もある鉄の同位体、それに魔力を通して見分ける訓練にはかなりの根気が必要だ。

 

 そうやってなんとかすべての鉄の魔力組成を理解した俺は同じものをスキルで再現しようとしたのだが、どうやっても普通の鉄しか作れなかった。

 

「そうそう、そのことで面白い情報が見つかりましたよ」

「さっき何も分からなかったって言ってなかった?」

「それには語弊(ごへい)がありましたね。ミスリルについては何も分かりませんでした」

 

 研究室に入った俺がソファに腰掛けてテーブルの上にあった世界樹茶(苦い)の茶葉が入った缶を手に取り中の茶葉をティーポットに突っ込んでいると、レクナムはごちゃごちゃした研究机の上に置いてあった分厚いファイルを持ってきた。

 

「これは魔道顕微鏡を使って撮影した鉱物の写真です」

 

 レクナムが開いたファイルのページには丸い球体が連続して続いたモノクロ画像が写った写真が1ページに4枚ずつ(まと)められていた。

 

「魔道顕微鏡って原子サイズまで見れるのかよ。やべぇ性能してるな」

 

 俺は確かにナノメートルまで確認できる顕微鏡を作ってみろって言ったけどさ……マジで作るやつがあるか。

 天使どもの再生スキルに対する執着を見誤(みあやま)っていたな。

 

「ええ、おかげでハルトさんの話していた原子論が正しいことが証明されました。詳細は後日、論文に(まと)めるとして……これです」

 

 レクナムが指差したのは、鉄の原子配列を写した写真が並んだページだった。

 写真の下には鉄の種類が書かれているが、その違いはまるで分からない。

 

「うーん、違いが分からん。レクナム、どういうことだ?」

 

 俺はティーポットにケトル型魔道具からお湯を注いだ。

 

「科学的な分析では物質の魔力組成による違いは判別できないということです。次に、これです」

 

 ぺらりとめくられた次のページには、スタック銅合金の原子配列が写った写真が並んでいる。

 

「これは同じメツニウムを使ったスタック銅合金を比較したものですが、再生能力のあるものと再生能力を失ったものでは明確な差異が見つかりました」

「確かに、結びつきが崩れているように見える」

 

 俺はティーポットから二つの湯呑みに世界樹茶(苦い)を注いだ。

 

「他のスタック銅合金でも同様の差異があります。つまり、スタック銅は一定の法則に従った銅原子の結びつきがなければ魔力的性質を発揮できないということです」

 

 レクナムはテーブルの上にあったイクリプス土産の月食クッキーの箱を開けて、スキルで作ったガラスの皿に中身を移した。

 

「これまでの検証結果を裏付けるデータが取れたわけか」

「他の特殊金属でも魔力的性質が失われた時には同じような原子配列の乱れが散見できました。これは仮説なのですが、ダンジョンから産出された物質にはそれぞれ内包する魔力に違いがあるのではないでしょうか。例えるなら、属性のようなもの……」

 

 俺は熱々の世界樹茶(苦い)をフーフーして少し冷ましてから(すす)ると、月食クッキーで口直しをした。

 ミント風味の青白いクッキー生地にたっぷり掛かったチョコが甘くて美味しい。

 

「マジックアイテムを作る時に素材から属性を抜き出すって聞いたことがあるけど、その属性か?」

「はい。土生成スキルでダンジョン産の鉱物が生み出せなかった理由がそれです。要は外側だけを再現して、中身を(おろそ)かにしていたわけですね」

 

 そう結論付けたレクナムは世界樹茶(苦い)を飲んで(しぶ)い顔をした。

 

「それを理解した今なら再現できそうか?」

「マジックアイテムをゼロから作るなんて、ライザにだってできませんよ」

 

 レクナムは肩を(すく)めると、月食クッキーを3枚も一気に頬張った。

 贅沢(ぜいたく)ぅ……。

 

「他には魔石も調べましたが、完全に無色透明で認識できませんでした。イクリプスの探索者ギルドに保管されていたミスリルの隕石は(まぶ)しい魔力光で何も見えず……」

「まあ、そうだろうと思ったよ」

 

 俺達は人工的なミスリルの生成を目指してできる限りのアプローチを行ってきた。

 だが一切の手応えを感じることはできず、ただただ失敗を繰り返すばかりだった。

 

「ハルトさん、これからどうしましょうか……」

 

 ミスリルの研究は完全に行き詰っていた。

 とはいえ、レクナムが持ち帰ったデータがあればまた別のアプローチを行える。

 危険な賭けだが、試してみる価値はある。

 

「俺に一つ腹案がある」

 

 俺はポーチから元素周期表の書かれた紙を取り出してテーブルに置いた。

 すいへーりーべ、ぼくのふねってやつだ。

 

 必死に頭を巡らせても思い出せたのは語呂合わせで覚えた20番までだが……鉄が26番なのは知っているから十分だろう。

 

「何をするつもりなんですか?」

「ブルームーンはこの星の衛星だ。で、俺は星の創り方を知っている」

「えっ……」

「スキルを使った核融合、試してみようか」

 

 こうして俺は禁忌に手を出すことを決めたのだった。

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