マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第147話 旅立ちの前に

 探索者ギルドを出た俺達は早速、明日の準備を始めることにした。

 

「さて、そうと決まれば日の出ているうちに準備をせねばなるまい。明日の朝にはアクアマリンを出発するのじゃからな」

「じゃあ、俺はグンシモールで食料品の買い出しでもするかな。ついでにバタフライにも顔を出してくるよ」

「あちしはフライスのところに行って飛行機のメンテと予備パーツの調達をしてくるにゃ」

「ミュール、レクナムにもよろしく伝えておいて」

「分かったにゃ!」

 

 ミュールは取り出したバイクに(またが)るとビュンと走り去っていった。

 

「アンバーはどうする? 俺と一緒に行く?」

「グンシモールまでは同行するとしよう。わしは長老に頼まれていた本を調達せねばならぬからのう」

 

 アンバーは年に1度、近況報告も兼ねて故郷に手紙を送っている。

 彼女の育ての親は西大陸にあるハーフリングの里で長老をしているのだが、そのお爺さんから返ってきた手紙に手土産は本が沢山あると嬉しいと書かれていたそうだ。

 

「そういえば聞いてなかったけど、どれくらい買うつもりなの?」

「里にでかい図書館を作れるくらいじゃ!」

 

 アンバーはポーチから分厚いチェックリストを取り出して俺に見せてきた。

 Aランクのマジックバッグがあるとはいえ、一体何万冊買う予定なんだ……。

 

「今から半日で間に合うかな」

 

 そんなに買い占めたら本屋の本棚がスカスカになっちゃうぞ。

 俺が不安を口にすると、彼女は左腰の後ろに付けているポーチをポンと叩いた。

 

「本棚を含めてもう一通りは取り揃えておる。じゃから後は専門書の(たぐい)じゃな」

「それなら道中の街でも手に入るだろうし、心配する必要は無さそうだね」

「むふふ、フォス爺にわしの財力を見せつけて驚かせてやろうぞ」

「驚きすぎて心臓が止まらないといいけど……」

「なに、その時はハルトに治して貰うわい」

 

 俺達はそんなことを話しながら、探索者ギルドの近くに建っているグンシモール迷宮前店まで歩いていった。

 

 ショッピングモール内にあるカドカワ書店の前でアンバーと別れた俺は、スーパーマーケットに行って今回のダンジョン探索で消費した食料品を買い足した。

 ミュールのおやつ代わりに果物類も沢山買っておこう。

 

 ついでにエナジーバーとエナジードリンクも箱買いしておく。

 これだけあれば雪山で遭難しても1ヵ月は持つだろう。

 何事も備えあれば(うれ)いなしだ。

 

 

 1時間ほどで買い出しは終わったので、俺はその足で魔道具工房バタフライに向かうことにした。

 いつものように蝶のデザインがあしらわれた扉を開くとカランカランと音が鳴る。

 

 中を覗くと、どうやら今日もアイリスが店番をしているようだ。

 カウンターの向こうに座っていた彼女は俺の姿を見て少し驚いた表情を浮かべた。

 

「あれー、ハルトくんじゃん。ダンジョンに行ったんじゃなかったの?」

「ちょいとギルドから呼び出されてな。明日、街を出ることになったんだ」

「どこに行くの?」

「ムーンサイドでダンジョン踏破の補助。それが終わったらそのまま西大陸に行こうと思ってる」

「そっか、寂しくなるねー」

「ま、旅程が1ヵ月ばかり早まっただけだ。長くても半年くらいで帰ってくるつもりだから、大丈夫だよ」

「半年かぁ……」

 

 アイリスは小さくぼやくと、深く椅子に腰掛けて天井を見上げた。

 最近の彼女は考え込むことが多くなった。

 若者にありがちな進路の悩みだ。

 

 少し前に魔道学院に送った完成版DCS(器用さ補正システム)の術式が特許として認められたことで、アイリスは魔道学院の入学資格を手に入れていた。

 

 10代の若さで受験を飛び越して特待生として魔道学院に編入できるなんて、異例中の異例だ。

 

 アイリスは若き天才魔道具職人として魔道学院が発行する学術誌の表紙を飾り、世界中にいる研究者志望の魔道士(ウィザード)の憧れの的となっていた。

 

 俺も記念にその学術誌を書店で買って永久保存版にしたよ。

 中身? インタビュー記事以外は読んでないかな。

 

 だって専門用語のオンパレードで目が滑りに滑ってフィギュアスケートを始めちゃうんだもの……。

 

「やっぱり魔道学院には行かないのか?」

「うん、わたしにはここが一番だよ。誰かさんのせいでお客さんもいっぱいくるようになっちゃったしー」

 

 アイリスは作業台に置かれたいくつかのこん棒を指差した。

 俺がこん棒愛好俱楽部の定期集会で自慢したせいで、アイリスはこん棒マイスターとして名が売れちゃったのだ。

 

 人魚通り商店街の奥にあるこの店は一見さんお断りの知る人ぞ知る魔道具工房なのだが、それでも彼女に魔杖(まじょう)の制作を依頼したいという客は途絶えなかった。

 

「俺は謝らないからな」

「いいえ、謝罪と賠償を要求しまーす」

 

 椅子から身体を起こしたアイリスはカウンターに身を乗り出してにこりと微笑んだ。

 彼女の胸元に提げられたこん棒の形をしたミスリルの首飾りが、青白い光を放ちながら揺れている。

 

「ミスリルの首飾りじゃ足りないか?」

「だってハルトくん、みんなにも同じものを渡しているでしょ」

「そりゃあそうだけどさ……」

 

 俺はポリポリと頭の後ろを()きながら、言い訳の言葉を探した。

 全然出てこないので、今日のところは諦めて戦略的撤退をすることにした。

 

「まあ、考えておくよ。じゃあまた半年後、アルメリアさんにもよろしくな」

 

 俺が背を向けて店から立ち去ろうとすると、アイリスが俺を呼び止めた。

 

「ハルトくん」

「なんだ?」

 

 俺は振り返ってアイリスの顔をじっと見つめた。

 編み込んだサラサラとした銀髪に褐色の肌、揺れる紫色の瞳。

 未だ成長の途上にある、いつものアイリスの顔だ。

 

「……やっぱり何でもない。元気でね」

 

 彼女は俺に何かを伝えようか悩んで、そして諦めたようだった。

 可哀想だけど、進路の悩みは自分で解決するしかないだろう。

 

 次にアクアマリンに帰ってきたらいなかったりして……。

 なんてな、その時はネフライトまで会いに行けばいい。

 Aランク探索者はネフライト王国に簡単な審査で入国できる権利があるのだ。

 

「ああ、元気でな」

 

 俺はアイリスに別れを告げると、魔道具工房バタフライを後にした。

 アルメリアさんのおっぱいを見納めすることができなかったのだけが残念だった。

 

 最近はいつ行ってもアイリスに店番を任せて外出しているんだよな。

 アイリスに聞いた話ではアクアマリン湖の中心にあるマーメイドの街で遊びまわっているらしいし……魔道具工房は若い跡継ぎに任せて隠居気分ってか。

 

 まあ、それもアルメリアさんの自由だ。

 今日のところはエクレアのおっぱいだけで満足しておくとしよう。

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