マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
アンバー達との話し合いの結果、出発は雨期が明けてからにすることになった。
雨期明けに収穫されて売りに出されたドライイツカデーツを箱買いして手土産にしたいというのがその主な理由だ。
雨季は例年、春先に振る数日間の雨を指すので大体1ヵ月ちょっとは先になる。
その予定でゆっくりと準備をしていたのだが、そう予定通りにはいかないものだ。
結果として、俺達の旅立ちは慌ただしいものになってしまった。
運命を変えるその通達がきたのは、俺達がいつものように四層の巨竜原生林で狩りをしていた時のことだった。
遠征から3日目、午前の狩りを終えた俺達がジャイアントギガサウルスの背中の上でおにぎりを片手に昼食を取っていると、不意に胸元のギルドカードが振動した。
「四層で、救援要請……?」
「嫌な予感がするのう……」
この1年ちょっとの間に何度か低層で救援要請を受けたりはしてはいたが、四層でギルドカードが振動するのは初めてのことだった。
俺が懐から取り出したギルドカードを見てみると、表示されたマップには一層のダンジョンゲートの中心に赤、黄、緑の三つの光点が光っていた。
よかった、どうやら顔見知りが死んだわけではなさそうだ。
「アンバー、これってアレだよね」
「ギルド本部からの呼び出しじゃな。これから何を言いつけられることやら……」
これはギルド本部から上級探索者に送られる強制召集の合図だ。
呼び出された上級探索者は何かしらの面倒な仕事を押し付けられることになる。
分かりやすいところで言うとスタンピードの対応や厄介な魔獣の討伐などだ。
どんだけ頑張っても報酬は安いし(100万メルが上限)正直なところ断りたい。
でも、断ったらペナルティがあるしな……。
「呼ばれちゃったなら仕方がない。急いでギルドに帰るぞ」
「面倒な仕事は早く終わらせるに限るにゃ」
俺達はジャイアントギガサウルスの背から飛び降りると(俺はプロテクションの裏技で安全に着地した)、三層に繋がるゲートに向けて歩き出した。
ゲートの先の精霊樹海にはリポップしたエレメンタルが山ほど浮いていたが、今回はプロテクションを8秒間隔で張り直しながら強引に突破することにした。
「ミスリルの首飾り、作っておいてよかった。おかげでダンジョンの中でも魔力が使い放題だ」
「お主でなければ大して恩恵は受けられぬがのう。贅沢なことじゃ」
俺達はBランク探索者パーティー「こん棒愛好会」のトレードマークとして、こん棒の形に成形した人工ミスリルで作られた首飾りを装備している。
ジュエリーアクセサリー製作が趣味のレクナムがデザインした特別製だ。
ちなみにエクレアとアイリスにも同じものを作って渡した。
一応、1日だけとはいえ同じパーティーのメンバーだったからな。
エクレアは嫌がっていたが……無理矢理押し付けた。
「本当はアンバーにミスリルのこん棒をプレゼントしたくて研究していたんだけどさ、こんな形になっちゃって残念だったね」
走るアンバーにおんぶされている俺は背中の上から手を伸ばして、彼女の首元にある首飾りを
「ただの首飾りでさえ持て余しておるというのに、そんなものを貰っても貴重過ぎてろくに使えんわい」
「大丈夫だよ、絶対に壊れないから」
「そういう問題ではないのじゃが……まあええか」
おしゃべりをしている間に精霊樹海の外に飛び出したので、俺達はバイクに乗り換えて
目いっぱい急げばダンジョンの外に出るまで30分も掛からないだろう。
そうやって急いでダンジョンの外に出た俺達に、いつものように近くの川辺からナナミさんが声を掛けて……こなかった。
よくよく探してみたが、ダンジョン前広場の横に流れている川には誰の姿もない。
「あれ、ナナミさんいないな」
「ううむ、急ぐ必要はなかったかのう」
緊急性のあるものだったらまた別の符丁が送られるはずだから、それも当然か。
俺達は探索者ギルドのロビーまで行って受付の職員さんに聞いてみることにした。
「ギルド本部から召集を受けたのじゃが、何か事情は知っておるかのう?」
昼過ぎのガラガラなロビーの受付でうとうとしている人魚の職員さんに、アンバーはギルドカードを見せて尋ねた。
「ええと、ちょっと待ってくださいね……」
人魚の職員さんは手元の端末をちょちょいと操作した。
エクレアに聞いた話によると、これで地下の管制室に連絡しているらしい。
「迎えを呼びましたので、皆さんは水路のそばで待機していてください」
「うむ、助かったぞ」
「いえいえー、それほどでもー、ありまぁーすぅ……」
あーあ、寝ちゃった。
後で上司に怒られても知らないぞ。
「あちしもお昼寝したいにゃ」
「ミュールよ、もうちょっとだけ我慢するのじゃ」
水路のそばに移動した俺達が待機していると、水路の奥から守り人のリコリスが小舟を引いて泳いできた。
どうやら今回はダンジョンマスター直々に召集の理由を説明してくれるらしい。
「皆様、お待たせしました。どうぞこちらにお乗りください」
「リコリスさん、いつもお手数をお掛けしてすいませんね」
エクレアに会いに行く時は大体、守り人の誰かに送迎して貰うんだよね。
セキュリティの為とはいえ……難儀なことである。
「何をおっしゃいますか、ハルト様とアンバー様はエクレア様にとってかけがえのないお方。
「……あちしは?」
リコリスはそっとミュールから目をそらした。
「余所者の
「気にするなよ、俺達の中ではお前が一番友達が多いんだからさ」
「落ち込むのは腹が減っておるからじゃ。ほれ、これでも食うて元気を出すがよい」
俺とアンバーは仲間外れにされてへそを曲げたミュールをどうにかあやしてから、水路に浮かぶ小舟に乗り込んだのだった。
俺達はリコリスの
小舟から降りた俺達に、小さい方のソファで寝そべっていたエクレアが声を掛けてくる。
「みんな、やっときたわね。待っていたわよ」
「呑気なものじゃ。わしらは仕事を放り出してきたんじゃぞ」
「知ってるわよ、そんなこと。ミュールは会うの久しぶりね。元気にしてた?」
「もちろんにゃ!」
俺達が大きい方のソファに腰掛けると、エクレアは起き上がって姿勢を正した。
「さて、呼び出しの理由だけど……アタシも正直よく分からないのよね」
「そうなのか?」
「支部長から召集令状は預かっているから、読んでみて
エクレアは腕輪から小さな白い封筒を取り出してアンバーに差し出した。
その封筒の表には探索者ギルドの紋章が描かれている。
満月を食らう影……月食をモチーフにした紋章だ。
「『Bランク探索者アンバー、ハルト・ミズノ、ミュールの三名にダンジョン踏破の補助任務を命ずる。
手紙を読み終えたアンバーは顔を上げて俺達の顔を見回した。
「ムーンサイド探索者ギルドに、ダンジョン踏破の補助ねぇ……」
「隣は禁足地、聖都ブルームーンよ。もしかして、あそこのダンジョンマスターに何かあったのかしら」
「分からぬ。じゃが、ユニエルがわしらの力を必要としておるのなら手助けをせねばなるまい」
それは俺も同意見だ。
ユニエルには魔道顕微鏡の件を含めずとも、借りが山ほどある。
彼女に頼られて
「どの道、空路で西大陸に行くならムーンサイドのそばを通るわけだしな。ギルドの仕事はいつもみたいにサクっと片付けてしまおうか」
「それじゃあ、イツカデーツは諦めないといけないのかにゃ……」
何度も言うようだが、それこそが出発を先延ばしにした一番の理由であった。
年に一度、雨期明けにだけ収穫できるイツカデーツを乾燥させたドライイツカデーツは干し柿みたいな味がして超美味いのだ。
ミュールはこれが大のお気に入りで、去年は売りに出されてすぐに箱買いしたのだが半年も持たずにすべて食べ尽くしてしまっていた。
今年は去年の2倍買うぞと意気込んでいたから、それをいきなり諦めなければならなくなった彼女がショックを受けるのも仕方のないことだろう。
「まあまあ、来年の楽しみが増えたと思おう。それに、旅先でも美味いものはたらふく食えるだろうしさ」
俺は落ち込むミュールの背中をさすって
「むむむ……言われてみれば確かにそうにゃ。あちしもうっかりしてたみたいにゃ」
励ましの言葉でミュールはすぐに元気を取り戻した。
ことあるごとに落ち込んだり元気になったりと忙しい猫娘である。
「聖都のダンジョンか……異界の詳細な情報が非公開なのが気がかりじゃな……」
呑気な俺達と違って、リーダーのアンバーは何やら考えを巡らせているようだ。
「ま、アンタ達なら何とかするでしょ。お土産は珍しいぬいぐるみでよろしくねー」
エクレアは用事が済んだとばかりにソファにごろりと寝そべった。
育児を守り人に丸投げして、
「飛び切り珍しいものを探しておくから期待しててくれよな」
「期待しないで待っているわ」
「ちゃんとエクレアが喜ぶようなぬいぐるみ探してくるからさ。その時はお礼におっぱい揉ませてくれないか」
「絶対嫌よ」
子供が生まれてからはそれなりの
やっぱり下心があるからいけないのだろうか。
「減るもんじゃないし、ちょっとくらい良くない?」
「アタシの気持ちが減るの」
「そっかぁ……気持ちが減るかぁ……」
果たして俺がエクレアのおっぱいを揉む日がくることはあるのだろうか。
分からないが、少なくとも今日はその日ではなかったようだ。
両手をワキワキと動かして虚空を揉んだ俺は、ガックリと肩を落としたのだった。