マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第148話 忍者!ハヤテ!

 翌日、日の昇る前に起きた俺達は朝も早くから宿を旅立った。

 バイクに乗って向かったのはアクアマリン市の西の郊外だ。

 市街地を抜けてレッドラインを越えた俺達は荒野のど真ん中でバイクから降りた。

 

 そしてバイクの代わりにミュールが腕輪から取り出したのは、洗練された見た目をした和風なカラーリングの小型プロペラ飛行機。

 その名も忍者ハヤテ号、予算度外視で作られたミュール専用の試作飛行機だ。

 

 俺達は上に開いた耐魔ガラス製の風防の隙間からコックピットに乗り込んだ。

 中は前後に並んだ複座式で、後ろにちょっとした荷物の置けるスペースがある。

 

 ミュールは操縦席に座ると、各計器を一通りチェックしてから後部座席に座った(アンバーは俺の膝の上だ)俺達に振り返った。

 

「問題なしにゃ」

「よし、出発しよう」

「出発進行にゃー!」

 

 ミュールはカチカチといくつかのスイッチを入れて魔道エンジンを始動する。

 操縦席左のレバーを引くと、搭載したミスリル発魔機から生み出された魔力を使ったホバークラフト機構が発動して機体がわずかに浮き上がった。

 

 エクレアのポッドなどに使われているこのホバークラフト機構によって、不整地での安全な離着陸が可能になった。

 これがなければ今頃俺達はカナン行きの夜行バスに乗っていただろう。

 

 ミュールが操縦席右のレバーを引くと、浮遊した飛行機は荒野を滑って勢いよく空に飛び立った。

 

 安定飛行に移ったところで最後に操縦席左のレバーを奥まで押し込むと、機体の魔力供給状況を示す簡略化された飛行機のシルエットをした計器の光が切り替わった。

 

 魔石動力の魔道エンジンにミスリル発魔機から魔力を供給することで、魔石の消費を軽減するハイブリット機能が発動したのだ。

 忍者ハヤテ号は世界最先端の技術をつぎ込んだスペシャルな飛行機なのである。

 

「後は真っ直ぐ飛ばすだけだから楽なもんだにゃ。フライスさまさまにゃ」

 

 ミュールは窓際に広げた航空地図(バードマン郵便などで使われているものだ)を見ながら片手で操縦桿を握っていた。

 もう片方の手には、朝にモモちゃんから貰ったハムマン焼きが握られている。

 

 流石に2年も経つとモモちゃんも成長していて、旅立ちの時の別れはとてもあっさりとしたものだった。

 

 まあ、今のモモちゃんにはシンイチお兄ちゃんがいるからな。

 アンバーがこれまで行っていた探索者指導もディノガルド達にお願いすることになっているし、何も心配することはないだろう。

 

「ううむ、聞いてはいたが凄い速さじゃ。もうルメー砂漠に入ったみたいじゃぞ」

 

 アンバーは風防から下を見下ろして(うな)っている。

 俺は試作段階の時に(墜落時の機体損傷を避ける為のプロテクション要員として)散々乗せられたからもう慣れっこだ。

 

「何事もなければ昼過ぎには中継地のテバールの街に着くはずだ。今日はそこで一泊だな」

 

 チューブ荒野の西にあるルメー砂漠は、有史以前から存在する由緒正しい広大な砂漠地帯だ。

 

 太古の昔からルメー砂漠に住む砂漠の民はダンジョンをオアシスの代わりにして生活していた。

 水や肉といった食糧と、木材や鉱物資源を手に入れる為だけの場所として。

 

 彼らはダンジョンが成長するとその場所を離れて別の若いダンジョンに居を移す。

 スタンピードの対策だというが、Bランクのダンジョンにすら潜ろうとしないのは慎重が過ぎるというものだ。

 

 ダンジョンマスターシステムが完成した後もその風習は変わらず、彼らは現在も探索者ギルドに頼らない生活を続けている。

 

 ちなみに高ランクダンジョンを放置するのは勿体(もったい)ないといって、彼らが離れたダンジョンの周囲に入植しようとすると怒り狂って殺しにくるらしい。

 

 古い信仰とはそれほどに変え難いものなのだろう。

 探索者ギルドの天使達はそういった文化を尊重して、現在も彼らとは距離を取っている。

 

 

 眼下に広がるルメー砂漠には円形をした低い塔のような巨大な建物が十数キロ単位の距離を置いて点々と建てられている。

 あれこそが砂漠の民の象徴であり、ダンジョンゲートを迎え入れる為の施設だ。

 

 ダンジョンは他のダンジョンが存在しない平地であればどこにでも口を開く可能性があるが、流砂の流れ続ける砂漠にそのような場所は多くない。

 だからこそ、ああやって人工的に平地を作っているのだそうだ。

 

 平らな円形の屋根に魔物の影絵が大きく描かれたあの塔はダンジョンの塔と呼ばれていて、普段は砂漠を行く旅人の休憩所として利用されている。

 迷った時の目印にもなるし、一石三鳥ということだな。

 

「テバールが見えてきたにゃ!」

「んっ……ぬう、もう着いたのかのう」

 

 そのミュールの声で、俺の膝の上で眠っていたアンバーは目を覚ました。

 昨日は夜遅くまでアクアマリン中を駆け回って書店巡りをしていたアンバーはとてもお疲れのようだったので、ゆっくり寝かせてあげたのだ。

 

「もうすぐだってさ、アンバー」

 

 ドラゴンやワイバーンといった危険な魔獣の狩り尽くされた中央大陸では突然の襲撃を警戒する必要もなく、のんびりとした空の旅だった。

 

 遠くに見えるテバールの街は円形の塀で囲われたよくある城塞都市だ。

 テバールのダンジョンにはダンジョンマスターはいないので、あれは純粋に魔獣や砂の侵入を防ぐ為のものだろう。

 

 あんまり近くに飛行機を飛ばして警戒されても困るので、俺達は少し離れた場所に飛行機を止めることにした。

 

 ミュールは操縦席左のレバーを引いてホバークラフト機構を発動させると、続けてエアブレーキを掛けて飛行機を減速させた。

 飛行機は流砂の上を滑り、砂丘の上でふわふわと浮かびながら停止する。

 

「じゃ、ちょっと床を作ってくるよ」

「手早く頼むにゃ」

 

 風防を開けると、カンカンに照らす太陽に熱された空気が俺を襲った。

 おおっと、こいつは不死鳥の羽衣が必要になりそうだ。

 

 俺はコックピットから手を伸ばすと、土属性スキルで生み出した石を砂丘の上に広げて飛行機を止める為の平地を作った。

 ただ止めるだけなら必要ないが、砂が入るとメンテに手間が掛かるからな。

 

「ミュール、もういいよ」

「助かるにゃ」

 

 俺が声を掛けると、ミュールはタイヤを出した飛行機を石の床に降ろした。

 全員がぴょんと石の床に飛び降りたら、飛行機を装具に仕舞っておしまいだ。

 

「ここはアクアマリンと違って暑いのう」

「不死鳥の羽衣、使っちゃう?」

「そうじゃな、上から外套(がいとう)を着ればごまかせるじゃろう」

 

 俺達はポーチをガサガサして取り出した不死鳥の羽衣を身に(まと)い、その上にアルストツカ洋裁店で買ったフードを被った。

 これで日差し対策もばっちりである。

 

 それにしても、ミュールの猫耳フードが登場するのは久々だな。

 具体的に言うと90話ぶりくらいだ。

 

「いっぱい運転してお腹が減ったにゃ。早く街に行ってお昼ご飯を食べるにゃ!」

 

 せっかちなミュールはこのまま街まで走りたがったが、ここでアンバーにおんぶされるのもな。

 人目のある場所ではハーフリングライダーはあんまりやりたくない。

 

「ミュール、今度は俺に任せてくれないか」

「何をする気にゃ」

「そりゃあ、俺の愛車で砂漠を優雅にドライブさ」

 

 俺は石の床を変形させて大きなハムカーを作った。

 いつもフリーマーケットで乗っているやつだ。

 

「このハムカー、本当にあちしより速く走れるのかにゃ?」

「まあ見てなって、縞々(しましま)砂地で鍛えた俺の砂漠走りを見せてやるぜ……!」

 

 アクアマリン一層の縞々(しましま)砂地はジャイアントハムマンの出現する異界だ。

 俺は知り合いのハムマン愛好家に頼まれて一緒にペット用のジャイアントハムマンを捕獲しに行ったりしていたので、砂漠は慣れたものなのである。

 

 疑わしい目で見るミュールを横目に運転席に乗り込んだ俺は、PUIPUIと足音を立てながら勢いよくハムカーを走らせたのだった。

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