マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第172話 世界樹を探して

 漂流生活2日目

 

 一夜明け、俺は壁際の床に固定された寝袋の中で目覚めた。

 のそのそと寝袋から起き出した俺はぐーんと背伸びをした。

 寝返りが打てないと身体の筋が固まって困る。

 

「やっぱり夢じゃないんだよなぁ……」

 

 天井に付けられた魔道ランタンの明かりに照らされたワンルームの、大きなガラス窓の外には相も変わらず暗闇が広がっていた。

 

 そんな俺の独り言に、壁際で椅子に座ってモニターの画面に向かっていたユニエルが反応した。

 

 壁に設置した目覚まし時計の時刻を見るに彼女は随分(ずいぶん)と早起きのようだが、昨日はちゃんと寝たのだろうか。

 

「ハルト様、おはようございます……」

「おはようユニエル。何か進展はあった?」

「やはり、こちらからの連絡は難しいようです……」

「そっか、仕方ないね」

 

 俺はアンバー達が起き出す前に軽く魔力を消費することにした。

 ポーチから取り出した真空ガラス瓶を抱えて中にスキルで液化水素を生み出す。

 

 ふんふーん、ふーん、と鼻歌を歌いながら錬金術スキルで昇華させてちょちょいとマンガン+24を作った。

 成果物は似たようなマンガン+24の破片がいくつか入ったガラス瓶に入れる。

 

 魔力に余裕がある時にこうやって作り溜めておいて、必要になったら加工してミスリルに昇華するのだ。

 

 次元潜航船ハムカー号を拡張する為にも、これからは沢山のミスリルプレートを作らないといけない。

 このままずっと個室もなしでは気が休まる時がないだろうからな。

 

「ハルト様はそうやって月光石を作っているのですね……」

「厳密に言えばその前段階だけど、似たようなものだね。……そうだ、望遠鏡の方はどうなった?」

「こちらを見てください……」

 

 ユニエルが差し出した紙を受け取って開くと、そこには大きな望遠鏡の設計図が書かれていた。

 その構造を見る限り、どうやら普通の天体望遠鏡のようだ。

 

「魔道具化は難しいか」

「魔道具制作は僕の専門外だ。これ以上は難しいだろう……」

 

 ユニエルの心の中から男性人格のエルが顔を覗かせた。

 聞いた話によると医療面はユニ、戦闘面はエルが主に担当しているらしい。

 俺がいつも恐れていたあの夜の戦闘面も……エルの仕業だった。

 

「それでも助かる。これで光明が見えるかもしれない」

 

 俺が設計図を参考に手のひらサイズの望遠鏡を試作していると、寝ていたアンバーがのそりと起き出してきた。

 

「ハルト、おしっこ……」

 

 ぼさぼさ頭のアンバーは(まぶた)(こす)りながらふわふわと船の後部の扉に泳いでいく。

 扉の向こうにあるのはミスリル発魔機が置かれた機関室とシャワールームだ。

 

「分かった、今行く」

 

 俺は石製のミニ望遠鏡をポーチに仕舞い、アンバーのところへと向かった。

 

 

 朝食の後、俺は数時間掛けてハムカー号の上部の出っ張り部分に2mほどの長さの巨大な天体望遠鏡を設置した。

 

 倍率調整も可能なこの天体望遠鏡は360度自由に回転することができるようにしてあるので、ハムカー号の下方向以外はおおむねカバーできるだろう。

 

「後はあちしに任せるにゃ!」

「頼んだよ、ミュール」

 

 ここから先はミュールの仕事だ。

 意気揚々と望遠鏡を覗き込むミュールを置いて、俺は下の部屋に降りた。

 

「アンバー、終わったよ」

 

 クッションソファにベルトで身体を固定して座っているアンバーに声を掛けると、彼女は分厚いチェックリストから顔を上げて俺の方を見た。

 

「これで見つかるかのう、世界樹」

「さて、ね。早めに見つかることを祈るしかない」

 

 アンバーにはポーチの蔵書から何か使えそうな本がないか探して貰っている。

 候補はスキルの専門書、農業の本、機械工学系の技術書辺りか。

 

 昨日のうちに手持ちの食材のチェックをしたのだが、残念なことに同じ箱に入れていた野菜類はトマトとかが腐った汁が染み込んで全部駄目になっていた。

 鬼米は精米済みで、浸水しても育てるのは不可能だ。

 

 ただ、廃墟の街ストーレで食べた果物の生ゴミを入れていた石の箱(ダンジョンで処分しようと思って忘れていた)の中からいくつかの種が見つかった。

 

 俺とユニエルは医療スキルのエキスパートだから食糧が無くなっても最悪は魔力だけで生きていけるだろうが……甘味があるのとないのでは大違いだ。

 

 快適な漂流生活を送る為にも、頑張ってのうぎょうのお勉強をしなければならない。

 

 

 漂流生活3日目

 

 まだ世界樹は見つからない。

 

 3日目ともなると船内での暮らしにも幾分慣れてきたが、ここで下着問題が顔を覗かせた。

 

 洗濯しようにも無重力空間じゃ全然乾かないし、マジックバッグに入れたら時間加速でえげつない異臭を放つことになる。

 

 うーんと頭を悩ませた俺達は、洗濯いらずの防汚のエンチャントが施されたスク水&ウェットスーツを着て生活を送ることにした。

 褐色スク水ダークエルフ御用達の高級水着だから防寒も完璧でとっても快適だ。

 

 ちなみにユニエルの白衣は下着を含めて防汚のエンチャントが施されているらしいのでそのままだった。

 決して一張羅(いっちょうら)というわけではないらしい。

 

 漂流生活4日目

 

 ついに世界樹が見つかった!

 

 ミュールからその報告を受けたのは昼過ぎ、痺れを切らした俺がハムカー号の下部に2台目の天体望遠鏡を作ろうとしていた時のことだった。

 

 俺達は順番に望遠鏡を覗き込んで、遠くに見える砂粒大の小さな翡翠色の輝きに喜びを共有した。

 

 見失わないよう慎重にハムカー号の方向を転換させ、魔道エンジンを起動。

 俺とユニエルの魔道スキルで起こした風で初速を確保した後、プロペラ推進で目的地への移動を開始した。

 

 

 漂流生活5日目

 

 ミスリルプレートが結構溜まってきたのでハムカー号の改修をすることにした。

 次元の狭間(はざま)では死んだダンジョンから異界の残渣(ざんさ)が放出されることが稀によくある為、事故に備えて船の防御力を増やす必要があったのだ。

 

 それに石の流体をいつまでも維持するのは精神的な疲労が重なるし、いい加減操作権を手放したいという気持ちも大きい。

 

 そういうわけで俺はミュールと二人で書いた設計図を基に、ハムカー号の外装を少しずつ金属製のフレームに置き換えていった。

 

 ダンジョンの幼体避け兼常夜灯として、ガラスに封入して保護したミスリルプレートを船の各部に設置。

 少し狭いがリビング横に寝室も3部屋確保した。

 

 天井裏には換気用のパイプを張り巡らせ、船の後部にある機関室に続く通路の両脇にはシャワールームを移設してその反対側に新しく果樹の栽培室も作った。

 

 作業中に多少のトラブルはあったものの、こうして背中に望遠鏡を生やした潜水艦みたいな外装の次元潜航船ハムカー号は完成した。

 

 俺はユニエルに頼んで新生したハムカー号の写真を外から撮って貰った。

 写真屋でプリントをする日がくるのが今から待ち遠しい。

 

 

 漂流生活7日目

 

 今日も本を片手に栽培室でプランターの土と向き合う。

 専門書によると栽培スキルを使った植物の促成栽培は土が命らしい。

 

 俺は何度も失敗を重ねてようやく発芽に成功したリンゴとぶどう、そしてみかんの苗木に魔力と愛情をたっぷりと注ぎ込んだ。

 

 よしよし、元気に育ってくれよー。

 

 

 漂流生活10日目

 

 ミュールの盗み食いが発覚した。

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