マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第165話 螺旋の牢獄

 俺達は朝日に照らされた聖都ブルームーンの街中を歩いていた。

 (ぜい)を尽くした(きら)びやかな外装の建物が建ち並ぶ街には一切の人気(ひとけ)がなく、シンと静まり返っている。

 

 本来この場を管理する天使達は現在そのほとんどがムーンサイドの街に出向しているのだから、それも当然のことだった。

 

 聖都はあまり広くないので、俺達はすぐに街の中心地にある大聖堂に辿り着いた。

 ユニエルに続いて中に入ると、朝日の明かりが天井や壁に設置されたステンドグラスから差し込んで幻想的な光景を映し出していた。

 

「ほう、これは凄いのう……」

「そうだな……」

「ほへー……」

 

 アンバーは思わず感嘆(かんたん)の声を上げた。

 流石の俺もこの光景には息を呑んだ。

 

 観光にきたわけじゃないから、カメラを取り出すような無粋なことはしたくない。

 心のメモリーにしっかり記録をしておこう。

 

「さあ、こちらです……」

 

 俺達はユニエルの後をついて大聖堂の奥にある金属製の大扉の前までやってきた。

 ここが、アザゼルがかつて通った道か。

 

 ユニエルが手を振ると、満月を(かたど)った彫刻の施された大扉はゴゴゴゴゴ……と音を立ててゆっくりと左右に開いた。

 その奥に、深い闇が顔を覗かせる。

 

「足を滑らせないように、注意してください……」

 

 中空に光の球を浮かべたユニエルに続いて、俺達は大扉の中に侵入した。

 通路を少し歩いて突き当たりにあるジャイアントサイズの螺旋階段を降りていくと、冷たい地下の空気に血の匂いが混じってきた。

 

「ここは螺旋の牢獄。かつては無垢なる天使を飼育し、現在は罪深き天使を収容している懲罰房です……」

 

 中心が吹き抜けになっている螺旋階段の壁には、小さな鉄格子の牢が数えきれないほど存在していた。

 

「この牢の数……なんということじゃ……」

 

 聖都を滅ぼした末にこれを見つけたアザゼルが受けた衝撃はどれほどのものだっただろう。

 彼が10月10日を過ごした聖なる儀式場は、醜悪な欲望に塗りつぶされていた。

 

「ユニエルさん、ここに天使はいないのですか?」

「あれらを皆様にお見せするわけにはいきません。昨夜のうちにすべて処分させて頂きました……」

「処分、か」

 

 この血の匂いはそういうことか。

 彼女は徹夜で罪人を処刑し、その死体を片付けていた。

 俺達に懲罰の訓練の跡を見せない為に……。

 

「お気になさらず。収容所はここだけではありませんので……」

 

 そういう意味ではないのだが……まあいいか。

 こんな陰気なところに長居をしたら気分が落ち込んじゃう。

 さっさと先に進んでダンジョンに飛び込もう。

 

 努めて壁を見ないようにして螺旋階段を降りていくと、円形の広間の中心に大きなダンジョンゲートが口を開いていた。

 

 その隣には人が寝そべることができそうな長方形の祭壇が置かれており、壁には牢が一つだけ存在している。

 かつてはあそこで月光教の秘奥を授かる儀式をしていたのだろう。

 

「やっと着いたにゃ。さっさと飛び込むにゃー」

 

 階段を走って降りたミュールが勢いよくダンジョンゲートに飛び込んだ。

 

「いつもながらせっかちなやつじゃ」

「まあ、気持ちは分かるけどさ」

 

 焦ってもしょうがないので足元に気を付けながらゆっくり階段を降りた俺達は、ぴょんとダンジョンゲートに飛び込んだ。

 

 ダンジョンゲートの向こう側には見慣れた草原と青空が広がっていた。

 ああ、新鮮な空気が美味い……。

 

「ふぎゃっ!」

 

 深呼吸しながら天を見上げて歩いていた俺は、草原に転がっていたミュールにつまずいてすっ転んだ。

 

「ってー……なんでこんなところにいるんだよ」

「それはあちしの台詞にゃ!」

 

 ギャアギャア喧嘩していても仕方がない。

 立ち上がった俺は振り返ってユニエルの方に顔を向けた。

 

「ユニエルさん、ショートカットはどこにありますか?」

「あちらです……」

 

 ユニエルが指差した先には何も……見えない。

 多分、草原に隠れて見えないのだと思うけど。

 

 てくてく歩いていくと、やっぱり草原に隠れるようにしてスタック銅で舗装された20mほどの大穴が開いていた。

 

「どうやって降りるんですか?」

「こちらに乗ってください……」

 

 ユニエルは指輪型の装具から気球のカゴのようなものを大穴の横に取り出した。

 なるほど、これを念動スキルで運ぼうってことか。

 

 ……今考えたんだが、気球を作るのも面白いかもしれない。

 ヘリウムは風生成スキルでいくらでも作り出せるからお手軽そうだし。

 

 魔獣のバードストライクが怖いから移動手段としての信頼性は低いけど、娯楽としては使えそうだ。

 

 アクアマジャイアントランドでハムカー型の気球を飛ばすイメージをした俺は、心のメモ帳にメモをした。

 

「あちしの忍者ハヤテ号は使わないのかにゃ?」

 

 草原に飛行機を取り出したミュールが、乗りたそうな顔をして俺達を見てくる。

 

「飛行機に乗る機会はまた後にあるだろう、な?」

 

 あんまり長いことダンジョン中に飛行機を出しておくと吸収されちゃうかもしれないし、ここはユニエルの好意に甘えることにしたい。

 

「ほれ、ミュールも早く乗るのじゃ」

 

 俺とアンバーが先にカゴに乗り込んでミュールを呼ぶと、彼女は渋々(しぶしぶ)と飛行機を装具に仕舞ってこちらに歩いてきた。

 

「しょうがないにゃあ……いいよ」

 

 ミュール、見抜きをお願いされた人みたいなこと言ってる。

 

「それでは、降ろしましょうか……」

 

 俺達全員がカゴに乗り込むと、白い翼をはためかせて浮かび上がったユニエルはカゴをそっと持ち上げて大穴をゆっくりと降下していったのだった。

 

 

 二層、三層、四層に到着。

 ここからは徒歩の移動になる。

 カゴから降りた俺達はすぐ目の前にある四層の異界に侵入した。

 

 異界の内部は雨雲に覆われた薄暗い森の中に獣道が通っていて、道端には紫陽花(あじさい)の花が咲き乱れている。

 

 ここはヘルズゲート四層、雨天黄泉路(うてんよみじ)

 小雨の降る自然の迷路で徘徊者と鬼ごっこだ。

 

「久々の新しい異界じゃ。気を引き締めてゆくぞ」

 

 今回もミュールが先導するが、ケモ化した彼女は探知スキルを使わず自前の聴力だけに頼ることになる。

 

 この異界に生えている木の中にはシャドーコクーンという虫型の魔物が沢山潜んでいて、探知スキルの魔力波に反応して一斉に蜂へと羽化するらしい。

 

「右からくるにゃ!」

 

 十字路に差し掛かったところでミュールの警告が発される。

 すぐにガサガサと足音を立てながら、巨大な影が飛び出した。

 見上げるほど大きな四足歩行の奇妙な怪物、テルテルモンクアザラシだ!

 

「ぬん!」 

 

 手足の生えたキモいアザラシはアンバーの抜き打ちしたかいおう丸で丸い頭を潰されてぺしゃんこになった。

 

「前からもくるにゃ!」

 

 前方の獣道からやってきた大サソリが尾の先についた鈴をシャンシャンと鳴らすと、連鎖するように周囲からシャンシャンと鳴り出した鈴の音が近づいてくる。

 

「リンクした! ミュールは前方、アンバーは右、俺は後方を見る! ユニエルさん!」

「私は左方、ですね……」

 

 俺達は広い十字路で背中合わせになり、遠方からひっきりなしにやってくるリンベルスコーピオンに対処を始めた。

 

 俺はスーパーマナバレットの連射で牽制した大サソリに足元から伸ばした石の槍を突き刺してとどめを刺していく。

 先っちょにチタン合金製の穂先を付けているのが今までと違うところだろう。

 

 横のユニエルが指を振るたびに、不可視の風の刃で切断されたリンベルスコーピオンの身体がずれ落ちていくのが見える。

 回避しようがないエグい攻撃だ……。

 

「これで、すべて片付きましたね……」

 

 リンベルスコーピオンのラッシュを乗り切った俺達は、魔石を回収すると再び自然の迷路を歩き出したのだった。

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