マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第171話 次元潜航船ハムカー号

 俺達が次元の狭間(はざま)に放り出されてからの出来事を時系列順に(さかのぼ)っていこう。

 

 

 漂流生活1日目

 

 ダンジョンの幼体を退(しりぞ)けた俺達は次元の狭間(はざま)から脱出する為に、この異空間のどこかに根を張っている世界樹を探すことを決めた。

 

 だが、まるで宇宙のように広大な次元の狭間(はざま)からたった一つ(あるいは二つ)しか存在しない翡翠色の輝きを探し出すのは、ルメー砂漠に落とした指輪を探すに等しいことだった。

 

「頭を抱えていても(らち)()かない。まずは方針を決めよう」

 

 次元潜航船ハムカー号(今名付けた)の修復と改修を終えた俺は、12畳間程度の広さのワンルームの中央にぷかりと浮かびながら呼び掛けた。

 部屋の中は魔道ランタンの暖かい明かりに照らされている。

 

「方針って言ってもどうするのにゃ? あちしには世界樹を見つける方法にゃんてまったく見当がつかないにゃ」

 

 分厚いガラスのはめ込まれたハムカー号正面の大窓から外を眺めていたミュールはこちらに振り返って首を傾げた。

 

「ハルト様、遠くまで見える倍率の高い望遠鏡を作るのはどうでしょうか……」

 

 部屋の壁際にモニターのような魔道具を設置していたユニエルが手を挙げてそう提案した。

 

「やっぱりそれしかないか」

「ユニエルよ、作り方は分かるか?」

 

 天地逆さの状態でふよふよ浮いているアンバーはお昼寝用の柔らかいクッションを抱きながらユニエルに尋ねた。

 

「魔道顕微鏡の資料はいくらか持っています。原理的には近いものですので、それを応用すればどうにか……」

 

 ここに魔道具職人がいないのが()やまれる。

 こんな時、アイリスえもんさえ居てくれたら全部解決できたんだけど……。

 

「よし、俺とユニエルはこれからハムカー号の上部に望遠鏡を作る。その間、アンバーはミュールと一緒にハムカー号の後部に推進器を設置する準備をしていてくれ」

「推進器にゃ?」

「飛行機の予備パーツがあるだろう。魔道エンジンにミスリル発魔機を複数連結して出力を増大させれば、魔石なしでも多少は速度が出せるはずだ」

 

 ここは宇宙と違って空気抵抗があるから、魔道スキルでハムカー号を加速させてもいずれは減速して停止する。

 逆に言えば、空気があるからこそプロペラ推進を使って移動できる。

 

「分かったにゃ。このスーパーエンジニアのあちしに任せるにゃ!」

「アンバー、ミュールが変なことしないように見張っててね」

「うむ……分かった」

 

 機械系に弱いアンバーはあんまり分かってなさそうだ……。

 とはいえ、彼女だけ手持ち無沙汰(ぶさた)でも困るだろうし。

 こんな時はとにかく何かをさせて、不安を(まぎ)らわせないといけない。

 

「行こうか、ユニエル」

「はい、ハルト様……」

 

 俺はハムカー号の天井部分を変形させて潜水艦のセイルっぽい感じに出っ張らせると、天井にミスリルの首飾りをくっ付けてダンジョンの幼体避けにした。

 

 床を蹴ってふわーっと移動した俺は、ハシゴ代わりの手すりを掴んで上のセイルに身体を潜り込ませた。

 

 外気を取り込むスリットを作りつつ、四方にガラス窓を設置して遠くまで見えるようにする。

 

 俺は隣にやってきたユニエルと一緒に相談しながら、石の流体とガラスレンズを組み合わせてガラス窓の向こう側に大きな望遠鏡を作り始めた。

 

「ユニエルさん、ちょっと近くないですか?」

 

 紙の資料を手に持つユニエルが俺の腕におっぱいをぐいぐいと押し付けてきて、なんというか下半身に血流が集まって作業に集中できないんだが……。

 

「さん付けなんてやめてください。私のすべてはハルト様のものなのですから……」

 

 真っ白な頬を赤く染めたユニエルはさらにぐいぐいとお胸を押し付けてくる。

 おおう、モーレツぅ……。

 

「ユニエル、気持ちは分かるけどこの無重力空間でアレをしたら大変なことになっちゃうよ」

「そうなのですか……?」

「多分ね。……まずったな、これは先にトイレを作るべきか」

 

 このままだと女性陣が困ったことになると気付いた俺はセイルから下に降りた。

 下の部屋にはミュールがマジックバッグから取り出した、魔道エンジンやらミスリル発魔機やらがふわふわと浮かんでいる。

 

「あっ、丁度いいところにきたにゃ。コイツらを設置するのを手伝って欲しいにゃ」

「それもなんだけどさ、まずは水場を作らない?」

「水場とは何じゃ?」

「ほら、トイレとかお風呂とか。飛び散ったら後始末が大変になるからさ」

 

 俺が魔道具の水筒から水を出すとその水の球はぷかぷかと浮かんで流れていき、ミュールの顔にべちゃっとくっついた。

 ミュールが顔をブルブルと振ると、細かい水の飛沫(しぶき)が部屋の中に広がっていく。

 

「こ、これは確かに不味いことになるのう……」

 

 アンバーはこの後自身の身で起こることを想像して表情を(くも)らせた。

 まあ、一応対策はあるっちゃある。

 

「現状だと、魔道スキルで後始末をする必要がありますね……」

 

 ユニエルは指を振るい空気を動かして水の飛沫(しぶき)を指先にかき集めると、そのままぱくりと口に運んで飲み下した。

 俺もスキルで生み出したものを操れば似たようなことはできると思う。

 

「とりあえず、船の後部にプロペラを設置することから始めよう。その後、水場と換気システムを用意して……」

「面倒だけどやるしかなさそうにゃ」

 

 こうして俺達の漂流生活初日は、生活用設備の整備に終始することになった。

 

 まずは無重力空間でも背中の翼で自由な移動が可能なユニエルに船外作業を頼んで、ハムカー号の後部(ハムケツ部分)に三枚羽根のプロペラ(魔道エンジン直結)を設置する。

 

 ミュールの指示通り、翡翠色の魔道線を50㎝四方のブラックボックス状の見た目をしているミスリル発魔機二つと接続してスイッチオン。

 問題なく稼働したのを確認したら一旦停止して、次はシャワールームの準備だ。

 

 俺は船の後部に3mくらいの小部屋を作って、扇風機の魔道具(ポーチの底から出てきた)を利用した換気扇を設置した。

 船内の空気の循環を考えたらここが最終地点の方が何かと都合がいいだろう。

 

 小の方はカップの付いたホースを使って吸い出す宇宙船風のトイレにする。

 大の方は……致し方ないが、俺かユニエルの介助が必要だ。

 スキルで生み出した温水で洗ったら壁のダストボックスから船の外にポイしよう。

 

 

 そうこうしているうちに時間は過ぎ去っていき、ミュールの腹時計が鳴ったことで俺達は現在時刻が夜になったことを知った。

 

「お腹が減ったにゃ……」

「そうだ、食糧のことをすっかり忘れていた。みんな、どれくらい残ってる?」

 

 部屋の中央に集まった俺達は、それぞれのマジックバッグを漁って手持ちの食糧を確認することにした。

 しかしここで、俺達は最悪の事態に気付いた。

 

「にゃにゃ、あちしのおやつが……」

 

 ミュールは手に持ったカビの生えたパンを見てしょんぼりとした。

 マジックバッグに仕舞っていた食糧の一部がグズグズに腐ったりカピカピに乾ききったりと、明らかに異常な変化をきたしていたのだ。

 

「これは、まさか……」

 

 ユニエルはさっき壁際に設置していたモニターの前に行って手をかざした。

 するとそのモニターが光って、青い模様の羅列が勢いよく画面に流れ始めた。

 ムーンライト語で書かれたであろうその文章を、ユニエルはじっと目で追った。

 

「いけません、あれから既に1ヵ月が経っています……」

「1ヵ月、じゃと……?」

「暗号化のされていない次元間通信を傍受(ぼうじゅ)できないか試していたのですが……タイムラインのログから察するに、ここでは外のおよそ100倍の早さで時間が流れています……」

 

 ふと思い付いてポーチから取り出した懐中時計は、魔石の魔力が切れて動かなくなっていた。

 

 新しい魔石に入れ替えてそっとポーチの中に懐中時計を差し込むと、時計の針はグルグルと高速で回り始めた。

 その冗談のような光景に、俺は頭を抱えるしかなかった。

 

「なんてこった……。ただでさえ外の世界に出る方法も見つかっていないというのに、参ったな」

 

 旅の前にエナジーバーとエナジードリンクを箱買いしてあったとはいえ、4人分の食い扶持(ぶち)を考えると残された食糧は多めに見積もって1ヵ月分。

 これは思ったよりも厳しい旅になりそうだ。

 

 

 お腹が空いたままじゃ何もできないし、とりあえず俺達は夕飯を取ることにした。

 ひとまずは古いものから消費しようということで、俺は魔道スキルを駆使して鬼米のベーコンチーズリゾットを作った。

 

 部屋の中をふよふよと浮かびながら、深いお椀状の器に入れたアツアツのリゾットをスプーンで頂く。

 まずは一口……うん、いい出来だ。

 

「あちち、はふ……生き返るにゃあ……」

 

 どんな状況でも美味い飯さえあれば多少は元気になろうというものだ。

 俺がうんうん頷いていると、先ほどからずっとモニターの画面に張り付いていたユニエルがこちらに振り返った。

 

「一つだけ、朗報がありました……」

「それは?」

「ムーンサイドで起こったスタンピードの被害は、非常に軽微だったそうです……」

 

 おお、それは間違いなく朗報だ。

 心の底から生きる希望が湧いてきたな。

 

「ほれ見た事か。わしの言った通りじゃろう」

「ええ、心のつかえが取れたような気分です……」

 

 ホッとしてその大きな胸を()でおろしているユニエルに、俺はお椀によそったベーコンチーズリゾットを差し出した。

 

「ほら、ユニエルも早く夕飯を食べよう。冷めたら美味しくなくなっちゃうよ」

「ありがとうございます、ハルト様……」

 

 俺はポーチをガサゴソして取り出した音楽プレイヤーに一枚のマジックディスクを挿入した。

 スイッチを入れると、スピーカーからサクレアの美しい歌声が流れ始める。

 

「ちんたらしていたらサクレアが寿命で引退しちゃいそうだ。早めに外の世界に帰らないとね」

「そうじゃのう、お主」

 

 一足先に食べ終えたアンバーはふわふわと移動して俺の腕に抱き着いた。

 俺は彼女の小さな手をぎゅっと握り、そっと白いほっぺに頬を寄せる。

 少しだけ肌寒いこの異空間で、俺はアンバーから伝わる愛を感じていた。

 

「ハルト、お代わりにゃ!」

「はいはい。食糧は有限だけど、今日くらいは好きなだけ食いな」

「やったにゃ!」

 

 俺達は広大な次元の狭間(はざま)揺蕩(たゆた)う次元潜航船ハムカー号の中で、行きそびれたサクレアのライブコンサートを楽しんだ。

 音楽プレイヤーを使った疑似的なものだけど、明日に希望を持つには十分だ。

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