マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第150話 とあるダークエルフの半生

 腹もくちたところで、俺達はシャールの実家まで案内されることになった。

 そこはテバールの街の中心地にある石造りの塀に囲まれたでかい木の屋敷……。

 

「シャール、お前の実家ってもしかして……」

「まあ、そういうことだ」

 

 彼はこのテバールの街を支配するカーン族の族長の息子だった。

 魔杖(まじょう)を持った守衛の立っている門をシャールを先頭に通って敷地に入ると、庭で花の世話をしていたダークエルフの侍女が足音に気付きこちらに振り返った。

 

「シャール(ぼっ)ちゃん、お客様ですか?」

「聞いてくれアデニウム、こちらの方々ははるばるアクアマリンからやってきた上級探索者なんだよ」

「なんと、アクアマリンから……」

 

 俺はアデニウムという名前を聞いた時点で嫌な予感がしてきた。

 まさかとは思うが……。

 

「もしかして、アルメリアさんのご家族の方ですか?」

「!! どうしてそれを!?」

 

 !! じゃないが。

 俺はどこに行ってもアルメリア・ダークエルフ族にぶち当たるな。

 そういう星の下に生まれているのだろうか。

 

「アデニウム、どういうことだい?」

「まだシャール(ぼっ)ちゃんにはお話ししていませんでしたね。私の出自のことを……」

 

 なんか長い身の上話が始まりそうだったので、落ち着いて話のできる場所に移動させて貰うことにした。

 

 

 アデニウム、砂漠のバラという意味の名を持つ彼女は御年(おんとし)410歳。

 彼女が生まれたのはアクアマリンのダンジョンが踏破され、街が出来始めた頃のことだった。

 

 当時はまだアクアマリン湖もなく、アモロ共和国に繋がる道路もなかったアクアマリン市の主な交易相手はルメー砂漠に住まう砂漠の民だったそうだ。

 

 砂漠の民は交易の(かたわ)ら、一流の魔導具職人であるアルメリアさんの作る魔道具を求めて頻繁に彼女の工房を訪ねていた。

 

 昔から性に奔放(ほんぽう)だったアルメリアさんはそんな彼らを取って食ったりしていたわけで……その結果としてアデニウムはこの世に生を受けた。

 

 実の母親と、工房を訪れる砂漠の民からともに愛情を受けて育ったアデニウムは魔導具職人の卵としてすくすくと成長していった。

 

 転機が訪れたのは彼女が20歳になった時のことだ。

 

 彼らの住まう城塞都市のダンジョンがBランクに成長したことをきっかけに、砂漠の民はアクアマリンから遠く離れた場所にある若いダンジョンの塔……つまりここテバールに居を移すことになったのだ。

 

 もう二度とこの街にくることはないだろう。

 想い人であった砂漠の民の戦士からいきなり告げられたその言葉。

 アデニウムは工房を去っていく彼を追いかけ、そして振り返った彼の手を取った。

 

「そうして私はこの砂漠の民の一人となりました。何も言わず家を出て行ってしまったので母には大変な心配を掛けてしまいましたが、今でも後悔はしていません」

「おお……これぞ愛じゃな」

 

 俺達は庭先でお茶を頂きながら、アデニウムの身の上話を聞いていた。

 目の前の水場では小汚いガキだったビーバーがミュールに洗われている。

 

 二人とも全裸だが、ロリコンじゃない俺達にはあんまり関係ないな。

 ミュールはケモ化しているからシャールに見られても別に気にしないって感じだ。

 ……と、もう洗い終わったのか二人は水滴を(したた)らせながらこちらに歩いてきた。

 

「ハルト、タオルくれにゃ」

「はい」

 

 俺は座っていた縁側の横に積んであったタオルを手に取って二人に渡した。

 身体を拭いて二人が服に(ビーバーは他の使用人が持ってきた子供服だ)着替え終わったところで、アンバーはおもむろに席を立った。

 

「さて、ビーバーよ。(みそぎ)の時間じゃ」

「みそぎ……? って何だよ」

「探索者ギルドの法では盗みは懲罰の対象じゃ。お主は運よくわしらに拾われたことで許されたと思っておるようじゃが、甘い。子供であろうと必ず罰は受けねばならぬ」

「ひぇっ……」

 

 背を向けて逃げ出そうとしたビーバーの前にアンバーがシュバッと回り込んだ。

 残念、リトルジャイアントからは逃げられない。

 

 アンバーが脇に抱えたビーバーを建物の陰に連れて行くと、そこからバシン、バシンと音が鳴り始めた。

 もちろんビーバーの悲鳴もセットである。

 

「凄い音だけど本当に大丈夫なのかい?」

「あちしの経験上問題ないにゃ」

「そ、そうか……」

 

 シャールはなんか引いているようだ。

 衛兵の癖にやけに小心者だな。

 普段から盗人に鞭打ちとかしてるんじゃないの?

 

「それで、アデニウムさんは家を飛び出してからどうしたんです?」

 

 どうでもいいので俺は続きを催促(さいそく)した。

 

「ええと、それはですね――」

 

 想い人と結ばれたアデニウムはルメー砂漠の大移動を始めていた砂漠の民に合流し、7日間に渡る旅の末に現在のテバールの街までやってきた。

 

 彼女は砂漠の民で唯一の魔道具職人としてテバール魔道具職人(クラフター)組合を立ち上げた。

 当時、この街で魔道技術資格を持つのはアデニウムしかいなかったのだ。

 

 彼女はテバールの街に立ち寄ったバードマン郵便のバードマンに渡りを付けて、魔道具制作に必要不可欠な素材や教材になる本を調達した。

 そして魔導士(ウィザード)を育成する塾を開いて素質ある若者に教育を行った。

 

 夫との間には息子も恵まれ、アデニウムは忙しくも豊かな生活を送っていた。

 しかし、長命種と短命種の寿命の差は如何(いかん)ともしがたいものだ。

 砂漠の民となってから50年もしないうちに、彼女は夫と死別することになった。

 

 その頃には魔道具職人の仕事は優秀な息子がすべて引き継いでいて、魔導士(ウィザード)の塾も同様に老齢の優秀な弟子が塾長となっていた。

 

 先生、先生と呼ばれ何をしようにも周りが勝手にやってくれるような状態で、アデニウムは完全に暇を持て余していた。

 もうこの街から出て行ってしまおうか、彼女はそう考えるようになった。

 

 そんなある日、アデニウムに当時の族長が声を掛けた。

 出来の悪い孫の教育係をしてくれないかと、そう頼んだのだ。

 彼女は喜び勇んで引き受けると、侍女服に袖を通して鼻息荒く指導を始めた。

 

「気付けば300年が経っていました。こうなると当時を知る人は息子以外誰も残っていないので、こうしてただの侍女として自由に振舞っているというわけですね」

「アデニウムにそんな過去があったなんて知らなかったな」

「シャール(ぼっ)ちゃんは勉強がお嫌いでしたからね。少しは御父上を見習ったらどうですか?」

「人には向き不向きというものがあるんだよ。僕に学は似合わないね」

「またそんなことを言って……」

「それに、次の族長には僕よりも相応(ふさわ)しい者がいるだろう」

 

 そう言ってシャールは隣に座っている俺の顔を見た。

 

「えっ、僕ぅ? (裏声)」

「なんじゃその声は……」

 

 どうやらお仕置きが終わったアンバーが、ビーバーを脇に抱えてこちらに戻ってきていたようだ。

 ボケたつもりが(あき)れられてしまったな。

 

「ひぃ、ひぃ……」

「リジェネレーション」

 

 丸出しにしたお尻を真っ赤にさせてひぃひぃ言っているビーバーに右手を向けた俺は、()えてリジェネレーションを行使した。

 ビーバーの全身に右手から放出された青い魔力の波が降り注いでいく。

 

 あっという間に彼女のお尻の赤みは消え、虫歯のある歯は生え変わり、()せていた手足の肉は張りを取り戻していった。

 

 アンバーの腕から解放されて大地に降り立ったビーバーには、ストリートチルドレンだった面影など欠片も残っていない。

 こうして健康体に戻った姿を見ると、ちゃんとした可愛い女の子じゃないか。

 

「うおお! 力が(みなぎ)るー!」

「うるさいにゃ……」

 

 活力が満ち満ちたビーバーが叫びながらダダダと庭先を走り出すと、俺の膝枕で寝ていたミュールは目を覚ました。

 

「これが本物のリジェネレーション……!」

「シャール、俺に治して欲しい人がいるんだろう?」

「分かるのか?」

 

 シャールとは短い付き合いだが、それでも分かることはある。

 彼には特別な治療を必要とする兄弟がいる。

 それも体のとても弱い兄弟が。

 

 だからルメー砂漠から遠く離れたアクアマリンにある探索者ギルドの病院まで連れて行くことができない。

 

 族長の息子が衛兵の真似事をしていたのも、恐らくは遠方からやってくる旅人に会う為だったのだろう。

 ここはルメー砂漠を越えて西方に向かおうとするバードマン達の中継地だ。

 

「分かるさ、それくらいはな」

 

 立ち上がった俺はアンバーの隣に並んで、シャールのその砂漠の民固有の深緑(しんりょく)の瞳を真っ直ぐに見つめた。

 するとシャールは膝に両手を置いて深々と頭を下げた。

 

「ハルト……頼む。俺の妹を、シルキーを治してくれ」

「お安い御用だ。報酬は……そうだな、今日の宿賃にさせて貰おうか」

 

 こうして俺は軽い気持ちで彼の頼みを請け負ったのだった。

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