マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第166話 岩漿冥海

 俺達はヘルズゲート四層、雨天黄泉路(うてんよみじ)の森の中を進んでいた。

 まあ、俺達はベテラン探索者なのでそこまで苦労はしなかった。

 

「まーだ消えないのかにゃー」

 

 木々の通路を塞ぐように横たわった毒持ちの大蛇竜、コリドーオオミヅチの死骸の上に腰掛けたミュールがぼやいた。

 

 大物は蒸発が遅くて困る。

 かと言って探知スキルで魔石の位置を特定したらシャドーコクーンが羽化しちゃうし……。

 

 仕方がないので俺達は現在、道のど真ん中に作った石の東屋で休憩がてら雨宿りをしていた。

 

「ミュール、屋根の下に入らなくていいのか?」

「このままでいいにゃ」

 

 ミュールは振り続ける小雨に()れながらポーチから取り出したエナジーバーをモグモグしている。

 もう好きにさせておこう。

 

「ハルト様は、ついに月光石の生成に成功されたのですね……」

 

 向かいのハムマンチェアに座ったユニエルがハムマンテーブルの上に置かれたグラスに入った温かい紅茶を飲みながら、俺の胸元にあるミスリルの首飾りを眺めた。

 

「ええ。苦労しましたが、なんとかなりました」

「苦労で済むのがハルト様の驚くべきところですよ……」

 

 にこやかに微笑んだユニエルのステータスはこんな感じ。

 

 ユニエル 532歳 ランクS 医者(ヒーラー) Lv108

 魔力S 筋力C 生命力C 素早さA 器用さS

 

 ランクSは探索者ギルドの幹部用のランクらしい。

 自身の裁量で探索者ギルドの支部を立ち上げる権限があるお偉いさんってことだ。

 

「ミスリルの首飾りはまだ予備が残っていますが、ユニエルさんも使いますか?」

「いえ、私にはもう必要ないでしょう……」

 

 そう言ってユニエルは悲しそうに目を伏せた。

 彼女はこれからあの螺旋の牢獄の看守になる。

 それはユニエルの本意ではなかったのだろう。

 

「……そうですか」

 

 昇進に昇進を重ねた末、彼女は永遠に聖都のダンジョンに縛られることとなった。

 このダンジョンに務めたダンジョンマスターが心を病んだのも仕方のないことだったのかもしれない。

 

「やーっと魔石が取れたにゃ!」

 

 コリドーオオミズチの死骸から飛び降りたミュールがこちらに走り寄ってきた。

 

「オマエらなーにしょぼくれてるんだにゃ。早く五層に行って街に帰るにゃ! サクレアのライブに遅刻しちゃうにゃ!」

 

 大きな魔石を手に呑気に喜ぶミュールが暗い空気を吹き飛ばした。

 そうだよな、落ち込んでなんていられない。

 ユニエルもきっとサクレアの歌声を聞けば元気になるだろう。

 

「そろそろ行くか」

「そうじゃのう、お主。わしらの仕事を始めよう」

 

 椅子から立ち上がった俺達はフェニキス族の美しい尾羽根が何重にも()い付けられた赤いケープ、不死鳥の羽衣を羽織った。

 五層に続くゲートはもうすぐそこだ。

 

 

 森の奥にそびえ立つ大木の根元に口を開いていたゲートに飛び込んだ俺達は、ゴツゴツした岩場に飛び出した。

 

「ここが岩漿冥海(がんしょうめいかい)か……」

 

 赤く染まった視界には見渡す限り、溶岩の海が広がっていた。 

 その溶岩の海には俺達のいるような岩場の浮島が点々と浮かんでおり、泡立つ溶岩の中を何か大きなものが泳いでいるのが見える。

 

 あの凶悪な魔物達は溶岩を水で冷やしたり、石船でも作って溶岩の海を渡ろうとしたらすぐにでも襲い掛かってくるだろう。

 これは、まともに攻略をしたら骨が折れるだろうな。

 

「いでよ、忍者ハヤテ号!」

 

 ミュールが取り出したプロペラ飛行機に俺達はサッと飛び乗った。

 最短ルートで直進し、短時間で片を付けるつもりだ。

 

「これが、飛行機……」

 

 背に生えた白い翼をはためかせながら空中に浮いたユニエルは、熱を遮断するプロテクションで自身の肉体を守りながら俺達の乗り込んだ飛行機を見ていた。

 魔力も有限なので、彼女は五層での戦闘には極力参加しない予定だ。

 

「出発するにゃ!」

 

 ホバークラフト機構を発動した飛行機はふわりと浮くと、起動した魔道エンジンが勢いよくプロペラを回転させ、それから滑るようにして溶岩の海の上へ飛び立った。

 

 この異界には空飛ぶ魔物は一体もいない。

 楽してズルして攻略だ。

 

 

 ユニエルを置いて行かないような速度で飛行機を10分ほど飛ばすと、遠くの浮島に巨大な山のようなゴーレムがそびえ立っているのが見えてきた。

 あれが、キャッスルゴーレムか。

 

「アンバー、準備はいいな?」

「もちろんじゃ! わしの鍛え上げたパワーをユニエルに見せてやろうぞ!」

 

 風防を開けたアンバーは五層に吹き渡る熱風に不死鳥の羽衣をはためかせながら、ぴょんと飛行機から飛び降りた。

 

 キャッスルゴーレムに向かって落下していくアンバーの両手に、虚空から出現した深紅の巨大なバットが握られる。

 

 アンバーの持つすべての魔力が()められて、振りかぶるように構えたひひいろ丸が青く光り輝いていく。

 彼女の1年間に渡るこん棒スキルの修行の成果が今、ここに開帳される。

 

「必殺、グランドバスター!」

 

 ずんぐりとした頭に見えなくもないキャッスルゴーレムの頂点に振り下ろされたひひいろ丸。

 ドゴォォォォンと大きな音を立てて亀裂が走り、キャッスルゴーレムは爆散した。

 

「—―プロテクション!」

 

 飛び散った破片がこちらまで飛んできたので、俺はプロテクションで弾き返した。

 危ない危ない、流れ弾で被弾するところだった。

 

 俺がほっと胸を()でおろしていると、アンバーはそのまま亀裂の中にヒューッと落ちて消えていった。

 

「あっ、落ちたにゃ」

 

 アンバーがスポっと入ったのはキャッスルゴーレムの下に小さく口を開いていたダンジョンコアに続くゲートだった。

 

「勢い余ってダンジョンコアに触って、ダンジョンマスターになっちゃったりしてないよな……?」

 

 心配していると、アンバーがぴょんとダンジョンコアのゲートから飛び出した。

 彼女の額に刻印はないようで、どうやらセーフだったようである。

 

「ハルト、降ろすからプロテクション頼むにゃ」

「了解」

 

 エアブレーキを掛けた飛行機が減速しながらキャッスルゴーレムの残骸の間に入っていくと、俺の展開したプロテクションが途中の隙間に引っかかってガクンと止まった。

 

 ミュールが魔道エンジンを切って乗ったまま飛行機を装具に仕舞うと、ヒューッと落下した俺を走ってきたアンバーがお姫様抱っこでキャッチした。

 

「ありがとう、アンバー。さっきは凄かったね」

「むふふ、わしも修行の成果を発揮できて嬉しく思うぞ」

 

 Lv140を越えて魔力がついにDランクになったアンバーは今更ながら、武器スキルの鍛錬を始めていた。

 

 レベルを上げて物理で殴るのもこれまでだ。

 これからはなけなしの魔力を使うことで更なる火力を出すことができるのだ。

 まあ、1回でガス欠になるのは変わらないんだけどね……。

 

「流石はアンバー様です。ジャイアントの上級探索者でも苦労するキャッスルゴーレムを一撃とは……」

 

 ばさりと羽音を立てて降りてきたユニエルが、アンバーを()めた。

 

「もっとわしを()めるがよい!」

 

 アンバーは薄い胸を張って、鼻の穴を膨らませた。

 少し不細工になったアンバーもかわいい。

 

「魔石取ってきたにゃ」

 

 ミュールが俺でも初めて見るようなクソでかい魔石を抱えて走ってきた。

 凄いな、大玉スイカくらいのサイズがあるぞ。

 

「おお、でっかいのう」

「Sランクの魔石ですね。私も見たのはこれまでに数度しかありません……」

「いくらになるかにゃ!?」

「100万メルくらいでしょうか……」

「やっぱり100万メルなんだ……」

 

 どれだけ大きくても、所詮(しょせん)は魔石なのであった。

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