マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第160話 復讐の終わり

 ここまで聞いた俺の感想としては、裏切って当然だろというものだった。

 だってルシフェルって名前からして裏切りそうだし……。

 完全にユダ枠じゃんね。

 

「身内の裏切りか。これは(こた)えるのう」

「歴史の教科書にはそんなこと書いてなかったにゃ。……ラファエル、お代わりにゃ!」

 

 ミュールは食後のデザート「オトメロンのタルト~セルフィアイチゴのソルベとともに~」のお代わりを要求した。

 この二つの菓子を合わせて食べると、甘く酸っぱい恋の予感の味がする。

 

「どうぞ。お客様にこれだけ喜んで食べて頂けるとは、料理人冥利(みょうり)に尽きますね」

 

 ラファエルはニコニコと笑みを浮かべながら、サービスワゴンに載っていたオトメロンのタルトを大きく切り分けてミュールの皿に移した。

 

「ダンジョンマスターシステムについて一つ気になっていることがあるんですけど、質問いいですか?」

「何でも聞いてくれ(たま)え。答えられることは答えよう」

「どうしてアザゼルさん、それにラファエルさんはダンジョンマスターになったんですか? 魂が削れてしまえば、不老の天使でさえもいずれは死に繋がるはずです」

 

 この世界の人間の寿命は種族によって大きく異なる。

 そしてそれは魂の寿命と言っていいものだ。

 

 俺が医療スキルを駆使して肉体の若さを保っても、いずれぽっくりと死ぬだろう。

 多くの歴史書に記された、天使に頼り延命を図った王の末路と同じように。

 

「天使は生まれつき陰と陽、二つの魂を持っている。だからこそ魂の損耗よりも回復速度が上回り、負担を限りなくゼロに抑えられるのだ。ダンジョンマスターシステムに適した種族はゴブリンを除けば、我々天使だけだろう」

「そうか、だから両性具有……」

「ああ。残念だが、君が恋人と添い遂げることはできない。それを忘れず、短い生を謳歌(おうか)するといい」

 

 アザゼルには俺の真意を見透かされてしまったか。

 そう、俺はずっとアンバーとの寿命の差を気にしていたんだ。

 ハーフリングの彼女は少なくとも俺の倍は長く生きるから……。

 

「……はい、心に刻みます」

「お主はそんなことを気にしておったのか。死ぬまで若い嫁と過ごせるのじゃから、別にそれでええじゃろう」

「アンバーは本当にそれでいいの?」

「どーせわしもエクレアやモモ、アイリスらを残して先に死ぬのじゃ。気にする方がおかしいと、そうは思わんか?」

 

 アンバーがスプーンですくったセルフィアイチゴのシャーベットはゆっくりと溶けて液体となり、皿の上に(したた)った。

 それはまるで、時間の流れを暗喩(あんゆ)しているかのようだった。

 

「あちしらの仕事は子供を残すことだけにゃ。後のことは知らんぷりにゃ」

「それは、そうだけどさ……」

 

 すべての生き物は血の繋がった子孫を残すことだけを目的に存在している。

 川を遡上(そじょう)したサケが繁殖を終えて命を落とすように。

 子供の成長と巣立ちを見届けた後の人生は、長い長いロスタイムでしかない。

 

「そろそろ、続きを話そうか」

「すいません、話の腰を折ってしまって」

「構わん。若人(わこうど)よ、老人の長話にもう少しだけ付き合ってくれ」

 

 いよいよアザゼルの生涯を(つづ)る昔語りも大詰めだ。

 これから俺達は秘されていた、空白の10年間を追うことになる。

 

 

 白昼に迷宮都市アザゼルで発生したダンジョンスタンピード、その被害は目を(おお)うものになった。

 

 その時ダンジョンに潜っていた探索者達は異界の収縮に巻き込まれ、全員が命を落とした。

 

 勇気ある探索者は避難する民草の盾となり、雪崩のように襲いくる魔物を相手にして次々と力尽きていった。

 街の上空には深層からやってきた竜種が飛び交い、翼を持つ人々を牽制した。

 

 この私と言えど、深層の魔物を(まと)めて相手にするのは厳しかった。

 魔力は有限で、持てるマジックポーションは数少ない。

 無限の魔力を与える世界樹の雫さえこの手にあればと思わずにはいられなかった。

 

 ダンジョンスタンピードから一夜が過ぎると、魔物は魔獣へと変じ野生に帰った。

 残されたのは瓦礫(がれき)の山と化した都市と、(おびただ)しい数の死体だけだった。

 

 私は(わず)かな生き残りを瓦礫(がれき)の下から探し出し、自然回復したなけなしの魔力で癒し続けた。

 他の迷宮都市からの救援がやってくるまで、何度も、何度も……。

 

 涙が()れ果てるなど、初めての経験だった。

 私は自身の愚かなエゴによって、我が子に等しいアザゼルの民を失った。

 

 (わず)かな生き残りを(ともな)って、私は迷宮都市イクリプスへと(おもむ)いた。

 中核となる幹部職員を失った世界各地の探索者ギルドを急いで立て直さなければならない。

 

 私はイクリプスのギルドマスタールームで死者のリストを確認した。

 ベリアル、ウェリネ、……、アスタロト、……、……そして我が友ヴァレス。

 

 多くの同志を失い、ルシフェルの植え付けた疑心の種が私の心を(さいな)んだ。

 その時の私には信ずべき誰も彼もが敵に見えていた。

 心を病んで動けなくなる前に、先を見越して行動する必要があった。

 

 私は襲撃の少し前から、ギルドカードシステムを組み直そうと考えていた。

 当時は「魔道具職人(クラフター)ライザの冒険」の影響で世界の公用語がスタック語からティアラ語に移り変わっていた過渡期だったからだ。

 

 私はギルドカードの術式を創新して職業欄に自己認識機能を付け加えることで、職員の中に隠れ潜んだ月光教徒を探し出した。

 

 その多くが私のかつて信頼した弟子だったことに失望が抑えられなかった。

 まともな弟子はみな聖人に殺されたのだから、それも必然だった。

 私は聖人の襲撃を装い彼らを密かに始末し、幹部職員を若い人材に入れ替えた。

 

 迷宮都市アザゼルの消滅から10年、時は満ちた。

 

 教皇マモンの生誕を祝う祭事に乗じて聖都に侵入した私は、目についた全ての者を魔道の力で石像に変えた。

 文字通り、全てだ。

 

 地方の教会を束ねる月光教の指導者は私の腹心が全て捕え、処刑した。

 月光教徒の手で愛する人を失った者は大勢いた。

 一度動き出してしまえば、もはや誰にも止められない。

 

 各地の教会に(はりつけ)にされた聖職者の死体を見た人々は我らの行いに恐れ(おのの)いたが、怒りに任せて石を投げる者を止める者はほとんど居なかった。

 

 それだけ、月光教の腐敗は公然の事実となっていたのだ。

 そして私の手によって聖都の闇が暴かれたことで人々は月光教を完全に見限った。

 月光教はあらゆる国で禁教とされ、聖書は一部を残して焚書(ふんしょ)された。

 

 月光教によって(あお)られていた国々の争いは次第に収まり、中央大陸は平穏を取り戻した。

 

 私は最後の仕事として、世界中の探索者ギルドを(めぐ)り天使の石像を設置した。

 多くの教訓と(いまし)めを残し、私は表舞台から姿を消した。

 

 

 アザゼルは空になったワイングラスに酒瓶を傾けたが、出てきたのは一滴の(しずく)だけだった。

 

「私は信仰の対象(キリスト)になるつもりはない。人々の信仰は心の内にあればそれでよいのだ」

「それも異世界人から聞き出した知識ということですか」

「マイケルは信心深かったが、心が弱かった。彼は望郷の念を抱えたまま、生まれ()でしダンジョンの内に消えていった」

 

 どうやらアザゼルが出会った帰還者(リターナー)は日本人ではなさそうだった。

 

「私にこれ以上語れることはない。ハルト・ミズノよ、対価を頂こうか」

 

 アザゼルにとって、ミスリルの情報は自身の秘密を話すだけの価値があるということだろう。

 

「人工ミスリルの生成技術……これは俺の友人に与えられるべき名誉です。知り得た情報を一切表に出さないことを約束して頂けますか?」

「ギルドマスター・アザゼルの名において、必ず内に秘めることを誓おう」

「アンバー、ミュール。悪いけど、先に休んでいて欲しい」

 

 俺がそうお願いすると、二人はこくりと頷いて席を立った。

 

「あちしはアンバーとお風呂に入ってくるにゃ」

「では、また後でのう」

 

 アンバー達はラファエルに案内されながら、浴場に向かって歩いていった。

 

 二人を見送った俺は、アザゼルに人工ミスリルに関わるすべての情報を話すことにした。

 

「俺達はこのスキルのことを錬金術スキルと呼んでいます。その理由は――」

 

 彼はこの世界でもっとも優れた頭脳を持つ人間だ。

 詳細を隠そうとも、(わず)かなヒントで真実まで到達するだろう。

 

 好奇心によって彼がこのホテルを消し炭にする前に核融合スキル、そして核分裂スキルの注意点を説明する必要があったのだ。

 

「星を創る技術か。君のいた世界がそれだけの技術力を持っていたとは、驚いたな……」

 

 俺がテーブルに置いたケースに収められている試料の入った小瓶を手に取って観察しながらアザゼルはほう、と溜息を()らした。

 

「魔力のない世界ではすべてが机上の空論でしかありません。それでも、人は技術によって月まで到達できるんです。莫大なコストが掛かるので、行ったのは歴史上でも数度だけでしたけど」

「なるほど、よく理解した。ハルト・ミズノよ、最後に錬金術スキルを使うところを見せてくれるか」

「もちろん、構いませんよ」

 

 俺はテーブルの上のケースを引き寄せると、作り溜めていたマンガン+24を20gほど取り出した。

 鍛冶スキルでこねて真球に加工して、念動スキルで眼前に浮かべる。

 

「ニュークリアフュージョン!」

 

 最初は憔悴(しょうすい)するほど苦労したのに、慣れというのは恐ろしい。

 全力疾走した後くらいの疲労感を残して、マンガン+24はミスリルに昇華された。

 

「これが……人工ミスリル」

 

 青白く発光しながら宙に浮かぶビー玉サイズのミスリルの球体にアザゼルは手を伸ばしたが、その手は空を切った。

 なぜなら俺が自身の手元に引き寄せたからである。

 

「譲ってはくれないのか」

「情報の対価は情報だけです。これ以上先が欲しければ……分かりますよね?」

 

 俺がアザゼルの豊満な胸元に目線を向けると、彼は引いた様子で胸元を隠した。

 

「欲望に正直な男だ。あの話を聞いてもなお私の肢体(したい)を求めるなど……」

「何も最後までして欲しいわけではありません。ちょっとばかり、そのお胸でぱふぱふして貰えればそれでいいんです」

 

 俺はでかいおっぱいさえあれば男でも一向に構わんぞ。

 だってリベサガをプレイした時、ワグ〇スのおっぱいでめっちゃシコったもん。

 アザゼルは雰囲気がワ〇ナスっぽい人だし、この機会は絶対にモノにしたい。

 

「ぱふぱふ……?」

「はい、ぱふぱふ」

 

 俺は両手で顔をぱふぱふするジェスチャーをした。

 

「……分かった。ぱふぱふだけだぞ」

 

 俺はアザゼルにぱふぱふして貰った。

 その至福の感触に、これまでの努力のすべてが報われた気がしたのだった。

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