マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第155話 バードストライク

 砂漠の街テバールを出立した俺達の乗るプロペラ飛行機、忍者ハヤテ号は雲一つない青空の下、輝かしい朝日を受けながら砂漠の上空を飛んでいた。

 

「いやー、アンバーは普段からあんなことをしてたんだにゃ。あちしには到底耐えられそうにないにゃ」

 

 前方の操縦席に座っているミュールが両手で操縦桿を握りながらそう(こぼ)した。

 ミュールさん、朝っぱらからシモの話ですかい。

 

「わしらでもあのようなことはラブホテルに行った時くらいしかせんわい。のう、ハルト」

「普段は房中術スキルなんて使わないし、もっとソフトな感じだよ。第一、あんなこと親父さんとモモちゃんのいる宿でできるわけないでしょ」

「そうなのかにゃ? ちょっと安心したにゃ」

 

 あれから結構時間が経ったのに、ミュールは恋人を作る気配がまるでなかった。

 まあ、彼女の交友関係と言えば整備工場で働くドワーフに走り屋のハーフリングだから仕方のないことではあるが。

 

「ミュールさ、今回の旅が終わったら婚活でもしたらどう? 化身スキルを使い(こな)せるようになった今のミュールなら同族の獣人にも結構モテると思うんだけど」

「実は一度だけ婚活パーティーに行ったことがあるんだけどにゃ。財産目当ての変なオトコしか寄ってこなかったから蹴っ飛ばして帰ってきたのにゃ」

「あらら……」

 

 こういう失敗経験は後々引きずるって上級探索者のおっさん連中が言ってたな。

 どうにかならないものだろうか。

 

 俺が頭を悩ませていると、ミュールが迂闊(うかつ)な発言を繰り出した。

 

「昨日のアレでアンバーもなんだかんだ言って甘いことが分かったからにゃ、発情期がきてムラムラしたらあちしも土下座してヤらせて貰うことにするにゃ」

 

 そんな気軽に貸し借りされるような扱いをされても困るんだが……。

 それに、こいつイく時絶対「にょほ〜」とか言い出すだろ。

 アンバーに頼まれてもミュールの相手だけは勘弁願いたい。

 

「ミュールはそんなこと言っているけど、アンバーはどう思う?」

 

 俺は後部座席から後ろに振り返って、小さな貨物スペースにクッションを敷いて寝ころんでいるはずのアンバーに聞いてみることにした。

 

「むにゃむにゃ……」

 

 アンバーは柔らかなクッションに埋まってスヤスヤと寝息を立てていた。

 

「アンバーが寝てなきゃこんな冗談言えないにゃ。お仕置き待ったなしだからにゃ」

「ああそう……。昼まで時間はあるし、俺も少し寝るか。ミュール、後は頼んだよ」

「了解にゃー」

 

 俺はポーチから取り出したアイマスクを身に付けて、座席に深く身を沈めた。

 (かす)かな揺れと魔道エンジンの出す音に包まれながら、俺はゆっくりと夢の世界に沈んでいった。

 

 

 懐かしい夢を見た。

 

 なぜ夢と分かるかというと、俺は探索者服を着たまま日本にいた頃に住んでいた実家の自室のベッドに腰掛けていたからだ。

 

明晰夢(めいせきむ)ってやつかな。こんなの初めてだ」

 

 勉強机を占拠している、高校入学のお祝いに買って貰ったゲーミングPCのモニターには昔プレイしていたネトゲの画面が表示されていた。

 試しにマウスを操作してみたが、画面は一切動かない。

 

「畜生、これじゃあ懐かしのお宝画像が見られないじゃないか。詰まらん夢だ」

 

 俺は異世界に転生したことで、前世の相貌(そうぼう)記憶を失っている。

 それを証明するかのように、棚に置かれた家族写真に写った顔は俺を除いて真っ黒に塗りつぶされていた。

 

「少しくらい良い夢を見せてくれたっていいのに」

 

 不満を吐き出した俺が自室の扉を開くと、その先には真っ暗な闇が広がっていた。

 ヒュウヒュウと吸い込まれる風に乗せられて、俺は闇の中に放り出された。

 

 俺は重力のない空間をふわふわと漂いながら、闇の中を流されていた。

 見えないようで見えるその空間には、真珠色に輝く巨大な巻貝のような構造物があちこちから生えている。

 

 今なら分かる。

 あれはダンジョンの外殻だ。

 どうして今までずっと忘れていたんだろう。

 

 そう思った瞬間にパッと視界が移り変わった。

 目の前に浮かぶのは空間から生えた翡翠色をした大きな枯れ木のようなもの。

 これは世界樹の根だ。

 

 古代のエルフが生み出した、ダンジョンコアに寄生して()らせる魔法の植物。

 だからこの先はきっと、ネフライト王国に繋がっている。

 

 幹をくり抜いてこの異空間から脱出したら、俺はどんな扱いを受けるんだろうな。

 探索者ギルドに送られて第一級懲罰でも受けるのだろうか。

 あーやだやだ、せっかくの夢なのに嫌なことを想像してしまった。

 

 ぶんぶんと首を振って世界樹の根から目を()らすと、遠方の闇の中から変なものが近付いてきていることに気が付いた。

 形容しがたい姿をした、白く輝くナニカの群れだ。

 

「まさか、これがダンジョンの幼体—―」

 

 それらは俺の方に向かってふよふよと泳いできて、そして――。

 

 

 ガン、という大きな揺れで俺は深い眠りから目を覚ました。

 

 突然の緊急事態に、ぼやけていた意識が一気に覚醒する。

 俺はアイマスクをバッと外して周囲の状況を確認した。

 

「どうした!?」

「平気にゃ! でも……」

 

 ミュールが左翼を指差したのでそちらに目を向けると、風防から見えるプロペラ飛行機の翼に赤いものがべったりと付着していた。

 

「バードストライクかのう。どうじゃ、フライトに支障はないか?」

 

 後部座席の後ろからひょっこり顔を覗かせたアンバーがミュールに尋ねた。

 

「あちしの忍者ハヤテ号はこの程度ではビクともしないけどにゃ。血で汚れたまま飛ばしていると楽しい気分が()がれてきちゃうにゃ」

「昼にはまだ早いけど、一度どこかに降ろすとするか」

「そうだにゃー……」

 

 ミュールは窓際に広げてある航空地図をなぞってランドマークを確かめた。

 

「丁度近くにイイ場所があったにゃ。このストーレの街にするにゃ」

 

 せっかちなミュールは返事も聞かずに操縦桿を切って方角を変えると、少しずつ飛行機の高度を落としていった。

 すぐ正面に城塞都市が見えるが、その壁はテバールと違ってボロボロの状態だ。

 

「これじゃあ、まるで廃墟じゃないか」

遷都(せんと)の跡じゃろう。ほれ、あのダンジョンゲートが見えぬか?」

 

 廃墟の上空を飛ぶ飛行機の風防から城塞都市の中心地を見ると、何もない空中に真珠色の平べったいダンジョンゲートが浮かんでいる様子が目に入った。

 

「そっか、そういうことか……」

 

 かつては存在したであろうダンジョンの塔は完全に解体され、地面にその名残だけが残されていた。

 

「あの辺りがいいかにゃー」

 

 廃墟の中にイイ感じの広い更地を見つけたミュールは、操縦席左のレバーを動かしてホバークラフト機構に切り替えるとエアブレーキを掛けた。

 飛行機は残された慣性によって地面の上を滑った後、ふわりと空中で静止した。

 

 そして俺達はゆっくりと地面に着陸した飛行機から、ルメー砂漠に浮かぶ廃墟の街に降り立ったのだった。

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