マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第152話 アルビノスク水箱入り娘

 俺達はリジェネレーションによる治療を終えたシルキーを連れて土倉の下にある洞窟の地下牢から屋敷まで戻った。

 

 アデニウムに付き添われながら白ずくめの少女が広い木造の屋敷の中をゆっくりと歩くと、その姿を見た使用人達はあまりの美しさに息を呑んだ。

 

「ご、ご当主様を呼びに行かなければ!」

「シルキーお嬢様が、シルキーお嬢様が……!」

 

 シルキーが生まれる前から屋敷に勤めていたであろうベテランの使用人は彼女の存在を認識していたようだが、それ以外の若い使用人には存在すら知らされていなかったらしい。

 

 慌ただしく動き出したベテランの使用人とは対照的に、若者達は未だに彫像のように固まってボケっとしている。

 

「これっ! 仕事に戻らんかい!」

「はい、ただいま!」

 

 おっと、おばちゃんの侍女にお尻を叩かれて慌てて自分の仕事に戻っていった。

 

「いつもはもうちょっと静かなんだけど、騒がしくて済まないね」

 

 俺の隣を歩いていたシャールは彼らの様子を見て困った顔をした。

 

「そうじゃなきゃ頑張った甲斐がないというものさ」

 

 俺達は広い客間に案内されて、そこで夜になるまで(くつろ)がせて貰うことになった。

 きちんと手入れをされた美しい花々が咲き誇る中庭が見える開放的な空間だ。

 

 この部屋は風の通りが良くて外よりも全然涼しいみたいなので、俺とアンバーはローブと不死鳥の羽衣をポーチに仕舞っていつもの探索者姿に戻った。

 ちなみにミュールはビーバーを洗った後からずっと忍者服のままである。

 

「君達はあのアクアマリンのダンジョンを踏破したことで有名なBランク探索者パーティー『こん棒愛好会』だったのか。天使でもないのにあれほどの医療スキルを持っているなんて、上級探索者というのはとんでもない化け物揃いだな……」

 

 シャールは勘違いしているようだけど、天使以外でここまで医療スキルを鍛えているのは俺を除けば魔道学院の医学者くらいだ。

 まあ、上級探索者が化け物揃いって言うのには同感だ。

 

「このような場所にもわしらの名声が(とどろ)いておったとはのう。驚きじゃ」

「時折やってくるバードマン達から伝え聞いた話だから、知っているのは僕を含めても少数だけどね。何しろここの住民は外への興味が薄いんだ」

「一応、他の城塞都市に住む砂漠の民との交流はあるんだろう?」

「危険な魔獣のうろつくルメー砂漠を渡るのは優れた戦士でないと難しいから、あまり交流は活発ではないね」

 

 ダンジョンの塔だけで生活のすべてが完結する弊害(へいがい)だろう。

 彼らには危険を(おか)して外と交易をする必要がないのだ。

 

「うーん、もうちょっと外の血を入れるように努力した方がいいと思うよ。血の病を克服するにはそれしか方法はないんだ」

「外の血か……。ありがとう、考えておくよ」

 

 大きな絨毯(じゅうたん)に座って使用人が持ってきた茶を飲みながらシャールと話をしていると、奥の部屋に引っ込んでいたアデニウムがシルキーを連れて戻ってきた。

 

「ど、どうでしょうか……」

「これは……!」

 

 恥ずかしそうに頬を赤らめているシルキーは紺色のスクール水着を着ていた。

 その隣にはシルキー付きの侍女見習いとして就職が内定したビーバーがスク水姿で立っている。

 

「何でオレまで着なきゃいけないんだよ」

「だって、私だけでは恥ずかしいでしょう……」

 

 どうやらビーバーは主人に巻き込まれただけらしい。

 

「シルキーお嬢様はお肌が弱いですからね、これからはこの特別な水着を着て生活を送って頂きます。私のお下がりで申し訳ありませんが、これ以上のものはこの世に存在致しませんので……」

 

 400年モノのアルメリア・ダークエルフ族伝来の装備が継承されている……。

 

 それにしても、アルビノスク水箱入り娘か。

 俺は目の前に立つシルキーの全身をしげしげと眺め回した。

 

「うぅ……見ないでください、ハルト先生……」

 

 シルキーは両手で顔を(おお)った。

 感覚がマヒしているけど普通にセクハラだよな、これ。

 

「まあ、すぐに慣れると思うよ」

 

 シルキーのおっぱいは並みだしな。

 スク水性癖を持っていない俺はそこまで彼女に()かれていない。

 俺の恋人はアンバーだけで十分だぜ。

 

「むぅ……」

 

 俺があぐらの上にちょこんと座ってむくれているアンバーのお腹を()でていると、遠方からドタドタと大きな足音が聞こえてきた。

 姿を現したのは、あご(ひげ)を生やした褐色肌で茶髪の壮年の男性だ。

 

「シルキー、病が治ったというのは本当か!?」

「お父様!」

 

 彼がこのテバールの街を支配するカーン族の族長のアルマか。

 アルマはシルキーに走り寄ると、彼女の小さな身体をぎゅっと抱きしめた。

 

「その目……本当に、本当なんだな……!」

「ええ、ハルト先生が治してくださったのです……ポッ」

 

 シルキーは俺の方を見てまた頬を赤らめた。

 

「ハルト先生だと……!」

 

 釣られて俺を見たアルマはこちらをキッと(にら)みつけてきた。

 おお、これはまさかあの伝説の……。

 

「どこのラムダ(ラクダ魔獣の名前)の骨とも知らぬ男に娘はやらんぞ!!!」

「にゃ!?」

 

 そのアルマの大きな叫び声で、絨毯(じゅうたん)の上に丸まって昼寝をしていたミュールが飛び起きた。

 

「お父様、命の恩人に何ということを……!」

 

 おおっと、ここでシルキーの往復ビンタが決まった。

 両頬を赤く腫らしたアルマは後ずさるようにしてシルキーから離れると、右手で自身のほっぺに触れた。

 

「こ、この痛み……亡きヤーノと同じ……クッ!」

 

 何か勢いでシルキーの嫁入り先が決まりそうな雰囲気になっているけど、俺にはアンバーがいるから絶対に無理だぞ。

 というか……。

 

「俺達は急ぐ旅の途上で、明日にはここを()たねばならない身です。非常に残念ではありますが、その申し出を受けることはできません」

「そうなのですか……?」

 

 シルキーは目を伏せてしょんぼりとしてしまった。

 こうも分かりやすく落ち込まれると、こっちもしょんぼりしてきちゃうな。

 

「はい、そうなのです。シャールには治療の対価としてこの屋敷に一泊させて貰うよう頼んでありますが、アルマ様にもお願いできますか?」

「ああ、もちろん構わない。そうか、旅人か……そうか……」

 

 アルマはやけに嬉しそうである。

 まあ、これで一件落着といったところだろう。

 俺はうんうんと頷くと、再びアンバーのお腹を()でる作業に戻ったのだった。

 

 

 夜になり屋敷の大広間に案内された俺達は、そこで晩餐(ばんさん)を取ることになった。

 床に敷かれた大きな絨毯(じゅうたん)の上には、大皿に乗った豪勢な料理が所狭しと並べられて食前の挨拶を今か今かと待ち望んでいる。

 

 俺は左隣でよだれを垂らして座っているミュールが料理に手を出さないように牽制しつつ、全員が揃うのを待っていた。

 

 しばらくすると正装に着替えたアルマがシャールとシルキーを連れてやってきて、並べられた料理を挟んで俺達の正面に座り込んだ。

 俺達の前に置かれた木の(さかずき)に使用人達が陶器の瓶から酒を注いだ。

 

「待たせてすまない。さあ、今こそ宴を始めよう!」

 

 アルマが木の(さかずき)を掲げたので、俺達もそれに(なら)った。

 ぐびりと飲み込むと、かすかに芋の香りがする甘い酒精が喉の奥に落ちた。

 初めての味だが、悪くないな。

 

「いい酒じゃ……」

 

 右隣に座るアンバーはしんみりとしながら味わっていた。

 どうも、彼女はこのお酒を気に入ったらしい。

 

「はふはふ……はふはふ……」

 

 ミュールは平べったいナンみたいなパンに無言で食らいついている。

 美味そうだな、どれ俺も……。

 

 山のように積まれた大きな平パンを一つ手に取ってちぎってみると、中に入っていたチーズがみょーんと伸びた。

 

 絨毯(じゅうたん)に落とさないように慌てて口に運ぶと、濃厚なチーズの旨味に続いて独特な風味が鼻を抜けた。

 あのラクダみたいな魔獣の乳で作ったのだろうか、癖になりそうな味だ。

 

「客人よ、砂漠の民に古くから伝わる伝統の味はどうだ?」

 

 俺達が無言で(きょう)された料理に舌鼓(したづつみ)を打っていると、アルマがそう尋ねてきた。

 

「お昼に食べたものもそうですが、とても美味しいですね。これなら毎日でも食べられそうです」

「ハハハ、毎日食べられたら困ってしまうな。この料理は我々でも特別な日にしか食べられないのだ」

「今日以上に特別な日はそうそうないでしょう。ね、お兄様……」

「そうとも。今日のことはこの先100年は語り継がれることになるだろう」

「シャール(ぼっ)ちゃん、私のことをお忘れですか? 1000年は語り継ぐに決まっているではありませんか」

 

 アデニウムの冗談めかした物言いに、周りから笑いの声が広がった。

 流石の俺でも1000年も語り継ぐと宣言されるのはちょいと恥ずかしい。

 

 でも俺達「こん棒愛好会」は後世に伝説を残すのが仕事みたいなものだしな……。

 俺は(さかずき)を口に運ぶと、酒と一緒に羞恥心(しゅうちしん)を飲み込んだのだった。

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