マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第157話 グレゴリーホテル

 廃墟の街ストーレから更に西に飛んで6時間、この広い広いルメー砂漠にもようやく果てが見えてきた。

 

 俺達の乗るプロペラ飛行機、忍者ハヤテ号はこれまでずっと遠くにあった中央大陸西部を(へだ)てるヘルモン山脈、そのすぐ近くまでやってきたのだ。

 

「グレゴリーホテルが見えてきたにゃ!」

 

 ミュールは操縦する飛行機の高度を上げながら、そう声を張り上げた。

 今日の俺達の宿泊先はもうすぐそこだ。

 

「おお、あれがかの有名な……」

 

 ところどころが緑に塗られた岩山が連なる山々の中心、最も高い山の頂点にそのホテルは建っていた。

 真珠色に輝くダンジョンゲートを抱える、コの字型をした3階建ての豪邸だ。

 

「ミュール、飛行機は降ろせそうか?」

 

 建物の周囲は切り立った崖になっていて飛行機が着陸できそうなスペースが全然見当たらないんだけど、どうしたものかな。

 

「無理そーだからこのままダンジョンゲートに突っ込むにゃ!」

「マジかよ!?」

「マジにゃ! 二人とも、しっかり掴まってろにゃ!」

 

 慌ててシートベルトが締まっていることを確認した俺に、(ひざ)の上に座っていたアンバーが座位スタイルでぎゅっと抱き着いた。

 

 ミュールは高度を上げた飛行機をダンジョンゲートに向かって急降下させる。

 俺はいつでもプロテクションを張れるように身構えて、その時を待った。

 

 勢いよく虹色の膜の中心を通り抜けた飛行機はダンジョン内の狭間(はざま)平原の上空をぐるりと旋回しながら高度を下げて着陸し、草原に長いタイヤ跡を残しながら停止した。

 

「ふぃー、あちしもやれるもんだにゃ」

「ミュール、ゲートの付近に誰かがいたらどうするつもりだったんだ」

「全然考えてなかったにゃ!」

「やっぱり……」

 

 ここにくる(たび)にこんなやり方をするのは心臓にとてもよろしくない。

 これは近場に飛行機の発着場を作る工事をさせて貰う必要がありそうだ。

 もしも景観が悪くなるとか言われて断られたらどうしようか。

 

「今回は何事もなかったのじゃからええじゃろう。ほれ、ゆくぞ」

 

 アンバーが風防を開けてさっさと飛行機から降りてしまったので、俺は心配事を後回しにして彼女に続くことにした。

 

「よっ、と」

 

 俺がぴょんと飛び降りて草むらに着地すると、少し遅れて降りてきたミュールが装具に飛行機を仕舞う。

 

「さて、天使御用達の5つ星ホテルの実力を見せて貰うとするかのう」

「腹減ったにゃ。早く晩ご飯が食べたいにゃー」

 

 俺達はてくてく草原を歩いてダンジョンゲートに飛び込むと、ひゅるりとした冷たい空気の流れる山頂に飛び出した。

 

「うぅ、寒っ……」

 

 横着して防寒着を取り出さなかったことが(あだ)になった。

 早く温かい屋内に入らないと(こご)えちゃう。

 

「あちしはそうでもないにゃ」

 

 ミュールは化身してケモ化していた。

 

「化身するなよ、ズルいな」

「わしは慣れておるからそこまでではないのう。むしろこの薄い空気が懐かしいくらいじゃ」

 

 まあ、アンバーはそうだろうな。

 寒さに(こご)えた俺はすぐ正面にある「GREGORY HOTEL」と書かれた看板が頭上に()えられた両開きの扉を押し開いて建物の中に入った。

 

 おお、室内は空調が効いていてとっても温かい。

 ホテルの中は広々としていて、シックな雰囲気のある上品な内装をしていた。

 

「おや、珍しいお客様ですね」

 

 顔を向けると、そこにはホテルマン風の恰好をした短髪の天使の男が立っていた。

 男装の麗人という表現が正しい美しいアルビノの天使の額には、ダンジョンマスターであることを示す瞳を模した大きな刻印が刻まれている。

 

「わしはBランク探索者パーティー『こん棒愛好会』のリーダーをしておるアンバーじゃ。急で済まんが一泊させて貰えるかのう」

「俺はハルト・ミズノだ」

「あちしはミュールにゃ」

 

 俺達が懐から取り出したギルドカードを見せながら挨拶すると、彼はにこりと微笑みながら返事をした。

 

「ええ、ええ。もちろん構いませんとも。私は当グレゴリーホテルのオーナーをしております、ラファエルと申します。以後お見知りおきください」

 

 ラファエルから受付カウンターに置かれた端末の前まで案内された俺達はギルドカード払い(バニーガーデンよりも高額だった)でチェックインさせて貰った。

 

「お客様。ディナーの時間まで今しばらくの間、ごゆるりとお過ごしください」

「うむ、頼んだぞ」

 

 俺達は食堂の隣にあるラウンジで夕食が始まるまでゆっくり休むことにした。

 

「我慢、我慢……空腹が最高のスパイスなのにゃ……」

 

 空きっ腹を抱えてソファに丸くなるミュールを横目に、俺はアンバーと並んで柔らかなソファに座り大きなガラスの窓から夕日に染まるヘルモン山脈の西を眺めた。

 

「アンバー、夕日が綺麗だね」

「絶景じゃのう。無理を押してやってきた甲斐があるというものじゃ」

 

 グレゴリーホテルは4000年の歴史を持つ世界最古のホテルだ。

 統一帝国時代にヘルモン山脈の山頂に建てられたこのホテルは、中央大陸中部と西部を行き交う天使達の憩いの場として愛されたという。

 

 ポゴスタック帝国が滅び月光教が台頭しようとも、月光教が滅び探索者ギルドに主権が移ろうとも、このホテルは変わらずこの場に存在していた。

 ここに住む天使は外部の影響を跳ね退けるだけの力を持っているということだ。

 

 とはいえいい加減ダンジョンの成長を抑える必要ができたのか、オーナーのラファエルはダンジョンマスターに就任したようだ。

 何しろ、大きくなったダンジョンゲートが建物に侵食しそうになっていたものな。

 

「なぜこのような場所に只人(ただびと)が……?」

 

 いつの間にかやってきていた、魔導士(ウィザード)っぽい服装をした長髪の天使が俺達を見て首を傾げた。

 

 おおっ、俺の性癖に刺さるくらい胸がでかい……!

 だが、服装と語り口からして恐らく性自認は男性だろう。

 天使はすべからく両性具有なのである。

 

「乗り物を使って空を飛んできたんですよ。ええと、あなたはこのホテルの従業員の方でしょうか?」

 

 休暇を取ってオフの最中なのかもしれないけど、なんか探索者ギルドの職員っぽくない雰囲気をしているので聞いてみた。

 

「私はグレゴリーホテルの居候、といったところです。……ん!?」

 

 彼は何かに気付いたのか目を見張った。

 あー、視線で何に驚いたか分かっちゃった。

 

「ミスリル!? それも、一つじゃない……!」

 

 俺達の胸元に提げられたこん棒の形をしたミスリルの首飾りは青白い光を放ちながらその存在を主張していた。

 

「一体どこで……いや、これは人工物だ。どうやった、どうやって作った!?」

 

 彼は血走った目をして俺に(せま)ってきたが、その肩をアンバーが抑えた。

 

「そう焦るでないわ。わしらは逃げも隠れもせんわい」

「まずは自己紹介をしませんか?」

 

 俺がそう提案すると、彼は正気に戻ったのか少し離れて姿勢を正した。

 

「おっと、済まない。興奮すると(われ)を忘れるのは悪い癖だ」

 

 彼が懐から取り出して掲示したギルドカードには、このようなステータスが表示されていた。

 

 アザゼル 1527歳 ランクS 魔道士(ウィザード) Lv210

 魔力S 筋力A 生命力A 素早さS 器用さS

 

「私の名はアザゼル。どこにでもいる、ただの魔導士(ウィザード)だ」

 

 何がただの魔導士(ウィザード)だ。

 月光教を滅ぼしこの世界の勢力図を塗り替えた、とんでもない怪物じゃないか。

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