マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第168話 次元の狭間

 真っ暗な闇の中に生えていた真珠色に輝く巨大な巻貝状のダンジョンがほつれるように消滅していく。

 

 魔物の全て吐き出された異界の残渣(ざんさ)がダンジョンの外殻の隙間から泡のように吹き出し暗闇を色彩で(いろど)っていく中、俺達は貝殻の頂点にあったダンジョンコアから無重力空間に放り出された。

 

「アンバー! ミュール!」

 

 俺は全力で生み出した巨大な石の流体を掴むと、手足をバタつかせながら遠方に流されていく二人に向けて石の触手を思いっきり伸ばした。

 ここで離れ離れになってしまえば、二度と会うことはできない……!

 

「流されるにゃあ~!」

 

 まずは近場のミュールに巻き付いた石の触手を引き寄せる。

 そして遠くのアンバーまで何とか届いた細い石の触手を小さな手が握り込んだ。

 シューっと引き寄せると勢いに乗ったアンバーが俺の胸に飛び込んで抱き着いた。

 

「ハルト、でかした!」

「ユニエルはどこだ!?」

 

 俺は石の流体を大型バスサイズのハムカーに変化させると、ハムカー内部のあちこちに掴まれる手すりを生み出した。

 この無重力空間だとこれがないと慣性を殺せず外に放り出される危険がある。

 

「あ、あそこにゃ!」

 

 手すりに掴まりながら窓から身を乗り出したミュールが指差した先に、祈るように両の手を組み目を閉じたまま闇の中を流されるユニエルの姿が小さく見えた。

 そして、彼女に向けてふわふわと泳いでいく白く輝くナニカの姿も……。

 

「何じゃアレは!?」

「ダンジョンの幼体だ! アレに食われたら記憶も何もかも失って帰還者(リターナー)になっちまう!」

 

 帰還者(リターナー)はダンジョンの幼体に食われた人間の成れの果てだ。

 名前以外の全ての記憶を失って、遥か遠い未来に極振りされたステータスを引っ提げて成体となったダンジョンのどこかに放り出されることになる。

 

 異世界人が相貌(そうぼう)記憶以外の記憶を失わないのはレベルとステータスを持たないからだろう。

 だから、今の俺は食いでがあるだろうな。

 

「間に合え……!」

 

 足を石の触手で床に固定した俺は床にハムカー後部まで続くパイプ穴を開けると、手のひらからパイプに向けて勢いよく風を送り込んだ。

 ハムケツから噴き出した風が少しずつハムカーを加速させていく。

 

 彼女をこのまま食わせるわけにはいかない。

 どんな理由があろうと、人類の宝である巨乳を守るのは俺にとって最優先事項だ。

 

「駄目にゃ、間に合わないにゃ……」

 

 ダンジョンの幼体はもうユニエルの目前まで近付いていた。

 にゅっと頭っぽい部分が開くと、真珠色に輝くダンジョンゲートが顔を覗かせた。

 

 今から石の触手を伸ばしても間に合わない。

 俺は脇で抱え込むように白くどでかいこん棒を構え、ハムカーのフロントガラス部分(今はまだ何もない)から青い弾丸を連射した。

 

「アイシクルカノン!」

 

 ガシャンガシャンと側面に発生した巨大な氷塊によって(わず)かに遊泳する方向がずれたことで、ダンジョンの幼体はユニエルの白い翼に(かす)めるようにしてすれ違った。

 

「今だ!」

 

 こん棒を仕舞った俺は床を変形させて石の触手を勢いよく伸ばし、ユニエルをぐるぐる巻きにして引き寄せた。

 

 俺はハムカーのフロントガラス部分から中に飛び込んだユニエルをお姫様抱っこすると、右手でさりげなくその豊満なおっぱいをわし掴みにした。

 おっとこれは不可抗力だから怒らないでくれよ、アンバー?

 

「どうして私を助けたのですか……」

 

 ダイレクトなセクハラを受けて目を開けたユニエルは俺の顔を見上げた。

 

「巨乳を助けるのに理由は必要なのか? いや、ない(俺はまだ貴女(あなた)から受けた恩を返し終えていません。今死んで貰っては困るのです)」

「ハルト、お主……」

「本音が駄々()れにゃ」

 

 俺は愛に生きる男だ。

 例えふたなりだろうが、俺に()れている巨乳ちゃんを見逃がすわけにはいかん。

 アンバーからのお仕置きは、甘んじて受け入れよう……。

 

「私の(あやま)ちでこれからどれだけの者が命を落とすと思うのです。このダンジョンスタンピードでムーンサイドは……」

「それはどうかのう? わしはそこまで心配しておらんぞ」

「なぜ……?」

「サクレアの力を見くびって貰っては困る。ティアラキングダムの歌姫にかかれば道行く市民が中堅探索者並みの力を()、一騎当千の上級探索者は万夫不当(ばんぷふとう)の英雄と化す。これは約束された勝利じゃ」

 

 歌唱スキルは元来、戦場で使われていた広域バフ系のスキルだ。

 その効果範囲と効果時間、強化倍率は熟練度と器用さに比例して増大する。

 

 器用さSを誇るサクレアの極まった歌唱スキルはジャスティンのパワーレベリングで伸びたステータスによって、もはや人外の域に到達していた。

 

 彼女がその気になれば一国を落とすどころか世界征服することさえできちまう。

 サクレアがこの平和な時代に生まれたことが、俺達にとって何よりの幸運だった。

 

「そう、ですか……」

「生きて帰ったらこの冒険をアンバーの本にしよう。火消しは俺達の得意技だ」

 

 ヘルズゲートはサブマスターのいないダンジョンだから、ユニエルがダンジョンを討伐する瞬間は俺達しか見ていない。

 だからタイミング悪く直前に寿命を迎えたと言ってすっとぼけちまえばいいのだ。

 

「酷いお人……」

「なに、悪いのはつまらん感傷で聖都を禁足地にしたアザゼルじゃ。さっさと更地にして迷宮都市に変えてしまえば良かったものをのう!」

「ユニエルだって最上級天使なんだから、少しくらいわがまましたって許されるさ」

「わがままってレベルじゃないがのう!」

「ははは、言えてる!」

 

 俺達が呑気に笑っていると、後ろの方でがりっと音がした。

 

「みんな、見るにゃ……!」

 

 俺達がギギギと首を動かしてミュールが指差した先を見ると、大型バスサイズのハムカーのケツをダンジョンの幼体がガリガリと音を立てて削り取っていた。

 

「やべぇ!」

 

 まるで怪獣映画のワンシーンみたいじゃん!

 

「わしに任せよ!」

 

 アンバーは手すりに左手で掴まりながら、右手でひひいろ丸を構えてダンジョンの幼体に近付いた。

 しかしいざ殴ろうとした時、ふっとダンジョンの幼体は後ずさるように離れた。

 

「おお、わしに恐れをなしたか。流石はわしじゃ」

 

 それは違うと思うけど……。

 アンバーがこちらに戻ると、ダンジョンの幼体はまたふよふよ近付いてきた。

 

「なんじゃ、またか」

 

 またアンバーがハムケツを(かじ)り出したダンジョンの幼体に近付くと、ある一点でふっと後ずさるように離れた。

 

「これ、もしかして……」

 

 ユニエルを降ろした俺はポーチから化粧箱を取り出して開いた。

 ふわりと空中に浮き上がったミスリルの首飾りを石の触手に持たせてそっとダンジョンの幼体に近付けると……。

 

「アイツ、逃げてるにゃ!」

「どうやら、月光石を忌避(きひ)する性質があるようですね……」

 

 成体と違って幼体はミスリルの放つ特殊なマナエネルギーの波長を嫌がるようだ。

 これなら上手くやれば安全にこの次元の狭間(はざま)を旅することができるだろう。

 ひとまずは一安心だな。

 

「これからどうするかのう……」

 

 俺がハムカーのハムケツに開いた大穴を修復していると、アンバーが困った顔をして眉を歪めた。

 

「多分、世界樹の根がどこかに出ていると思う。そこからなら外に出られるはずだ」

「でも、それって結構ヤバくないかにゃ?」

「ヤバいけど命には代えられないよ。それにユニエルなら何とかしてくれるよね?」

 

 俺がユニエルに顔を向けると、彼女はこくりと頷いた。

 

「世界樹は非常に生命力が強いですから、無茶をしなければ緊急避難として認められるでしょう。ネフライトの女王には私が直接、事情を説明致します……」

「な、助けてよかっただろう?」

「ふむ、それでその世界樹はどこにある?」

「えっと……」

 

 俺はハムカーの窓から外を眺めた。

 死んだダンジョンから放出された色とりどりの異界の残渣(ざんさ)に、白く輝くダンジョンの幼体の群れが(かじ)りついている。

 

 見えないようで見える暗闇には真珠色に輝くダンジョンの成体の外殻があちこちから生えており、その数は数え切れない。

 それはまるで、宇宙に浮かぶ星々を見ているかのようだった。

 

「……どうしよっか」

 

 こうして俺達はこの広大な次元の狭間(はざま)彷徨(さまよ)うことになったのだった。

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