マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第145話 ミスリルの研究・離

 こん棒愛好倶楽部の定期集会から十数日後、探索から帰った俺はその翌日の朝から魔道具工房バタフライを訪ねていた。

 

 扉の近くの箱を開けて呼び鈴を鳴らすと、しばらくしてアイリスが顔を出した。

 

「おはよーハルトくん」

「おはようアイリス、出かける準備はできているか?」

「まあねー、ハルトくんとの約束を忘れてなんかないってー」

 

 外に出てきたアイリスはいつものスク水の上に可愛いカーディガンと短めのスカートを着ていた。

 

「それ新しい服? 似合ってるよ」

「えへへ、この間マーヤさんに作って貰ったんだー。ミノクロも悪くないけど、やっぱりアルストツカ洋裁店が一番だよねー」

 

 最近のアイリスはおしゃれに目覚めたのか、こうやって着飾ることも増えてきた。

 俺としては彼女のアイデンティティが薄れたような気がして残念なのだが、大人になるってこういうことなのだろう。

 

 機嫌のよさそうなアイリスを連れて人魚通り商店街の外に出ると、俺は道路にバイクを取り出して(またが)った。

 

 後ろに乗ったアイリスが俺のお腹に手を回すと、むにゅりと柔らかなふくらみが背中に押し付けられる。

 うーむ、前よりも少し大きくなった気がする。

 

「どうしたの、ハルトくん?」

 

 一向に動き出さない俺に痺れを切らせたアイリスが首を傾げた。

 

「何でもない。出発するよ」

 

 俺はアクセルを回すと、ミスリル鉱物研究所に向けてバイクを走らせた。

 

 

 東の郊外にある荒野に伸びる一本の長い道路を走っていると、遠くに見える小さな建物の上空を飛行機が過ぎ去っていくのが見えた。

 つい最近、フライス航空のアクアマリン飛行場が完成した。

 

 フライス航空は個人向け小型飛行機の製造販売を行うベンチャー企業だが、将来的には小型旅客機による旅客運送事業も行おうと計画をしている。

 

 今はアクアマリンとアルビオン平原にあるユダの町を繋ぐ定期便を作る為に、色々な準備をしているところだ。

 これは運び屋ファルコが引退することを知った顧客の要望に応えるものでもある。

 

 いずれはアクアマリン市民が気軽に王都ラブオデッサまでサクレアのライブを見に行けるようになるだろう。

 まあ、それもライブチケットを手に入れることができたらの話だが……。

 

 それはさておき、ミスリル鉱物研究所に到着した俺達はバイクを降りて鉄門のそばにある呼び鈴を鳴らした。

 するとすぐにバンと豆腐ハウスの扉が開き、白衣のエルフが飛び出してくる。

 

「おはようございます! ハルトさん、アイリスさん!」

「出てくるの早くない? もしかしてずっとスタンバイしてた?」

「それはもう、待ちきれなくて!」

「変な人だよね。本当にできるかも分からないのにさー」

 

 小躍りするレクナムを見てアイリスが呆れた顔をした。

 ここしばらく共同研究をしているので、彼女ももう慣れたものである。

 

「ま、それを確かめるのが今日の実験だ。行くぞアイリス」

「あっ、待ってよハルトくん!」

 

 俺は二人を連れて豆腐ハウスの隣に新しく建てられた実験棟に向かった。

 大扉を開けて照明を付けると、中の様子が目に入る。

 

 広い空間の中央には魔法瓶のように二重に真空断熱が施された円形のガラスケースが載せられたテーブルが置かれており、その周囲には翡翠色の月光充魔パネルがいくつも設置されている。

 

 月光充魔パネルから伸びた翡翠色の魔道線は魔力流入量を計るメーターを通って、近くのテーブルに置かれたティッシュ箱サイズの魔道バッテリーに繋がっていた。

 

 壁際に設置された棚には書き込みがされた真空ガラス瓶に入った試料がこれでもかというくらいに並んでいる。

 その中でも、特別な扱いを受けているのが一つ。

 

 俺は昇華回数が下部に表記された、1gの鉄ブロックが横に25個並んでいるガラスケースを眺めた。

 

 最初の10回程度は全く違いがない。

 ただ、昇華回数が11回を超えた辺りから変化が生じてきた。

 

 ぼんやりと青く発光した鉄ブロックは右に行くに連れてどんどん光を増している。

 鉄+24に至っては本物のミスリルと見まごうばかりの輝きを放っていた。

 

 天然ミスリルの塊であるブルームーンはこの星の衛星だ。

 ミスリルの正体は核融合反応の最終到達点、鉄の同位体なのかもしれない。

 それが様々な元素を核融合で昇華させる実験の結果から導き出された仮説だった。

 

「ささ、早くやりましょう!」

「ああ……分かった。すぐにやろう」

 

 催促(さいそく)された俺はゆっくりと歩いて部屋の中央のガラス瓶の前に立った。

 他の二人は計器の並んだテーブルの前に立って記録の用意を始める。

 

「プロテクション! 頑張って、ハルトくん!」

 

 アイリスの透明なプロテクションで身の安全を確保した俺は、両手を前に差し出して二重真空ガラス瓶の中に1gの液化水素を生成した。

 こいつが気化する前に昇華させなければならない。

 

「ニュークリアフュージョン!」

 

 錬金術スキルによって液化水素は青い光を放ち、液化ヘリウム+1に変化した。

 続けて錬金術スキルを行使してリチウム+2に昇華させる。

 

 この調子でどんどん行こう。

 ベリリウム+3、ホウ素+4、炭素+5—―

 

 

 ――カルシウム+19。

 現在レベル60の俺の魔力量は19万6000MB(マナバレット)、そろそろ息継ぎが必要だ。

 俺はレクナムに頼んで取り寄せて貰った特濃マジックポーションを飲み干した。

 

 市販のマジックポーションはスポーツドリンクみたいな美味しい味付けをされているのだが、非売品のこいつはとんでもなく苦い。

 まるで世界樹茶を煮詰めた液体を飲んでいるかのようだ。

 

 ぺっぺっ、これで5万くらいは魔力が回復しただろう。

 全快にはほど遠いが、最後まで行くには十分だ。

 

「レクナム、やるぞ……!」

「はい!」

「ニュークリアフュージョン!」

 

 錬金術スキルの熟練度を上げに上げた俺でもこの辺りにくるとキツくなってくる。

 ガラス瓶の中で青白く発光しているカルシウム+19に魔力をねじ込んで圧縮していくと、一瞬だけカッと強い光を放ってスカンジウム+20に昇華された。

 

 核融合による昇華の過程で物質は少しずつだがエネルギーに変わって目減りする。

 地上の物質はそのエネルギーが熱に変わるが、魔力で生成された物質は月光に含まれるものと同じ特殊なマナエネルギーに変化する。

 

 この特殊なマナエネルギーの波長を受けると、世界樹の枝を原料にして作られた月光発魔パネルは魔力を生み出す。

 そしてそれは人や魔獣も同じだ。

 

 天に浮かぶブルームーン……この世界の人々に魔力を与える神なる天体。

 人知の及ばぬ月光神の恩恵を、俺達はその手に掴もうとしていた。

 

 俺は疲労で全身に汗をかきながらも、必死に昇華を続ける。

 チタン+21、バナジウム+22、クロム+23、マンガン+24……前回はここで諦めた。

 

「これで最後だ……ニュークリアフュージョン!」

 

 どうあがいても入らないだろうと思うような硬い魔力の塊に、無理矢理魔力を押し込んで圧縮していく。

 

 まるで手のひらの上でブラックホールでも作っているような気分だ。

 限界を越えたスキルの行使で俺の脳が悲鳴を上げ始める。

 

 頭が熱い、息が苦しい、何で俺はこんなことをしているんだ。

 積み重なった肉体的、精神的疲労に俺の心が弱音を吐く。

 俺は思いっきり歯を食いしばった。

 

 これくらいのことで諦めていられるか。

 俺は何度だって、そう何度だって立ち上がってきたじゃないか。

 

 今日はレクナムだけじゃなくて、アイリスも見ている。

 このまま終わるようじゃ、格好悪いよな。

 

 大丈夫、俺ならできる。

 集中しろ、集中—―。

 

 

 俺は気が遠くなるような長い時間を掛けて、マンガン+24を鉄+25に昇華させた。

 それは青白く(まばゆ)い光を放ちながら、ガラス瓶の中に浮かんだ。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 荒い息を吐いて(ひざ)をついた俺に、アイリスが駆け寄って肩を抱いた。

 

「やった、やったよ……やったんだよ、ハルトくん!」

「間違いありません、本物のミスリルです!」

 

 ゆっくりと振り返った俺に、レクナムは魔力流入量を計るメーターを向けた。

 月光発魔パネルから生み出された魔力が魔道線を通り、持続的に魔道バッテリーに流入していることがそのメーターの針の位置で理解できた。

 

 俺がガラス瓶の中の青く発光する物体を動かして月光発魔パネルから距離を取ると、針が動き魔力流入量が減少した。

 逆に近付けると、また針が動いて魔力流入量が増えた。

 

「マジでできちまったな、ミスリル……」

 

 俺達の短くも長い、探求の時間が終わった瞬間だった。

 

 

 その後、俺達は人工ミスリルの検証を行った。

 まずは何といっても不壊性質。

 残念ながら、これは肩透かしとなった。

 

 薄い板状に成形した人工ミスリルを適当にハンマーで叩いたら、パリンと音を立てて割れてしまったのだ。

 

 人工ミスリルは割れた部分から少しずつ空気中に蒸発して消えてしまった。

 試しに細かく粉砕すると、さらに蒸発速度は早くなった。

 

 ミスリルの量を増やして検証してみたところ、ミスリルが不壊性質を発揮するにはある程度(大体1㎝くらい)の厚みが必要だということが分かった。

 

 生成できるのは俺の魔力をすべて使っても20g程度(作り溜めたマンガン+24を昇華して)なので、現状では武器や工業利用に活かすのは難しい。

 せいぜいダンジョン内で魔力の自然回復が可能なアクセサリーが作れるくらいだ。

 

 その代わりと言っては何だが、月光発魔パネルと人工ミスリルプレートを組み合わせて理論上の最高効率で魔力を生み出すミスリル発魔機を開発することには成功した。

 

 アイリスの言い分では、壊れるなら壊れにくいように保護して使えばいいじゃんということらしい。

 何にせよ、これで人工ミスリルに関する研究は一通り片付いた。

 

 レクナムは錬金術スキルの熟練度を上げてミスリルを作れるようになったら、論文を手に魔道学院へと帰りニュークリアフュージョンの術式化に努めることになる。

 俺とアイリスはその論文の片隅に共同研究者として名を残すだろう。

 

 ハムカー、飛行機、ミスリル……アクアマリンでやりたいことはすべて終わった。

 ついに俺達が西大陸へ旅立つ時がやってきたのだ。

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