マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第162話 古都ムーンサイド

 バリバリヒバリが春の訪れを告げる3月の昼過ぎ、俺達は西方諸国の一国であるセルフィア王国の田舎町、その外れにある小高い丘でピクニックをしていた。

 

 俺はプロペラ飛行機の翼を日陰に、草原に敷かれた絨毯(じゅうたん)の上で朝にラファエルから貰ったサンドイッチに大口を開けて(かじ)りついた。

 

「ふまい……(美味い……)」

 

 上下に切られた柔らかなバゲットにはこれでもかというくらいに肉と野菜が挟まれていて、長距離フライトで腹ペコになった若者の胃袋にピッタリのものだった。

 

「ムーンサイドまで後ちょっとだにゃー」

 

 絨毯(じゅうたん)に腹ばいになったミュールはハンバーガーを片手に、絨毯(じゅうたん)の上に広げた航空地図を眺めていた。

 

「ミュールよ、目的地までどれくらい掛かるか分かるか?」

 

 アンバーはハーフリングサイズのサンドイッチを小さなお口でついばみながら尋ねると、ミュールはほっぺを膨らませてもぐもぐと咀嚼(そしゃく)していたものをゴクンと飲み込んでから答えた。

 

「何事もなければ3時間くらいで着くにゃ。だからお昼寝する時間は十分あるにゃ」

「ふむ、ならば午後の2時頃に出発するかのう。それくらいの猶予(ゆうよ)はあるじゃろう」

「流石に1分1秒を争うようなことはないだろうしな」

 

 そういうわけで俺達はゆっくりとお昼休憩を取ってから出発したのだが、辿り着いた古都ムーンサイドには思わぬ光景が広がっていた。

 

「うわー、何にゃあれは!?」

 

 風防から眼下を見下ろしたミュールが目を丸くした。

 なんと中世ヨーロッパ風の建造物が建ち並ぶムーンサイドの街に向かう幹線道路には、どこまでも続く車の渋滞ができていたのだ。

 

「ムーンサイドは(さび)れた街だって聞いてたんだけど、何があったんだろうか」

 

 古都ムーンサイドは月光教の総本山のお膝元にある都市ということもあり、かつては西方諸国の中でもっとも栄えていたという。

 

 だがアザゼル事件の余波で聖都ブルームーンに立ち入り制限が掛けられたこと、加えて都市の主権が探索者ギルドに移ったことでどんどん人が離れていった。

 

 今では古い街並みを活かした観光業でなんとか食い繋いでいるような、そんな(さび)れた街だと聞いていたのだが……なぜこのようなことになっているのだろうか。

 

「聞いてみれば分かるじゃろう。ミュールよ、飛行機を降ろすのじゃ」

「了解にゃ!」

 

 ミュールはレバーを操作してホバークラフト機構を発動させると、上手いことやって飛行機を道路脇の何もない草地に軟着陸させた。

 

 全員降りて飛行機をミュールの装具に仕舞った俺達は歩いて道路の方に向かう。

 あちこちからプップーとクラクションの鳴り続ける渋滞に突っ込んで、トラックの運転席の窓から片腕をぶらりと出しているハーフリングの運ちゃんに話し掛けた。

 

「のう、お主。この渋滞はどういうことじゃ?」

「誰だ? お前らは」

 

 彼は口に(くわ)えていた棒付きキャンディーを手に持って怪訝(けげん)そうな顔をしている。

 どうでもいいけど、小学生みたいな見た目のハーフリングがタバコ代わりに丸キャンディーじゃ眉間に(しわ)を寄せてガン付けられても全然怖くないな。

 

「誰でもええじゃろう。のう、聞かせてはくれぬか?」

「明日、ムーンサイドでサクレアのライブコンサートをやるんだよ。そんで他の街でライブを聞いてファンになったやつらが押しかけてるってわけ。本当いい迷惑だよ」

 

 渋滞を作っているのは一般サクレアファンの追っかけ連中か。

 きっと西方諸国では二度とないかもしれないライブコンサートの機会を逃したくないのだろう。

 

 それは好きにしたらいいと思うけど、車用の装具も買えない貧乏人が寄ってたかって渋滞を作っているのはいい迷惑だな。

 

「なるほどのう。助かったぞ」

「はぁ、マジックコンテナの輸送じゃなけりゃなあ……」

 

 ぼやく運ちゃんに背を向けた俺達は道路脇を歩き出した。

 バイクを使った方が速いんだけど、こんな場所でうっかり事故ったら面倒だ。

 

「この分だと宿はどこも満室になっているだろうし、参ったな」

「どっかの屋根で野宿でもするかにゃ?」

 

 それはどんな時でも最終手段だ。

 

「ユニエルに頼むのはどうじゃ? 探索者ギルドならば職員用の仮眠室くらいあるじゃろう」

「それがベストか。問題はユニエルさんがいるかどうかだな……」

 

 緊急招集の連絡がきてからまだ4日しか経っていない。

 俺達が魔道列車で移動すると予想して、1ヵ月くらい後にムーンサイドに到着するスケジュールを組んでいても何もおかしくはないのだ。

 

 

 車用の装具持ちで渋滞から抜け出した人に紛れて道路脇をてくてく歩くこと30分、俺達はムーンサイドの街の中に入った。

 

 観光業で食っているだけあり、中世ヨーロッパ風の街並みは宗教的な装飾に(あふ)れていた。

 

 ただ大通りにある商店のテナントはやけに現代的で、そこかしこにマツヤやミノダムバーガーなどの看板が見えている。

 

 普段はいないような大勢の観光客でキャパシティオーバーして道のあちこちがゴミだらけだし、なんだか現代のパリを歩いているような気分だった。

 俺達がそんなパリみたいな街の人混みを歩いていると、いきなり声を掛けられた。

 

「お、リトルジャイアントじゃないか! おーい!」

 

 小さな巨人(リトルジャイアント)の異名を持つアンバーの名を呼ぶとは、いったい誰なのだろうか。

 俺達が声のした方に顔を向けると、コーヒーチェーン店ミノーバックスの店外にある長椅子に座ったワータイガーの男がこちらに手を振っていた。

 

「む、お主は……誰じゃったかのう?」

 

 アンバーが首を傾げると、ワータイガーの男はズコっとコケるような動きをした。

 マンガじゃないと分かりにくい表現をするのはやめて欲しい。

 

「俺だ俺、パスカルだ! ほら、イーラで会っただろう!」

 

 自分を指差してそう言うワータイガーの男……もといAランク探索者のパスカル。

 彼はユーストの緊急クエストでシーサーペントに返り()ちにされて、イーラのダンジョンの帰り道で俺達の前に立ち塞がった双子の片割れだった。

 

「懐かしいにゃー、『獣の双牙』のパスカルだにゃ。弟のブレーズはどうしたのかにゃ?」

「それがなあ、聞いてくれよ。かくかくしかじかで……」

「かくかくしかじかじゃ分からん」

 

 仕方がないので俺達はコーヒーブレイクがてら、ちょっとばかし彼から話を聞くことにした。

 

 ミノーバックスに入店した俺達がオプション盛り盛りのスイーツみたいなコーヒーラテとケーキを注文してボックス席に座ると、向かいの席に座ったパスカルはセルフサービスのお(ひや)を前にグチグチと話し出した。

 

「あの後、俺達はお前の勧め通りユーストまで謝りに行ったんだ。ブルーノはきっぷのいい海の男でな、『あの時は悪かった』と頭を下げた俺達を笑顔で許してくれた」

「本当に『牧場(まきば)亭』に行ったのか。あそこはいい宿だっただろう」

「ああ。ブルーノと打ち解けた俺達は小さな宿に泊めて貰うことになった。美味い飯に美味い酒、俺達は楽しい一夜を過ごした。……だが、事件はその日の晩に起きた」

 

 テーブルに(こうべ)を垂れたパスカルは暗い顔をした。

 

「ブレーズがブルーノの娘に手を出した。あいつ、朝起きてリビングに行った俺になんて言ったと思う? 『すまねぇ兄者、俺の冒険はここまでだ……』くそっ、何てことだ!」

 

 パスカルは悔しそうな顔をしてダンッとテーブルを叩いた。

 お(ひや)がふわっと宙に浮いて、ちょびっと水がテーブルに(こぼ)れた。

 

「あー、カウリンか。あの爆乳ちゃん、妹に先越されて焦ってたもんな……」

「ほうほう、それでどうなったのじゃ。弟の姿が見えないところを見ると、もちろん責任は取らせたのじゃろう?」

 

 パスカルはポーチから一枚の写真を取り出してテーブルに置いた。

 その写真には花嫁装束のカウリンと花婿装束のブレーズが並んで写っていた。

 抱き着くブレーズの腕に押し付けられたカウリンの爆乳に嫉妬が(つの)る。

 

 いいもん、俺はアザゼルに授乳プレイして貰ったもんね。

 この世界ひろしと言えど、最上級天使の乳首を吸ったのは俺くらいなものだろう。

 

「俺達は二人で一人の賞金稼ぎ(バウンティハンター)だ。片割れが欠けた以上、商売にはならん……俺は探索者を引退した。そして地元のラブオデッサに帰ったところをノル王家の親衛隊にスカウトされたのだ」

「巡業団のメンバーがこんなところで管を巻いてていいのか?」

「俺達は不測の事態に対応する為の予備戦力だからな。サクレアの身辺は上級会員と古参の親衛隊員で固められている。だから西大陸に行くまでは楽なもんだ」

 

 ここで注文していたコーヒーラテとケーキが届いた。

 いっただっきまーす。

 

「パスカルよ、お主には女はおらんのか?」

「仕事柄、恨みを買いやすくてな。商売女以外は抱かないことにしているんだ」

「ふーんにゃ」

 

 ミュールはどうでも良さそうにケーキ(三種類も注文した)をパクついている。

 それから俺達が適当に相槌を打ちながらパスカルの愚痴を聞いていると、彼はいきなり変なことを言い出した。

 

「俺さ、この仕事が終わったら見合いをするんだ……」

「死亡フラグを立てるのはやめろ。縁起でもない」

「今の職場で仲良くなった同僚のいとこで、それはそれは毛並みの美しいワータイガーのお嬢さんなんだ。ブレーズの悔しがる顔を見るのが今から楽しみだ……」

「全然聞いてないにゃ」

 

 成立するかも分からないただの見合いでこんだけ喜べるのは才能だな。

 

 輝かしい未来の展望を思い浮かべて夢の世界にトリップするパスカルの姿を見た俺達は、顔を見合わせてやれやれと肩を(すく)めたのだった。

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