マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
ルメー砂漠に住む砂漠の民には、生まれつき体の一部を持たない者がいる。
恐らくは近親婚を繰り返して血が濃くなりすぎた
彼らは古いしきたりに従い、赤子のうちにその者をダンジョンに還すのだという。
シャールの妹、シルキーは両の眼を持たずして生まれた。
本来であれば彼女も赤子のうちにダンジョンに還されるはずだった。
しかし先天性色素欠乏症……砂漠の民の
産後の肥立ちが悪く亡くなってしまった妻の存在もそれを後押ししたのだろう。
シャールの父、族長のアルマは苦心の末にしきたりを破りその生を隠して育てることにした。
アルマは肌の弱いシルキーを日の当たらない屋敷の土倉の地下に
教育の甲斐もあり、18歳になったシルキーは聡明な淑女として成長していた。
シルキーは成人し、嫁に行ける歳になった。
問題は彼女の存在が砂漠の民の禁忌であることだ。
両の眼を持たないシルキーを表に出せば、どのような扱いを受けるか分からない。
しかし彼女がこのまま一生、誰も愛することなく暗い土倉の地下で生涯を終えるのは
どうにかならないものか……と父と息子は頭を悩ませていた。
そんなある時、風の噂で探索者ギルドが再生医療サービスを始めたことを知った。
だが日の光を一度たりともを受けずに育ち、酷く虚弱なシルキーを連れてルメー砂漠を越えることは不可能だ。
ならばこのテバールの街に探索者ギルドを誘致するのはどうか。
いいや我らはダンジョンとともに生きる砂漠の民、ダンジョンを支配する探索者ギルドを受け入れることはできない。
族長がそのようなことを言い出したら、間違いなく多くの血が流れる。
愛娘の将来は大事だが、それでは本末転倒だ。
こうして八方塞がりの状態で困っていたところにぴょいと現れた探索者の一団。
そう、俺達「こん棒愛好会」だ。
俺はちょっとした偶然が重なって、シャールにリジェネレーションが使えることをカミングアウトした。
先ほどビーバーに1度使ったが、魔力はまだまだ
早速、砂漠の民の宝だというシャールの妹のご尊顔を拝ませて貰うとしよう。
俺達はアデニウムに案内されて、屋敷の裏手にある大きな土倉までやってきた。
アデニウムが錠前を外し重そうな鉄の扉を引き開くと、土倉の中に光が差す。
綺麗に掃除された土倉の中には豆や芋の詰まった大袋が整然と並び、棚には大小様々な箱が並んでいた。
アデニウムは土倉の奥に行くと、二階に続く階段の下に潜り込んで壁に描かれた紋章に手を触れた。
すると音を立てて正面の壁が横にスライドし、地下へ続く隠し階段が姿を現した。
「こんなに厳重に隠す必要ある?」
何かのホラーゲームにでもありそうな仕掛けだぞ。
「作っているうちに
「忍者屋敷みたいでワクワクするにゃ!」
ビーバーを肩車しているミュールが喜んでいるようなので良しとするか。
アデニウムが隠し階段の横の壁にあるスイッチを押すと、壁に付けられた照明の明かりが深い闇の中に点々と灯った。
「皆様、足を滑らせないようにご注意ください」
先導するアデニウムに続いて地下深くに降りていくと、広い地下空間に出た。
どうやらここは砂漠の地下に元からある天然の洞窟のようだ。
自然洞に整備された道の先の突き当たりには木組みの牢があり、その牢の中に敷かれた大きな
「ようこそ、いらっしゃいました……」
白装束を着ている白い髪を床まで伸ばした、白い肌の美しい少女だ。
両目を隠す白い眼帯を身に着けているが、それでも器量の良さは見て取れる。
シャールは一歩前に出ると、牢に近付いてその少女に呼び掛けた。
「シルキー、お医者さんを連れてきたよ。もう、何も心配する必要はないんだ」
「お兄様、分かっております。すべて、すべて聞こえていました……」
目が見えない人は他の五感が研ぎ澄まされるってアレかな。
この世界はスキルがあるから、その能力はより強化されるのかもしれない。
「ふむ、それは悪いことをしたか。ビーバーの鳴き声はさぞうるさかったじゃろう」
「鳴き声って言うな!」
「面白い方ですね……」
ミュールの上で
「アデニウムさん、どうして彼女を牢に入れているんですか?」
「掘ってみたら古代の砂漠の民が作ったであろう地下牢が見つかったので、折角なので使わせて貰うことにしました」
「本当にそれだけ?」
「それだけです」
真顔で言われると流石にこれ以上は追及できなかった。
真相はともあれ、きちんと仕事はしないといけないだろう。
「じゃあ、失礼して」
靴を脱いだ俺は木組みの格子状の扉を開いて(鍵は掛かっていなかった)牢の中に入ると、シルキーの正面に片膝立ちになった。
彼女の眼帯を外すと、両目の
「ちょっと見せて貰いますね」
「はい……」
俺は右手を向けると、医療スキルで身体に魔力波を通して健康チェックをした。
……こいつは酷いな。
見た目からは分からないが、彼女は内臓が酷く弱っている。
心臓を含めたいくつもの臓器が未発達のまま奇形化していて、腎臓に至っては一つしかないようだ。
背骨は歪んだまま固まっている上に、骨密度が低く骨の中はスカスカだ。
寿命を迎える前の老人のような、転んだだけで全身の骨を折って死にそうな状態。
よくこの歳まで生きていられたな……。
「
「よろしくお願いします、ハルト先生……」
「俺はそんな大層なものじゃないさ。言うなればただの闇医者、ブラック・ジャックってところかな」
俺は
そしてお腹の上に両手をかざして、思いっきり魔力を込める。
「リジェネレーション!」
降り注いだ
その
まずは重要な臓器から治さなければならない。
俺は彼女のDNAから引き出した人体の設計図を基に、元からある心臓に融合する形で再生させた。
肺、肝臓、腎臓—―。
不具合が起こらぬように細心の注意を払いながら一つ一つ、丁寧に修復していく。
ユニエルから学んだ医療スキルのおかげか、それとも土属性スキルの(錬金術スキルも広義的な意味で土属性の範囲内とする)鍛錬で
これなら一度で全部済ませることができそうだ。
時間は掛かったが、臓器の治療が終わったので肉体の修復に移る。
バキバキと音を立てながら歪んだ全身の骨格が正常な位置に戻り、青白い肌に血の気が通い、枯れ枝のようだった細腕に筋肉と脂肪が付いていく。
遅れていた性徴を取り戻すかのように、浅い呼吸を繰り返す薄い胸が膨らんで盛り上がった。
最後に両目を再生させて脳に視神経を繋ぐと、俺はほっと息を吐いて力を抜いた。
精神の集中の為に閉じていた
「終わった。これで問題ないはずだ」
俺が立ち上がって牢の外に出ると、シャールは入れ替わるように牢の中に入った。
「シルキー!」
長時間の施術の間に寝てしまったのか、すうすうと寝息を立てるシルキーをシャールは抱き上げて呼び掛ける。
「目を開けてくれ、シルキー!」
「うるさいです、お兄様……」
目を覚ましたシルキーは一瞬だけ目を開けたが、
それからパチパチと慣らすように何度も
「お兄様は、このような顔をしていたのですね……」
「本当に、見えるんだね」
シルキーがシャールの頬にそっと手を触れると、褐色の肌につぅと涙が流れた。
「ええ、はっきり見えます。お兄様の汚い泣き顔が……」
「汚いって、それはないだろう」
「それ以外にどう言い表せばいいというのですか……」
冗談めかして言うシルキーに、シャールは困ったような顔で微笑んだ。
俺達は二人の兄妹が見せる仲